第299話 ミオの新年
新年になった。
一月一日は元日とか言うらしく、なんか、おせち食ったり、雑煮食ったりするらしい。あと、なんか初詣とかにも行くらしい。
イオは今日、ミカたちと初詣に言った後、エイコが創ったゲームをやるとか。
あたしは別にどうでもいい。
ゲームに興味がないわけじゃないが、面倒だ。
イオが帰って来た後に行くとするかね、あたしも何かお参りしておくべきだろう。
……だがなぁ、正直行きたいかと言えば、別にって感じなんだよな……。
だって、あの本に書かれていたことが事実なら、この世界を管理しているのって、あれだろ? あたしがマジでイラッとしたあいつだろ?
普通に考えて、邪神が出現した後、
『やっちゃったぜ☆』
だぞ? 弁明もなしとか、マジふざけんな! とか思って、一発顔面殴ったよ。
というか、神って普通に人間でも倒せる相手ってのが面白いよなぁ。
邪神も、堕ちたとはいえ、神だしな。しかも、通常より強くなるから、厄介だったし。正直言って、普通の神だったら、イオでも倒せるな。まあ、もうちょい鍛えないといけないが。
まあ、やらんけどな。神なんて倒しても、いいことはない。
世界がちょっと崩壊しかけるだけだ。なら、意味がないというものだ。
しかしまあ、一応行くか、お参り。面倒だが。
さて、軽く着替えて外へ。
さすがに、普段の服装だと変に注目を集める。あたしは気にしないんだが、イオが、
『ちょっとは気にしてください!』
とか言われたんで、仕方なくやめた。
ほかならないイオの頼みなら、仕方ないんだがな。正直、こっちの世界であいつの言うことを聞かないと、色々とまずいし。
酒を禁止されるのはちょっとな……。
そんなわけで、Yシャツにジーンズ、コートを着て終了。まあ、悪くないけどな、これ。
適当に近くの神社へ。
たしか『美天神宮』だったか? どうやら、幸運と恋愛にまつわる神がいるらしいんだが……どうなんかね?
日本には、八百万の神という考え方があるらしいが、そんなに神っているのか? と疑問に思ったものだ。
いや、世界の数だけ神がいると思った方がいいんだろうがな。
にしても、すげえ視線が来るな。
そんなにあたしって目立つか? たしかに、それなりには容姿が整っていると自負してはいるが、イオには劣るぞ?
ただまあ、やっぱ視線が来るってのは、マジでムカつくな。
不躾というか、なんというか……こいつらには、礼儀ってものがないんかね? いや、あたしが言えたもんじゃないが。
一人並び、順番を待つと、ようやくあたしの番が回って来た。
願い事か……。
そうだな。あれにしよう。
(今年じゃなくてもいい。いつか、ミリエリアの転生体に会えますように。そして、なんかこう、適当に過ごせて、イオの謎がそこそこ解明されますように)
これだな。
まあ、ミリエリアは出来たら、という考えなんで、別にいいんだが。自力で探したい。
本命はイオの方だ。
あいつって謎だし。謎の塊だし。だからこそ、魅力的、などと言う奴がいるが、あいつの場合、謎のレベルが異常だ。
少しずつ解明していきたいところだが、そう簡単には行かないだろうな。
別に、最悪謎がハッキリしなくてもいいがな。あいつがあたしの大切な愛弟子であることに変わりはないわけだしな。
あぁ、そういやあいつの『アイテムボックス』も変だったな。
まさか、中に入れるとは思わなかった。
しかも、妙に白かったし。
遠くに何か見えたような気がしたが、気のせいだろう。
だが、魔力さえあれば飲み食いし放題という、夢のような物だから、さすがに羨ましかった。
あたしですら、あんなに素晴らしいものは持っていないというのに。
というかだな、ますます謎が深まったぞ?
一応、『アイテムボックス』は魔法であり、スキルだ。
まあ、そいつ個人の固有魔法と言ってもいいかもしれん。
人により、収納量や効果は若干違ってくるしな。
例えば……あたしなら、ナイフ換算二十億本は軽く見積もっても入るだろう。
だが、イオのあの『アイテムボックス』は確実にそれ以上だったように思える。あれに関しては、あたしを超えているな。なんか、釈然としないが。
そもそも、限界はなさそうだったしな。
実際『アイテムボックス』ってのは、使用者の素質によって収納量に、収納レベルが違う。
収納レベルってのはあれだ、一度に入れられるものの大きさの事を指す。
あたしなら……まあ、家は入るな。うん。
イオなら……ビルくらいなら入るか?
それに、中に家があるしな。めちゃ住みやすい家。
最悪の場合、世界が崩壊するなんて事態が発生しても、あそこに避難すれば入った奴は助かるだろうな。イオが閉じれば、その空間はそこになく、別の次元に存在するわけだし。
この辺りは、『アイテムボックス』共通の原理だがな。
まあ、入るなんて馬鹿なことができるのは、後にも先にもイオだけだろう。
なんだよ、『アイテムボックス』に入れるとか。馬鹿にしてるのか?
世の中には『空間生成』とかいう、頭のイカレた魔法があるが、あれはよくて数人しか避難できない上に、空間は別次元に行くわけじゃないしな。
だから、イオのあれはハッキリ言って反則だ。
あそこに逃げれば絶対に攻撃を受けない。
とはいえ、この世に完璧とか絶対とかみたいな状況はない。
だから多分、何らかの抜け道はありそうだな。それこそ、次元を超えて攻撃する何か、とかな。あたしはまだ持っていないな、そう言った攻撃方法は。
その内探しておきたいところだ。
万が一、別次元に逃げ込む敵が出てきたら、手出しができなくなるからな。
頑張ってみるとしよう。あたしの固有技能をもってすれば、不可能ではないはずだ。多分、きっと、おそらく。
「さて、帰る――」
帰ろうと思った時だった。
『ガァァァァァァァッッッ!!』
獣みたいな雄叫びが聞こえた。
一体何だと思って声の方へ行ったら、いたわ。ブライズに取り憑かれた男が。
しかも、なんだ? 今までの奴らとはまったく違うぞ? 殺気バリバリだし、明らかにステータスは400以上。
どう考えても、こっちの人間に止められる奴じゃないだろ。
てか、神社で暴れるとかマジか。
こっちの世界、意図してか知らんが、神社には聖属性の魔力がそれなりに漂っていた。
おかげで、悪霊やらブライズやらがいなかったんだが……まさか、それを超えて、取り憑くとは思わなかった。
「チッ、仕方ない」
突然の出来事で逃げ惑う一般人の奴らとは反対方向――すなわち、暴れている男に向かって突っ込む。
「らぁっ!」
『ウグゥッ!?』
ある程度手加減した蹴りを、男の腹部に思いっきり叩き込むと、敷地内の雑木林に突っ込んでいった。
いくつかの木をなぎ倒しながら吹っ飛んだが、まあブライズが取り憑いてるから問題ないだろ、頑丈さについては。
てか、マジで頑丈だしな、あいつら取り憑くと。身体能力が底上げされるし。
『グゥゥゥゥゥッッッ!』
「なんだ? ブライズが強すぎて、言葉が喋れなくなってるみたいじゃないか」
まあ、言葉を話すブライズなんて、イオが倒したって言うあれくらいみたいだし、本来なら喋らない方が普通だと思うんだがな。
『ガァァァァ!』
「おっと」
いけないいけない。つい、無駄なことを話しちまった。
突然突っ込んできたぞ、こいつ。
ステータス400以上ってことは、向こうの世界で言えば……まあ、ヴェルガ以下、と言ったところかね?
あくまでも、ステータス自体がそうであって、ド素人と本職じゃ話は違う。
あの本には、ステータスはあくまでも、基本的な数値を映し出していると書かれていた。状況次第で増減するとも。
それはつまり、感情次第でも変化する可能性がある。
怒り狂った奴ほど、身体能力がそれなりに向上していた気がするしな。
それに、能力やスキル次第でも変化するんだ。あたしははなから、ステータスなんざ信用しちゃいなかった。あくまでも、基本的な情報しかなかったしな。
参考程度に見ていたさ。
だからまあ、事実を知って、かなり驚いたわけだが。
『ガァッ! ウゥッ!』
「よっ、ほっ、と。どうしたどうした、攻撃がワンパターン過ぎてつまらんぞ」
がむしゃらに殴る蹴るを繰り返してくる男は、ブライズの影響なのか、宿主の経験不足なのかはわからないが、どうにも攻撃が一定だった。
まあ、こっちの世界じゃ戦闘なんて身近じゃないしな。そんなもん、武術をやっているか、戦争をやっているか、それか殺し屋をやっているかじゃない限り、弱いに決まっている。
あたしからすれば、弱い奴らしかいない。
だからこそ、それ以外が発達し、便利になったんだろうがな、この世界は。
言わば、頭脳派な世界。
大して、あたしの住んでいた世界は、頭脳派ではなく、まあ、脳筋というやつだろうな
力で解決できるような事柄が多いしな、あっち。
なんだかんだで物を言うのは、力だった世界だ。力がなければ生き残れないし、誰も守れない。それどころか、あたしは守れなかった奴ばかりだ。
『ウグルァッ!』
「うるせぇ!」
うっとおしかったんで、聖属性を纏った腕で、裏拳を叩き込んだ。
『ンゴフゥッ!?』
ドゴンッ! とか、メキメキッ! とか、そんな音がしたが知らん!
こっちが色々考えてる時に、『ガァ』だの、『グゥ』だのうるっせぇんだよ。
そもそも、ブライズがマジでしつこいんだよ!
何だこいつら! 世界中の至る所に出現しやがって……!
あたしが何をしたって言うんだこの野郎。
てか、なんでこの世界に出現したんだよ、こいつら。
別にこの世界じゃなくてもよくね!? 世界は無数にあるんだろ!? だったら、この世界に来るんじゃねえよ!
で、あたしの攻撃は効いたのか?
『い、いってぇ……な、なんだ? やけに体のあちこちがいてぇ……』
お、どうやら戻ったらしい。
安心安心。
……じゃねえんだよなぁ……。
これはあれだ。
ブライズの発生源をあたしは調べないといかん。というか、調べないとどうしようもないし、なんの解決にもならん。
ならば、解決策を探るべく、あたしはブライズが発生した原因を探らないと、おちおち酒も飲めねぇし、おちおち学園で教師もできねぇ。
イライラすんだよ。
だから、ぶっ飛ばすぞ、全部。
ここはあれだ。エイコに頼む。
よし、なら即断即決乗り込む。
「もしもし、エイコか? 今からそっち行く」
『え、い、今から、ってどういう――』
どういうこと、と訊かれる前に、あたしは『空間転移』を使用して、エイコのいる場所に転移した。
「こういうことだ」
「え!? い、いつ見ても、ほんっとうに心臓に悪いから、やめてほしいわ……」
「いや、すまない。ちょいと、こっちでもやりたいことができたんでな」
何せ、なるべく早急に済ませたい用事だしな。
「やりたいこと?」
「ああ。エイコ、頼みがある。ブライズってのがいるって、ちょっと前に話したろ?」
「ええ。たしか、体育祭の時、ミオが倒して回ってた靄でしょ? 佐々木君にも取り憑いていたあれ」
「ああ。それだ」
「それで、それがどうしたの?」
「そいつらがいる世界を突き止めてほしい」
「つ、突き止めてって……理由は?」
「あたしがムカついたから。あと、あいつらしつこい。腹立つ。ウザい。まあ、そんな理由だ」
いちいち、あいつらのせいで駆り出されるのはマジで勘弁してほしい。
いや、駆り出されるってか、あたしが自分から解決に乗り出そうとしてるんだが。
だが、あいつらは許さん。世界中どこにでも現れやがって……マジで面倒くさいんだよ。『空間転移』もタダじゃないんだよ。
あれ、マジで疲れるんだからな?
失敗しようものなら、一瞬で壁の中だぞ?
やってられるか!
「お、OK。とりあえず、頑張って調べて見るわ。ゲームの運営もあるけど、ほかならないミオの頼みだし。それに、異世界って考えてるんでしょ?」
「まあな。あいつらはおそらく、神不在の世界から来たそこの住人だと思ってる」
「か、神?」
「ああ。神」
「え、神っているの?」
「いるぞ? クッソムカつく奴らだがな」
「あ、あぁそう……。まあいいわ。とりあえず、職員に探らせるわ。特徴を教えてほしい」
「ああ、一応データは採ってある。ほれ、ついでにあたしが行った国の空間歪曲のデータだ。これでいいだろ?」
「ありがとう。これで、研究が捗るわ! じゃ、ついでにブライズのデータも送信しておくわね」
こいつの研究好きは、正直異常だろ。なんか、恋人いないみたいだし。作った方がいいんじゃね? こいつは。
「頼む。できれば、早急にお願いするよ。一応、一般人にも被害が出るんでな」
「了解よ」
「じゃ、あたしは帰るよ。これでも、色々とやることはあるんでね」
「ええ、それじゃあね」
「ああ」
用事が終わったんで、家に直接転移した。
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