第222話 三度目の異世界6

 色々とメルと話す。


 内容は、メルが聞きたがっていたボクの三年間の話と、その間の戦争の話。あとは、ボクの世界の話。


 話をしている際のメルは、目をキラキラ、わくわくさせながらボクの話を聞いていた。


 途中、メルから質問があるたび、優しく丁寧に質問の答えを言った。

 ボクの他愛のない話を、楽しそうに、それでいて興味津々に聞いてくれるものだから、ついつい長話になっちゃった。


 でも、すごく癒されるよ、ボク。


 メル、可愛いんだもん。

 こういう妹なら欲しかったなぁ。


「ねーさまの話は面白いのぅ。わくわくで、ドキドキじゃし」

「あはは、そう思ってもらえたなら、ボクも嬉しいよ。まあでも、中には残酷な話もあったけど」

「大丈夫じゃ。これでも、魔王じゃもん! まだまだ、小さいが、いずれはおっきくなる予定じゃ!」

「そうなるといいね」


 微笑みながらそう言う。

 ボクは、身長がほとんど伸びてないけど。

 まあ、一応副作用で大きくなったりできるからいいけどね。


「そう言えばねーさま」

「なに?」

「ねーさまは、ここの女王になってくれるのか?」

「あー、うーん……」


 その話かぁ……。


 どうしようか……。


 別に、象徴だけ、という意味であれば、そこまで問題はないと言えばないんだけど……他にもありそうなんだよね……。


 ほら、一応こっちの世界でのボクの立ち位置と言えば、勇者、と言うことになってるし……。


 貴族でないにしても、王様になっちゃったら、ある意味貴族じゃない? というか、王族? になるのかな、この場合。


 ……いや、おかしくない? それは無理じゃない?


 ボク、ごくごく普通の一般人だよ? どこにでもいる(髪と目は除く)普通の少年だよ? 見た目は女の子だけど……。


 そんなボクが突然王様に! なんて言われても……なかなか難しい。


「メルは、どう思う?」

「儂は、ねーさまが女王になってくれたら嬉しいのじゃ! 儂は魔王じゃから、この国ではトップでな……。まだ生まれたばかりといえど、そこは変わらぬ。みんな儂よりも長生きで、年も上。だから、ちょっと寂しいのじゃ……」


 そう言いながら、しょぼんとするメル。


 たしかにそうだよね……生まれたばかりといえど、メルは魔王。


 魔王は生まれた時から、魔族の中のトップ。


 だから、必然的に歳は一番下になるし、きっと大変なんだろうな、そう思った。

 うーん、正直可哀そうなんだよね……。


 魔王という点を除けば、普通の女の子にしか見えないし……。


 ……あれ? そう言えば、最近生まれたばかり、って言ってたけど……メル、どう見ても小学三年生くらいだよね?


 生まれたばかりなのに、ちょっとおかしくない?


「ねえ、メル」

「なんじゃ、ねーさま?」

「魔王って、生まれた時から、すでに成長してるものなの? というか、魔王ってなに?」

「うーむ、儂も魔王が何なのかわからなくて……。でも、ジルミスが言うには、生まれた時から強大な魔力を持っていて、なおかつある程度成長した姿で、魔族の間から生まれるらしいのじゃ。ただ、魔王が一人いたら、他に魔王は生まれない、らしいぞ?」

「なるほど……」


 魔王が結局何なのかわからないけど、定義は大体わかった。


 生まれた時から、ある程度成長していて、強大な魔力を持っていることが条件。ただし、魔王と誰かの間に生まれた子じゃなくて、魔族の間にできた子供がなる、と。


 うーん、不思議。


 この世界って、色々と不思議なことが多いんだなぁ……。


 あ、でもそれを言ったら、ボクの世界も不思議で満ち溢れているか。

 学園長先生とかね。


「それで、ねーさま。どうか、女王になってくれぬか……?」

「……どうしても?」

「どうしてもじゃ! 儂は、ねーさまに会う前もそうじゃったが、ねーさま以外が王じゃ嫌なのじゃ! ねーさまじゃなきゃ、嫌なのじゃぁ!」


 だ、駄々っ子みたい。


 というか、年齢を考えたら駄々っ子だよね。


 少なくとも、0歳なわけだし……。

 ……赤ちゃんじゃん。


 いや、そうじゃなくて。


 う、うーん、困った……。


「それに、ねーさまは素敵なのじゃ! 可愛いし、綺麗だし、優しい! そんな人が女王なら、最高なんじゃ!」


 何気に褒められた。


 うっ、は、恥ずかしいけど、普通に嬉しいと思っている自分がいる……。


 なんだか、年相応な気はするけど、駄々っ子の内容が、


『お菓子買って!』


 とか、


『アレが欲しい!』


 とかじゃなくて、


『王様になってほしい!』


 なんだもん。


 駄々っ子のレベルがすごいことになってるんだけど。

 未だかつて、0歳の女の子に、


『王様になってほしい!』


 と言われた高校生がいただろうか。多分、世界広し、世界多しといえど、ボクだけなんじゃないかな、こんな状況になったのって。


「う、う~~~~~ん……」


 唸る。ひたすらに唸る。


 正直なところ、何もしないでいいのであれば、問題はないと言えばないけど……僕なんだよなぁ……。


 ボクなんかが王大丈夫なの?

 何もできないよ?

 できても、暗殺くらいだよ?

 暗殺者が王って、嫌じゃない? 普通。


 でも……。


「……(うるうる)」


 すっごく潤んだ目で見てくるんだよぉ……。

 うぅ、そんな目を向けないでぇ……。


 つい、いいよ、って言っちゃいそうなんだよぉ。


 ……し、しかも、


「うぅっ……」


 なんか泣きそうになっちゃてる!


 なんで!?


 そんなにボクがいいの!?


 ボクは、暗殺以外にこれと言った取り柄がない、普通の女の子――じゃなかった、男だよ?

 そんな人が王様とか……大丈夫なの?


「え、えっと、メル? ボクなんかが女王でいいの……?」

「もちろんなのじゃ!」


 うわぁ、眩しい笑顔……。

 ここまで純粋に肯定されちゃうと、なんだか断れない……。


「でも、出会ったばかりのボクに、どうしてそこまで言うの?」

「どうしてと言われても……儂は、ねーさまを一目見た時から、何と言うかこう……この人じゃ! みたいな、感覚があっての。それで、その……ねーさまが女王になってくれたら、嬉しいし、楽しいな、って、思ったのじゃ……」


 もじもじと、少し顔を赤くしてそう言うメル。


 か、可愛い……。


 なんか、本当に妹ができたみたいな気持ちだよ、ボク。


 癒しだよ。ボクのオアシスかもしれないよ、メル。


 ……ボクが女の子になってからというもの、大変の一言で済ませられないようなことが何度もあった。

 そのせいで、ボクの心は疲れてたんだろうね。


 メルのような娘が、すごく癒しに感じるよ……。


「だから、ねーさま。女王になってはくれないか……?」


 変わらずの、潤んだ瞳に、上目遣い。

 あ、うん。


「……わかったよ。引き受けるよ、女王様」


 負けです。ボクの負けですよ。


「ほんと!?」

「うん。メルだって、生まれたばかりで大変そうだからね……それに、何と言うか……よくよく考えてみたら、ボクも無関係じゃないし……」


 復興させないといけない原因を作ったの、実際ボクだしね。


 正確に言えば、ボクと先代の魔王なんだけど。


 ……あー、うん。そもそも、戦争をしていたのが悪いんだけどね……。


 でも、壊しちゃったのは事実だし、少なくともお城はほとんど壊れ、街の方も所々壊れた形跡があったことを考えると、あれ、ボクと魔王の激しい戦闘の末に被った被害だと思うしね……。


 そう考えると、ボクだって無関係じゃないし……どちらかと言えば、加害者だし……。


 それに……


「やったのじゃ! やったのじゃぁ! ねーさまが女王なのじゃ!」


 なんだか、メルが可哀そうだったからね……。


 だって、魔王って聞いて会ってみれば、こんなに素直な女の子だったんだもん。

 予想なんてできないよ。


 だって、ボクが会った魔王なんて。


『フハハハハハ! よくぞ来た、勇者よ! 早速だが……死ねぃ!』


 とか言いながら、会って早々、極大の雷を撃ってくるんだよ? それによって、後方の扉と壁が壊れてたし……。


 本当、何してるんだろうね、あの魔王。


 碌なことをしてない気がするよ……。


 戦争はするし、自分の国は壊すし、関係のない人たちを巻き込むしで、本当に酷いような気がする。

 いや、国を壊したのはボクも関係あるけど。


 そんな、酷すぎた魔王に比べて、ボクの目の前にいる魔王は……


「やった~のじゃ~♪」


 可愛い女の子。

 今も嬉しそうに、鼻歌を歌いながら、ぴょんぴょん跳ねてる。


「それで、えっと、ボクはジルミスさんにも言った方がいいのかな?」

「そうじゃな! 一刻も早く、ジルミスに伝えるのじゃ!」


 元気いっぱいに言うメル。

 本当に嬉しそうだね。

 いや、微笑ましいからいいんだけど。

 癒されるし。



 というわけで、ボクたちは別の部屋に移動。


 場所は、応接室。


 この部屋にいるのは、ボクとメル、それからジルミスさんの三人と、給仕の人が二人。片方がメイドさんで、片方が執事さん。


「それで、話と言うのは何でしょうか、イオ様」

「あ、え、えっと……王の件、なんですが」

「もしや、受けてくださるのですか?」

「色々とメルと話した結果、そうなりました」

「ほ、本当ですか!?」

「はい」

「何と言うことだ……まさか、我々の悲願が達成できただけでなく、イオ様が王になってくれるとは……!」


 感極まったのか、ジルミスさんがほろほろと涙を流し始めだした。

 そ、そんなに嬉しいの……?


「で、でも、王都で話したように、ボクは国営なんてできませんよ?」

「大丈夫です。そっちは我々でどうにかしますので! イオ様は基本、自由で構いません。それに、イオ様はもとよりこちらの世界の人間ではないことを考えると、当然です」

「そう言ってもらえると助かります」

「こちらこそ。ですが、相当重要な議題が上がった場合、その場合は承認をいただけるとありがたいです」

「わかりました。ボクにできることなら何でもしますよ」

「ありがとうございます!」


 ほとんど自由でいいのなら、ボクとしてもありがたいよ。


 だって、ボクにはライトノベルの主人公たちみたいに、そう言った知識がないからね。


 そもそも、なんで普通の高校生やサラリーマンが、国営や建築に関する知識を持っているのかが不思議だけど。


「そうなると、イオ様にはもう一つ、名前があった方がいいでしょう」

「名前? ボク、イオ・オトコメ、って言う名前がありますけど……」

「いえ、そう言うことではなく。簡単に言いますと、ミドルネームのようなものです」

「なる、ほど?」


 それ、いるの?


「リーゲル王国の国王陛下は、ディガレフ=モル=リーゲルと言う名前なのはご存知ですね?」

「はい。一番かかわりのあった王様ですから」

「ディガレフ陛下には、リーゲル、という国名が入っています。ですので、イオ様のお名前にも、そう言ったものを入れた方がいいと思っているのです」

「それ、必要ですか?」

「正直、無くてもいいでしょうが……あった方が、王として認識しやすくなります」

「なるほど……?」


 すみません。ちょっとよくわからないです。

 たしかに、そう言う名前があると、あ、この国の王様なんだな、ってわかるけど……ボクみたいな、ぽっと出の女王にいる? それ。


「ですので、いっそのこと、名前と家名の間に、国名を入れてはどうでしょうか?」

「それ、この国がボクのもの、みたいな感じになりませんか……?」

「いえ、我々魔族たちは、イオ様に従うことを望みにしています。ですので、イオ様の所有する国、という意味で問題はありません」

「で、でも、ほとんど何もしない女王ですよ? それなのに、偉そうに国名を名前に入れるのって……」

「何もなくてもいいのです。イオ様が象徴になっていただけさえすればいいのです。象徴があるのとないのとでは、心の在り方に差が生まれます。イオ様のために頑張りたい! という者たちが、国内は大勢。それどころか、すべての民たちが思っています」

「そ、そうなんですか」


 なんか、すごくハードル上げられてない?

 ボク、何度も言ってるように、普通の高校生だよ? 一般家庭の少年だよ?

 そんな人に、そんな高いハードルを出されても、ちょっと困るんだけど……。


「正直な話、我々魔族たち全員が殺されてもおかしくないことをしていました。ですが、イオ様はそのほとんどを救い、こうして平穏な世界を築いてもらいました。一度は死を覚悟した身です。その助けられた命を、救ってくれた人のために使うことは、おかしなことではないですから。それほどのことを、イオ様はしたのです」

「な、なんだか恥ずかしいですね、正面からそう言われると……」


 褒められたり、感謝されたりするのは嬉しいんだけど、そこまで思われちゃうと、なんだか申し訳ない気持ちになるんだけど……。

 逃がすためとはいえ、攻撃しちゃってるし……。


「ねーさま、顔が真っ赤じゃぞ?」

「し、仕方ないよぉ。だって、慣れてないんだもん……」

「ねーさま可愛いのじゃ」

「あ、あんまり恥ずかしいこと言わないで……」


 純粋にそう言っているんだろうけど。


「それでは、私は貴族たちにこの件を知らせに行って来ますので、失礼します」

「あ、はい。ありがとうございました。ジルミスさん」

「いえ。それでは」


 最後に軽く会釈して、ジルミスさんが部屋から去っていった。


「ねーさま、儂たちも戻るのじゃ」

「うん、そうだね」


 話もとりあえず終わったので、ボクたちもメルの部屋に戻っていった。


 あ、そう言えば、結局名前の件、どうなったんだろう?

 ……後で訊こう。

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