第224話 三度目の異世界8

 翌朝のこと。


 ふと、目を覚ますと……


「……うわぁ」


 ボクは、大きくなってました。


 はい、例のあれです。


 一度副作用が出たから、今後も出るんだろうなぁ、なんて思ってたら、もう出ましたよ。

 たしかこの姿は、二週間前くらいだったはず……。


 まあ、嬉しいと言えば嬉しいんだけど……この姿だと身長だけでなく、胸とかお尻とかも大きくなっちゃうから、服がきつくなっちゃうんだよね……。


 幸いなのは、寝るのに着ていた服がワンピースだったことかな。

 ……胸だけはきついけど。


「んむぅ……ねーさま……?」


 と、ここでメルが目を覚ました。


「なに?」

「ねーさまじゃぁ……ふかふかなのじゃぁ……くー……くー……」


 あ、また寝ちゃった。

 寝ぼけてただけなのかな?


 それにしても、また抱き着いてきたよ。

 もしかして、これが落ち着くのかな?


 うーん……正直、気持ちよさそうに寝ているところを起こすのは可哀そうだけど、ここは心を鬼にして、起こさないと。


「メル、そろそろ起きて。朝だよ」

「うぅ……いやじゃぁ……ねーさまとねてるのじゃぁ……」

「起きないとだめだよ。ボク、帰っちゃうよ」

「それは嫌なのじゃ!」

「冗談だよ。少なくとも、今日は一緒にいるって約束したんだから。とりあえず、おはよう、メル」

「おはようなのじゃ、ねーさま……?」


 飛び起きたメルに挨拶をすると、普通に返してくれた……と思いきや、ボクの姿を見て固まった。


「ね……ねーさまがおっきくなってるのじゃ!」

「やっぱり、驚くよね」

「も、もしや、昨日のねーさまは仮の姿で、今儂の目の前にいるのが、本物のねーさまなのか!?」

「どちらかと言えば、あっちが本来の姿かな。あと、一応この姿のボクも本物だよ? 偽物じゃないからね?」

「で、でも、昨日よりも大きいぞ? おっぱいとか、お尻とか……」

「なんでそこをチョイスしたの?」


 もっとうこう、身長とかってあったよね?

 なんで、そこ?


「だって、ねーさまのおっぱいとお尻大きいんじゃもん……」

「元男のボクからしたら、あんまり嬉しくないような……」

「じゃが、女はみんな、大きいのは羨ましいと言っておるぞ?」

「そうらしいんだけど、大きくてもいいことないよ? 肩はこるし、運動はしにくいしで」

「大変なんじゃな」

「うん、大変だよ……」


 ……ボクは、なんで小さな女の子に、胸の悩みを言っているんだろうね。


「それにしても、どうしてねーさまは大きくなったのじゃ?」

「あー、えっとこれはなんて言うか……ボクが女の子になった理由に関わってくるんだけど」

「気になるぞ!」

「先代の魔王をボクが倒したのは聞いてるよね?」

「うむ! 悪い魔王だったと聞いておる」


 現魔王に悪い魔王と言われる、あの先代魔王って一体……。


「その魔王を倒した直後に、隙を突かれて、【反転の呪い】っていう呪いをかけられちゃってね。それが原因でボクは女の子になっちゃったんだ」

「そうじゃったのか……先代が悪いことをしたのじゃ……申し訳ないのじゃ……」

「メルが気に病む必要はないよ。悪いのは、先代魔王だから」


 本当に魔王なの? なんて思えるほど、メルが優しいよ……。

 やっぱり、癒し。


「じゃけど、なんでねーさまは大きくなるようになったのじゃ?」

「解呪に失敗しちゃったんだよ」

「なぜじゃ?」

「ボクの師匠が、かなりとんでもない人でね……適当にやったせいで、ボクはいろんな姿になるような体質になっちゃったんだよ」

「大変なんじゃな、ねーさま……」


 ……小さな女の子に、同情されるボクって……。

 なんだか、悲しくなってくるよ……。


「と言っても、不定期で変わるから、自分でもコントロールできないんだけどね」

「だから、ねーさまは昨日その姿じゃなかったのじゃな?」

「そう言うこと。本来はあの姿だからね? 今の姿はちょっとしたミスみたいなものだから」


 本来の姿は、どちらかと言えば、男の時の姿なんだけど、もう戻れないからね……悲しいことに。


 すべての元凶は、学園長先生と師匠の二人。

 あと、王様。


「でも、驚かせちゃってごめんね?」

「構わないのじゃ! 昨日のねーさまもいいけど、今の大人なねーさまも綺麗なのじゃ! あと、ふかふかで気持ちいのじゃ!」

「ふふっ、ありがとう」


 大人、かぁ。

 うん、大人っぽく見えてるってことだよね。

 嬉しいなぁ。

 子供って、素直にそう言うのを言ってくれるから、本当に嬉しいよ。

 綺麗かどうかはあれだけど。


「ねーさま、そろそろ朝ご飯なのじゃ」

「あ、そうだね。それじゃあ、着替えちゃおっか」

「うむ!」


 時間もちょうどよかったので、ボクとメルは着替えることにした。



 もし、姿が変わった時のために、全種類の服を『アイテムボックス』に入れておいてよかったよ。

 おかげで、着れる服がない! みたいな状況にならずに済んだし。


 最悪の場合は、『アイテムボックス』で生成したけど。


 ……『アイテムボックス』で生成、ってどういう意味なんだろうね、ほんと。


 まあそれはそれとして、着替えを済ませたボクたちは、食堂へ。

 食堂へ向かう道中、ジルミスさんとばったり会った。


「おはようなのじゃ、ジルミス!」

「おはようございます、ジルミスさん」

「おはようございます。ティリメル様、イオ、様……?」


 挨拶をしたボクとメルを見て、ジルミスさんも軽くお辞儀をして挨拶してきたんだけど、顔を上げた瞬間にボクを見て硬直。

 メルと同じ反応だ。


「イオ様、なのですよね?」

「そうですよ」

「心なしか、昨晩よりも成長されれているような気がするのですが……」

「えーっと、この姿はちょっとしたあれでして……実は――」


 ジルミスさんにも、ボクがこの姿になった経緯を説明。


「――と言うことなんです」

「なるほど、そうでしたか。先代の魔王が大変なご迷惑をおかけしました……」

「いえ、原因は魔王と言うより、ボクの師匠ですから、全然問題ないですよ」


 問題大ありだけど。


 ボクがころころ姿が変わるような体質なのは、正直かなり困る。

 色々と不便なところも出てくるからね……。


 小さい時は、単純に高いところに手が届かない。

 耳と尻尾が生えた時は、邪魔になるときも多い。

 今の姿の時は、身長こそ嬉しいけど、胸が重くて辛い。

 いいことがほとんどないんだよね……。


 でも、悪いのはジルミスさんじゃないし、謝られても逆に困るというか……。


「そう言っていただけると、ありがたいです。おっと、イオ様とティリメル様は、朝食を摂りに来たのでしたね。それでは、私はこれで失礼します。少々やることができましたの」

「はい。それでは」

「またなのじゃ、ジルミス!」


 最後に軽く会釈をして、ジルミスさんは歩き去っていった。

 大変そうだなぁ、ジルミスさん。

 ジルミスさんがいなくなった方を見ながら、そんなことを思った。



 朝食を済ませた後は、少しお城の中を歩く。


 メルと一緒にいる、って言っちゃったからね。

 だから、散歩がてらお城の中を歩いていると言うわけです。


 お城の中は、意外と普通。

 食堂や応接室、魔王の間に、書斎、会議室のような部屋、厨房、その他にも色々な部屋があった。

 だけど、どれもリーゲル王国のお城にある部屋とほとんど同じだった。


 やっぱり、魔族の人たちって、人間の暮らしと大差ないんだ。

 なおさら、戦争していた理由がわからないよ、本当に。


 二人で一緒に歩いてるからか、メルはずっと楽しそうに大はしゃぎだった。


 生まれて間もないのに、いきなりこんな場所に暮らしていたら、寂しくもなるんだろうなぁ……。

 もし、ボクがメルの立場だったら、きっと寂しがってたよ。


 周囲には結構歳の差がある人たちばかりなんだもん。

 さすがにちょっとね……。


「ねーさまと歩くのは楽しいのぅ」

「そう?」

「うむ! ねーさまと一緒にいるだけで、儂は楽しいし、幸せじゃ」

「あはは。出会ったのは昨日なのに、もう幸せなの?」

「もちろんじゃ! ねーさまは優しくて綺麗で、この国の女王にもなってくれたのじゃ。幸せに決まっておる! ねーさま大好きなのじゃ!」

「わわっ、もぉ、メル、いきなり抱きついちゃダメ、って昨日言ったばかりだよ?」

「だって、ねーさまといるのが嬉しくて……嫌なのか……?」

「それは……嫌じゃないけど……」


 むしろ、嫌なわけがない。


 ボクも、出会ったのは昨日と言えど、なんだかメルが可愛くて思えて。

 だって、こんなに懐かれてるんだよ? 誰だって、小さな女の子にこうして懐かれたら、ボクみたいになると思うんです。

 ましてや、ボクなんて、あんまりいいことがなかったんだから。


「なら、だきついてもいいじゃろ? 昨日のねーさまもいいけど、今のねーさまはもっと気持ちがいいのじゃ」

「そ、そっか。それなら、仕方ないね」


 気持ちがいいのならもう、このままにしておこう。

 なんか、引きはがすのも可哀そうだし……。


 ……あれ? ボクってこんなに子供に弱かったかな?

 ……いや、昔からこんな感じだった気がする。


 それともあれかな? 単純に、普段の疲れが酷すぎて、癒しになってくれているメルに対して、ちょっと過保護になってるだけ、みたいな?


 ……うん。一番あり得るね。


 そっか。ボクってそんなに疲れてたんだね。

 今までの人生を思い返して、ボクは遠い目をした。



 メルとお城の中を歩いていると、ボクはジルミスさんと一緒にある部屋に来ていた。


「えっと、採寸ですか?」

「はい。イオ様がその姿になってしまわれましたので、一度採寸をして、その体に合ったドレスを用意します。万が一なかった場合は、それに近いドレスを見繕い、改修しますので、ご安心ください」

「わ、わかりました」

「それでは、侍女たち、よろしく頼む」

『『『かしこまりました!』』』


 ジルミスさんがそう言いながら、部屋を出た瞬間、控えていたメイドさんたちが一斉にボクの所に集まりだし……


『イオ様、服を脱いでください』


 笑顔でそう言ってきた。


「え、ぜ、全部ですか?」

『全部です』

「わ、わかりました……」


 有無を言わさぬメイドさんの笑顔を見て、ボクは大人しく着ていた服を全部脱いだ。

 こ、これ、下着姿でもよかった気がするんだけど……ダメなの?


『それでは、メジャーを巻いて行きますね』


 この世界にもメジャーってあったんだ。

 なんて思っていると、ボクの胸にメジャーが巻かれ、


「んっ……」


 つい、声が漏れてしまっていた。

 だ、だって、くすぐったいんだもん……。

 女の子になってからというもの、つい声が出ちゃう場面が増えたんだよね……。


『お、大きい……』


 なんか今、メイドさんの驚愕したような声が聞こえてきたんだけど。

 や、やっぱり大きい、のかな?

 ……大きいよね。

 だって、ボクもこれくらいの人を見たことがないもん、身近に。


『次は腰……ほ、細い……』


 今度は、細いという呟きが聞こえてきた。

 ボク、昔から華奢って言われてたから、その辺りは少し細いのかなって思う。


『最後にお尻。……バランスがいい……』


 お尻にバランスも何もない気がするんだけど……どうなんだろう?


『はい、採寸は終わりましたよ。服を着てくださって大丈夫です』

「ありがとうございました」


 軽くお礼を言って、ボクは服を着る。

 それを見計らったかのように、ジルミスさんが部屋に入って来た。


「終わったか?」

『ばっちりです』

『これならば、ちょうどぴったりなサイズがございます』

「そうか、それはよかった。それでは、そちらについては任せる」

『『『かしこまりました』』』


 ジルミスさんの指示を受けたメイドさんたちは、再び部屋に待機した。


「えっと、これで終わりですか?」

「はい。一応、これでやることは終わりです。お披露目は午後三時から行います。着替えを含めますと、午後の二時にはこちらの来ていただけるとありがたいです」

「わかりました。それじゃあ、それくらいの時間にもう一度来ますね」

「はい。それでは、演説までの間は、ご自由にお過ごしください」

「はい」



 そして、再びメルお城の中を歩き、ついに演説の時間がやってきた。

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