第519話 戦闘後
戦闘を終えて、天姫さんの家へと戻ると、ボクの気配に気づいていたのか、天姫さんたちが門の前で待っていてくれた。
遠目からみんなの姿を確認して、笑顔を浮かべながらたたたっ、と駆け寄ると、
「きゃぁぁぁっ! い、依桜ちゃん!? なんでその怪我で嬉しそうな笑顔なの!?」
悲鳴交じりに美羽さんに心配されました。
あ、そう言えばお腹切られたままだった……。
「依桜様、大丈夫なのですかぁ!?」
「主、口からも血が出てるぞ!」
「おや、これは大変やなぁ。すぐに入ったらええ」
「あ、はい。わかりました」
美羽さんの悲鳴の後、三人とも慌てた様子で、天姫さんからはすぐに屋敷に入るよう促された。
とりあえず、治さないとだね。
屋敷の中に入り、医務室? らしき部屋へ連れていかれ、そこで治療することになった……んだけど、
「これは……依桜様、もしや邪気による攻撃を受けましたかぁ?」
ボクの治療をしているフィルメリアさんに、心配そうにそう尋ねられた。
内心、やっぱり知ってるんだ、と思いつつ、ボクは首を縦に振って肯定。
その瞬間、フィルメリアさん、セルマさん、天姫さんの三人が心底嫌そうな表情を浮かべた。
「……これで、確定ですねぇ。もちろん、事前に邪神関連の存在がいるとほぼ確信してはいましたが、いざこうして存在を証明させられるものを見せられると、心底嫌な気持ちになりますねぇ」
「否定はしない。……で、治るのか? 天使」
「私を誰だと思っているんですかぁ? この程度であれば、造作もありませんよぉ」
セルマさんの挑発するような言葉に、フィルメリアさんはさも当たり前と言った様子で治せると言った。
その言葉は決して嘘ではなく、淡く、それでいて力強い暖かな光を灯した手をボクのお腹にかざすと、治らなかった傷がどんどん塞がっていき、気が付けばそこにはいつもの白いお腹があった。
「わ、すごい、痛みもないよ」
「何か違和感等はありませんかぁ?」
「ううん、大丈夫。ばっちりだよ。内臓の方も治ったみたいだし、ありがとう、フィルメリアさん」
にこっと笑みを浮かべてお礼を言うと、フィルメリアさんは顔を赤くさせながらわたわたとした。
「い、いえいえ、これも私の役目ですのでぇ」
役目って、やっぱり契約相手だからかな?
でも、本当に助かったよ。
正直なところ、倦怠感や痛みが酷かったしね。
「それで、依桜ちゃん。何があったの?」
「あ、はい。そうですね……天姫さん、一旦天姫さんの部屋に行きますか?」
「ん、そやな。ウチもゆっくり訊きたいさかい、行こか」
「うん」
治療を終えて、天姫さんの部屋に移動。
そこでボクは、ボク自身が体験したことを全て話した。
最初こそ、静かに聞いていたけど、戦闘開始以降の話を始めると、それはもう憎らしそうな表情を浮かべていた。美羽さん以外。
そして、話し終えると、美羽さん以外の三人ははぁ、とため息を吐いた。
「むむ……さっきの治療の時のあれこれでほぼ確定的だったとはいえ、まさか邪神の兵が現れるとは……厄介な話なのだ」
「同感やな。ウチの世界でそないな悪さをするとは思わへんかったけど……それにしても、いずれ邪魔になる、か。どないな意味なんやろうな?」
「それはわかりませんが……とりあえず、この件は我々で調べる必要がありますねぇ」
「あ、じゃあ、ボクも一緒に調べた方がいいかな?」
フィルメリアさんの言葉に、ボクは自分も一緒に調べた方がいいかと訊くと、三人は苦笑いを浮かべながら首を横に振った。
「主よ。さすがに今回の件、主を関わらせるわけにはいかないのだ」
「ど、どうして? 確か邪神って、悪い存在なんだよね? 下手したら、世界が滅んじゃうくらいの」
「そやな」
「それなら――」
断られても食い下がろうとしたら、天姫さんが理由を話した。
「そやけど、この件に関してはえらい危険が付き纏う上に、時間もかかる思う。依桜はんは今、学生ちゅう立場やと、二人から聞いてる。その時間を潰してまで、ウチらに協力しいひんでもええ。むしろ、生活を大事にした方がええーな」
「でも……」
「玉さんの言う通りですよぉ。依桜様はまだまだ人生があるわけですし、今しかできないこともたくさんありますぅ。だから、そちらを優先なさってくださいぃ」
そう言われて、少し考え込む。
たしかに、ボクは今学生。
特に、色々な経験をする高校生は一緒に一度きりで、そんな生活ができるのもあと一年と少し。
みんなとまだ遊びたいし、色々な経験もしたい。
……そもそもボクだって、向こうにいた頃は何でもない日常に戻りたいと願っていたわけで、また非日常に行くのは……ちょっと嫌かも。
それなら、みんなに任せるのがいい……よね。
「……わかったよ。申し訳ないけど、みんなに任せるよ」
申し訳なさそうにしつつも、三人に任せる旨を伝えると、三人は安堵した表情を浮かべてうんうんと頷く。
「それでええ。……さて、話は一旦このくらいにして、依桜はんはゆっくりしとってや。今からウチは、依桜はんたちを法の世界へと帰すための準備をするさかいな」
「あ、うん。お願いします」
「あぁ。お、そうや。フィルにセルマも手伝うてや」
「うむ、了解なのだ」
「わかりましたぁ」
「ほな、二人は適当に過ごしとってな」
「うん」
「わかりましたー」
ボクたちの返事を聞いて、天姫さんは柔らかな笑みを浮かべた後、三人は部屋を出て行った。
「はああぁぁぁぁぁぁ~~~~……疲れたぁ……」
「ふふ、お疲れ様、依桜ちゃん。なんだか、大変だったみたいだね」
三人がいなくなった直後、ボクはその場で後ろ向きに寝転びながら、大きなため息を吐いた。
実は、兵との戦闘で、『天使化』、『悪魔化』、『妖魔化』の三つを同時使用したからか、ひろ感が半端じゃなく、実際はもうくたくた。
こうして寝転ぶと、全身という全身にじんわりとした疲労感が巡ってくるよ。
「私、依桜ちゃんがあんな大怪我して帰ってくるなんて予想しなかったよ。いつもみたいに、ほとんど無傷で帰ってくるのかな、なんて思っちゃったし」
「あはは、買い被りすぎですよ。実際、こっちの世界に帰って来てからの戦闘だって、割と怪我してますし。あれですよ? 異世界旅行前に、悪魔と戦ったんですけど、その時だって攻撃を受けちゃいましたしね」
「そうなの? 依桜ちゃんなら、なんでも簡単に切り抜けられると思ったんだけどな~。なんだか意外」
「ボクとしては、そう言う風に思われていたことが意外ですね。無傷で帰ってくるタイプだと思われていたところとか」
「ふふ、だって依桜ちゃん、旅行中の悪魔さんたちとの騒動だって、無傷だったでしょ? だから、いつもそうなのかな~って」
あー、言われてみればあの時って無傷だったっけ。
というより、セルマさんが勝手に怯えだした、が正解なんだけど……でも、あの時は戦闘にならなくてよかったと思うよ。
「まぁ、傷を負ったら負ったで、師匠にどやされますからね……」
「あー、ミオさん、厳しそう、だもんね」
「はい……」
苦笑い気味に同意され、ボクは苦い顔を浮かべた。
基本的には優しい人なんだけど、それを差し引いて余りあるレベルの鬼畜さを持ち合わせてるからね、あの人……。
「あ、そう言えば依桜ちゃん」
「はい、なんですか?」
「えっと、戦闘時に『アイテムボックス』に隔離した、って言う人たちはどうなったの?」
「あ、それに関しては、治療する時に天姫さんに引き渡しました。さすがに入れっぱなしはまずいですし、何より酷く衰弱してましたから」
「そっか……なんだか、許せないね」
「……はい。無関係の人たちを巻き込んだ挙句、好き勝手操ってたみたいですから」
この世に、理由もなく人を操っていい理由なんてない。
なのに、あの兵はそうしてしまった。
しかも、法の世界に干渉して、大惨事を引き起こそうとしたこと自体も到底許されることじゃない。
だからこそ今回は、すぐにとどめを刺したわけだし。
あれはもう、更生の余地なんて何一つなかったもん。
ああいう人たちをどうにかするのは不可能です。
「その人たちは無事なの?」
「はい。それに関しては問題ないそうです。兵を倒したからか、『傀儡』の状態異常はなくなってましたし。それに、妖魔に限らず、異界の人たちの回復力は高いみたいなので、明日一日安静にしていれば問題ないそうですよ」
「へぇ~、なんだかびっくりする回復力だね」
「ですね。やっぱり、種族としての根本が違うんでしょうね。ボクだって、あの傷を自然治癒で治そうと思ったら……早くても二ヵ月、酷い場合は半年以上かかっていたでしょうし」
「依桜ちゃんでもそれくらいかかるんだ」
「まぁ、いくら異世界で強くなったとは言っても、体のベースは人間ですから」
「……それもそっか」
ここで会話が一旦途切れ、ボクたちの間に静寂が訪れた。
だけど、決して嫌な静寂じゃなくて、なんだか心地いい静寂だった。
この状態が約五分ほど流れ、先に口を突いたのは美羽さんだった。
「明日は、デートだね」
「はい、そうですね」
美羽さんははにかみながら、明日がデートだと言い、ボクも顔が少し熱くなるのを感じながら、微笑みを浮かべて相槌を打つ。
「どこに行きましょうか」
「うーん……とりあえず、妖魔界をぶらぶらする方向でどうかな?」
「それが良さそうですね。ボクは天姫さんと。美羽さんは伊吹さんと契約しましたし、ちょっと気になりますもんね」
「うん。まあ、それを言ったら、依桜ちゃんは天界と魔界にも行きたい、とか思いそうだけどね。その辺りどうなのかな?」
と質問されて、うーんと考え込んでから話す。
「行ってみたいと言えば行ってみたいですね。魔界はちらっと行ったことありますけど、あれはほとんど一瞬でしたし。天界は一度も行ってないので、行けたら行きたいですね」
「その時は、私も行きたいなぁ」
「あはは、もし行けるんだったら、みんなで行きましょうか。その方が楽しそうですしね」
「ふふ、たしかに。まあでも……私は、依桜ちゃんと二人っきりで異界を冒険したいな~、なんて思ってたり」
「ふぇ!?」
不意打ちの魅力的な笑顔とセリフに、変な声が出て、思わずドキッとしてしまった。
美羽さんもそうだけど、なんでボクの知り合いの女の子たちって、こうもドキッとさせてくるんだろう。
「ふふふ、冗談だよ~」
「あ、な、なんだ……冗談ですか……もぉ~、びっくりしましたよ」
「ごめんね。つい。……でも、ちょっとだけ本気だったり」
「え」
「さーてと! 今日の夜ご飯なんだろうね。ここのご飯美味しいし、期待できるよね」
「あ、は、はい。そう、ですね」
……美羽さんって、小悪魔さんなのかな。
この後は、他愛のない雑談をして過ごしました。
ボク、からかわれてるのかなぁ。
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