第223話 三度目の異世界7

「うーん……」

「どうしたのじゃ、ねーさま?」

「いや、ボクが女王で本当に良かったのかなぁって」


 了承しちゃったけど、これ、普通に考えてボク、流されちゃってるよね?

 う、うーん、流されやすいのかなぁ、ボクって……。

 今思えば、断ったことがないような……?


「大丈夫じゃ! ねーさまなら、問題はないぞ! 儂は応援しとるからの!」

「ありがとう、メル」


 そう言いながら、メルの頭を撫でると、気持ちよさそうに目を細めた。


「ねーさまのなでなで気持ちいいのじゃ~」

「それならよかった」


 メルの頭は撫で心地がいいなぁ。

 なんだかさらさらしてるし。

 妙にふわふわしてる気がする。


「そう言えばねーさまは、いつ向こうの世界に帰るのじゃ?」


 メルが突然そんなことを聞いてきた。


「あー、えっと……今回、こっちに来たのは本当に事故だからね。一応、向こうでは行ってくるとも言ってないんだよ。召喚陣の再起動にかかるのが昨日を含めて二日。だから、明日にはもう帰ろうかと思ってるんだよ」

「そ、そうなのか……?」

「うん。一応、ボクは向こうの人間だからね。ずっとこっちにいる、って言うわけにもいかなくて……」

「嫌じゃ嫌じゃ! ねーさまと一緒にいたいのじゃ!」

「そ、そう言われても……」


 ど、どうしよう。すごく困った……。


 こっちに来た時の予定といえば、帰れるようになるまで適当に観光、っていう予定だったんだよね……。

 正直、魔族の国に来るとは思ってなかった上に、女王になるなんて予想外すぎて……。


「ボクにも家族がいるし、友達もいる。突然いなくなってるわけだから、さすがに心配してると思うし……」


 母さんと父さんに関しては、あんまり心配してなさそうだけど、それ以外の人、未果達なんかは心配してるんじゃないかなぁ……。


 一応、学園長先生の発明品でこっちに来た時は、一週間で一日だったから、もしかすると数時間程度しか経ってない可能性もあるんだけど。


 とはいえ、帰らないわけにはいかないんだよね……。


「な、なら、儂がねーさまと一緒に行けばいいのじゃ!」

「ええ!? いや、それは……」


 色々とまずいような……?

 見た目は人間にしか見えないけど、髪色と瞳の色は明らかに自然すぎて目立つ。

 ボクでさえ目立っちゃってるんだから、メルはなおさら目立つように思える。


「だ、だめか……?」

「……うーん、こっちとは根本的に違う世界なんだよね……。言語だってそうだし、ルールも違う。それに、メルならそこまで危険じゃないかもしれないけど、危険なこともあるんだよ」

「じゃ、じゃが、ねーさまが何とかできんのか……?」

「ボクはそこまで万能じゃないよ。言語なら、まだできるかもしれないけど……」


 少なくとも、『言語理解』のスキルを覚えられれば、だけど。


 師匠は、一瞬で習得してたけど。


 あれは師匠がおかしいのか、単純にすぐに習得できるのかはわからないけど、少なくとも難しい可能性もある。


 ボクも一瞬だったと言えば一瞬だけど。


「そうか……」


 しょんぼりするメル。


 うぅ、だからそう言うのはやめてぇ……。

 精神的ダメージが大きいんだよぉ……。

 こっちが悪いことをしてる気分になっちゃうんだよ……。


 …………し、仕方ない、よね。


「はぁ……明日は帰らないで、一日こっちにいるよ」

「ほ、ほんとか!?」

「うん。一応、女王になっちゃったわけだしね……」


 ほとんど成り行きなんだけど……。

 普通に考えて、女王になった人が、次の日もう帰還って、結構問題あるもんね。


 うん。だから決して、メルが可哀そうだとか、メルと離れるのが辛い、とかではないです。断じて違います。

 ……ほんとだよ?


「少なくとも明日は一緒にいるよ」

「じゃ、じゃあ、明日は儂とずっといてくれるのかの?」

「もちろん」

「わーいなのじゃ!」


 さっきと打って変わって元気いっぱいになったメル。


 うん。可愛い。


 天真爛漫に感じるよ、メルは。

 いや、実際天真爛漫なのかな?

 口調そのものは年寄りみたいな感じだけど、個性があっていいと思います。それに、なぜか似合ってるしね。


「ねーさま、今日は一緒に寝てほしいのじゃ!」

「い、一緒に?」

「そうなのじゃ! 明日はずっと一緒にいてくれるのなら、朝から一緒にいてほしいのじゃ」

「なるほど」


 まさか、そこまで一緒にいたいとは思わなかった。

 すごく、懐かれたような気がするよ。

 妹がいると、こんな感じなのかな。


「うん、いいよ」

「本当か?」

「もちろん。明日までしか一緒にいられないからね。全然いいよ」

「やったのじゃぁ! ねーさまと一緒に寝れるのじゃ!」


 メルの喜び方って、大体同じなんだね。

 全然可愛いからいいけど。


 ……こうしてみると、全然魔王には見えない。

 こんな娘が魔王だなんて、本当に不思議だなぁ、この世界。


 なんて思いながら、喜びながらぴょんぴょん跳ねているメルを見ていた。



 とりあえず、今日明日はお城に泊まることになったので、その件をジルミスさんに伝えると、謎の歓迎パーティーのような物が催されてしまい、かなり疲れた。


 パーティーは苦手なんだよ、ボク……。


 学園のパーティーとかだったら、全然楽しいし、わいわいできるからいいんだけど、こっちの世界のパーティーは、そういうのじゃなくて、本当の意味でのパーティー、みたいな感じなんだよ。


 自分でも何を言っているのかわからないけど、本当にそんな感じとしか言いようがない。


 色々な人に話しかけられて、対応しないといけないし、どちらかと言えば粛々とした雰囲気なので、かなり緊張しちゃって、それどころじゃない。


 ちなみに、ドレスを着させられました。

 ……ですよねぇ。


 ただ、ボクに話しかけてきた人たち、みんな泣きながらお礼を言ってくるので、ちょっと戸惑ったけど。


 でも、悪い人はいなかった。


 本当にいい人しかいなかったもん。


 何か困ったらいつでも頼ってほしい、とか、何人も言ってきた。


 ボクのこの国における立場がすごいことになってるんだけど……。


 すごく困る。


 何をどうしたら、こんな人生になるんだろうなぁ……。


 ちょっと前まで(三年前)は、ごく普通の高校生活を送っていたのに、気が付けば無駄に強くなるし、女の子になるし、挙句の果てには女王になっちゃうし……。


 ボク、かなりの波乱万丈な人生を送ってるね、これ。

 こんなおかしな人生、そうそうないよ。というか、絶対ないよ。


 運、悪すぎぃ……。



 休憩がてら、パーティー会場の端の方で窓から星を見る。


 こっちの世界では星座、という概念はないらしく、単純に星としてしか認識されていなかった。


 と言っても、星座なんてわからないけどね。

 そう言った知識はないから。


 ちなみに、メルは今、パーティー会場の料理を食べてます。

 食欲旺盛だった。


「イオ様」

「ジルミスさん」


 星を眺めていたら、ジルミスさんに声をかけられた。


「此度は、我が国の女王になっていただき、誠にありがとうございます」

「い、いえいえ。人間と魔族の共存を考えたら、ボクがなった方がいいみたいですから」


 王様が言ってたし。

 でもまさか、敵だった国の女王になるなんて、夢にも思わなかったよ……。

 これ、ボクがまだ男のままだったら、王様だったんだろうなぁ。

 本当、どうかしてるよ。


「それで、なのですが、明日、民たちの前でお披露目をしたいと思うのです」

「お、お披露目!?」


 ジルミスさんの発言に、思わず驚いて大声を出してしまった。

 うっ、みんな見てる……恥ずかしぃ……。


「そ、それは、絶対にやらないとダメ、ですか?」

「絶対、と言うわけではありませんが、できることならやっておいた方がいいと思っています。何せ、新しい女王が即位するわけですから」

「そ、そうですよね……」


 お、お披露目かぁ……。

 お披露目って、あれだよね?

 豪華なドレスか何かを着て、大勢の前で姿を見せて、演説のようなことをするっていう……。

 本当かどうかはわからないけど。


「えっと、一応聞くんですけど、それはどこで……?」

「もちろん、王城のバルコニーです。そして、民たちは王城前の広場に集まることになります」

「ち、ちなみに、人数は……?」

「全魔族が集まると予想されますので……少なくとも、一億人はいると思ってください」

「い、一億っ……!?」


 多いよ!


 え、じゃあなに? ボクが女王として即位する国は、一億人もいるわけで、その人たちの上にボクが君臨するってこと?


 う、うわぁ……胃が痛くなってきた……。


 だって、一億って言ったら、日本の総人口に近いんだよ……?

 日本で言えば、総理大臣に近くない? ボクって……。

 ほとんど仕事はしなくてもいいらしいから、天皇のような物かもしれないけど……。


 だ、だとしても多すぎだよぉ……。


「こ、この国って、そんなにいたんですか?」

「はい。魔族は種族がそこそこ多いですからね。色々な種族を総評して、魔族というわけです。ちなみにですが、亜人族は、人間と魔族の間、とも言われていますね」

「へぇ~」


 って、つい感心しちゃったけど、今はそうじゃなくて!


「お、お披露目って、具体的に何を……?」

「そうですね。ドレスを着て、王冠を被ってもらい、バルコニーにて軽く演説をすることになると思います」

「ま、マジですか?」

「マジです」


 本当に予想通りのことだった……。


 え、ボク一億人の魔族の人たちの前で演説するの……?

 ボク、演説とかしたことないよ?


 それから、ボクは貴族でも何でもないから、そう言った教養とか、言葉遣いとかわからないんだけど……。


「え、えっと、その演説は一体何を言えばいいんですか?」

「そこまで堅いものでなくてもいいですよ。自由にお話しいただければ問題ないです。言葉遣いも、わざわざ変えなくても大丈夫ですよ」


 そ、それならよかった……。

 大勢の前で話すのは得意じゃないから、そうしてくれると、本当にありがたい。


「それから、ドレスってどんな感じの物なんですか?」

「イオ様は、派手な物と、大人しいもの、どちらが好みでしょうか?」

「大人しい方ですね。あまり、派手なのは好きじゃなくて……」

「わかりました。では、装飾が少なく、上品なドレスをご用意しましょう」

「ありがとうございます」


 よ、よかった……これでもし、派手派手なドレスを用意されていたら、かなり困ったよ……。


「イオ様が即位することは、ディガレフ陛下を通じて、各国に知らせる手はずとなっていますので、国内外問わず、イオ様が即位したことが知らされるでしょう」


 うわぁ、嫌なことを聞いちゃったよ……。


 明日になったら、魔族の国の女王として知られちゃうじゃん……。

 一応、勇者だからある程度認知されているけど、ここまできたら、かなりの有名人になっちゃうよね……?


 あぁ、こっちの世界に、ボクの平穏はないよ……。


「イオ様」

「なんですか?」

「この度は、本当に申し訳ございませんでした」


 唐突に、ジルミスさんが頭を下げて謝罪を言ってきた。


「え、ど、どうしたんですか? 急に……」

「我が国の事情に、イオ様を巻き込んでしまったことです」

「あ、そ、そう言うことですか。えーっと、まあ、この件は、ボクも関わっちゃってましたし……それに、ボクだって、戦争なんかをするより、手を取り合ってほしいですからね。そのためなら、できることはするつもりでしたから」


 もちろん、ボクの本心。

 戦争中、ずっとそう思ってたもん。

 戦争なんて、してもいいことはないし、残るのは悲しみだけ。

 勝っても何かが得られるわけではないから。


「イオ様は、本当に素晴らしい方です」

「そ、そうですか? 普通だと思いますけど……」

「ご謙遜を。イオ様にとっては普通でも、他の者からすれば、素晴らしいことをしているのですよ」


 む、むず痒い。

 こうも真っすぐ言われちゃうと、照れくさくなるよ。


「さて、私は明日に向けてやることがありますので、ここで失礼します」

「あ、はい。頑張ってください、ジルミスさん」

「ありがとうございます」


 軽く笑みを浮かべ、会釈をしながら、ジルミスさんがパーティー会場を出ていった。

 ジルミスさんって、本当にいい人だね。



 パーティー会場も無事終わり、ボクとメルは部屋に戻り、ベッドに横になっていた。


「ねーさま、あったかいのじゃ……」


 一緒に横になるなり、メルがボクに抱き着いてきた。

 ちょっとくすぐったい。


「それに、ふかふかで気持ちいいのじゃぁ……」


 そう言いながら、メルがボクの胸に顔をうずめてきた。


「んっ……メル、それはちょっとくすぐったいから、せめて抱き着くだけにして……?」

「でも、すごく安心するのじゃ」

「そ、そうなの?」

「うむ! ねーさまのおっぱいは、心が安らぐのじゃ。あったかくて、ふかふかで……それで……きもち、よく……て…………」

「メル?」

「すぅ……すぅ……」

「あ、寝ちゃった」


 気が付けば、メルはボクに抱き着いたまま眠ってしまった。

 寝顔は本当に安らかで、気持ちよさそう。

 とりあえず、起こさないように、布団をかぶる。

 さすがに、風邪を引いちゃうからね。


「ん……ボクも眠くなってきた……」


 メルがあまりにも気持ちよさそうに眠っているものだから、ボクもつられて眠くなってきて、うとうとしてきた。


「おやすみ、メル」


 もうすでに眠っているメルにそう言って、ボクも意識を手放した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る