第220話 三度目の異世界4

「ど、どど、どういうことですか!?」


 あまりにも突飛すぎるお願いごとに、ボクは動揺してかみかみになってしまった。

 いや、だっていきなり王になってほしいなんて言われた、誰だってこうなると思うよ?


「それが、我が国では現在、王が不在なのです」

「ふ、不在? もしかして、ボクが魔王を倒しちゃったから、ですか?」

「いえ、新しい魔王はすでに出現しています」

「えええ!?」


 早くない!?

 倒してから、まだ数ヶ月しか経ってないよ!?

 この数ヶ月に一体何があったの!?


「そ、その魔王は、その、戦争とかは……?」

「今の魔王様は、何と言うか、ですね……イオ様の話をしたらどうも気に入られたらしく……ちなみに、共存派です」

「なんで気に入られてるんですか? ボク、普通に色々とやっちゃってると思うんですけど……」


 魔族の人だって、数人殺しちゃってるよ……?

 どうも、すごく酷い人たちだったらしいけど……。


「いえ、むしろ我々の夢のための障害を無くし、戦っていたはずの魔族を殺さず、逃がすと言った優しさ。さらには、諸悪の根源とまで言われた先代魔王すらも倒してしまうほどの強さ。それによって、魔王様が気に入ってしまい……」


 そう言うジルミスさんは、どこか疲れた様子があった。

 どんな魔王なの?


「それから、一応魔族では、トップそのものは魔王様ですが、国王の立場は魔王ではなく、普通の王なのです。最終決定権を有するのは魔王様ではありますが、国の運営に関しては、王となります」

「なんですか、そのややこしいシステム」


 昔の、日本に近い気がするよ。


「その気持ちはわかりますが、そうなっているのです」

「で、でも、ボクは魔族じゃないですよ? それに、あんまりいい顔をされない気がするんですけど……」

「それに関してはご心配なく。むしろ、我が国では、イオ様が王になってほしい、という者たちばかりです。それどころか、上層部ですら、その考えです」

「な、なんでですか……?」


 どうして、ボクが王になってほしいなんて言われちゃってるの?

 ボク、普通の人間だよ? 一般人だよ?


「魔王様が気に入った理由と同じ理由です。先ほど言ったと思いますが、イオ様は人間だけでなく、魔族の英雄であり勇者なのです」

「そ、そうなんですか」


 魔族の人たちに勇者って思われているのは、なんだか不思議な気持ちだよ。

 だって、ちょっと前まで敵対していた相手なわけだし……。

 そんな相手から、勇者って言われると、ね?


「そ、それで、えっと、ジルミスさんはどう思っているんですか?」

「もちろん、私もイオ様が王になっていただけると、嬉しいです。むしろ、イオ様以外にあり得ないとさえ思っています」

「で、でもボク、そこまで……というか、国の運営に関する知識なんて0ですよ? それに、元の世界では、ごく普通の一般人ですし……」

『『『一般人……?』』』


 なんか今、後ろから『は? 何言ってんの?』みたいな雰囲気が発せられたような気がするんだけど……。


「そこに関してはご心配なく。基本的な国営は我々が行います。イオ様は、どちらかと言えば……象徴のような人になっていただければ、と」


 象徴と言うと、日本で言う天皇のポジション、なのかな?

 あの地位も一応、国営には関わらず、日本の象徴と言うものだし。

 でも、象徴としてなると言われると……


「それ、ボクがいる意味、ありますか?」


 つい、こんなセリフが口をついていました。


「もちろんです。イオ様が国の象徴となっていただければ、人間と魔族の架け橋にもなりますし、我が国の方でもイオ様が王となっていただければ、復興にも一層力が入ります」

「つまり、神輿、のような感じでしょうか?」

「少々違いはありますが……そのようなものと思っていただいて構いません」


 う、うーん、これはどうすればいいんだろう……?

 高校生で、いきなり王様に! なんて言われても、正直戸惑う。

 異世界転生系の主人公で、王子様とかに生まれ変わった人はこんな気持ちなのかな。

 ……どうなんだろう?


「お、王様、これ、どうしたらいいんでしょうか?」


 どうすればいいのかわからないボクは、王族である王様に尋ねることにした。


「そうだな……儂としては、受けてもいいのでは? と思っている」


 王様は、肯定的だった。


「え、どうしてですか?」

「考えてもみてくれ。今まで人類の敵として認識されていた魔族たちが、ある日突然無害アピールをして、国交を開いてほしい、などと言っても、信用されないのは火を見るよりも明らかだ。そして、当然相談をしに行く者は魔族の者。いくら、戦争していた相手を匿い、保護していたとはいえ、難しいだろう。我が国、リーゲル王国に関しては、その辺りがそこまで厳しくない。恩には恩を、仇には仇で返せ、そう言っている。今回の戦争では、どちらかと言えば恩を感じる方に傾いている。なにせ、戦争にこれ以上巻き込まれないようにと、安全な場所で保護してくれていたからな。今さっき言ったように、儂は魔族の国と国交を開くつもりだ。そうなってくると……世間的に、イオ殿が王になってくれた方が、何かと言い気がしてな。それに、幸いにも帝国と、皇国の二大国とは同盟関係だからな。信頼関係もある。根回しも可能だ。さらに、両国の王とも個人的な交友関係があってな。まあ、問題はないだろう」

「そ、そうですか」


 王様が言うことは理解できる。


 これから国交を開こうという国が、最近まで戦争をしていた相手で、突然手を結んだりすれば、周囲の国々からいい目で見られることはないはず。

 そうなれば、国の信用も落ちるし、立場も危うくなってしまう。


 でも、ボクが王となることで、外聞的には安全に思わせることができる、って言うことかな?


 でも、それだと……


「これ、ボクが裏切った、なんて思われませんか……?」


 そう見えてしまう可能性もある。


 というより、そう見られる可能性の方が高いと思う。

 客観的に見たら、人間を救った人間が、なぜか魔族の国で王様やってることになるわけだし……。


 ……そう言えば、ふと思ったんだけど、ボクの場合、王様になるの? それとも、女王様になるの?

 ……外見的には後者な気がする。


 まあ、今はそれはいいとして……。


「いや、それはないだろう」

「それはどうしてですか?」

「イオ殿は人間を救った英雄であり、勇者だ。その勇者が自ら国を治めようとするとあれば、客観的に見ると、自ら危険を冒して敵国を統治しようとしているように見えるだろう」

「そ、そんなにうまくいきますか? だって、ボクは権力も何もない普通の人で、それこそ貴族でも何でもないんですよ? しかも、この世界の人間ですらないですし……」

「何を言っているのだ? 人間たちに、イオ殿を疑うような愚か者はいないし、それに感謝こそすれ、罵るなどあるはずがあるまい」

「で、でも、そういう風に見られれば、魔族の人たちの国は、一生下に見られてしまうかもしれないんですよ? さすがにそれはちょっと……」


 ボクが苦い顔をしながら言うと、


『『『――ッ!?』』』


 何やら、魔族の人たちがざわつきだした。

 よく見れば、今にも泣きそうな人たちがいるんだけど……え、なにこれ。どういう状況?


「い、イオ様!」

「は、はい、なんですか?」


 いきなり、大声で名前を呼ばれた。

 ちょっとびくっとしちゃったよ。


「まさか、我々のことを心配していただけているのですか……?」

「え? は、はい。だって、今までの会話を思い返してみても、魔族の人たちが悪いとは思えませんし……それに、悪いのは一部の魔族と先代の魔王って言うじゃないですか? それなら、無関係……とは言えませんけど、少なくとも他の魔族の人たちは悪くないはずですし……。そうなったら、一生下に見られるのは可哀そうと言うか、嫌だというか……。ボクとしては、対等に手を取り合ってほしいなー、って」

「そ、そこまで思っていただけてるなんてっ……!」


 あ、あれ、なんか涙を流し始めたんだけど。

 ど、どうしたの? え? ボク、何か変なこと言った?

 本心を言ったつもりだったんだけど……。


「このジルミス、一生、イオ様に付き従いたい所存です! ですので、どうか……どうか! 我が国で王をやってはもらえませんか!」


 ど、どうしよう。一生とか言われちゃったんだけど。

 当たり前のこと……というか、誰でも言いそうなことを言ったつもりなのに、なんでそこまで思うの?


「あ、あの、ボク以外にきっといい人がいると思うんですけど……。そ、それに、ボクなんかに一生を誓ってもいいことはないですよ? それだったら、ジルミスさんたちの幸せのために頑張った方がいいんじゃないですか?」

「こ、こんな何もいいところがない私の幸せすらも考えて……!? 感服いたしました……やはり、我が国の王は、イオ様以外には考えられません! ですから、せめて、一考してはいただけませんか?」


 うっ、こ、ここまで言われると、なんだか無碍にできない……。

 それに、一応大打撃を与えた原因でもあるし……あーうー……。

 ……仕方ない。


「そ、それじゃあ、えっと……一度そちらの国に行ってもいいですか? その、今の魔王にも会ってみたいですし……」

「ありがとうございます! 魔王様に会っていただけるのであれば、魔王様もお喜びになるはずです」


 ボクが一度国に行くと言うことを伝えたら、ジルミスさんが大喜びした。


「そ、そうですか。それじゃあ、とりあえずお昼を食べてきてもいいですか? お昼時ですし、お腹もすいちゃって……」


 朝は師匠の家に行って掃除をしたり、整理をしたりしたからね、ちょっと疲れている。それに、もうお昼だからね。お腹がなっちゃいそうだよ。


「それはもちろんです」

「それじゃあ、お昼ご飯を食べてから、こちらに戻ってきますので、午後に出発、ということでいいですか?」

「今日このまま来ていただけるのですか?」

「はい。一応、明日には元の世界に帰ることになっていまして……。それに、本来ならこっちに来ることはなかったんですよ。ちょっとした、召喚陣の暴走が原因で、来ちゃいまして」

「なるほど、そうだったのですね。わかりました。私どもは、王都外で待機しておりますので、お戻りになりました、私にお声がけください」

「わかりました。それでは、後程」

「はい。いってらっしゃいませ」


 最後にこんなやり取りをして、一旦この場はお開きとなった。

 一応、王様がジルミスさんに、


「王都内で休息していただいても構わないですが」


 と言うと、


「いえ。ここにいる人たちはまだしも、我々は一応敵だった者たちばかりです。いらぬ騒ぎを起こしかねませんので、我々はここで待機させてもらいます。お心遣い、ありがとうございます」


 と返された。


 気配りはできるし、魔族の人たちのことを第一に考えていて……ジルミスさん、本当にいい人すぎないかな。

 それに、ジルミスと一緒に来た魔族の人たちも自らの意思で来たみたいだし……人望が厚いんだろうなぁ。

 いや、それだけじゃなくて、人間との共存という願いも反映されてるのかも。

 でも、それを抜きにしても、慕われているんだろうなぁ、ジルミスさんは。

 うん。好感が持てるよ。


 そんなことを考えつつ、ボクはお昼ご飯を食べに、一度王都に戻った。

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