第221話 三度目の異世界5
王都に戻ってお昼ご飯を食べたのち、ボクは再び王都正門前に来ていた。
道中、王都にいる人たちがこぞってボクの所に来たけど、急ぎの用事があると言って逃げてきました。
だ、だってみんなボクにお礼を言ってくるんだもん!
怖いじゃん!
涙流すし、なぜか色々なものくれるしで、怖かったんだよ。
泣く気持ちはわかるけど。
もらいものに関しては……あまりにも押し付けてくるので、結局受け取ってしまった。
もちろん、『アイテムボックス』に収納済みです。
……ボクの『アイテムボックス』って、家とかがあるけど、大丈夫なのかな、大量に物を入れて。
大丈夫……だよね?
まあそれはそれとして、ジルミスさんは……あ、いた。
「ジルミスさん、お待たせしました」
「いえ、全然問題ないですよ。それでは、馬車にどうぞ」
「はい」
何気に馬車。
わざわざこれで来たんだ。
でも、馬車なんてどこにもなかったような気がするんだけど……まあいっか。
ただ『アイテムボックス』を使える人がいただけかもしれないしね。
ボクは馬車に乗り込んだ。
三度目の異世界に来て二日目のお昼。
ボクは馬車に揺られながら、魔族の国に向かっています。
ちらっと外を覗けば、自然豊かな景色が続いていた。
「ジルミスさん、魔族の国ってどういう感じなんですか?」
ふと気になったので、一緒に乗っているジルミスさんに魔族の国について尋ねてみる。
「一言で言うのなら、自然豊かな国、でしょうか」
「え、そうなんですか?」
「はい。特に、果物が特産品ですね。それ以外であれば、装飾品など」
「へぇ~。何と言うか……意外、ですね」
「ははは。まあ、そう思う気持ちはわかります。こちらの国では、割と普通なものが特産品なのですよ。ちなみにですが、こう言った特産品たちは、人間たちの市場にも流しています」
「そうだったんですか?」
「はい」
意外だなぁ……。
何と言うか、イメージとかなり違う。
少なくとも、まだ行ったことがないんだよね……。
実際、魔王城には行ったけど、裏ルートから入ったせいで、魔族の国は見なかったし。
あとは、先入観、かな。
魔族の国って、作品によっては禍々しかったり、おどろおどろしかったりするイメージが強くて。
まさか、そんな外見の国だったとは思わなかった。
「でも、よく特産品を流せましたね」
「こちらにも、人間の協力者がいますからね。そちらを通して売買していたのですよ」
「協力者ですか。もしかして、結構昔からいたりするんですか?」
「そうですね……。少なくとも、百年以上前、でしょうか」
「け、結構長いんですね」
というか、百年以上前ってたしか、師匠が邪神を倒した時代に近い気が……。
その時から続いていたってこと?
す、すごい。
「だからこその、悲願だったのです。ですが、イオ様のおかげで、こうして願いが叶いそうで何よりですよ」
「ま、まあ、まだ王様をやると決めたわけじゃないですけどね」
「それはもちろんです。もとより、こちらの我儘ですから。無理にとは言えません。ですが、イオ様以外にはありえないと思っているのも事実。私だけでなく、国中の者たちがそう思っております」
「本当なんですか? それ」
「はい。何度も行っているように、イオ様は我々にとっても大英雄ですから」
なんか、英雄の上に大が付いてるんだけど。どんどんボクの存在が上になって来てない?
あの、ボクそこまで大それた人間じゃないよ? 少なくとも、王ってタイプじゃないよ? ボク。
一般人なんだけどなぁ……。
それからしばらく、ジルミスさんと談笑をしていると、ようやく魔族の国に到着。
ようやくと言っても、そこまで時間はかかってないと思うけど。
だって、馬車のスピード結構出てたもん。
よくよく見たら、馬車を引いていた馬、魔物だったんだよね。しかも、割と強いの。
それなら速いよね、なんて思いました。
感覚的には、今は三時くらい、かな?
うん。日が沈む前に来れてよかったよ。
「さあ、着きましたよ、イオ様」
「わあぁ……」
窓の外に広がる景色に、思わず感嘆の声を漏らしていた。
ジルミスさんが言っていた通り、魔族の国は自然豊かな国だった。
国を囲むように、崖があって、その上からは滝が流れている。
その下には澄んだ水が溜まり、それが国中に巡るかのように流れ続けていて、一瞬水の都なんて言葉が思い浮かんだ。
それだけでなく、地面は歩きやすいようにされているものの、石畳などではなく、平らにならされた地面。
よく見れば、歩く場所や建物の入り口の前以外は芝生が広がっている。
建造物は多分木造だとは思うけど、なんだか不思議な感じがする。どことなく、石のようにも見える。
他を見渡すと、水が流れている付近では、果樹園や牧場があった。
「綺麗ですね……」
「そう言っていただけて、とても嬉しいです」
そう言って笑みを浮かべるジルミスさんは、本当に嬉しそうだった。
この国が好きなんだろうなぁ、そう思えた。
それにしても、本当に予想外だったよ。
まさか、ここまで綺麗な国だったなんて……。
今まで戦争していたのが嘘みたいな国だよ。
でも、逃がしてよかったと思えるよ、こう言うのを見ていると。
……元が普通の高校生だったからね。殺すなんて、普通はできない。
魔族とはいえ、見た目はどう見ても人間なんだもん。
中には、角や尻尾が生えていたりする人もいるけど。
それにしても、結局のところ、なんで戦争していたんだろう、人間と魔族って。
「さあ、行きましょう、王城へ」
「あ、はい」
窓の景色を見るのをやめ、馬車は王城へと向かった。
王城に着き、中をジルミスさんと歩く。
道中、色々な魔族の人たちが興味津々と言った様子でボクが乗る馬車を見ていたのが気になった。
もしかして、馬車が通ってたことが珍しかったのかな?
それとも、それに付き従うように歩く魔族の兵士の人たち驚いていた、とか?
多分その辺りの可能性が高いよね。
だって、大勢の兵士の人たちが、馬車を守るようにして歩いているんだもん。
何事かと思っちゃうよね。
「それにしても……随分復興が進んだんですね」
歩きながら、そんなことをジルミスさんに言う。
さっきこの国を見た時に思ったけど、復興が、とか言っていた割には全然綺麗だったし、なんなら、このお城だってボクと魔王の戦いでかなり壊れていたのに、かなり修復されていた。
ところどころ、まだ直している途中なのが見受けられたけど、あまり気にならないレベルだった。
「戦争が終結したことで、戦力として使われていた兵士たちや資源をすべて復興に充てられましたから。肝心の王城が汚いのは申し訳ありません」
「いえいえ、全然気にしてないですよ。むしろ、廃墟に近かったお城をこんな短期間で修復したことの方がすごいですよ」
「お褒めいただき、ありがとうございます」
う、うーん、こうも恭しく接されると、むず痒いというか……ちょっと落ち着かない。
「そう言えば、今の魔王ってどんな感じなんですか?」
「今の魔王様ですか?」
「はい。話を聞いている限りだと、ボクを気に入ってる人、という情報しかないので」
「たしかにそうですね。現魔王様は……なんて言えばいいか……とりあえず言えることは、活発、でしょうか」
「活発?」
「はい。決して戦いが好き! とか、逆らうものは皆殺しだぁ! とかは考えていませんのでご安心を」
いや、そう言う意味で聞き返したわけじゃないんだけど……でも、そっか。どうやら、普通の人っぽいね。
あ、でも、魔族だから普通の人、って言うわけじゃないのかな?
「ところでジルミスさん」
「なんでしょうか?」
「なんだか、ボクに対する視線がすごいように感じるんですけど……」
何と言うか、キラキラしたような、神を見るようなというか……そんな感じの視線。
「ああ、それは、イオ様が来ているからですね」
「ボクですか?」
「はい。先ほど、イオ様が昼食を摂られている間に、こちらに連絡をしていたのですよ。そうしたら、英雄が来るぞー! ということで、大騒ぎになっていたようで、こうして見られている、というわけです」
「あ、そ、そうなんですか」
なんだか、たった数時間で、ボクの魔族像が木端微塵に砕かれたんだけど。
この辺り、全然テンプレじゃないんだね。この世界。
……まあ、あっちはあくまでも物語の中のものだから、当然と言えば当然なんだけど。
「さ、着きました。ここが、魔王様のいるお部屋です」
「は、はい」
到着したところの目の前にあるのは、大きな扉。
つい数ヶ月ほど前に見た、重厚で厳かな高さ五メートルはあろうほどの大きな扉。
うぅ、緊張してきた。
でも、出現したばかりみたいだし、きっと赤ちゃんくらいのはず……。
……あれ? そう考えると、ボクの話を聞いて、気に入った、って言うのは変だね。
いやいやいや。まさか、転生、とか?
あ、あり得る……。
そもそも、寿命も延ばせる世界だし、神様がいるんだからなくはない。
これでもし、ボクが倒した魔王の生まれ変わりとかだったら……うん。帰りたくなってきた。
で、でも、一度会うって言っちゃってるし……。
……よ、よし、入ろう。
「し、失礼します」
意を決して、扉を開けて中に入った。
そこには……
「おお! 来たか! そなたが、我が同胞たちの勇者じゃな!? 会えて嬉しいぞ!」
小学生くらいの女の子がいた。
「え、えーっと、あなたが、今の魔王、ですか?」
「うむ! 儂が現魔王、ティリメル=ロア=ユルケルじゃ! 儂のことは、気軽に『メル』と呼んでいいぞ! もちろん、呼び捨てで構わぬ!」
可愛らしい声で、元気に言う魔王。
「あ、はい。えっと、メル?」
あ、あー、本当に活発な感じだなぁ。
たしかに、ジルミスさんが言う通り、活発な印象だよ、今の魔王。
ボクの目の前いる魔王――メルは、見た感じ可愛い小学生、と言った感じかな?
艶のある紫紺の髪をリボンで結わえたツインテール。よく見ると、毛先の方がグラーデションのよう赤くなっている。
活発で勝気な印象を受ける大きな瞳は、血を連想させるかのような、深くて鮮やかな紅。
鼻はスッと通っていて、口は小さく桜色で、柔らかそう。
肌は白く、まるで陶磁みたい。
身長は……うーんと、120くらい、かな?
服装は黒いドレス。ところどころ露出があるけど、なんて言うか……上品に見える。
なんだか、お人形さんみたいで可愛い。
「敬語でなくてもよい! 儂は最近生まれたばかりじゃからのぅ」
「え、そうなんですか!?」
「うむ。あと、今さっき言ったが、敬語じゃなくてよい」
「あ、う、うん。えっと、じゃあ、普通に……」
「ありがとう、イオ殿」
「えーっと、その殿、ってつけて呼ばれるのは、あんまり慣れなくて……できれば、呼び捨てか、別の呼び方をお願いしたいんだけど……」
どうにも、敬われるって言うのは苦手だよ、ボク。
別にさん付けとかならいいけど、さすがに殿とか、様、とかはちょっと……。
「そうか? ならば……ねーさまはどうじゃ?」
「なんで!?」
「何でと言われると……なんとなく、かの?」
「なんとなくでボクはねーさまと呼ばれるの?」
「嫌か……?」
うっ、目が潤んでる……。ボク、こう言う目に弱いんだよぉ……捨てられた子犬みたいな感じの目が……。
「べ、別に嫌、と言うわけじゃないんだけど……」
「では、ねーさまでよいか!?」
わー、目が爛々としてるよぉ……。
これ、断ったら泣かれそうな雰囲気なんだけど……。
……いや、別にねーさま呼びでもいいんだけど……。
「一応ボク、元男だよ……?」
「それは知っておる。さっき、ジルミスから聞いたぞ」
「え、知ってて、ねーさま呼びなの?」
「そうじゃ。儂、お姉ちゃんと言う存在に憧れておってなぁ。ねーさまみたいな人なら大歓迎どころか、お願いしたかったのじゃよ」
「そ、そうなんだ」
憧れてるも何も、生まれたのってつい最近なんだよね?
その辺りの考え方ってどうなってるんだろう、メル。
……まあ、ボク的にも、なんだかメルは妹みたい、っていう印象があるし、いいけどね。
ボク、一人っ子だったからね。
ちょっと嬉しいかも。
……それを言ったら、レノもなんだけど……なんか、レノは得体の知れない何かを感じてて、ちょっと怖い。
なんでだろう? 普通にいい娘なのに。
「では、ねーさま。儂とお話をしてはくれまいか……?」
「お話?」
「うむ。儂は生まれたばかりで、少し前の話とかも知らぬから、いろんな話を聞きたいのじゃ。ねーさまがこっちにいた時の話とか、ねーさまの世界の話とか」
あ、なるほど。
ボクのことは一応聞いていたとはいえ、どちらかと言えば間接的にだからね。
当人の話も聞きたくなるよね。
「うん、いいよ」
「やったのじゃ! 嬉しいのじゃ!」
嬉しそうにメルが跳ねると、ぴょんとボクに抱き着いてきた。
「わわわ! もう、メル、いきなり抱き着いてくると危ないよ?」
「ふふふー、でも、ねーさまなら受け止めてくれるのじゃろ?」
「もちろん」
うん。本当に妹みたい。
ちょっと癒される。
……普段、大変だからなぁ、ボク。
会って数分だけど、メルは癒しだよ……。
とりあえず、色々話すことになったので、場所を移動。今いたのは魔王の間(ボクが以前魔王と戦った場所)だったんだけど、ボクたちはメルの部屋に移動することに。
「それじゃあ早速、色々聞かせるのじゃ!」
「うん。じゃあえっと、まずは――」
そして、メルの部屋に入り、椅子に座るなり、ボクはメルに色々と話し出した。
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