第300話 イオからの情報

 とりあえず、こっちで頼むことは終わった。


 やることはない。


 てか、だるい。海外行くのって、マジでだるい。


 正直、不法入国しまくってっけど、バレてないし、飛行機で行くのもめんどくさいんだよな。

 ハイジャックされるし、そもそも墜落しないとも限らん。


 そうなったら、色々と面倒だしな。周囲の人間を助けるのは。


 いや、決して助けないわけじゃなくて、単純に手間がかかるから嫌なんだ。


 そう言ったあれこれに遭遇しやすくなる幸運値。こいつが原因だ。


 というかだな、この世界の人間の幸運値は、国によって違うし。


 日本人は、平均150ってところだな。美男美女であり、性格がいい奴は、割と高い数値を出しているな。まあ、それでも200程度ってところだが。


 だが、ミカたちは意外と高かった。あいつら、軒並み250以上なんだぞ? 特に、メイはやばかったな。ありゃバケモンだ。なんだよ、555って。


 すっげえ珍しいんだがな、ゾロ目ってのは。


 あたしより低いが、それでも111しか差はない。


 意外とこの世界、そう言う奴が多いのか? なんて思っちまったが、一般人はそうでもなかったしな。


 そういや、アフリカ方面に行った時とか、なんだったか……あー、貧しい国に立ち寄ったんだが、あれは見てられなかったんで、ちょっと手助けしたんだよなぁ……。


 汚い水を必死に汲む姿はさすがにな……。だから、ちょっと手を加えて、地面から水が湧き出るようにしてやったっけな。


 それも、日本と同レベルの水質の何かだ。浄化もしたし、ついでに水道も作った。


 あとは、あれだ。食糧問題を解決するために、土壌を軽く改善して、ついでに作物の種を渡した。


 だがまあ、その程度しかあたしにはできなかったな。

 ついでに、そこそこの金は渡したが……。


 私腹を肥やしてなきゃいいな。


 てか、こっちの世界は、あれだな。格差ってのが激しい。


 日本やアメリカのようにかなり発展してる国もあれば、アフリカ方面のように、いきるので精一杯なんて国もあった。


 面白そうな世界、なんて思ってはいたが、そこを考えれば、そうでもないな。


 しかも、こっちは詐欺が多いんだっけか?


 それも、老人を狙ったクソみてぇな奴らが。

 どこの世界にも、クソみたいな奴がいるってわけだよなぁ。


「しかし、あれだな。マジで暇」


 いや、向こうの世界に比べれば、こっちの世界は全然いいんだ。なにせ、娯楽物が多いしな! 向こうなんて、娯楽がひっどいし。


 なんと言っても、あるのはつまらん劇に、闘技場。それだけ。


 楽しいことなんざ、本当になかった。


 まあ、そんな余裕がなかったから尚更だな。


 向こうなんて、死の危険が多くあったしな、そこら中に。


 あたしはまあ……家での~んびり暮らしてたし、これと言って問題もなかった。襲ってこようが、普通に返り討ちにしてたしな。


 そもそもの話、あたしの家にたどり着いた奴なんて、いなかったがな。


 ここはあれか。やっぱり、本を読むか? それとも、『鑑定(覇)』を鍛えるか?


 でもなぁ、あれの上って何よ? 覇の次は、神ってか? そしたらなんか、『鑑定』じゃなくて、『神眼』とかになりそうだな。


 実際、そんな能力かスキルがあるとは聞いたことがないが……あ、いや、そういやミリエリアがその辺のもん持ってたような……。


 まあ、あいつは神だったしな。別に、そう言った能力やスキルを持っていても不思議じゃない。


 さて、エイコはどれくらいで仕上げてくれるかね?


 異世界研究のノウハウ自体はかなりあるから、三月までにはどうにかする、とかあの後メールで言われたからな。


 できれば、この件はさっさと片付けたいところだ。


 じゃなきゃ、うちの学園のガキどもにも被害が出ちまう。体育祭で出ちゃってるがな。


 ブライズは野放しにしておいたら、それこそ大問題になっちまう存在なんで、早いとこ、どうにかしないとな。


「さて……なんか疲れたな。晩飯まで寝てるか……」


 なんだかんだで、ブライズの相手は疲れるのだ。



 一月三日の夜。


 相変わらず、イオはゲーム。


 いや、別に寂しくないし? あいつの自由を、あたしが束縛するわけないし? 嫉妬とかしないし?


 って、あたしは一体誰に言い訳してるんだか。


 今日も今日とて、ブライズ退治をしてきて、家に帰り、晩飯を食べる。


 その後は、『鑑定(覇)』の強化。


 あれさえ強化できれば、色々見れそうなんでな。


 ……ま、まあ、最近は考察やら、出かけることが多いせいで、若干部屋が散らかっちまってるが……。


 イオに見られたら、大目玉だな。


 だが、あいつは今、ゲーム中だ。何の問題もないな!


 そんじゃまあ、海外回って手に入れて来た、美味い酒を――


 コンコン


『師匠、起きてますか?』


 な、なにぃ!? い、イオだと!?


 くっ、なんてこった!


 あたし、何もしてねぇよ! というか、マジでやべぇよ!


 バレたらまずい……!


 よ、よし! クローゼットだ! クローゼットに全部押し込め!


 超高速で散らかっていた服やら道具やらをクローゼットに押し込める。

 よし、準備完了。


「どうした?」


 中が見られないよう、ドアから顔だけ覗かせる。

 うむ。やはり、イオは可愛い。


「あ、えと、ちょっと気になることがあって、師匠に訊きに来たんですけど……今って大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だ。まあ、入れ」


 個人的には、まったく大丈夫じゃないがな! 主にクローゼットが。


 てか、今思えば、『アイテムボックス』に入れればよかったんじゃね?


 ……や、やらかした! くそぅ、イオの罠か!


「はい。……あれ? 師匠、随分部屋が綺麗ですね」

「今のあたしは、居候だからな。さすがに、愛弟子の汚すほど、あたしの心は汚れてない」


 すまない。さっきまで超散らかってた。というか、クローゼットは汚い。


「そうですか。でも、意外です」

「……まあいいだろ。ほれ、とりあえず座って話そうか」


 意外とはなんだ、意外とは。てか、本当に意外そうな顔してんじゃねえよ。間違ってないけど。


 まあ、立ちっぱなしもあれなんで、座布団に座るよう指示。


 よいしょと言いながら、正座するイオ。

 こいつのパジャマって、なんかエロくね?


 ネグリジェって奴か? エロいなー……。


「んで? 訊きたいこと、ってのは何だ?」


 顔に出さないあたし、さすがだ。


「あ、はい。えっと、向こうの世界のことなんですけど……えっと、ボクが出会った女神様って、師匠が知っている神様だったりするんですか?」

「あー、どうだったか……たしか、違ったはずだぞ」


 だって、あたしが知ってるのって、ミリエリアだし。


「ほんとですか?」

「ああ。たしか、今あの世界を管理している神ってのは、二代目だったな」


 名前、なんつったっけ? 忘れたな。ウザかったし。


「二代目? えと、前の神様って?」

「……死んだよ」

「え……」

「死んだ。まあ、色々あってな」


 ミリエリアの奴、ある一件で死んじまったからな……目の前で消えるんだぞ? 神って、死ぬときは消えるんだなって、初めて知った。


 光の粒子になって天に昇って行ったし。


「ど、どうして?」

「……さあな。あたしも、あれがいつのことだか覚えていない。つか、100年から先の人生、ほとんど覚えて無くてな。あたしですら、何百年生きているのかわからん」

「でも、前に百年以上って……」

「二百年生きようが、五百年生きようが、百年以上と言えば、百年以上だろ?」


 あたしが百年て言えば百年だ。それ以上でも、それ以下でもねぇ!


「そ、そうですけど……」

「……ま、色々あったんだ。あいつは、あたしの唯一無二の親友だった」

「師匠、神様と親友だったんですか?」

「ああ。どういうわけか、仲良くなってな。本当にお人好しで、人が好きで、謙虚で、そのくせ、誰かのためにはいつだって真っ直ぐだったぞ。そうだな……ちょうど、お前みたいにな」


 ああ、そうだ。こいつ、あいつに似ていたのか。


 まあ、微妙に……というか、結構違う気がするがな。だってこいつ、元男だし。

 何らかのかかわりがある可能性があるのは、否定しないがな。


「ボクですか? あはは、何言ってるんですか。ボクは人間ですよ? 女神様みたい、って言うのはちょっと言いすぎですよ」

「……人間じゃない可能性があるんだがな」


 少なくとも、以前鑑定した時に、種族と固有技能は不明だった。

 そろそろ見てもいい頃かもしれんが、今はまだ、鍛えるべきだな。


「え? 師匠、何か言いました?」

「いや、何でもない」

「そうですか?」

「んで? 訊きたいこと、ってのは前の管理者の女神か?」

「あ、いえ。ちょっと、向こうの世界を模したゲームが三日前に出たんです」

「ほう。あの世界をねぇ?」


 なんと言うか、エイコらしいな。


 ゲームってのは、作るのが相当大変らしいが……さては、面倒くさかったから、向こうの世界を土台にしたんじゃねえだろうな。


「それで、女神の布、なんていうアイテムが出てきて、何でも、『かつて、この世界を愛し、管理していた女神の力が宿っているとされる布』なんて説明があったんです」

「そんなアイテムが……」

「それで、どうにも、懐かしい感じがするというか、ちょっと手に馴染むというか、そんな感じがしているんですよ」

「……それ、ほんとか?」


 あたしは、イオの発言を聞いて、思わず聞き返していた。


「は、はい。えっと、何か……?」

「……ふむ。ちょっと気がかりだが……まあ、気のせいだ。気にするな」


 懐かしい、手に馴染む、か。

 これはやっぱ、ミリエリアに関わる何かが、こいつにはあるんだろうなぁ。

 微量の神気は、異世界渡りで染みついたものかもしれんが。


「は、はぁ……」

「あ、そう言えば師匠。たまに、いろんなところに行っているみたいですけど、何をしてるんですか?」

「ん、あー、そりゃお前、ブライズだよ、ブライズ」

「ブライズ、って、体育祭の時に出現した、あの黒い靄ですか?」


 お、ちゃんと覚えたのか。偉いな、我が弟子。


「ああ。そのブライズだ。あたしは、エイコの頼みで、この世界を飛び回っていてな。異世界人がいないか、と言うことを調査して回っている。そして、ブライズもついでにな」


 まあ、それ以外にも、色々と情報を探るべく動いているがな。

 あの本とか。


「つ、ついでって……あれ、ついでで済ませていいような存在じゃないと思うんですけど」

「別に、ついででもいいんだよ。この世界の人間に憑りついたところで、普段よりもちょっと強くなる程度だ。数人がかりで抑えりゃ、簡単に抑えられる。……もっとも、あれを消すのは、聖属性の何かじゃないと、無理だがな」


 間違いじゃない。


 イオが心配した表情を浮かべるが、まあ、こいつに限って言えば、そこまで黒い感情はないだろう。純粋だしな。


「そ、そうなんですか」

「そういや、この世界には、陰陽師とか、エクソシストなるものがいるんだったよな?」

「エクソシストはともかく、陰陽師は今いるかは……」

「まあ、いるいないはともかく、聖水だとか、お札とかがあって、それを扱える奴がいるんだとすれば、ブライズは簡単に払えるよ。少なくとも、この世界の奴でも、ある程度抵抗できるレベルでな」


 似たような奴ならいたし、まあ、対処できるだろう。多分。

 最悪、あたしが出りゃいいしな。


「……じゃあ、師匠はいると思うんですか?」

「そりゃお前、あたしらみたいな奴がいるんなら、いても不思議じゃない。世の中、自分の目で見えている者だけが真実、ってわけじゃないからな。ひょっとすると、秘匿にしているだけで、本当はいるかもしれないぞ」


 意外と近くに。


 向こうの世界なんて、こっちから見れば不思議で満ちているが、こっちも割と不思議で満ちてるしな。いても不思議じゃない。


 てか、実際この世界にも魔力はあるんでな。


 創ったの、神だし。ミリエリアだし。


「た、たしかに……。えっと、それで、ブライズの方は?」

「ああ、見つけ次第消している。あたしの『気配感知』を最大に使えば、世界中をくまなく探すことができるからな。それで、探している。ちなみにだが、今は消して回っているおかげで、徐々に減ってきているぞ……って、どうした? 鳩が豆鉄砲を食ったような顔して」


 なぜかポカーンとした顔をしているイオ。

 ん? 今、どこに驚く要素があったんだ?


「せ、世界中? 『気配感知』を?」

「ああ。これくらい、あたしなら朝飯前だ。お前もいずれ、その境地にたどり着けると思うぞ」

「い、いやいやいやいや! いいですよ、そんなことができるようにならなくても!」

「まあ、できるっつっても、短い間だけだぞ?」

「あ、そうなんですね」

「できても、二十時間程度だろう」


 あたしも、修行不足だな、ほんと。

 もっと鍛えりゃ、一週間は出来そうなんだがなぁ……。

 あり得ない、みたいな顔してるな。


「そこはほら、あたしだしな。世界最強と言われた伝説の暗殺者は、強いってことだ」

「……それは、身に染みてわかってますよ」


 わかってるならよし。

 わかってなかったら、軽くぶっ飛ばしてるところだ。


「しかしまあ、ゲームの舞台にねぇ……。エイコも、なかなかにおかしなことをするものだな」


 まあ、異世界研究なんて言う、頭のおかしいことをしているらしいしな。転移技術を創ったのも、あいつみたいだし。


「それで? 訊きたいこと、ってのはさっきので終わりか?」

「あ、はい。一応あれだけです」

「そうか。……さて、もう夜も遅い、お前はさっさと寝な」

「そうですね。それじゃあ、ボクは寝ますね、おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」


 最後に軽く笑ってから、イオが出ていき……


「師匠、部屋、ちゃんと綺麗にしてくださいね(にこ)?」

「ぜ、善処する」


 ば、バレてーら……。


 うちの愛弟子さんは、ことあたしの生活レベルになると鋭くなるぞ……。

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