第261話 声優遭遇
ある程度、イベントについてみんなと話し終えた後、ふとヤオイがこんなことを言ってきた。
「んー、メルちゃんがゴスロリ衣装を着てるなら、ユキ君もゴスロリ衣装を着て、おそろいな姿が見たいなー」
「え」
唐突に何かを言い出した。
「あー、たしかに。ユキだったら、ゴスロリ衣装が似合いそうよね」
「ゴシックロリータと言うくらいだからな。今のユキはロリータ系衣装が似合うだろう」
「ケモロリだからな!」
「え、あの……」
「と言うわけで、ユキ君、ゴスロリ衣装を期待するぜ!」
「さ、さすがにむずかしいし、むり――」
「ねーさまと一緒の服! 楽しみなのじゃ!」
「――わかったよ。メルのためだからね。やるよ」
((((ユキ、メルちゃん相手だとダダ甘だな……))))
メルが楽しみにしてるなら、ボクは全力でやらないとね!
これはメルのためだから大丈夫……。
というわけで、大急ぎでメルの服を作るのに使った布を買ってきて、作成に取り掛かる。
一応、前回と同じようなものを創るつもり。
能力自体は違ったものになると思うけど。
と、一時間半ほどで全部の装備品を完成させる。
早速、衣装を着てみんなの所へ。
「お、おまたせ……」
「「「「おー」」」」
ボクがゴシックロリータの衣装を着て庭園に戻ると、みんながボクの姿を見て感嘆の声を漏らしていた。
「ど、どう、かな?」
「いいわね。すごく可愛いわ」
「そうだな。しかも、メルちゃんと対照的な色合いなんだな」
「水色に白。ユキの好きな色だな!」
「これは素晴らしぃ! スクショしないと」
と、みんなからかなり好評な様子。
そして、メルは、
「わーい! ねーさまとおそろいなのじゃー!」
大はしゃぎしていた。
今回、ボクはメルと同じ衣装を作った。
と言っても、色は違うんだけど。
さっき、レンが言ったように、水色と白のゴシックロリータ衣装。
水色と白を基調としていて、服にはフリルやレースがあしらわれ、スカートはふんわりと広がっている。
メルの衣装と同じく、スカートの裾には薔薇が描かれている。
アクセサリーに関しても、ほとんど同じで、ミニシルクハットに、蝶の飾りが着いたリボンに、銀色の十字架が付いたネックレス。
ブーツは、普段使っている物が似合っていたので変更せず履いている。
どこからどう見ても、メルの衣装の色違い。
まあ、名前とかは違うんだけど……。
ちなみに、今回ボクが作った衣装はこう。
【幼キもふもふ天使ノ衣】……清廉な泉を連想させる淡い青と、純粋を表す純白に、薔薇が描かれた異世界の服。称号【もふもふ天使】を持つ者のみ装備可能。VIT+40・AGI+50。装備部位:体、腕、足。《洋服スキル:純粋無垢》デバフが一切かからなくなる。全攻撃に対して、30%カットの耐性を得る。
【幼キもふもふ天使ノミニハット】……幼いもふもふ天使のために用意された小さなシルクハット。称号【もふもふ天使】を持つ者のみ装備可能。DEX+30・INT+40。装備部位:アクセサリー。《アクセサリースキル:純情可憐》精神系のデバフをかけやすくなる。
【幼キもふもふ天使ノリボン】……幼いもふもふ天使のために用意された蝶の飾りが着いた、二対で一個のリボン。称号【もふもふ天使】を持つ者のみ装備可能。AGI+30・DEX+20。装備部位:アクセサリー。《アクセサリースキル:和顔愛語》回復量が2倍になる。一日一度だけ、自他問わず蘇生が可能になる。
【幼キもふもふ天使ノ首飾リ】……幼いもふもふ天使のために用意された十字架の首飾り。称号【もふもふ天使】を持つ者のみ装備可能。MP+30・AGI+30。装備部位:アクセサリー。《アクセサリースキル:純一無雑》バフをかける際、効果が1.5倍~3倍になる。【身体強化】などのスキルも適用される。
まあ、うん……やりすぎ。
この服を着てる間、色々とおかしなことができるようになっちゃうらしいです。
と言うか、一日一度とはいえ、蘇生ができるってすごくない……?
蘇生って、このゲームにあったんだ。
あと、防御面が少し強化されたし。
全部の攻撃って言うことは、物理・刺突・魔法攻撃すべてが30%分カットされるって言うことで……いや、うん。地味に強くない?
他にも、【身体強化】の効果が増したりとか、精神系のデバフをかけやすくなるとか……色々とおかしい。
メルの装備ほどじゃない気がするけど……。
……まあ、幸いなのは、この装備は【もふもふ天使】という称号がないと身に着けられないみたいだけど……って、ちょっと待って。何この称号?
知らない称号なんだけど。
もしかして、この姿になってる時に出てくる称号? 【変幻自在】の効果?
やっぱりこのゲーム、おかしいよ……。
「にしても、可愛いわね、二人とも」
「うんうん。二人ともまさに美幼女って感じだからねぇ。素晴らしい!」
「こうして見ると、本当に姉妹みたいだな」
「ゴスロリ姿の美幼女二人……オレ、生きててよかったぜ……」
「そんなことで!?」
相変わらず、態徒の考えはよくわからないです……。
とりあえず、今日一日は、メルとおそろいで過ごすことに。
と言っても、やることはないから、二人で街の中を歩き回ることになったけど。
「ふんふん~♪ ねーさまとお出かけなのじゃ~♪」
「ボクといっしょにいるだけでうれしそうにするね、メルは」
「うむ! 儂はねーさまが世界で一番好きなのじゃ! ねーさまと一緒ならどこでも楽しいのじゃ!」
「そ、そっか……」
面と面向かって言われると恥ずかしい……でも、すごく嬉しい。
「お、ねーさま、尻尾がぱたぱたしてるのじゃ」
「ひゃわ!?」
そ、そうだった!
今って、耳と尻尾があるから、思ったことがそっちに表れちゃうんだった……!
「ねーさま可愛いのじゃ!」
「はぅぅぅ……!」
恥ずかしぃよぉ……!
この姿になると、感情が尻尾に正直に表れちゃうから、隠しきれないのが辛い……。
『な、なんだ、あの天使すぎる幼女二人は……!』
『ツインテールの娘は可愛いし、隣の銀髪碧眼の娘も可愛すぎだろ』
『尊すぎるぅ!』
『やばい、マジで抱っこしたい!』
『というか、耳と尻尾が付いてるのが最高……』
『も、もふもふしたい……』
耳と尻尾があるからか、周囲からの視線がすごい。
やっぱり、動くのが目立つのかな……?
「ねーさま、今日はどこへ行くのじゃ?」
「そ、そうだね……うーんと、メルはいきたいところある?」
「うむぅ……甘いものが食べたいのじゃ!」
「そ、そうきたか……」
「ダメか……?」
「ううん、そんなことはないよ。とりあえず、ミサたちといったきっさてんがあるから、そっちにいこうか」
「うむ!」
きゅっと自然に手を繋ぐメル。
一瞬びっくりしたけど、ボクもぎゅっと握り返す。
そうすると、メルが嬉しそうにはにかんだ。
うん。可愛い……。
というわけで、二人で喫茶店へ。
お金に関しては、ボクが払うことにしている。
メルは妹だからね。お姉ちゃんとして、当然なのです。
…………あれ。なんか最近、お姉ちゃんであることに対して、全然違和感を感じなくなってるような……。
それどころか、元男なのに、なんてことを思うことが減った気が……。
こ、これはあれかな。あっちのボクに言われたことが自然とできているってことかな?
前向きに、女の子の生活を楽しむって言う。
……うん。
まだちょっと男であることに未練はあるけど、前ほどじゃない気がする。
……それはそれでどうかと思うけど、それでも前向きに行かないとね。
そうすれば、少しは楽しくなるって言ってたしね。
「さ、すきなのをたべていいよ」
「わーいなのじゃ!」
嬉々として、スイーツを注文するメル。
わ、わぁ、かなり頼んでる。
見た感じ、ここにあるスイーツを全部一つずつ頼んでるんじゃないかな……?
まあ、お金にはかなり余裕があるからいいけどね。
それに、
「んっ~~~~! 美味しいのじゃ!」
こんな風に、幸せそうに食べているメルを見られるんだから、安いものだよね。
「ねーさま、たべないのかの?」
「あ、うん、たべるよ。いただきます」
さすがに、メルほどじゃないけど、ボクもスイーツを注文している。
イチゴのタルトに、チョコレートケーキ、それとプリンアラモードの三つ。
うん。普通はこれくらいだよね。
メルと同じように、ボクもスイーツを堪能。
このゲームのスイーツはすごく美味しい。
高級スイーツは食べたことがないけど、多分それ以上に美味しいんじゃないかな、って思えて来るくらいに。
「おいしぃ」
これなら、いくらでも食べられちゃうよ。
しばらくスイーツを味わっていると、
「あれ? 桜ちゃん?」
ボクに声をかけてくる人が。
声の方を向くと、
「あ、みうさん」
「久しぶり……なのかな?」
「たぶん。さいごにあったのは、バレンタインだとおもいますし」
「じゃあ、やっぱり久しぶりだね。元気だった?」
「はい。みうさんは?」
「私ももちろん元気。声優業も大変だけど、楽しいよ」
「そうですか。げんきそうで、なによりです」
「ふふっ、ありがと」
そう言って笑う美羽さん。
「んむ? ねーさま、この人は誰なのじゃ?」
「あ、ごめんね、メル。えっと、このひとはみうさんっていって、せいゆうさんなの」
「せいゆう……?」
あ、そっか。声優なんて言ってもわからないよね。
向こうにはテレビなんてなかったわけだし。
「桜ちゃん、この娘は?」
「えっと、メルっていって、ボクのぎりのいもうとです」
「え、桜ちゃん妹さんがいたの!?」
「まあ、ちょっといろいろありまして……」
「へぇ~。でも、すっごく可愛いね、メルちゃん」
「ありがとうなのじゃ!」
「のじゃろり……なるほどー、桜ちゃんの周りには個性的な子が集まるんだね」
「そ、そうですか?」
……あ、でも、言われてみればヤオイなんて個性の塊だよね、たしかに。
レンやショウに、ミサも。
特に、師匠なんて一番そうなんじゃないかな。
「それにしても……メルちゃんって不思議な感じがするね」
「ふしぎなかんじ……?」
「うん。何と言うか、私たちの世界にはいないようなそんな感じの」
……やっぱり、美羽さんって鋭いね。
「桜ちゃん、もしかしてメルちゃんって……」
「……えっと、とりあえず、じじょうははなしますので、これをたべたらボクのおみせにいきましょう。ケーキもごちそうしますから」
「ほんと? ラッキー!」
「あまりいいものじゃないですからね、きたいしないでくださいよ?」
「いいのいいの、桜ちゃんのケーキが食べられれば」
そう正面から言われるとやっぱり恥ずかしい……。
スイーツを食べ終えた後、メルと美羽さんを連れてボクのお店『白銀亭』へ。
「へぇ~、初めて来たけど、綺麗なお店」
「ありがとうございます」
「おー、ここでねーさまは料理屋さんをやっておるのかー」
「うん。そうだよ」
美羽さんは内装綺麗だと言い、メルはボクがここで料理屋さんをやってると思いながら、興味津々に中を見回している。
そう言えば、ここって、向こうの世界にもあるのかな?
「それじゃあ、ちょっとケーキをもってきますので、ちょっとまっててくださいね」
「はーい」
「はーいなのじゃ!」
「あれ、メルも食べるの?」
「うむ!」
「そ、そっか。まあいいけど」
メル、よく食べるね。
いっぱい食べるのはいいことだけど、現実では食べ過ぎないように言わないとね。
これでメルが体調を崩しちゃったら問題だもん。
とりあえず、定番のイチゴのショートケーキ二つと、紅茶を用意して、二人の所へ持っていく。
「はい、どうぞー」
「わぁ、美味しそう!」
「ねーさまのケーキじゃ!」
「「いただきます(なのじゃ)!」」
二人がケーキを食べ始めると、ボクは会話を切り出す。
「それで、えっと、メルのこと、ですよね?」
「うん、そう!」
「かんたんにいいますと、メルはこのせかいのひとじゃなくて、いせかいのひとなんです」
「なるほど。いわゆる異世界人、っていうやつかな?」
「そうですね。それで、メルはむこうのせかいでは、まおうなんです」
「魔王? 魔王って、『フハハハハハ! お前に世界の半分をやろう!』って言う、あれ?」
「そ、そうです」
さ、さすが声優さん。何気に演技を挟んできた。
しかも、ラスボス感があったよ。
「なるほどねぇ。メルちゃんが魔王か。……うん、いいね! のじゃろり魔王様っていうのは」
メルが魔王だと知っても、美羽さんは全然嫌なそぶりを見せない。
いい人だよね、美羽さんって……。
「でも、どうして桜ちゃんが『ねーさま』って呼ばれてるの?」
「ちょっと、いろいろなじじょうがありまして……じつは――」
美羽さんに、軽くメルがこっちに来た理由と、ボクのことを『ねーさま』と呼び理由について、かいつまんで説明。
「――ということです」
「へぇ~。魔族の人っていい人なんだ」
「そうなんですよ」
「色々とテンプレから外れてる世界なんだね。まあ、平和で何よりかな」
「そうですね。ボクもそうおもいますよ」
ようやく平和が訪れたからね、向こうは。
「それで、桜ちゃんがメルちゃんの面倒を見てるんだ。……それにしては、メルちゃんの方が大きく見えるような……」
「今のねーさまは、ちっちゃくなっておるからの!」
「……あ、言われてみれば確かに……って、よく見たら……耳と尻尾!」
「ひゃぅっ!?」
唐突に美羽さんがボクの耳を触ってきた。
それによって、変な声が出てしまった……。
「すごい、現実で小さくなると、こっちでも小さくなるんだ……あ~、このもふもふ感、最高……」
「ふわぁぁぁぁ~~~~~…………」
「おー、ねーさまが気持ちよさそうにしてるのじゃ」
「あ」
し、しまった……。
美羽さんのもふもふが気持ちよくて、つい……。
「うん、やっぱり桜ちゃんのこのもふもふはいいね。気に入ってるんだー、私」
「そ、そうなんですか」
「そうなんです」
「……そ、そういえばみうさん。みうさんはボクのことを『さくらちゃん』ってよびますけど、その、こっちでは『ユキ』なので、そっちでよんでいただけると」
話を変えるように、ボクは美羽さんと会ってからずっと思っていたことを伝える。
ずっと、呼び方が現実のままだったから。
「あ、ごめんなさい。リアルの名前を出すのはまずかったよね。それじゃあ、ユキちゃん、でいいのかな?」
「はい、それでおねがいします」
「うん。じゃあ、私のことはそのまま『ミウ』でいいから」
「あれ? なまえはおなじなんですか?」
「ほら、私ってこのゲームのイメージキャラクターだから。一応、それと同じアカウントを使っててね。だから、『ミウ』で大丈夫だよ」
「わかりました」
「儂のことは、メルでいいぞ!」
「ふふっ、わかったよ、メルちゃん」
どうやら、仲良くなれそうだね。
うんうん。メルにも順調に友達が増えているようで嬉しいよ。
「あ、そう言えば、ユキちゃんってどこかのギルドに入っていたりするの?」
「え、えーっと、いちおう、ボクがギルドマスターをやってます……」
「ほんとに!?」
「は、はい」
「そっかぁ。ユキちゃんがギルドマスターをやってるギルドか……」
あれ? なんだか、ミウさんが考え込みだしたんだけど……どうしたんだろう?
と思ってると、
「ねえ、ユキちゃん」
「なんですか?」
「私も、ユキちゃんのギルドに入ってもいいかな?」
「え、ボクのギルドに……?」
「うん。ダメかな?」
「い、いえ、ぜんぜんだめじゃないですけど……ボクなんかのギルドでいいんですか?」
「もちろん。だって、ユキちゃんのギルド楽しそうだもん」
「そ、そうですか」
そう思ってくれるのは嬉しいかな。
……できたの、昨日だけど。
「メルもいいかな」
「うむ! ミウは好きなのじゃ!」
「嬉しいことを言ってくれるね、メルちゃん」
メルも異論なし、と。
それなら、大丈夫かな。
みんなも反対しないと思うし。
「わかりました。それじゃあ、ギルドホームに行きましょうか」
「はーい!」
ボクたちはミウさんをボクたちのギルドに入れるために、ギルドホームへ向かった。
まさか、作った次の日に、新しい人が入るとは思わなかった。
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