第19話 依桜の憤怒

 突然の襲撃者に、会場はパニックになる。


『な、なんだこいつら!』

『さ、さっき、思いっきり撃ってたわよね……?』

『じゃ、じゃあ、あれ本物……?』

『き、きゃあああああああああ!』

『騒ぐんじゃねえ!』


 お客さんが騒ぎ出した瞬間、一人の男が銃を空に向けて発砲した。

 それだけで、全員静かになり、大人しくなった。

 やっぱり、このタイミングを狙ってきたっ……!


 しかも、殺しはしないと言っておきながら、思いっきり司会者の人を殺そうとしていた。

 おそらく、見せしめとして、って言う感じなんだろうけど。

 ……許せない。


『おい、そこのお前、ちょっとこっちにこい!』


 知らぬ間に、別の襲撃者がある男性を呼ぶ。


『な、なぜ私が?』


 それは、教頭先生だった。


『黙れ! いいから、さっさとこっちに来やがれ! さもなくば、ここにいる誰か一人を殺すぞ!』

『わ、わかった、だから誰も殺さないでくれ……!』


 ……白々しい。

 ボクと学園長先生は、今回の事件の首謀者と作戦はすでに知っている。

 学園長先生を見ると、


『やってしまいなさい』


 と、口パクだが言っていた。

 うん、向こうで覚えた読唇術が役に立った。

 ……じゃあ、予定通りに動こうかな。


 ボクは、司会者さんをそっと離して立ち上がる。

 距離は二十メートルほど。

 ……一回で行ける。

 ボクは全身に魔力を通して、身体能力を強化。


『ん? おい、そこの銀髪! 何動いてやがんだ……って、ひゅ~! すっげえいい女じゃねえか! よし決めた! お前は、俺の女にしてやるよ! だからこっちに――』

「――胴体、がら空きですよ?」


 すぐさま地を蹴って、舐めたことを言っていた襲撃者に一瞬で肉薄。


『なっ……がぁっ!?』


 そしてそのまま、勢いの乗った蹴りを脇腹に入れる。

 それだけで、男の体が曲がり、吹っ飛ぶ。

 そのまま着地するのではなく、襲撃者を蹴った反動を生かして、空中で方向転換。そのまま近くにいた、数人の襲撃者の銃器の銃口に銃口より少し小さい投擲針を放つ。


『うおっ!? な、なんだ!?』

『くそ! 銃が使い物にならねえ!』

『くっ、なんだなんだ、こいつ!』


 ボクの狙い通りに、針は銃口に入り、銃を使えなくした。

 と言っても、まだ武装している襲撃者は少なくとも十人はいる。


『おい、小娘! てめえ、このおっさんがどうなってもいいのか!?』


 唐突に話しかけられたと思ったら、そんなことを言ってきた。


「どうぞ?」


 もちろん、了承。

 一瞬、襲撃者を含めた、周囲の人たちに動揺とざわめきが走る。


『なっ!? お、おい君! 君は、うちの学園生だろう!? 私は教頭だぞ!? なぜ助けない!?』

「助ける必要がないからですよ?」


 ボクは皮肉たっぷりに笑顔を作る。

 もともとの計画を知っているだけに、ボク個人としては、助ける義理もない。

 それに、お仲間さんなんだからね。

 第一、ボク、教頭っていうポジションって、あんまり偉いと感じたことがないんだよね……。人は偉そうだけど。


『な、なんだと!? なぜだ! 私がいなくては、学園は!』


 ボクが助けないと言っているにも関わらず、なおも食い下がる教頭先生。

 計画を知っているだけに、ものすごく滑稽に見える。


「はぁ……あのですね、時間を稼いでボクを殺そうとしているんでしょうけど……ハァッ!」


 ナイフポーチからナイフを一本取り出し、振り向きざまに一閃。

 ガキンッ! という、けたたましい金属音を立てて、ナイフが銃弾を弾いた。


『じゅ、銃弾を弾きやがった!?』

『う、嘘だろ!? そんなの、人間がやる動きじゃねえぞ!?』

「無駄ですよ。こう見えてボク、とっても強いですから」


 ボクが挑発するように笑顔で言うと、教頭先生を人質(笑)にしている襲撃者が、


『構うな! 四方八方から撃ちまくれ! 多方向からの狙撃なら当たるはずだ!』


 そう指示した。

 すると、ほかの襲撃者たち全員が、ハンドガンからアサルトライフルに持ち替え、一斉に発砲。

 だけど、甘い。


 ボクはそれを完全に見切り、ナイフをもう一本取り出し、その場で多方向からの銃弾の雨をナイフ二本で弾き落とす。

 向こうでのアクロバットスキルは、こういう時本当に役立つ。

 それに……


「遅いです。こんなに遅い銃弾じゃ、あくびがでちゃいますよ?」

『う、嘘だ……!』

『ば、化け物だ……』

『く、来るんじゃねえ!』


 ボクが襲撃者の人に詰め寄ると、一人が尻もちをつき、

 パンッ! という乾いた音ともに、ハンドガンを発砲。

 それは、的外れな方へ飛んでいった。

 しかし、これが最悪の状況を作り出した。


「ああああああああああっ!」


 乾いた音とともに、人ごみの中から悲鳴が聞こえてきた。

 その声には聞き覚えがあった。


 ……いや、そんな、まさか……

 恐れていた事態が、ボクを襲った。


「み、未果! し、しっかりしろ!」

「未果ちゃん! そんなっ……!」


 ボクに現実を突きつけるように、態徒と女委の二人の未果を呼ぶ声が聞こえてきた。

 それも、とてつもなく焦ったような声。いや、それどころじゃない。

 ボクは、急ぎ、未果の元へ走る。


「い、依桜、未果が……!」

「未果ちゃんが、撃たれてっ……!」

「うっ……あっ……!」


 未果の下にたどり着く。

 すると、二人が泣きそうな顔でボクに話しかけてきた。


「ちょっと待って……」


 ボクは未果の具合を見る。

 幸い、急所は外れている。

 だけど、このままでは出血多量で死んでしまう。

 ……そうはさせない!


「『ヒール』……!」

 すぐさま、出血している場所に手をかざし、回復魔法のヒールを発動。

 すると、ボクの手から淡い緑色の光が灯り、未果の出血ヶ所を治していく。

 不幸中の幸いというか……銃弾は未果を貫通しており、回復魔法によって銃弾が体内に残るようなことにはならなかった。


 回復魔法の治療速度は、魔力量と比例しており、多ければ多いほど、治療速度は速い。

 幸い、ボクには師匠によって鍛えられた魔力がある。

 その甲斐もあって、みるみるうちに未果の傷が癒えていく。


「嘘だろ……」

「依桜、君……?」


 正直、魔法はなるべく使わないようにしようと考えていた。

 あまり、人が大勢いる場所で使うのは、問題になるから。


 ……だけど、今はそんなことを言っている場合じゃない!

 ボクが周囲からどう思われようと知らない!

 今は、大切な幼馴染を助ける!


「うっ……い、お……?」


 傷が癒えてくると同時に、痛みで苦痛に歪めていた未果の顔も少しずつ穏やかになってきた。

 それと同時に、未果が声を出す。


「未果、話さなくても大丈夫。ボクは、ここにいるよ」

「う、ん……」


 それから間もなくして、治療が終わった。


「……態徒、女依。一応、傷は塞いだけど、流した血は戻るわけじゃないから、このまま看ててくれないかな?」

「い、依桜……?」

「ボクは……あの人たちをこらしめてくるから」

「依桜君……」


 二人が少し怯えた表情でボクを見てくる。

 ……きっと今のボクの顔は、異常なまでの憤怒で埋め尽くされていると思う。

 いや、それほどのことをしてくれたんだもん。

 ……ただでは帰さない。


「覚悟は……できてるよね?」

『ひっ……!』


 一周回って、ボクは笑顔になった。

 どうやらボクは、本気で怒ると笑顔になるみたい。

 憤怒から、笑顔へ。

 そういう怒りの表し方。

 ボクの状態を見て、襲撃者が小さな悲鳴を漏らす。


「大丈夫……殺しはしないから」

『な、なんだよ、この殺気は……!』

『こ、こいつ、本当に人間か……?』

『く、来るな……来るなぁああああああ!』

「……逃げようとしても無駄だよ」

『へ……? ぐべっ!?』


 逃げようとした襲撃者の一人に割と本気のハイキックを顔に叩き込む。

 潰れたような声を出して、男は気絶。

 吹っ飛ばなかったのは、インパクトを逃がさないように蹴ったから。

 だから、衝撃は体を突き抜けることなく、体中を駆け巡ったと思う。


「まずは一人……」

『や、やめてくれ……!』

「やめないよ? あなたたちは、何の罪もない人……それも、ボクの大切な人を撃った。やめるわけないよね? さあ……次いくよ」


 ボクは冷たくそう言い捨てると、命乞いのようなことを言っていた襲撃者に肉薄。

 そのまま背後に回り、首を絞め、


『が、はっ……』


 落とす。

 そのまま、適当に地面に放って、ボクの標的に。

 それはもちろん、


「……あなたは、許しませんよ?」

『ひぃ……!』

「あはは……! なんで、そんな引き攣ったような顔をしているんです? あなたは、未果に発砲したんですよ? その痛みも知らないまま命乞いなんて……しようとしてませんよね?」

『ち、違うっ! あ、あれは、手元が狂っただけで……!』


 大の大人が言い訳とは……まだ、子供のほうが偉いと思う。


「何が違うんですか? あなたがしたのは、立派な傷害ですよ? 許されると思っているんですか?」

『お、俺はっ……!』

「死ぬ覚悟……できてますよね?」


 ボクはナイフを一本取り出し、今も後ずさる襲撃者の目の前に突きつける。

 情けなくも、襲撃者は涙を流しだした。


「……泣くんですか。未果は、撃たれたにもかかわらず、泣かなかったんですよ? なんで、撃たれてもいないあなたが泣くんですか? いい加減目障りなので……殺しますね♪」

『う、うわああああああああああ……!』


 ピタリと、男の目の前2センチほどでナイフを止めた。


「……なーんて、冗談ですよ。本当に殺すわけないじゃないですか。あなたに、そんな価値はないですから。幸い、更生できそうですからね、見逃します……って、あれ? 気絶しちゃった」


 気が付けば、襲撃者は気絶していた。

 その上、粗相もしているという。

 ……どのみち、殺す価値もないような人だしね。


 さあ、どんどんいこう。

 残る人数は、全部で七人程度。

 面白いくらいに固まっている。

 これはもう、襲ってくださいと言っているようなもの。


「さっさと、片付けますよ!」


 ボクは、気配遮断と消音を使用。

 そのまま、走って襲撃者たちの背後に回る。


『ど、どこだ!? どこに消えやがった!?』

「……甘いですよ」


 ボクは襲撃者が気づかないうちに、首に針を刺して気絶させた。

 いわゆる、ツボってやつだね。

 ほかの人たちも同様にする。

 教頭先生を人質としている襲撃者以外は、全員気絶させた。

 それを確認してから、ボクは使用していた能力を解除。


「……とりあえず、あなたの部下は倒しましたよ? どうしますか?」

『よ、よくやった君……! こ、これであとは、私を助ければ――』


 ボクのセリフに襲撃者が答えたのではなく、教頭先生が反応していた。

 よく見ると、すごく焦ったような表情をしていた。冷や汗もだらだら。


「え、何を言っているんですか? ボクは、あなたのことを言ったんですよ? 教頭先生。……いえ、こう呼んだ方がいいですか? テロ組織『ユグドラシル』のリーダー、ゼイダル・ヴェルシュさん?」


 ボクが教頭先生の正体を言うと、周囲がざわつきだした。


『……何のことだ?』

「実はですね、ボク昨日あなたの事を調べたんですよ。簡単でしたよ。まさか、屋上で堂々と密会してるんですからね」


 まあ、実際のところはほんの偶然だったわけだけど……こう言ったほうが、何かと効果ありそうだしね。


『密会などしていない! どこにそんな証拠があるというんだね!』

「……」


 ボクは無言でスマホを取り出す。

 そして、無言のまま昨日の密会の映像を流す。


『ふむ、計画は順調、と』

『はい。仕掛けも準備できております』

『そうかそうか。で、人員の方は?』

『はい。すでに、この街に潜伏済みです』

『しくじるなよ? この状況ですら、誰が聞いているかもわからんのだ』

『もちろんです。当日は、一般客を装って侵入し、中庭に参加者全員が集まった時、一斉に仕掛けます』

『そうかそうか! ならば、私は人質を買って出ようじゃないか!』

『なるほど、そうすれば、あなたは無関係だと知らしめられるということですね』

『その通りだ。これには、私の悲願が掛かっているからな。確実に、成功させねばならん』

『もちろんですとも。ただ、こちらにもちゃんと、報酬を用意してくださいよ?』

『わかっているとも』

『武器の持ち込みは大丈夫でしょうか?』

『私を誰だと思っている。ぬかりはない。警備員もすでに買収済みだ』

『完璧ですね』

『そうだろう? ふはははは!』

『……では、明日、楽しみにしていますよ?』

『ああ。学園長の研究データ。確実に私のものにしてやる……』


 そこで再生が終わる。

 教頭先生――いや、ゼイダルが顔面蒼白になる。

 だが、それでもまだ悪あがきを続けるのか、


『そ、そんなもの! 誰かのいたずらだ! そうに決まっている! だ、第一、なぜ私がテロ組織のリーダーなんかを……!』

「はぁ……あくまでも、白を切るんですね?」

『当然だ! 私はテロ組織のリーダーなどではないからな!』


 うーん、これは奥の手を使わないとダメかな……?

 さっさと、自白してくれた方が楽なんだけど……。


「ところで教頭先生」

『なんだね?』

「昨日の夜、どこにいました?」

『どこにって……当然、職員室に』


 職員室て……もう少しうまい嘘はつけなかったの?

 あ、でも時間も時間だったから、大半の先生は帰っていて、残った先生は宿直室にいたのかも。


「じゃあ、このスマホの映像は?」


 ボクは再度、スマホの映像を見せる。


『だからさっきも言っただろう! それはいたずらだと!』

「いいえ? そもそも考えてみてください? この映像中の教頭先生が会話をしているのは……今、あなたを人質として捕まえているそこの人ですよね?」


 そうボクは指摘する。

 さっきからずっとたんまりで、教頭先生を捕らえたふりをしている襲撃者、この映像の人物と一致しているのだ。

 髪型から体型まで。

 それも、声まで一緒と来た。

 これはどう考えても、黒だ。


『な、何を言っている! 今日が初対面だ! そんなの、いくらでも加工できる!』

「じゃあ、もう一つ。学園長先生!」

「はいはーい! 呼んだ?」


 ボクが学園長先生を呼ぶと、状況が状況だというのに、すごく軽いノリで返事し、人ごみから躍り出てきた。


「たしか職員室って……」

「あ、そういうことね!」


 学園長先生はボクの言葉の意味を察し、教頭先生と向き合う。


「あのね、教頭先生」

『なんでしょうか?』

「実はさー、この学園の職員室……監視カメラが付けてあるんだー」

『……は?』


 学園長先生が発した言葉の意味を理解できていなかったのか、教頭先生はぽかんと口を開け、世間一般で言うような間抜け面をした。

 そんな教頭先生の状態を無視して、話を続ける学園長先生。


「それ以前に、うちの学園ね、わからないように至る所に監視カメラが設置しあるんだー。唯一付けていないとしたら……屋上くらいなんだよね」


 学園長先生の言ったことに対して、教頭先生が狼狽する。


『そ、そんな話、聞いてないぞ!』

「えー? だって……私、最初から教頭先生のこと信用してなかったしー? それに、君、あまりに怪しすぎたんだもん」


 学園長先生、何気に言っていることが酷い。


『あ、怪しいだと!? 私は、ちゃんと隠して――』

「あれぇ~? 私、何が怪しいとも言っていないのに……何を隠したんですかねぇ? お教え願えますか? 教頭先生?」


 自分でボロを出した。

 う~ん、この人は馬鹿なのかな?

 テロ組織のリーダーをしているくらいだから、きっと頭がいいと思っていたんだけどなぁ……。


『チッ……おい、例のブツはどうなってる!』

『すでに、確保しております』

『ならいい! さっさと出るぞ!』


 どうやら、ようやく本性を出したみたい。

 今までの態度は何だったんだと言わんばかりに、教頭先生――ゼイダルが言う。


『まあいい! 学園長、あんたの研究データは頂いた! じゃあな!』


 ゼイダルは、野球ボールほどの大きさの球を地面に叩きつける。

 するとそれは、真っ白な煙を放出し、視界を埋め尽くすほどのものとなった。


「煙幕……! 依桜君!」

「問題ないですよ!」


 風魔法を発動し、周囲の煙を吹き飛ばす。

 回復魔法は無理だったけど、少なくとも風魔法は魔法だとはバレないはず!

 そう言う考えの下、ボクは魔法を使用した。


 そして、煙相手に風はかなり有効で、煙がすぐに晴れて、視界が開ける。

 もちろん、索敵も同時に使っていたのでどこに逃げたかはわかっている。


 気配の方を見ると、走って逃げようとしている場面だった。

 しかもよく見ると、ヘリが学園の上空に見える。


「ヘリで逃げる気だね……依桜君、どうにかできる?」

「もちろんです。未果を怪我させた人たちですし、逃がす気ははなからないです」

「頼もしいわね」


 ふふ、と学園長先生が笑う。

 ボクは、ヘリが二人の前に縄梯子を下ろしているのを見て、


「はぁっ!」


 ナイフを二本投擲。

 そのナイフは、縄梯子を切断して登れなくする。


『クソッ! おい! あれを使え!』

『し、しかし、あれは……』

『うるさい! それどころじゃないんだ! いいから使え!』


 縄梯子が切断され、慌てたゼイダルはヘリに乗っている仲間に何かの指示を出していた。

 しかも、仲間が躊躇しているところを見ると、かなり危険な物?


『わ、わかりました! じゃあ……!』


 そう言って出てきたのは……って!


「ガトリングガン!?」


 まさかのガトリングガンだった。

 まさか、ここにいる人たちもろとも撃つ気じゃないよね!?


『撃てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!』


 ああもう! やっぱりそうだよね!

 さすがに、こんなに人数がいるところでは弾いたとしても、全部は無理! 身体強化を限界までやったとしても、八割が限界! 残った二割は防げない!

 くっ、躊躇してる暇なんてないよね……!


「『乱回転!』」


 風魔法の一種、『乱回転』を使用。

 この魔法は、名前の通りに風を乱回転させるための魔法。

 基本的に、向こうでは使われることのない魔法だけど、この世界じゃ別!

 銃弾そのものは、回転しながら進むわけだから、その反対の銃弾以上のエネルギーを加えれば!


『は、はぁ!? な、なんなんだよ!? なんで、銃弾が全部落ちてくんだよ!?』


 ガトリングガンを撃っていた仲間が驚愕したように叫ぶ。

 魔力が尽きない限り、この魔法は止まることがない。

 向こうの一部の魔法は、魔力量で威力が変わってくるから、ボクが使えば銃弾を落とすことくらいならできる。


 まあ、乱回転だけだと、あくまでも回転エネルギーが消えるだけだからね。

 実際は、風の障壁を張ってるんだけど、あれは風魔法の基本防御だからね、詠唱は不要だ。


「これでチェックメイトです」


 ボクはゼイダルの前にナイフを突きつける。


『ま、まだだ! おい、ジュガン!』

『はい。……すいませんね!』


 ゼイダルが自分を人質にしていた襲撃者の名前を呼ぶ。

 襲撃者――ジュガンと呼ばれた男は、ボクに肉薄すると、どこかに隠し持っていた刀を横なぎに振るう。


「わわっ……っと! 危ないじゃないですか!」


 ボクは、紙一重に上半身をのけぞらせ迫りくる刃を回避。

 この人、かなり強いかも……でも、


「やぁっ!」


 のけぞらせた体をわざと崩し、ナイフを刀の鍔に引っ掛け上方に弾く。


『なっ! まだだ!』


 刀を手放しても、すぐに素手での格闘に切り替え、拳を放ってきた。


「どうしたんですか? 力んでますよ?」


 ボクはその拳を後方に受け流すと、真横に移動し、隙だらけの首筋に針を刺す。


「それじゃあ、おやすみなさい。次に目が覚めた時は多分冷たい床と壁かもしれませんね」

『く、そ……ゼイ、ダルさ、ま……もうし、わけあり、ま、せんっ……』


 そう言い残して、ジュガンは気絶した。

 それを確認してから、ゼイダルに向き直る。


「さて……ヘリにいるお仲間さんはいいとして……あとは、あなただけですよ? ゼイダルさん?」

『な、なぜだ……なぜ、お前はそんなに強いのだ!? その動きと言い、銃弾を落とした事と言い! 普通の人間にはできない芸当だぞ!? それを、いともたやすくやってのけるなど……!』

「そうですね……こんな身体能力を得たのは、学園長先生のせい、としか言えませんよ」

『が、学園長の、せい……? ま、まさか貴様っ……!』


 ある考えに至ったのか、ゼイダルが驚愕の表情で学園長先生を見た。


「そうだよ、ゼイダル。彼――あ、今は彼女か。彼女はね、約一ヵ月前に異世界へと飛ばされ、三年もの間鍛錬を積み、魔王を倒したんだよ。しかも、むこうでの職業は暗殺者。こちらの世界の人間じゃあ、この子には勝てないよ」

『そ、そんなっ……まさか、我が野望を打ち砕いたのは、異世界帰りの少女だったというのか……! なんという、皮肉だ……』


 ゼイダルは負けた相手が、ボクという異世界帰りの少女だと知り、驚愕し、肩を落とした。

 その顔は、酷く悔しそうな顔をしていた。

 だけど、可哀そうなどとは思わない。なにせ、直接ではないとはいえ、未果を撃ったからね。

 でもさ、ボクってもともと男だからね? 女の子として認識されるのは、ちょっと……。


「さ、これで事件解決だね! というわけで、依桜君、気絶させちゃって!」

「わかりました。それでは、さようなら、教頭先生」


 そう言って、ボクはゼイダルの首筋に針を突き立てた。


『わた、しの……ひが、んが…………』


 そんなことを呟きながら、ゼイダルは気絶した。

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