第292話 男女家のお引越し

 その夜。


『あ、ボク明日引っ越しするから』


 今日、学園で言い忘れていたことをみんなにLINNで伝えた。


『『『『えっ!?』』』』


 同時に、みんなから全く同じメッセージが飛んできた。


『え、ま、待って!? 何、依桜、引っ越すの!?』

『うん。色々あってね』

『じゃ、じゃあ、何か? 引っ越すってことは……転校するのか!?』


 あ、そっか。引っ越しって、それ=転校、みたいなイメージが強いから、そう思っちゃうのか。


『あはは、別に転校はしないよー。単純に、家族が増えたから、十人でも広々と暮らせる場所に引っ越そうってなっただけだよ。そもそも、ボクはみんなから離れたくないから、転勤になっても一人暮らしを始めるよ、ボクは』

『『『『そ、そうですか』』』』


 だって、一番仲が良くて一番気心がしれた仲なのは、みんなくらいだもん。離れるのなんて、死んでも嫌だ。


『んで、どこに引っ越すんだ?』

『えっと、駅に近い家。三階建てだよ』

『え、三階建て? ほんとに?』

『うん。さすがに、十人だとほとんどの家は狭いからね。だから、それなりの広さがあって、高さもある三階建ての家に』

『いや、それはわかるんだが……お金はあるのか? かなり高額だった気がするんだが……』

『大丈夫。一括で払ってきたよ。もう契約もしてあって、明日今の家を引き払ってお引越し』

『……聞くのもあれだけど、いくらくらいしたのよ』

『四千二百万くらい、だったかな?』

『……高すぎて、何も言えねぇ……』

『そんな大金、おばさんたちよく用意できたねぇ』

『あ、用意したのボク。全額ボクの貯金』

『『『『……は?』』』』


 あれ? 言ってなかったっけ? でも、以前軽く触れたような気がするんだけど……。

 まあ、この際だし、言っておこうかな。


『ボクの貯金……使った分を差し引いたら、あと、八千万くらいあるんです』

『『『『……え!?』』』』

『学園長先生が、今までの謝罪と色々と手伝ってもらっていたあれこれ、という名目で、お金を振り込んでてね。その時に、まあ……一億ほど。それで、最近また増えてて一億二千万円になってたの』

『……銀髪碧眼美少女で、お金持ち……』

『それでいて、家庭的で、誰にでも優しい……』

『……最近、依桜に欠点なんて、ないんじゃね? と思いつつあるぜ』

『いやそれ、もとからじゃないかな? 依桜君に欠点なんてないさー。むしろ、欠点すらも可愛さに変えてくるレベル』


 みんなは一体、何を言ってるんだろうか。

 ボクにだって欠点はあるよ。

 お化けとか……。


『しっかし、高校生でその大金はやべえぇな』

『ま、まあね……だから、あまり出しすぎたりしないように、月に五十万くらいって限度を決めてもらってるけど』

『それでも多いと思うんだが……』

『まあ、ボクの場合家事をしてるから、たまに必要な物とかも出てきちゃうしね。割とお金を使うんだよ』


 そうは言っても、そこまで使わないような気がするけど。


 それに、そんなに日用品とかも切れないし、家事に使う家電製品やフライパンなどの調理器具もそう簡単には壊れないしね。


『そうは言ってもなぁ、大金を持っていることに変わりはねえよな、それ』

『ま、まあ……』

『あり? じゃあなんで、わたしのお店手伝ってくれる、って言ったの? 依桜君、全然お金に困ってないよね?』

『あはは、別にお金のためにアルバイトしたわけじゃないよ。単純に、女委の頼みだったから。別に、お金はもらわなくてもいいと思ってるし』

『い、依桜君……』

『普通、それくらいのお金を持ってたら、変に自慢してきたり、マウントを取りそうなものなのに、依桜ってば、そう言うのが本当にないわよねぇ』

『世の中お金! なんていう人もいるけどね、ああ言うのはあながち間違いじゃないんだけど……ボクは人との繋がりが一番大事だと思ってるよ。だから、お金はそこまで重要じゃないの。ましてや、困ってる友達がいたら、普通は助けるでしょ? なんの見返りもなく』

『『『『当然』』』』


 うん、みんななら、そうだよね。

 同じ考えで安心。


『それじゃあ、ボクは明日引っ越しが朝からあるので、今日はもう寝るね』

『わかったわ。引っ越しが終わったら遊びに行くわね』

『うん。終わったらすぐにみんなに連絡するよ』

『楽しみにしてるぜー』

『うん。それじゃあ、おやすみなさい』

『『『『おやすみ!』』』』


 こんな風に一日が終了しました。



 翌朝、いつものように、みんながボクにくっついて寝ていました。


 相変わらず可愛くて、つい、天使の寝顔、という言葉が脳裏に浮かび上がりました。


 みんなは、一番可愛いと思います。


 その後、やっぱり起こせなかったボクは、母さんに起こされました。みんなを起こすなんて、ボクにはできません……。


 起きた後は、みんなで引っ越しの準備。


 業者さんも呼んで、家にある家具や荷物を全部まとめて運び出す。


 ここで一番役に立ったのは、ボクと師匠。


 力が異常だからね。業者さんよりも力があるので、ハイペースで運び終えました。


 そう言えば、業者さんたちがなぜか顔を赤くしてました。風邪でも引いてたのかな?


 ちなみに、いくつか『アイテムボックス』に収納して持って行きました。本当に、引っ越しの時って便利だね、この魔法。


 まあ、あってもなくても、身体能力が高いから、それでどうにかなっちゃってたんだけど。片手でタンスやベッドを運んでいたら、ポカーンとされました。


 見慣れてる人はそこまで驚かないんだけど、普通ボクのことは知らないから、まあ……そう言う反応になるよね。一番おかしかったの、師匠だけど。


 それはともかくとして、全部の荷物や家具を運び出して、ボクは最後に十六年間過ごした家を見た。


 なんだか寂しいけど、これも仕方ないよね……。


 別に、引き払わなくても、問題はなかったんだけど、母さんたちはボクにお金を出してもらったのが申し訳ないと言って、引き払った――というより、売却した金額はボクに渡されました。


 さすがに断ったんだけど、これだけは受け取って、って言われたので、仕方なく受け取りました。別によかったんだけど……。


 もとはと言えば、ボクがみんなを連れて来たのが原因なんだし、むしろ父さんと母さんには感謝してるんだよね……だって、みんなを住まわせてくれただけでなく、親にもなってくれたんだもん。


 だから、お金なんていらなかったのに……。


 なんだかんだで、本当に自慢のお父さんとお母さんだと思うよ。


「依桜~、そろそろ行くわよ~」

「あ、うん、今行く!」

(今まで、お世話になりました)


 そう、感謝を伝えながら、最後に軽くお辞儀して、ボクは家を離れた。


 その次の瞬間、


『――ありがとう』


「え?」


 誰かの声が聞こえてきて思わず足を止めた。

 今一瞬、綺麗な女の人の声が聞こえてきたんだけど……気のせい、かな?


「依桜~、何してるの~? おいて行っちゃうわよ~」


 うん、気のせいだね。

 それじゃあ、ボクも急ごう。



 さすがに、全員車で移動するには無理があったので、ボクと師匠、それからメルたちは別で移動。

 と言っても、メルたちは全員ボクの『アイテムボックス』の中なんだけど。

 便利だよね、本当。


「お前の『アイテムボックス』が羨ましいぞ、あたしは」

「お酒ですか?」

「ああ。それがあれば、自身の魔力と引き換えに、酒が飲めるわけだしな。というか、マジで原理がわからないな、それ」

「そうなんですよね……ボクも未だにわからなくて。しかもこれ、魔道具も創れちゃったんですよ」

「……え、マジ?」

「マジです」

「……そうか。正直、『生成魔法』と『アイテムボックス』の二つが融合して生まれた亜種、みたいに考えていたんだが……そうなってくると別だな。そもそも、魔道具を作れるのは、《錬成士》と《魔道士》の二つだ。まあ、中には《鍛冶士》の武器に、《付与術士》が何らかの魔法を付与することで作る奴もいるが……そもそも、暗殺者じゃ作れないな。あたしは創れるが」


 ……今、暗殺者じゃ創れないとか言っておきながら、自分は創れるって……師匠、矛盾してません?


「まあ、創れるって言っても、古代級までしか創れんがな。んで? お前は何を作った? 正直、付与魔法をお前に教えたとはいえ、お前だと現代級が限度だろう」

「え、えっと、あれです。『誓約の腕輪』の解除ができる……」

「……お前マジか。あれってたしか、古代級だったはずだぞ? 創れる奴なんて。ほぼいないんだが……」

「そ、そうなんですか?」


 一度使ったことがあったから知ってはいたけど、まさか、そんなすごい魔道具だったなんて……。


「まあいいがな……こうなると、やっぱり、あの時見た情報は、ガチ、か」

「師匠、何か言いましたか?」

「いや、何でもない」


 なんだろう、師匠が真剣な表情で何かを呟いていたような気がしたんだけど……。


「まあ、お前の『アイテムボックス』は謎が多い。正直、その内解明しないといけないな」

「そうですね。もしかしたら、なんらかの代償があるかもしれませんし」


 生命力を代償にしている可能性だってあるしね。

 あっちの世界、そういうの普通にあったもん。



 それから、師匠と色々と話しながら、新居に到着。


「「「「「「わぁ~~~~!」」」」」」


 新居に到着し、みんなを『アイテムボックス』から出すと、目の前の新しい家に目を輝かせていた。


 正直、ボクもちょっとわくわくしていたり。


 引っ越しなんて生まれて初めての経験だけど、ここで新しい生活が始まると思うと、なんだかちょっとドキドキする。


 とはいえ、住んでいる街が変わらないから、引っ越す前からあまり変わりはないんだけどね。


「よーし、中に入るぞー」


 父さんのその言葉で、みんなが中へ入っていく。



 中は、写真で見たよりも、綺麗で立派だった。


 広いのがいいね。


 よく見ると、上り棒があって、それで三階から一階を上り下りできるようになっていた。こんなものまであるんだ。


 正直、こっちの方が階段より早いかも。


 一回から車庫にも行くことができるのは、父さん的にはありがたかったみたい。整備するときいちいち外に出るのが面倒、って言ってたし。


 キッチンも、全階にあるから、どこでも簡単なお茶の準備ができる。そうは言っても、一階と三階は簡易的なキッチンなので、できても簡単な料理くらいだけどね。それでも十分なわけだけど。


 だって、誰かと遊ぶ時は一階と三階辺りがメインになりそうだしね。


 バーベキューもできそうなルーフバルコニーがあるのは、なかなかいいと思いました。

 今度、みんなを呼んでバーベキューとかしたいな。


 ある程度、家の中を見たら、そのまま部屋割りに。

 ここでちょっと問題が発生。


「え、えーっと、みんな落ち着いて……」


 と、ボクが宥める行動に出ていた。

 理由はと言えば……


「ねーさまと一緒の部屋は儂じゃ!」

「私が依桜お姉ちゃんと同じ部屋は私です」

「わ、たし……!」

「ぼくだよ!」

「私なのです!」

「……わたし!」


 こんな風に、誰がボクと一緒の部屋になるかで争いが起きてしまった。


 最初は和気あいあいと進んでいたんです。


 母さんたちは、一階の洋室になって、あとはボクたちの部屋となったんだけど……この問題の原因は、部屋にありました。


 間取り確認をしている時、ボクたちの部屋は二階か三階のどちらかに。


 二階には三人部屋が一ヵ所。三階には、一人部屋が二ヵ所と三人部屋が一ヵ所。


 この際、師匠は一人部屋でいい、と言って、三階の一人部屋が決まった。


 ボクも一人部屋にしようかなと思っていたら、いきなり誰がボクと同じ部屋になるか、という謎の争いが起きてしまった、というわけです。


 さっきからずっとこの調子で、なかなか決まらない。


 父さんと母さんは微笑ましそうにこの光景を眺めていて、師匠に至っては自分の部屋に行くと言って、そのまま部屋へ行ってしまった。


 助ける人はいない。


 ど、どうしよう、この状況……。


「「「「「「むぅ~~~~!」」」」」」


 正直、ボクを巡っての争いなんだけど……今まで兄弟なんていたことがなかったから、かなり戸惑う。


 目の前の光景はたしかに微笑ましいし、可愛い争いだなぁ、なんてちょっとは思うけど、あまり喧嘩しないでほしいのが、ボクの考え……というか、姉心。


「え、えっと、なんでそんなにボクと一緒の部屋がいいの……?」


 なんて、ためしに尋ねてみたら、


「「「「「「一緒に寝たいから(です)(なのです)(なのじゃ)!」」」」」」

「え、えっと、そうは言っても、ボクは一人部屋にするつもりだよ……?」

「「「「「「……」」」」」」


 ガーン、という文字が見えそうなくらい、みんながショックを受けている。


 って、しかも、ちょっと涙目になってるし!


 こ、この場合は……


「じゃ、じゃあこうしよう。毎日交代で、一緒に寝るの。順番は……ジャンケンで決めよっか。それなら、問題ないと思うんだけど……どうかな?」

「「「「「「嫌っ!」」」」」」


 い、嫌ですか……そうですか……。


 ど、どうすればいいんだろう……?


 みんな、なぜかボクにくっついて寝るのが好きみたいだし……そんなに寝心地がいいのかな、ボクって。


 よくわからない。


「依桜、もういっそのこと、寝る時は三階のあの広い場所でみんなで寝れば? それなら、メルちゃんたちもいいでしょ?」

「「「「「「うん(なのじゃ)!」」」」」」

「ほらね? みんな、依桜が大好きなのよ。それなら、それを叶えてあげるのも、お姉ちゃんってものよ」


 諭すように言ってるけど、どうみても楽しんでるよね、母さん。

 ……でも、母さんのいうこともわかるし、それでこの争いがなくなるなら……


「じゃあ、そうしよっか。寝る時以外の部屋は、ボクは一人部屋だけど。それでいい?」

「「「「「「はーい(なのじゃ)!」」」」」」

「うん。よかった。それじゃあ、あとは、みんなの部屋だけど……これは、学園で分けよう。メル、ニア、クーナの三人は三階。リル、ミリア、スイの三人は二階、これでどうかな」


 そう言うと、みんな顔を見合わせて頷いた。

 どうやら、これで決まったみた――


「「「三階がいいです!」」」


 いじゃなかった。


 なぜか、リルたち三年生組が三階がいいと言ってきた。


「え、な、なんで?」

「い、イオおねえちゃんが、三階、だから……」

「ぼくもイオねぇと同じ階がいい!」

「……メルたち、ずるい」

「え、えぇー……」


 一つの問題が解決したと思ったら、別の問題が発生しました。


 この問題は、未果たちが遊びに来るまで続きました。


 ……それで、争いの結果、この問題は、週ごとで階を入れ替える、ということで決着しました。


 お姉ちゃんって、大変なんだね……。

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