第293話 プール開き

 ゴールデンウイークが終わり、普通の日常に。


 と言っても、なんだか休んだ気は全くないんだけど……。


 基本的に、動いてばかりだったし。


 昨日なんて、引っ越しだったからね。


 ……うーん、前の家にお別れした際、誰かの声が聞こえたような気がしたんだけど、あれはなんだったのかなぁ。その場は、気のせいということで片付けたけど。


 そもそも、この世界にも魔力はあるみたいだし、不思議な存在がいても、おかしくないんだよね……。もしかして、幽霊の正体って、魔力で形を得た人の魂だったりするのかな?


 ……まあ、ボクはそこまで頭はよくないし、こういうのは師匠に任せるのが一番です。


 知らない間に、謎の解明してそうだもん、あの人。

 でも、こうして考えると、この世界も結構不思議が多いんだなぁ……。


「おはよう、依桜」

「あ、おはよー、未果」


 朝、みんなで一緒に登校していると、未果が合流。


「今日からうちの学園はプール開きね」

「うん。ボクたちのクラスは今日あるもんね」

「ええ。水着、持ってきた?」

「もちろん。……ちょっと、心配だけど」

「まあ、その胸じゃね?」


 そんな風に未果と話しているんだけど、実は、今日から学園はプール開き。


 普通なら、六月なんだけど、あの学園は室内プールと外プールがあるからね。五月の間や、雨が降った場合、少し寒い場合は、室内プールを使うことになってます。なので、水泳の授業が潰れる心配がない、というわけです。


 最近は、初等部と中等部ができたため、いくつか新設されたそうだけど。


 学園長先生の財力が色々とおかしいと思います。


 ちなみに、万が一どこかのプールで問題が発生した場合、初等部だったら高等部か中等部、中等部だったら、初等部か高等部、高等部だったら初等部と中等部、という風に合同でやることになってます。


 だから、もしかするとメルたちと授業をすることになる可能性もあります。


 それはそれで楽しそうだけどね。


「しかしまあ、依桜が心配ね」

「どうして? ボク、水泳は得意だよ? 向こうでちゃんと騎士団の人や師匠に指導されてたから」

「いや、そういう意味じゃなくて……まあいいわ。でも、気を付けてね」

「? よくわからないけど、うん。わかったよ」

「……心配だわ」


 未果の心配って何だろう?



 学園に到着。


「みんな、今日も頑張ってね」

「「「「「「はーい(なのじゃ)!」」」」」」


 うんうん、今日も元気で何よりです。

 みんな曰く、勉強が楽しいとのこと。

 新しい知識を得ることが、とても楽しいみたいです。

 みんなの今までの事を考えると、連れてきて正解だったと思えるね、本当に。



 みんなを軽く見送ってから、ボクは教室へ。


 教室に入ると、なんだかちょっとへんな熱気を感じたけど。


「おはよう、依桜、未果」

「おはよー、晶」

「おはよう」


 相変わらず、晶は早い。

 そう言えば、今日なんで未果は遅かったんだろう? いつもなら、晶と同じくらいの時間にいるのに。


「未果、今日は遅かったな」

「ええ、ちょっと困ったことが起こってね。まあ、解決したから問題ないわ」

「そうか」

「困ったことって何?」

「ちょっと、水着が見つからなくてね。まあ、すぐ見つかったし問題ないわ」

「そっか」


 一応身体測定後に買ってはあるけど……まだ一度も着てないんだよね、水着。

 学園指定のだし。


「おーっす」

「おっはー」

「おはよう、二人とも」


 ここで、二人が登校してきた。

 何やら二人とも、ちょっと嬉しそう。


「二人とも、何かいいことでもあったの?」

「はっはっは。そりゃあやっぱ、今日から水泳の授業があるしよー、楽しみでな!」

「うんうん! わたし、すっごく楽しみだったんだよねぇ~」

「あ、そうなの? 二人とも水泳ってそんなに好きだったっけ?」


 好きでもなければ嫌いでもなかったような……。


「いや、依桜。そう言う意味じゃないと思うんだが……」

「え? じゃあ、どういう意味?」

「それは、だな……」


 ボクの質問に、なぜか口をつぐむ晶。

 うーん? どういう意味なんだろう?


「ま、まあ、あれよ。この二人も好きなだけよ」

「そっか。まあそうだよね。二人が変な理由で水泳の授業が好きなわけないもんね」

「「も、もちろんだぜ!」」


 うん、なんだか安心。

 何に安心したのかわからないけど。



 今日の水泳の授業は、三、四時間目に行われる。


 この学園では、プールの授業の際、一度に二時間分行われます。


 理由はよくわからないけど。


 ……そう言えば、この学園って至る所に監視カメラがあるけど……まさか、プールにもないよね?

 そのうち探してみよう。見つけたら壊さないと。

 器物破損と言われても、実質盗撮みたいなものだから却下。


 その日の一時間目と二時間目の授業中、なぜかはわからないんだけど、妙にそわそわしていた気がする。トイレかな? なんて思ってしまった。


 水泳の授業は、基本二クラスで行います。プール、広いしね。


 なにせ、屋内に二十五メートルプールが二つあるんだもん。

 だから、片方に一クラス、という感じで行われる。


 ボクのクラスは三組なので、五組と合同。


 ちなみに、今年から師匠は、体育の授業の際、一クラスを一人で担当することになりました。


 一年生の時は、二人だったからね。熱伊先生は別のクラスの担当です。


 なんだか不安になったけどね……師匠一人って。


 でも、教えるのは普通に上手いし、その人に合わせた力量で指導をしてくれるから、すごく人気があったり。


 それに、師匠って美人だしね。


 というわけで、更衣室。


 できるなら、ボクは女子更衣室に入りたくなかった……いや、もちろん男子更衣室も嫌だけど。恥ずかしいし……。


 でもね、女子更衣室……それもプールの授業となると……


「依桜、何してるのよ。早く水着に着替えなさい」

「うっ、わ、わかってるけど……」

「依桜君、まだ慣れないんだねぇ。最近では、女の子らしさが目立つようになってきたけど、まだまだ、慣れないんだね、女の子の裸には」

「だ、だって、やっぱり申し訳ない気がするし……」


 正直、スキー教室の時に散々見ていた気がするけど、あれは、まあ、温泉だったし……でも、プールはちょっと、ね?


「まったくもう、いいものをお持ちで、何を恥ずかしがってんの……よ!」

「ひゃぁっ!?」


 いきなり未果がボクの服を脱がしてきた。

 体操着とブラを同時に取ったものだから、胸がぶるんっと大きく揺れた。うっ、胸が痛い……。


『『『くっ、やっぱり破壊力がすごいっ……!』』』


 は、破壊力? 破壊力って何? 普通の胸だと思うんだけど……。

 恥ずかしくなって、つい腕で胸を隠そうとするんだけど……


「すごいわ、腕の形に合わせて変形してるわ」

「んまあ、おっぱいってそうだもんねぇ。依桜君の場合は、理想すぎるけどね! いやぁ、マジで素晴らしいね!」

「へ、変なこと言わないでっ!」


 あぅ、恥ずかしいよぉ……。


「とりあえず、さっさと着替えないと、ミオさんに怒られるわよ」

「あ、そ、そうだった! さすがにそれは嫌っ……!」


 師匠に怒られるなんて、本当に地獄みたいだから、絶対に嫌だ。

 ボクはいそいそと水着に着替える。

 あ、あれ?


「んっ、んっ~~~~~~!」


 む、胸が引っ掛かってなかなか着れないっ……!


「依桜、どうしたの?」

「ちょ、ちょっときつくて……未果、手伝って?」

「しょうがないわね……じっとしててね。行くわよ?」

「うん」

「せー……のっ!」

「ぁあんっ!」

『『『――っ!?』』』


 な、何か今、全身に電気が走ったみたいな感じがして、変な声が……。


「未果ちゃんや、もしかして、思いっきり依桜君の桜色の蕾にクリーンヒットさせた?」

「……申し訳ない」

「だよねぇ。とりあえず、外に引っ張りながらやらないとだめだよ」


 そう言って、女委が水着を着るのを手伝ってくれた。

 そのおかげもあって、何とか無事に、着ることに成功。


「う、うぅ、なんだかぴったりフィットしてて、変な感じ……」

「ああ、そう言えば依桜は、スク水は初だったわね。来たのはパレオタイプのビキニだけだったし」

「う、うん。この水着って、結構ぴったりしてるんだね……」

「まあねん」


 ちょっと不思議な感じ……。

 でも、なんだろう……


「む、胸がちょっと苦しい……」

『『『くっ……まだ成長するのか……!』』』


 今、女の子たちから、羨ましさを感じるような視線が来たような……?

 き、気のせい、だよね。



 なんとか着替えを終え、室内へ。


 室内プールの室温は、二十七度くらいに設定されていて、暖かい。というより、ちょっと暑いかも? くらいの温度。


 まあ、ボクからすれば、四十度までは全然余裕なんだけどね……火山に修行しに行ってたし……。


 一応、プールの授業は男女混合で行われます。


 なんでだろうね。


 泳ぐ時は、同じプールを使うけど、男子が女の子に故意で触ったり、故意じゃなくても触ったりしたら、一瞬でアウトとのこと。まあ、腕とか足くらいならセーフらしいけど。


 でも、胸やお尻は絶対ダメ、らしいです。まあ、そうだよね。

 未果と女委と話しながら晶たちの所へ。


 すると、


『『『おうふっ……!』』』


 なぜか、男子のみんな(五組の人たちも)が少し前屈みにになった。

 あ、晶と態徒は除きます。


「あれ? みんな、お腹痛いのかな?」

「……相変わらず、依桜はピュアよね」

「だねぇ。いやあ、晶君はともかく、態徒君まで無事とはねぇ」

「いやまあ……ほら、慣れだよ、慣れ。正直、散々依桜の不運は見てきたからな。まあ、スク水くらいじゃそうはならぬ。……ビキニとかだったら、正直ヤバかったが」

「態徒君らしいね!」


 うーん、みんなが言っている意味がよくわからない……。

 みんな、お腹痛そうだけど、大丈夫なのかな?


『や、やべえ、男女の水着姿とか、マジでやべぇ……』

『去年は学園祭でビキニ姿だったけどよ、なんかこう……ぴったりしたスク水だから、胸の大きさや形がよくわかるな』

『わかる……正直、男女の魅力やら色気がバグってるから、まともに立てねぇ……』

『ある意味、別の所が立ってるがな』

『言うな。男女に聞こえたらどうする。いくら温厚な男女でも、聞こえたら、ごみを見るような眼を向けられるぞ……!』

『……そ、それはそれで、ありじゃね?』

『……変態かよ、お前』

「~~っ!?」


 ぞくっとした! なんでかわからないけど、すごくぞくっとした!

 な、なに? なんなの?


「依桜、どうしたの?」

「な、なんだか、寒気がして……」

「風邪か?」

「いや、別に頭痛もないし、だるくもないから違うと思うけど……」

「でもよ、依桜は普段から頑張ってるからなぁ。あれじゃね? ちょっと疲れが溜まってるんじゃね?」

「ど、どうだろう? 最近は、メルたちのおかげで、疲れが吹き飛ぶ感じがしてね……メルたちの応援があれば、不眠不休で十日は動けるんじゃないかなって思ってる」

((((シスコンが強化されて行ってやがる……!))))


 うん? なんだか今、変なことを考えていなかった? 気のせいかな。


「おーい、ガキどもー。授業始めるから、さっさと並べや!」


 そんな風に言いながら登場したのは師匠。


 ちなみに、師匠はタンクトップにホットパンのような水着。

 ……普段の仕事着をあまり変わっていないから、水着なのかよくわからないけど。


『うわぁ、本当にミオ先生って綺麗……』

『わかる。同性なのに、すごくかっこよく見えるよね……』

『クールビューティーってミオ先生のことを言うよね、絶対』


 ……そ、それはどうだろう?


 少なくとも、師匠ってクールビューティーというより、アブサードビューティーな気が……。


 師匠、理不尽だし……。


 いや、師匠ってクールではあると思うけど、あれはどちらかというと、面倒くさがりで、尚且つ適当な人だもん。


「……」


 に、睨まれた。


 今、一瞬だけすごい睨んできたんだけど……師匠ってもしかして、読心系のスキルとか持ってたりするんじゃないのかな……? すごく怖い。



 これ以上変なことを考えると何をされるかわからないので、師匠の所へ。


 欠席者がいないことを確認したら、師匠が話し出す。


「おし、それじゃあ授業を始めるぞ。まあ、今日は初回らしいんで、軽く泳ぐくらいでいいだろ。えーっと? この中で一番水泳が得意なのは……まあ、どう考えてもイオだな。あたしの弟子だし」


 …………いや、あの。なんで、ボクが目立つようなことを言ってくるんですか?


『先生―。依桜ちゃんって、水泳が得意なんですか?』

「そりゃそうだろう。あたしの弟子だぞ? 息継ぎなしで五百メートルは余裕だ」

『ま、マジで?!』

『ご、五百メートルを息継ぎなし……?』

『じょ、冗談だよね?』

「し、師匠! さすがに五百メートルは無理ですっ!」

(((あ、やっぱり冗談――)))

「できても四百メートルですよっ!」

(((いやおかしいだろ!?)))


 いくらなんでも、五百メートルは無理です。


 限界は四百だもん、ボク。

 暗殺者たるもの、肺活量は鍛えておけ、って言われてかなり鍛えられたからね、師匠に……。


 おかげで、息継ぎなしで四百メートルはできるようになったよ。


『お、おかしくね?』

『たしか、最近の最古記録って、二百二メートルらしいぜ……?』

『え、二倍近く更新してるの……?』

『男女やべえ……』

「まったく。修行不足だぞ、イオ。あたしなんて、息継ぎなしで十キロは余裕だってのに」

『『『――ッ!!!?』』』

「それは師匠の基準ですっ! 一般人のボクには絶対できません!」

(((息継ぎなしで四百メートル泳げるは、絶対に一般人じゃない)))


 師匠はいつも、ボク相手には自分の基準で言って来るから困るよ……。

 ボクはそこまでできないのに。


「まあいい。とりあえず、お前、ちょっと泳げ。軽く手本を見してみろ」

「い、嫌です! 目立ちたくないです!」

「うるせぇ! 師匠命令だ! いいからさっさとやれ!」

「い、嫌です! マスハラです!」

「マスハラってなんだ」

「マスターハラスメントです!」


 ボクが今造った造語だけど!


『『『ぶはっ!?』』』


 そしたら、なぜか周囲の人が噴出した。


「……ほほぅ? このあたしのいうことが聞けないと? ならば……このあたしが、持てる全ての能力やらスキルやらをすべて、お前に伝授しようではないか」

「やらせていただきますっ!」

「ならばよし。やれ」

「はい!」


 能力とスキルを全部覚えさせられたら、しばらく動けないどころか、数日動けなくなる予感……もしかしたら、一ヶ月は動けなくなるかも……。


 そんな、師匠の脅しに屈したボクは、みんなの前で泳ぐことになりました。



「よし、まあ、飛込からやれ」

「わ、わかりました。それで、えっと……どんなふうに泳げば?」

「まあ、お前の自由でいい。とりあえず、一往復すればいい。まあ、できればあたしが教えたあの泳ぎの方がいいだろう。進みが速い」

「わ、わかりました。じゃあ、行きます」


 あの泳ぎって言うことは、あれだよね? 進むのは速いけど、こっちの世界の人たちじゃほぼ不可能な泳ぎ。


「よーしそれじゃあ……始め!」


 その師匠の合図とともに、ボクは飛び込んだ。そして、


(痛っ!?)


 胸が思いっきり水面に当たって、すごく、痛かったです……。


 む、胸が邪魔……。


 でも、それで止まったら、師匠に何されるかわからないので、そのまま泳ぐ。


 ボクは手も使わず、脚で水中をジャンプするようにして、水を蹴った。それだけで、ぐんぐんと体が前に進む。


『え、何あの泳ぎ!?』

『バタ足じゃなくて、水を蹴りぬいてるんだけど!?』

『す、すげぇ! 月〇だ! 〇歩してる!』

『というか、あれって泳ぎ……?』


 本当はこれ、かなり疲れるから、できればやりたくない……。


 水を掴むようにして蹴る、なんてよくわからない方法で泳いでるんだもんこれ。自分でも言っててよくわからないことだと思います。


 ちなみにこれ、両足で同時に蹴るんじゃなくて、片足ずつです。両足だと、一瞬で反対側に着いちゃうので……。


 というかそもそも、向こう岸に行くくらいなら、蹴伸びだけで十分だしね……。


 師匠が指示してるからこれをやっているだけであって、指示がなければ普通にクロールをやるつもりだったもん、ボク。


 そうすれば、誤魔化しがきいたし、変に注目を集めることもなかったのに……。


 そんな事を思いながら、反対側の壁で回転して、壁を蹴ると……


(あ、力のコントロール間違えた!)


 別の事を考えていたせいで、少しだけ力んでしまい、


『は、速っ!?』

『ちょ、ちょっと待って!? 今、ターンだけで戻ってきてなかった!?』

『依桜ちゃんすごーい!』

『マジかっけぇ!』


 あ、あぁぁぁぁぁ、変に目立っちゃったぁぁ……!

 この状況に、ボクは酷く肩を落としました。



 それからは、みんなにあの泳ぎ方について色々と聞かれたけど、とりあえず、師匠に教われば多分できるよ、とだけ言いました。


 だって、あの泳法、師匠オリジナルだもん……。


 まあ、原理は単純なんだけどね。


 ……あ、そもそもの話、こっちの世界の人はできないのかも……。

 あの泳法って、魔力が操れることが前提条件だから。


 実を言うとあれ、水を蹴る際に、足の裏に魔力を纏わせていたんです。


 魔力ってすごく便利なもので、魔法としてステータスに表記されない魔法もあって、実はさっきの泳法はそれに近い。


 足の裏に纏わせた魔力は、固定というもので、主に水中でしか使えないもの。

 だから、空中では使えないんだけどね。


 でもこれ、結構難しくてね……。


 魔力を水にくっつけて固定する性質に変化させなきゃいけなくて、これがすごく難しい。


 しかも、くっつくという性質も持たせちゃっているから、変化させるタイミングを間違えると、失速したり、別の方向に進んじゃったりするんだよね。


 さらに、固定という性質も持つから、それも解除するタイミングや、纏わせる範囲を間違えると、動けなくなるから、本当に難しい泳法。


 ボクだって苦労したもん、この泳法を習得するのに……。


 ちなみにこれ、二つの性質はほぼ同じ割合でやらないと、成功しないのも難しい理由の一つ。


 以上、泳法解説でした。


「依桜、大丈夫?」


 現在は、自由時間となり、プールの中でみんなと遊んでます。いや、ボクは遊んでると言うより、ちょっと休憩してるんだけど。


「う、うん……正直、疲れました……」

「ま、そりゃそうよね」

「てか、マジですごい泳ぎだったよなぁ、あれ。使えたらちょっとかっこいいとか思ったけどさ、原理を依桜から聞いて、絶対無理だと思ったわ」

「あ、あはははは……」

「まあ、普通は、ほとんど前に進まないしねぇ、あの泳ぎ方だと」

「そもそも、泳ぎと言えるのか? あれは」


 ……言えないと思います。

 あれは泳ぎというより、跳躍に近いような……。


「まあ、一番すごかったのは、戻ってくる時のあれよね」

「あー、あれなー。ターンだけでこっち戻ってくるんだもんな。改めて、依桜のすごさがわかったぜ」

「あ、あれは、ちょっとコントロールを間違えちゃって……」


 自分でも、その……馬鹿だったと思ってます……。

 師匠も、にっこり笑顔だったし……後が怖い。

 なんて、そんな事を思っていたら、


「よーしイオ。いまから個人授業だぞ♪」

「……し、師匠」

「いやぁ、はっはっは! まさか、力のコントロールをミスるとはなぁ? どうやらまだまだ、修行が必要らしい」

「あ、あの、師匠? 一体何を……?」

「いやなに。不甲斐ない弟子を、ちょっと鍛え直してやろうかと思ってなぁ? そんじゃ……行くぞ!」

「ま、待って、待ってくださ――きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」


 結局、師匠にボロボロになるまで修行させられました……水中で。


 師匠、酷いよぉ……。

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