第291話 お土産渡し

 場所は移り、屋上。

 みんなでお昼ご飯です。


「……で、何があったの?」

「じ、実はね――」


 ボクは、みんなに異世界にいた間の事情を説明。

 ニアたちの話に差し掛かった辺りで、みんなの表情が苦いものになる。


「というわけで……」

「なんと言うか……出発前日に、別の誰かを連れて来るんじゃないか、って言いはしたけど、まさか本当に連れて来るとは……」

「あれ、フラグだったんだねぇ」

「依桜の巻き込まれ体質は、異常だからな……」

「てか、それで妹増やしてくるって、どう考えても異常だろ」

「あ、あははは……」


 その辺りに関しては、苦笑いするほかないです……。

 というより、増えるとは思ってなかったんだよ、ボクも。


「それにしても、依桜って子供に好かれやすいわよね、ほんと。見たところ、その娘たちもものすっごい懐いてるみたいだし」

「ま、まあね」


 今のみんなと言えば、ぴったりボクに寄り添った状態で、お弁当を食べています。幸せそうな表情もセットで。


「しかも、みんなすごく可愛いねぇ。依桜君、こんなに可愛い妹たちができて、どう思う?」

「そ、それはまあ……嬉しいし、ボクにとって癒しだよ? 普段から、いろんなことがあるせいで、疲れちゃってね……」

「イオお姉ちゃん、疲れてるんですか?」

「うん……なかなか休む暇がなくてね……」

「だい、じょうぶ、なの……?」

「これでも、結構体力はあるから、そこまで酷くはないよ」

「イオねぇ、ちょっと頭を下げて?」

「え? こう?」


 ミリアに言われて、少し頭を下げると、ミリアの小さな手がボクの頭を撫でて来た。


「よしよし」

「あ、ミリアずるいです! 私も!」

「わた、しも……!」

「私もするのです!」

「……わたしも」

「儂も!」


 ミリアがボクの頭を撫でたことを皮切りに、みんながそれに追随するように、ボクの頭を撫でて来た。


 あ……なんだろう、この気持ち……なんというか、すごく心が安らぐし、すごく嬉しい……可愛い妹に頭を撫でられるのって、どんな栄養ドリンクよりも元気が出るし、どんなスタミナ料理よりも体力が付く気がする……あぁ、癒し……。


「おい、なんか、依桜が今まで見たことないくらい、顔が緩んでるぞ」

「依桜って、あんな顔するのね」

「普段からよっぽど疲れてるんだろうな」

「というか依桜君って……シスコン?」

「違うよ!?」


 さすがにボクはシスコンじゃないと思います!


 ただちょっと、みんなが可愛くて、困っていたらどこにいても駆けつけて助けるくらいです! 世の中のお姉さんなら、これくらいは普通のはず。


 だから、ボクはシスコンじゃないと思うんです。


「じゃあ、訊くけど……ニアちゃんたちが誘拐されました。依桜はどうする?」

「え? それはもちろん……ボクの持てる全ての力をフル活用して、数分以内に見つけ出して、そのまま助けに行くかな? それで、誘拐犯たちは、まあ……死よりも恐ろしい地獄を見せる、かも」

「「「「……あ、ハイ。依桜先輩、マジパネェっす」」」」


 あ、あれ? なんでみんな、そんなにドン引きしちゃってるの?

 ボク、何か変なこと言った……?


「「「「「「……!(キラキラした瞳)」」」」」」


 でも、みんなは、すごく嬉しそうに眼を輝かせてるし、普通ってことだよね。

 ならいいと思います。


「これ、手遅れね……」


 そんな、諦めが混じった呟きを聞いたみんなが、うんうんと頷いていました。

 変?



 それから、お昼ご飯を食べ終え、みんなは眠くなったのか、ボクにくっついたまま眠ってしまった。


 膝を枕にして寝ている娘もいれば、ボクに寄り掛かるようにして寝ている娘もいる。あとは、おんぶみたいに寝てる娘も。


 癒し……。


「おー、女神が天使に囲まれるという、すごく尊い光景……! なんて素晴らしいんだい!」

〈おっほー、これは眼福ですなぁ! あ、女委さん、ちょっとこの光景をパシャってこのスマホに送ってください。私のイオ様コレクションに加えます〉

「おっけい!」

「アイちゃん、そのコレクションはなに!?」


 イオ様コレクションなんて、聞いたこともないし、見たこともないんだけど!

 ボクのスマホでなにしてるのほんと!


〈そりゃああれですよ。イオ様の可愛い寝顔とか、イオ様の可愛い横顔とか、イオ様の可愛い怖がった時の顔とか、イオ様の可愛い勉強時の姿とか、イオ様の可愛い妹様方と戯れている姿とか、色々〉

「撮らないでよ! ボクの写真なんて撮っても意味ないよ!」

〈いやいや、マジでイオ様の可愛いお姿は癒しなんですって。ねえ、みなさん?〉

「うんうん。依桜君本当に可愛いしー、トップシークレット並みのあの涎垂らして気持ちよさそうに寝ている依桜君の寝顔は、全国の男子が見たら、涙を流して拝むんじゃないかな?」

「「「あー、あり得る」」」

「今のを納得するのは、何かおかしくない……?」


 拝むって……ボク、御神木や御神体でもなんでもない、ちょっと強い普通の人間だよ? そんな、神様みたいに扱われたら、普通に困るよ……。


〈まあ、異世界は素晴らしく面白かったですしねぇ。あ、そう言えば、みなさんにお土産買ってませんでした?〉

「あ、そうだった。えっと、みんなに異世界のお土産があるんだけど……いる?」

「ほんとに!? いやぁ、わたし、異世界の物ってすっごく気になってたんだよね! 欲しいです!」

「私も気になるわ。依桜が行った異世界の物」

「やっぱ、異世界ってのは男子高校生的には、なんか憧れるものがあるよな!」

「女委や態徒ほどじゃないが、俺もたしかに気になる。一体、どんなものなんだ?」

「えっと、ちょっと待ってね」


 たしか、『アイテムボックス』にしまっていたはず……あ、あったあった。

 ボクは『アイテムボックス』の中から、みんなへのお土産を取り出す。

 ちなみに、全部クナルラル産です。


「はいこれ。とりあえず、果物。あとは……ネックレスにブレスレット。あとは、ちょっとした魔道具かな」


 そう言いながら、一人ずつお土産を手渡していく。


 果物は、箱入りで一人一箱ずつ。


 ネックレスは二、三センチほどの宝石が付いたもの。と言っても、宝石じゃなくて、本当は魔石なんだけど。


 一応、付与魔法で『ヒール』をかけてあるので、怪我をしたら少しずつ治療されるようになってます。


 ブレスレット、とは言ったけど、実質的にはブレスレットというより、ミサンガに近いかも? 白と黒のシンプルな色合いのちょっとおしゃれな感じの。


 一応これも能力が付与されていて、たしか……『疲労軽減』だったかな? なんか、裏店みたいな感じで、目立たずひっそりと経営していたお店で見つけたんだよね。ちょうど、四つあったから、みんなに、と思って買ってきた。


 効果は少しだけ確認してあります。向こうの世界ではそうでもないみたいだけど、こっちの世界では結構効果が期待できるみたい。まあ、向こうの世界の方が、圧倒的に疲れるしね。


 効果の発動条件は、大気中の魔力を吸収することらしいんだけど……やっぱりこの世界にも、魔力はあるんだね。


 でも、それならこっちの世界の人も魔法が使えても不思議じゃないような……? なんで、魔法が使える人がいないんだろう?

 その辺り、師匠にちょっと聞いてみようかな? 何かわかるかも。


 と、それは置いておいて、お土産。


 ちょっとした魔道具というのは、緊急連絡用のアイテム。まあ、こっちで言うところの、携帯電話だね。


 携帯電話とは言っても、別にスマホとかガラケーと呼ばれるような形じゃなくて、指輪型。

 その指輪を持って、持っている相手との通話を念じれば、思考のみで会話が可能になるという、結構便利なアイテム。


 ライトノベルなどで言うところの、念話に近いかな?

 口に出して喋らなくても、相手に言葉を送れるからね。戦争中も、これがかなり役に立ったと、ジルミスさんが言ってました。


 ちなみにこれ、ジルミスさんからのもらい物です。


 最終日、出立前に挨拶しに行った時、軽くお土産の話が出て、それでしたら何かプレゼントします、と言ってきたので、試しに連絡用の魔道具とかないですか、って聞いたらこの指輪をくれたんだよね。


 なんでも、


『戦争が終わった今、もう不要でしょう』


 とのこと。


 人間との共存も少しずつ進み、秘密にするような会話が少なくなったからいらないのだとか。

 そうは言っても、たまに使うみたいだけどね。


 この指輪の発動条件も、さっきのブレスレットとと同じで、大気中の魔力を使用するそうです。


 もともと、魔力が乏しい魔族や、自身の位置や魔力波長がバレないようにするための発動方法みたいだけど。


 だけど、それのおかげで、こっちの世界でも使えるわけです。

 そんな説明をみんなにした。


「「「「ま、マジですか……」」」」


 渡されたお土産を凝視しながら、みんなはちょっと冷や汗を流していた。

 そんなみんなの気持ちを代表して、


「これ、高いんじゃないの……?」


 未果が恐る恐る尋ねて来た。


「うーん……向こうの物価って、こっちよりも安いけど……日本円に換算したら、一個数十万円くらい?」

「「「「高ッ!?」」」」


 まあ、うん……魔道具だし。


 指輪なんて、もっと高いんじゃないかな。もらい物だし。


 それに、魔道具を作るのも難しいしね。


 あれ、一応、現代級と中世級はそこそこ創りやすいみたいだけど、その上からは天才たちの領域みたいだしね……。師匠は創れそうだけど……。


 今回みんなに渡した魔道具の中で一番高価なのは、間違いなく指輪だと思います。


 あれ、みんなには言ってないけど、数百万するレベルらしいもん……。

 戦争時代は、幹部や将軍などの人たちが持っていた物だったそうです。

 まあ、だよね。


「これがあれば、スマホの電池が切れた時とか、圏外の時にボクたちの間で連絡が取れるから、なるべく持っておいた方がいいかな。危険な場面に遭遇した時ボクが駆け付けて、みんなを何としても助けに行くから」


 正直、そう言う思いから、ジルミスさんにこういうものは無いですか、って訊いたわけだし。


「……たまに、可愛い顔してイケメンなこと言うわよね、依桜って」

「うん。何としても助けに行くって言えるんだもんねぇ」

「……オレ、男として負けた気分だぜ……」

「……そもそも、依桜と比べるのが間違ってるぞ、態徒」


 え、あ、あれ? なんでそんなに落ち込んでるの? 二人とも。

 ボク、何か落ち込ませるようなこと言ったかな……?


 なぜか落ち込む二人を見てそんな風に心配になったけど、この後はみんなに渡した果物を食べながら、昼休みは過ぎていきました。



 午後は特に問題もなく、授業は進み、下校となった。


 初等部の校舎前でみんなを待って仲良く家に帰りました。


 家族がいなかったからか、みんなかなり甘えん坊で、会うたびに抱き着いてくる。正直、それが可愛いので、ボクとしては全面的に許可してます。


 癒しだしね、ボクの。


 なんだか、連れてきてよかったなぁと思えました。

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