第17話 ミス・ミスターコンテスト

『さあ、乙女たちはお待ちかね! ミスターコンテストです! ……おお、みなさんカッコいいですね! これは、とても期待できますよ!』


 ミスターコンテストが始まり、出場者が入場すると、黄色い声が聞こえてきた。

 うーん、盛り上がってるね。

 ……黄色い声に混ざって、野太い声が聞こえてきたけど……出場者の人のためにも、心のうちにしまっておこう。


『さあ、まずは自己アピール、質問タイム! まずは――』


 と、順調に進み、晶の番となった。


『続いて、一年六組、小斯波晶君! 自己アピールをどうぞ!』

「一年六組の小斯波晶です。自己アピール、ですか。えー、何を言えばいいんでしょうか?」


 マイクを向けられた晶は、苦笑いをしながらいつも通りの反応。

 うん、普段と変わらない晶だ。

 お客さんの反応を見ると、大多数の女性の人が頬を赤くしている気がする。

 やっぱり、モテるんだね、晶は。


『そうですね、これと言って思い浮かばない! ということなら、質問タイムに移ることができますが、いかがでしょう?』

「あー、じゃあ、それでお願いします」

『はい! 尺の関係で、三つのみとさせていただきますね! それではまずは、えーっと、このコンテストに出たきっかけをお教えください』

「実は、ミスコンに出る人が、親友なんですよ。確実に出されると思ったので、せめて一緒にと、それだけの理由です」

『ほう! では、その人のことは好きなのですか?』


 え、なにその質問!?

 あ、晶、変なことは言わないでよ……?


「そうですね……まあ、好きですね。小学生の頃からずっと一緒にいましたし」


 なんの恥ずかしがるそぶりもなく、堂々と晶は言い切った。

 ちょ、晶、それは誤解されるよ!


『と、ということはあれですか! 幼馴染、というやつですか!』

「ええ、まあ」

『じゃ、じゃあ、恋人にしたいとは?』

「え? あ、もしかして、さっきの好きってそう言う話ですか?」

『そうですけど、もしかして、勘違いしました?』

「はい」

『そうでしたか。では、さっきの質問の答えは?』

「まあ、好きではありますけど、恋愛感情じゃありませんね」

『なるほど、そうですか! では仮に、その人から告白されるとしたら、どうしますか?』

「いや、そんなことはないと思いますよ? かなり複雑な事情があるので」

『複雑な事情ですか? それはどういったものですか?』

「そうですね、詳しいことは言えませんが……その親友は女の子の方が好きですからね」


 晶がとてつもなく誤解を招きそうな発言をすると、会場内がざわつきだした。

 ……晶って、狙ってやってるのかな?

 その言い方だと……


『え! そ、それって所謂、百合って言うやつじゃ……?』


 そう捉えられますよね……。

 ど、どうしよう、ボクに同性愛者っていうレッテルが貼られそうなんだけど……。

 精神的にはそうかもしれないけど、肉体的には事情を知らない人から見たら、百合って思われるよね、ボク……。

 あれ、知っている人からしたら、ボクってどうあがいても同性愛者じゃ……?


「……あ、冗談ですよ?」


 あ、ある意味引き攣った笑みの晶を見たかも。


『え、冗談、ですか?』

「ええ、もちろんですよ」

『そ、そうなんですね、いやぁドキッとしましたよ。でも、冗談を言うあたり、ちょっとお茶目なところもあるんですね! これは、得点が高いですよ!』


 よ、よかった……なんとか冗談で通してくれた。

 多分、さっきの『……あ』は、自分の失言に気づいたことだよね?

 でもよかったぁ……変な噂が立たなくて。


『それでは最後に一つ。彼女は欲しいですか?』

「あー、そうですね……今は特にほしいとは思っていませんが、自分と気が合う人で、優しい人とだったら付き合ってみたいですね」

『おー! それなりに、興味はあるということですね! これは、期待できますよ! それでは、ありがとうございました! では次に行きましょう!』


 問題が起きかけたけど、晶の番が終了した。

 心臓に悪いよ……。



 自己アピールタイムが終わってからは、特技披露。

 みんな、自分の特技を披露していった。

 晶の時は、なんというか……すごかった。


 何をするのかと思ったら、馬がステージに上がってきて、馬が自分の前に来るなりに馬に乗り出し、辺りを走りだした。

 途中、様々な障害物が用意されていたけど、それを余裕綽々と飛び越えていった。

 つまり、晶の特技というのは、乗馬だったというわけで……。

 しかも、馬が白馬だった。


 晶の容姿も含めると、まさに白馬の王子様という感じだった。

 当然のように、会場は大盛り上がり。

 女性はもちろん、晶のアクションに男性の人も盛り上がっていた。

 それもそうだと思う。


 だって、障害物を飛び越えるとき、晶は馬の背中に立っていたんだから。

 とんでもない体幹とバランス感覚だと思う。

 今のボクだったら、不可能じゃないと思うけど、さすがにちょっと怖いかも。


 そのほかにも、ボルダリングを披露している人や、中にはけん玉(二つ同時な上に、残像が見える速さ)をしている人もいた。

 そんな感じに、順調に進み、水着審査も滞りなく終了し、投票に移った。

 その結果は……


『今年のミスター・叡董に選ばれたのは……一年六組、小斯波晶君です!』


 晶が優勝だった。

 しかも、ぶっちぎりの一位だったとか。


『優勝者の小斯波晶君には、優勝賞品が進呈されます! そして、今年の青春祭が終了時点の各クラスの売上金額の一割が、所属クラスに加算されます! おめでとうございます!』

「ありがとうございます」

『優勝して、どうですか?』

「そうですね……あんまり、実感がわかないです。こう言うのには初めて出たものですから」

『そうなんですか? それにしては、堂々としてましたけど……』

「人前に出るのに慣れているからですね」

『なるほどなるほど。それでは、会場の皆さんに一言お願いします』

「応援してくださり、ありがとうございました」


 ニコッという言葉? 効果音? が聞こえてきそうなくらい、とても爽やかな笑顔だった、


『きゃあああああああああっっ!』

『こ、これがイケメンスマイル! なんというインパクト! 会場の乙女たちが、色めきだっていますよ! というわけで、ミスターコンテスト優勝者は小斯波晶君でした! 皆さま、出場者の方たちに、盛大な拍手をお願いします!』


 司会の人の言葉で、ステージは拍手でいっぱいになった。


『それでは、続いてミスコンに……と、言いたいところですが、準備がありますので、しばしお待ちください!』



「ふぅ……」

「あ、晶。お疲れ様!」


 晶が戻ってくるなり、ボクは声をかけて、飲み物を渡す。


「ああ、ありがとう、依桜」


 飲み物を受け取ると、それを飲み始めた。

 みるみるうちに減っていき、気が付けばもうカラになっていた。

 どうやら、かなりのどが渇いていたみたい。


「優勝おめでとう、晶」

「ありがとう。まさか、優勝できるなんてな」

「あはは……晶はいつも謙遜するからね」

「いや、依桜ほどじゃないさ。むしろ、次のミスコンが本命だと思うんだが」

「うーん、穏便に済めばいいんだけどね……」


 ……多分、この願いは叶わないと思うけど。

 だって、ボクの経験上、穏便に済んだことなんて、今までに一度もないもの。


「そうだな……それはそうと、依桜は特技に何を披露するんだ?」


 晶に特技について聞かれたけど、


「内緒。言っちゃったら、つまらないからね」


 もちろん秘密。

 まあ、やろうとしてるのは、実際のものとちょっと……というか、かなり違うけど、大丈夫だよね?



『準備が終わりました! これより、第二部、ミスコンを始めますよ!』

『Yeahhhhhhhhhhhhhhhhhhっっ!』

『お、おお、男たちがものすごい雄叫びを……! つーか、あんたら単純すぎでしょ! さっきのと落差が激しいよ!? 現金だね! でも、それでいい! じゃあ、ミスコン、始まるよ! みなさーん! 入ってきてくださーい!』

「あ、出番だ。じゃあ、ボクも行ってくるね」

「ああ、頑張ってな」

「うん!」


 晶の応援を背に、ボクはステージに出ていった。



『あら! 皆さんとっても可愛らしいですね! いやー、可愛くて羨ましいですよ! 私、嫉妬してしまいそうです!』


 うぅ、やっぱりいざ出てみると、すごく緊張する……。

 見渡す限り、人、人、人!

 その圧倒されるような光景に、かなり緊張してしまう。


『さあ、次に参りましょう! 次の出場者は……一年六組、男女依桜さんです!』


 気が付けばボクの番になっていた。

 緊張するあまり、他の人の自己紹介が聞こえていなかったみたい。


『それでは、自己紹介をどうぞ!』

「あ、は、ひゃい! ……あぅ」


 か、噛んじゃった!

 う、うぅ……恥ずかしいよぉ……!

 絶対今、顔真っ赤だよ……。


『か、可愛い……あ、えっと、だ、大丈夫ですか?』

「だ、大丈夫、です……」

『では、改めて、自己紹介を』

「は、はい。えっと、一年六組の男女依桜、です……。あ、あの、何を言えば……?」

『ありゃりゃ……さっきの小斯波晶君と言い、一年六組には美男美女が多いんですかね? それと、天然も多いんですかね?』


 晶はともかく、ボクって天然じゃないよね?

 ……そうだよね?


『じゃあ、小斯波晶君同様、質問タイムに移ってもいいですか?』

「あ、は、はい。それでお願いします」


 どのみち、何を言えばいいかとかわからないし。

 ありがたい話だなぁ。


『そうですね……まずお聞きしたいのは、その銀髪と碧い瞳の色なんですけど……それは、染めていたり、カラーコンタクトなんですか?』

「い、いえ、これは隔世遺伝です。ボクの先祖に、北欧の方の人がいたらしくて……」

『なるほど……って、依桜さんは、一人称がボクなんですか?』

「え? そうですけど……」


 それがどうかしたのかな……?

 あ、そっか。そもそも、ボクがもともと男だっていうことは、うちのクラスの生徒くらいか。いやでも、結構噂になってたような……? 単純に忘れてるだけかも。


『ボクっ娘っているんですね! しかも、こんなに可愛らしい見た目ですし……まさに、美少女って感じですね! それに、ミニスカメイド服に猫耳と尻尾! これで喜ばない人はいないかと! あと、大胆にも胸元も大きく開いてますし、ポイント高いんじゃないですか?』

「あ、あの、そう言うことを言われるのは、その……こ、困ります」

『はぅあ! ……なんでしょう、この可愛い生き物……女の私ですら、きゅんと来ちゃいましたよ……』


 そ、それは、どうなんだろう?


『あ、気を取り直して……続いての質問です。えっと……彼氏さんはいらっしゃるんですか?』


 恋愛ごとの質問って、必ずしなきゃいけない決まりでもあるのかな……?

 しかも、司会の人、すごく興味津々な目をしてるし……。

 それと、ごくり、という生つばを飲み込む音が、そこらかしこで聞こえてきたんだけど……ボクなんかの恋愛事情のどこが気になるんだろう?


「い、いないです……」


 とボクが言った瞬間、会場がざわつきだした。

 え、なんで?


『え、いないんですか!? 意外ですね……ということは、あれですか? 理想が高すぎて、って感じですか?』

「そ、そう言うわけじゃなくて、その……あんまり興味がないというか……」


 だって、ボクが女の子に恋をしたら、傍から見ると同性愛になっちゃうかもしれないからね……。

 実際にはならないと思うけど、ボク的には、ね……。


 それに、仮に男子を好きになったとして、傍から見るとただのカップルに見えるかもしれないけど、事情を知っている人からしたら、男と男が恋人になっているようなものだし。

 だから、結果的にどっちと付き合っても、同性愛になりかねないってことだね。


『じゃあ、彼氏を作るつもりは?』

「い、今のところはない、です……」


 その瞬間、がっかりしたようなため息がそこら中から聞こえてきた。


『そうですか。それじゃあ、仕方ないですね! それじゃあ最後に、好きになるとしたら、どんな人がいいですか?』


 ま、また答えにくい質問が……。

 こ、この場合、元々の好み、でいいんだよね?


「え、えーっと……外見じゃなくて、中身でちゃんと判断してくれる人、です」

『なるほど! 容姿がイケメンじゃなくて、心がイケメンな人が好きってことですね! ありがとうございました! それでは、次に行きます!』


 な、なんとかなった……。

 はぁ、これ、すごく疲れるよ……。

 そのあとも、ミスターコンテストの時同様、つつがなく終了。

 そして、


『さあ、特技披露と参りましょう!』


 特技披露と相成った。

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