第18話 襲撃者

 特技披露。ボクの出番よりも前には五人。

 ジャグリングや、料理、自作洋服と、かなりすごい特技ばかりだった。

 そして、ボクの番になった。


『ええー、依桜さんの特技は……動きながらの、投げナイフ? 言葉だけだとわかりにくいので、早速やってもらいましょう!』


 ボクは事前に必要なものを連絡してあるので、用意してもらえた。

 それというのは、


『こ、これは特製のステージ、ですか? 一体何が始まるんでしょうか?』


 大掛かりなパルクールステージ。

 といっても、ボクはパルクールの技とかはよくわからないので、異世界で培った実戦用の体の動きを用いて、投げナイフをしようかなと。

 高さは大体十五メートルくらい。

 途中には、的もちゃんと設置してある。


 所々の壁には手をかけられるくらいのでっぱりや、足場として機能しているのかすらも怪しい場所、高いところに的があるのに、そこまで行けるそうにない、などなど、かなり無理難題なステージとなっている。

 もちろん、できないということはないよ。

 ちなみに、ナイフポーチを創ったのはこれの為。


『えーでは……始めてください!』


 司会の人の合図とともに、ボクは走り出した。

 なるべく低姿勢で、空気抵抗が少ない姿勢で。


 最初の的が見えると、高く跳躍して一本ナイフを取り出し、そのまま投擲。

 それはまるで、磁石で引き寄せられたかのように真っ直ぐ的の中心に飛び、そのままストンという音とともに突き刺さる。

 そのあと、最初の床に着地するのではなく、跳んだ先にある上部の足場に着地し、またさらに跳躍。今度は、空中で回転し、複数の的にナイフを投げる。


 それも、最初の的同様に中心にストトトトンッという子気味いい音を立てながら突き刺さる。

 それを確認するまでもなく、ボクはさらに高い位置にある的を狙いに行く。

 もちろん、上に行くための足場はない。だけど、


「よっ、ほっ、やっ!」


 壁を蹴って、上へ上へと上る。

 そのまま、狙いの位置まで跳び続け、ナイフを投げる。そのまま、下に落下。

 最後に、岩と岩の間、それもわずか十センチほどの隙間にある的にナイフを数本投げる。


 そのナイフは、隙間を縫って的の中心に刺さった。

 そのままボクは、空中で回転して、ステージに着地。

 笑顔で一礼して、特技披露を終えた。

 一瞬の静寂の後、


『わああああああああああああああっっ!』


 会場中から歓声が上がった。


『な、え……えええええええええええ!? す、すごいすごいすごい! とてもすごい特技が飛び出しました!』


 司会の人も興奮しているみたい。

 うん、大成功かな?


『な、なんですか、さっきの動きは!? それに、あんなに動いているのに、正確なナイフ投げ……! 同じ人間とは思えない動きでしたよ!?』

「あ、あはは……ちょっと、色々なことをしていたので……」


 何をしていたかは、さすがに言えないけど……。

 まさか、異世界にいたとは思わないもんね。


『いやいやいや! ちょっとしたことじゃあ、あんな、数メートルも跳ぶことなんてできないですよ!? それに、思いっきり壁を上ってましたよね!?』

「はい、やってましたよ?」

『あ、あれって、その靴に仕掛けでもあるんですか?』


 あー、うん。普通だったら、そう思うよね。

 でも、仕掛けなんてないしね、この靴。


「いえ、あれは純粋に身体能力ですよ。その証拠に……ほら、靴には何の仕掛けもないでしょう?」

『た、たしかに……でも、一体どうやって?』

「普通に壁を蹴って、上るだけです」

『だけって……依桜さんって、可愛いだけじゃなくて、かなり動けるんですね』

「鍛えてますから」


 なにせ、師匠にみっちり鍛えられたしね……。

 あれは、この世のものとは思えない地獄だったよ。

 それに、師匠だったらボクがやったことをもっと早くできる上に、もっと動きを最小限でできると思うし……。

 正直、師匠越えはしたとは言われたけど、本当かどうか疑わしい。


『いやー、すごいものが見れました! 華麗に飛び回るミニスカ猫耳メイドさん! おそらく、この会場にいる男たちの心をガッチリつかんだことは間違いないでしょう! この興奮が残ったまま、次の人に参りたいと思います!』


 無事、ボクの特技披露は問題がなく終了。

 お客さんの反応を見る限り、盛り上がったと思うので、ボクとしては大成功したと思うので、すごくほっとした。


 久しぶりに、ボクも思いっきり体を動かせたし、満足かな。

 こっちじゃ、ああやって動くことは難しいからね。

 そうして、特技披露も終わり、次の審査の準備となった。



「ふぅ……」

「依桜、お前、ちょっと前からすごいとは思っていたが、まさか、あんな動きができたとはな……」


 ボクがステージ裏に戻ってくると、晶が話しかけてきた。

 見ると、晶はとてもびっくりしたような表情をしていた。


「ふふっ、大成功かな?」

「そうだな。あそこまで驚かせられたのは久しぶりだ」

「そっか。よかった。それで、どうだったかな?」


 ボクとしては、身近な人からの感想がちょっと気になる。

 そこで、晶に聞いてみることにした。


「いや、あれは……すごい、としか言いようがないな。ただ、どこにあんな動きができる筋肉があるのかが疑問なんだが……見るからに、普通ほどしか見えないしさ」

「筋肉を付けすぎると、あまり動けなくなっちゃうから、なるべく実用的な筋肉の付け方をしただけなんだけど」


 戦闘や暗殺に向けた筋肉なんだけどね。

 男の時だったら、腹筋が割れてるのが見えてたけど、女の子になった後は、そう言うのが無くなってるんだよね。別に、筋肉が無くなったってわけじゃないけど。

 単純に、見えなくなっただけというか。


 多分、他人がボクの裸を見ても、華奢っていう印象しか抱かないと思う。

 ……いや、やらないけど。


「なるほどな。依桜は、ずいぶん変わったな。昔はどっちかと言えば、運動はそんなに得意じゃなかった気がするんだが……これは、完全に抜かれたな。それどころか、遥か彼方に行かれてしまった気分だよ」

「あ、あはは……そこまで言われると、申し訳ないかな……」


 遥か彼方に行ったように感じる原因は、向こうでの特訓だろうし。

 あれはしんどかったしね。

 一応言うけど、ずる、とは微塵も思っていない。


 そもそも、ボク自身、よくある異世界転生・転移系の作品の主人公とかみたいに、高いスペックを持っていたり、チート的な能力を持っていたわけじゃないからね。本当に、こっちでの非力な身体能力で召喚されたものだから、それはもう、死に物狂いだった。


「いや、気にしないでいいぞ。依桜は依桜だ」

「晶……ありがとう」

「いいよ。さて、水着審査の時間が近いことだし、さっさと着替えてきたらどうだ?」

「あ、いけない……それじゃあ、ボクは行くね」

「ん、頑張ってこい」

「うん。まあ、何を頑張ればいいかわからないけど……」


 そんなことを言いつつ、ボクは水着に着替えに行った。



『えー、特技披露が終わったということで、最後に水着審査と行きましょう! 野郎ども! お待ちかねの、水着審査だぞ!』

『しゃああああ!』

『待ってたぜ!』

『ああ、美少女たちの水着……!』

『早く……早く見せてくれ!』

『こらこら! みなさんハイにならないでください! 逃げませんから!』


 うわぁ……人凄いなぁ。

 男性のお客さんの顔が軒並み怖い……。

 血に飢えた獣のような顔だよ。

 あれ……暴動とか起きない? 大丈夫?


『さあ、ガンガン行きましょう! それでは、水着審査……開始です!』


 ちょっと、何かが起こりそうな状況で、水着審査が始まった。

 ミスコンに出場するだけあって、やっぱりみんなスタイルいいんだなぁ。


 男子は、胸の大きい人が好き! って言う人が多いみたいだけど、ボクは華奢な人とかの方がいいかな。

 中には、かなり発育のいい人がいるけど。

 多分、上級生だと思う。


『さあ、このコンテスト一番の注目株! 一年六組、男女依桜さん!』


 え、ボクいつから注目株になったの?


『あら、ずいぶん可愛らしい水着ですね……パレオタイプですね。しかも、ものすごいスタイルいいじゃないですか!』

「え、そう、ですか?」

『もちろんです! こんなに胸が大きいのに、ウエストはしっかりくびれができていて、ヒップもいい感じ! おまけにお肌真っ白で綺麗ときた! その上、その髪と瞳も相まって、妖精みたいです!』

「あ、あの……それは、言いすぎじゃ……?」


 とうとう妖精とまで言われたんだけど。

 ボク、一応人間なんだけど……。


『ご謙遜を! ならば、ためしに笑顔を振りまきながら、手を振ってみてくださいよ!』

「え、笑顔、ですか?」


 女委にも言われたけど、ボクの笑顔ってそんなにいいものなの?

 でも、やってと言われてるし……。


「えへ☆」


 クラスでやった時と全く同じ笑顔をし、右手を振ってみる。


『ぐはっ……!』

『な、なんという天使の微笑み……』

『お、俺、もう奴隷でもいいかもしれない……』

『愛の奴隷ってやつか……いいな!』

『可愛い……まさか、現実にあんな子がいるなんて……』

『ふーむ……アイドルとしての素質があるな、あの娘』

『ああ、笑顔が眩しければ、肢体も眩しい……!』


 ボクが笑顔で手を振っただけで、見ていると全員頬を赤らめて幸せそうな表情をした。

 その時、カメラの連射音があるところから聞こえてきた。

 その音の出所を探すと、すぐに見つかった。


「い、いいぞ、依桜……! す、素晴らしいボディに表情……! ハァハァ……」

「い、依桜君、なんて素晴らしいの……! やっぱり、次の同人誌のヒロインは依桜君に……」

「あぁ……! イイ! すごくいい笑顔! 男の子の時も最高だったけど、女の子の方も、とてもすんばらしい! もう、食べちゃいたい!」


 ………………あー、うん。変態×3でしたか……。

 態徒と女委はいいとして……学園長先生! あなたは問題だらけですよっ! なんで、観客に混じってあなたも見ているんですか! というか、カメラの連射をやめて下さいっ!


 というか、なんであの三人、バラバラな場所にいるのに、大体同じこと言ってるの!?

 あれかな! 変態ってどこかシンパシーでも感じる習性でもあるの!?


『それにしても……依桜さん、あれだけの動きをしていたのに、筋肉は思ったほどないんですね?』

「そうですか? でも、あまり付けすぎるといざ動けなくなる――」


 と言いかけた時、なにやら不穏な気配を感じた。

 急ぎ、索敵を使用。

 ボクは能力の結果から、かなり嫌な物を見てしまった。

 ま、まずい!


「危ない!」

『え? きゃあ!』


 急いで、隣にいた司会者さんを抱えて横に跳ぶ。

 すると、

 バンッ!


 という発砲音と共に、ステージの壁に穴が開いた。

 慌てて、発砲音がした方向を視認。

 そこには、


『動くな! 大人しくしていろ! 抵抗しなければ、殺しはしない!』


 十数人ほどの、銃火器を持った全身黒ずくめの襲撃者の姿があった。

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