第327話 サッカー初戦

 それからしばらくして、ボクの仕事は一度交代となり、同時にサッカーの方が行われるそうで、ボクは一度、高等部の生徒の校舎の方に戻ってました。


 あ、もちろん、着替えましたよ。

 と言っても『アイテムボックス』の中なんだけど……。


 あれ、持ち運び式の更衣室みたいな使い方ができるから、ある意味便利。

 だからと言って、毎度毎度使うわけにはいかないので、周りに人がいる時しか使わないけどね。


 高等部の方へ戻り、まずは試合の組み合わせを決めるためのくじ引き行うみたいです。


 各クラスの代表の生徒がくじを引いて、その組み合わせごとに試合を行う形。


 この時、くじには番号が書かれているんだけど、一つだけ何も書かれていないくじがあるらしく、それはシード的なものになるとか。


 ボクとしては、あまり目立ちたくないので、シードがいいなぁ……。


 なんて思いながら歩いていると、


「あ、桜ちゃん見っけ! 確保―!」

「んむっ!?」


 突然、誰かに抱きしめられた。すごくあったかいし、柔らかくていい匂いがするけど……。

 もぞもぞと動き、顔を上げると、


「あれ? 音緒さん?」

「うん、音緒だよ! こんにちは、桜ちゃん!」


 そこには、音緒さんがいた。


「音緒さん、突然抱きしめたらだめでしょう。まったく……それより、こんにちは、桜ちゃん」

「奈雪さんも。ということは……」

「やっはろー! どもども、莉奈ちゃんだぞ~。こんにちは、桜ちゃん!」

「莉奈さんも。きてくれたんですね」

「もちろんだよぉ。私たちから行くって言ったんだから、当然!」


 にこにこと笑顔を浮かべながら、そう言う音緒さん。

 奈雪さんと莉奈さんの二人も、頷いている。


「ちょっと遅れちゃったけど、桜ちゃんの出番はいつー?」

「ちょうど今から、出る種目の組み合わせを決めに行くところでして」

「ということは、ちょうどいいタイミングね」

「ラッキー! ナイスタイミング、私たち!」


 まあ、たしかにタイミングとしてはちょうどいいかも。

 あ、そうだ。


「あの、一応、ここでは桜って呼ぶのはやめていただけると……バレないとは思いますが、できればバレたくないもので……」

「あ、そうだよねぇ。桜ちゃん学生さんだもんね。それに、恥ずかしがりやみたいだもんね。じゃあ、何て呼べばいいのかなぁ?」

「あ、えっと、依桜でいいですよ」

「りょうかーい。じゃあ、私たちは、その辺で見てるねー」

「はい」

「グッドラック!」

「頑張ってねぇ」

「頑張って」

「ありがとうございます。楽しんでくださいね」


 そう言うと、三人とも笑って、歩き去っていった。



 というわけで、種目が行われるグラウンドへ移動。


 グラウンドは相当な広さなので、10コート作れた。いや、多くない? って思ったのは、割と普通なことだと思います。


 この学園、色々とおかしいんだもん。


 そもそも、途中から学園初等部と中等部を新設するくらいだもんね。


 まあ、うん。仕方ないと思います。


 ちなみに、男女五コートずつです。


 グラウンドに移動した直後、組み合わせが発表され、ボクのクラスはまさかの第一試合。


 相手は、三年七組で、その上女子サッカー部の人たちが何人かいるクラスでした。

 さらに言えば、ボクのクラスの方は、女子サッカー部の人はいません。


 傍から見たら、すごく不利なんだろうけど……う、うーん、ボクがいる時点で色々と不利がなくなりそうだよね、これ。


 いやまあ、あまり目立たないように、って言う理由でゴールキーパーなわけだけど。あと、胸が揺れたら痛いので。


 でもこれ、飛んでくるボールの位置によってはかなり動きそうな気が……。

 ま、まあ、大丈夫だよね。


 とりあえず、試合をするコートに移動し、整列。


『『『よろしくお願いします』』』


 軽く礼をしてから、それぞれのポジションについた。



 ピー! という笛の音が鳴り響き、試合が始まった。


 と言っても、ボクは基本的にゴールにいるだけなので、ほとんど見てるだけになるんだけど。


 あまり動かないから、目立たないし、胸が揺れなくていいね、ゴールキーパー。


 多少ボーっとしていても、動けるし、ボールだって目で追えるからほとんど問題ないね。楽です。


 こっちの世界の人が蹴ったボールは、師匠が放ってくる火の玉(直径五メートル)の速度に比べたらね……。あの大きさで、時速五百キロ以上の速さで投げて来るんだもん、師匠。しかもそれ、手加減した時って言う、絶望しかないレベルで。


 それに比べたら、マシなものです。


 なんて思ってるうちに、守備が抜かれ、相手クラスの人がこっちに迫ってきていた。


 あ、仕事しないと。


『女神に勝つ!』


 また、女神ですか……。


 いや、まあ……もう慣れたんだけどね……なんで、みんなボクの事を女神って呼ぶのかわからないです。


 ちょっと複雑な気持ちになっている間に、シュートが放たれた。

 多分、サッカー部の人かな? たしかに、普通の人よりも早いんだろうけど……


「っと!」


 キャッチ。


『と、止められた……』

『しかも、なんかすごい動きしていたような……』


 気のせいです。

 普通です。


『依桜ちゃん! ナイスキャッチ! そのまま向こうのゴールの方まで蹴れる!?』

「うん、できるよー!」

『じゃあ、お願い!』

「はーい!」


 向こうのゴールね。


 うん、この距離だったら全然問題ないね。


 ボクは持っていたボールを落とし、地面に落ちる寸前で蹴り飛ばした。


 そのボールは、放物線を描いた――わけではなく、ちょっと調整を間違えて、真っ直ぐ一直線に相手ゴールにまで飛んでいき……


『え、ちょ――きゃああああああああああ!?』


 ゴールネットに突き刺さりました。


 ……あ、あー……やっちゃったぁ……。


 一瞬遅れて、ピピー! という、笛の音が響いた。よく見たら、審判の先生が、すごくびっくりしてました。だ、だよね。


『依桜ちゃんすごい!』

『さすが依桜ちゃん!』

『カッコいい!』

「あ、あははははは……」


 もう、乾いた笑いしか出てこないです。



 冒頭からやらかしてしまったわけだけど、次からはちょっと自重し、慎重になりました。


 いや、だって……これ以上やったらかなり目立っちゃうもん……というか、絶対目立つよね? すでに目立ってそうだけど。


 さすがにそれは辛い。


 なので、ゴールキーパーに専念。


『やぁっ!』


 と、ゴールに入るギリギリの位置にボールが飛んでくれば、


「ふっ!」


 拳で弾き飛ばします。


 フェイントで、右に蹴ると見せかけて、左に蹴った時は、


「よいしょっ」


 フェイントを見極めていたボクが、蹴った瞬間に飛んでくるであろう位置に回り込み、ボールをキャッチ。


 そんなことを何度も繰り返していたら、次第に三年生の人たちが暗い表情になったきていました。


 いや、あの……すみません。


 内心謝りつつも、試合は進む。



 キャッチしたボールはさっきのように調整ミスが起こらないように、抑えてパスを出します。


 三年生で、尚且つサッカー部の人たちが中心となって動いているからか、なかなかゴールにボールが入らない。


 実際、この試合ではボクが最初に入れた点だけしか、両クラスともゴールを入れていない。


 なんか……すごく申し訳ないような……。


 まさか、入るとは思わなかったんだもん……。


 その後も、何度も三年生の人たちはゴールにボールを入れようとシュートしてくるのだけど、申し訳ないと思いつつも、全部止めていました。


『て、鉄壁すぎる……』

『というか、たまに動きが見えないんだけど……』

『これ、無理じゃない……?』


 って、暗い表情だったのが、さらに暗い表情になったりしてました。

 うん……本当に、ごめんなさい。



 そして、前半が終了した後、ボクのクラスのリーダーの人に言われました。


『依桜ちゃん、後半フォワードとして参加してみる?』


 って。


 ……ふぉ、フォワードですか……。


「あの、それをやったら、色々とまずい気がするんだけど……」


 ゴールキーパーですら、あれなのに……。


『うん、まあ、そうなんだけど……あそこ見て、あそこ』


 そう言ってリーダーの人が指さした先には、


「ねーさま頑張るのじゃー!」

「イオお姉さま、頑張るのです!」


 メルとクーナの二人がいました。


 あ、そっか、二人は今日種目がないから……。


 うん。


「やります」


 なら、やらないとね!



 ゴールキーパーからフォワードに変更。


『さ、さすがに、攻撃ならそこまでのはず……』


 って、三年生の人たちが言っているような気がするけど、妹が見ている以上、下手な物は見せられません。


 お姉ちゃんのいい所を見せたいのです、ボクだって。


 笛が鳴り響き、後半スタート。


 三年生のクラスの方から始まり、こちら側に来るんだけど……


「もらいますね」

『へ?』


 こちら側に入った直後、ボールを奪いました。

 なるべく、不自然じゃない速度でコート内を走る。


『も、戻って戻って! 女神を止めて!』


 そう叫ぶも、もう遅いです。


 途中、何人かボクのボールを奪おうとブロックしてきましたが、ボクに集中したのが悪かったですね、上がってきていたクラスメイトにパスを出した。


 ボクはそのまま走り、ゴール付近まで来たタイミングで、パスが出され、そのままボレーシュートを決めた。


 ここまで、約三分程度。


 うん。やりすぎた感じはあるけど……


「ねーさますごいのじゃ!」

「イオお姉様カッコいいのです!」


 二人がそう言ってくれるから、いいよね!



 それから、何度も点を入れ続け、最終的に、11対0という、ちょっと可愛そうになるくらいの点数差。


 思わず、暴走してしまった……すみません。



 試合終了直後、


『あ、男女さん!』


 不意に、柊先生に話しかけられました。


「はい、なんでしょうか?」

『さっきの試合を見ていたんだけど、うちの部に入らない!?』

「えっと、柊先生が顧問をしている部活って確か……」

『女子サッカー部ですよ』

「あ、やっぱり。……えっと、どうしてボクなんですか?」


 いやまあ、大体わかってるけど……


『さっきの男女さんの動き、すごかったから! あなたがいれば、大会で絶対勝てると思うの! だから、できれば入ってほしいなって』

「あー……えっと、そう言ってもらえるのは嬉しいんですけど、ボク、妹たちの面倒を見たり、家事をしたりがありますので、部活は難しいですね……」

『そうですか……。じゃあ、気が向いたら、いつでも来てくださいね』

「はい、気が向きましたら」


 うぅ、なんだか心が痛い……。


 でも、みんなの方が心配だし、部活をしていたら未果たちと過ごす時間も減っちゃうし、さすがにそれは嫌だしね……。


 それに、メルはともかく、スイしかまだ見ていないけど、もしかすると身体能力的には、まだ低いままかもしれないし、ちょっと心配だしね。


 でもこれ、やっぱりやりすぎたよね……?


 終わった直後から、試合相手だった三年七組の人たちや、試合を見ていた人たち(女の子)から妙に熱っぽい視線が来ている気がするんだけど……何なんだろうね。


 次試合は、さすがに自重しよう……。

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