第170話 ステータスのみせあいっこ

「へぇ~、いい感じの喫茶店ね」

「だねぇ。こういう落ち着いた雰囲気の喫茶店って、最近見ないもんね」


 仲良く喫茶店に入り、テーブル席に案内されると、ボク、ミサ、ヤオイが並んで座り、その向かい側にショウとレンという座り方になった。


 注文方法は、どうやらあのスクリーンらしく、テーブルを軽くタッチすると、注文用のスクリーンが出現した。


 そこには、色々なスイーツや、軽食類、食事、ドリンクが表示されていた。

 食べたい料理を選んで、注文の文字をタッチすれば、自動的に所持金から引かれて、料理が出現するみたい。


 右上に書かれている数字が、自分の所持金みたいなんだけど……いや、ちょっと待って。


 なんか……桁がバグってない?

 何と言うか、その……400万って見えるんだけど。


 これ、あれだよね。やっぱりこのゲームの舞台って……ミレッドランドだよね?


 さっきからずーっと気になってたんだけど、どう見てもこれ、ミレッドランドをモデルにした世界だよね?


 そもそも、見慣れたスキルやら魔法やらがある時点で色々と変だし、街並みも、お城も向こうにあったのと同じだし……。


 が、学園長先生、まさかとは思うけど……ボクが異世界に行った際、転移システムに問題がないか、というのを調べたかったんじゃなくて、このゲームのためにモデルのデータが欲しかったからなんじゃ……?


 今にしてみれば、その可能性が高い……。


 じゃあこれ、ボクからしてみれば、あんまり目新しさがないような気がするんだけど……これで、ボクが知っている人が、NPCで出現したら、いよいよ確定だよね。


 ……王様とか、レノとか、ヴェルガさんとか出てきたら、本当に笑えないよ。


「ユキ、どうしたの? メニューを見て固まってるけど……」

「あ、う、ううん、何でもないよ。えっと、その……よかったら、ボクがお金を出すよ?」

「え、でも、初期の所持金って1000テリルでしょ? 五人分も買えるお金ないわよね? ましてや、サービス開始はついさっきよ?」

「いやその……ど、どうやら、お金が有り余ってるみたいで、ね。だから、みんながよければ、ボクがお金を出そうかなーって」


 正直、400万もいらないんだけど。


 これ、下手をしたら、向こうの世界にいた時に所持していたアイテム類なんかも、所持品のところにあるんじゃないか、なんて気がしてきた。


 それに、ここのメニューを見る限りだと、どんなに高くても、2000テリル程度。

 400万からしたら、本当に微々たるものだよ。


「変ね……バグかしら? まあでも、奢ってもらえるなら、お言葉に甘えるわ」

「わたしもー」

「俺も」

「当然オレもだ!」

「うん。遠慮しないでいいよ。値段も気にしなくていいから」

「太っ腹ね」

「ユキ君の場合、お腹はすごく細いけどね。太いのは胸部だから」

「も、もぉ! そんなこと言うと、ヤオイの分は出さないよ!」

「ごめんごめん」


 セクハラまがいのことを平気で言うんだもん。本当、ヤオイは油断ならない。


 というわけで、みんなで注文。

 ボクは、苺のショートケーキとコーヒー。

 ミサは、アップルパイとメロンソーダ。

 ヤオイは、フルーツタルトとカフェオレ。

 ショウは、モンブランとブラックコーヒー。

 レンは、カステラとコーラ。


 仮想空間なので、いくら食べてもお腹は膨れない。


 だから当然、太ることもないとあって、ミサとヤオイは大喜びだった。


 ちなみに、ボクは太らない体質なので、そこまで問題はないけど。

 ……なんて思ったら、ミサに睨まれた。


 ボクの方で一括注文すると、一斉に料理と飲み物が出現。

 それぞれが頼んだものを自分の目の前に持って行き、食べる。


「お、美味しい!」

「ほんと……今まで食べたどのアップルパイより美味しいわ」

「フルーツの酸味がちょうどいいくらいで、すっごく美味しいよ、このタルト」

「こっちもだ。すごいな、これ。たしか、味覚の情報を脳に送りこんで、味を大観させてるって話だったが、そうは思えないな」

「どういう仕組みかはわからんが、美味けりゃいいじゃねえか!」


 と、みんな大絶賛。

 みんな夢中で食べる。


 学園長先生、こういうのにこだわってたのかな? 意外と、こう言う部分にはこだわりそうだもんね、学園長先生。


 本当は、食べながら話そう、と思っていたんだけど、思いの外美味しくて、結局話どころではなくなってしまった。

 そのため、話し始めたのは食べ終わってからになった。


「さて、美味しいスイーツも食べたことだし、色々と確認しましょうか」


 そう言って、口火を切ったのはミサ。

 こう言う時、進んで進行役を務めてくれるから、本当にありがたい。


「最初はステータスの確認……の前に、フレンド登録を済ませちゃいましょうか。フレンドのみに見せるようにできる機能があるみたいだし」

「そうだね。じゃあ、みんな一斉に送ればいいのかな?」

「ええ、片方が申請を受理しても登録されるし、両方が申請を送れば、それでも登録は成立するみたいよ。じゃあ、やってしまいましょ」


 というわけで、みんなでフレンド登録を済ませる。

 早速、フレンド欄にみんなの名前が記載された。

 うん。いいね、こう言うの。


「それじゃあ、私から行くわ。どうせ、誰から行っても、同じようなステータスでしょうしね」


 すみません。ボク、同じようなステータスじゃないと思います。


「はいこれ、私のステータスよ」


 そう言いながら、ミサがステータスを表示させる。


【ミサ Lv1 HP60/60 MP20/20

 《職業:侍》

 《STR:35(+1)》《VIT:25(+1)》

 《DEX:30(+1)》《AGI:40(+1)》

 《INT:20》《LUC:30》

 《装備》【頭:なし】【体:ぼろの革鎧】【右手:ぼろの刀】【左手:なし】【腕:ぼろの手袋】【足:ぼろの長ズボン】【靴:ぼろの靴】【アクセサリー:なし】【アクセサリー:なし】【アクセサリー:なし】

 《称号》なし

 《スキル》なし

 《魔法》なし

 《保有FP:40》《保有:SP100》】


 うん。これ、やっぱりボクがおかしいね。


「ミサは侍を選んだんだな」

「ええ。一番ピンと来たのがこれだったからね」

「ミサちゃん、大和撫子って感じだから、結構似合いそうだよね!」

「美人が刀使うってのはいいもんだよな!」

「そうだね。ミサ綺麗だから」

「お、おだてても何も出ないわよ」


 あ、照れた。

 なるほど。赤面したり、というのもあるみたいだね、これ。すごいなぁ。どうやって、再現しているんだろう?


「次、ショウね」

「わかった」


 続いて、ショウがステータスを見せることに。

 ショウがステータスをボクたちの前に表示させる。


【ショウ Lv1 HP50/50 MP35/35

 《職業:戦士》

 《STR:40(+1)》《VIT:30(+1)》

 《DEX:25(+1)》《AGI:40(+1)》

 《INT:30》《LUC:20》

 《装備》【頭:なし】【体:ぼろの革鎧】【右手:ぼろのブロードソード】【左手:なし】【腕:ぼろの手袋】【足:ぼろの長ズボン】【靴:ぼろの靴】【アクセサリー:なし】【アクセサリー:なし】【アクセサリー:なし】

 《称号》なし

 《スキル》なし

 《魔法》なし

 《保有FP:40》《保有:SP100》】


 ……もしや、と思って、期待していたんだけど……ボクのようなステータスは表示されませんでした。

 やっぱりこれ、おかしくない?

 ボクのステータス、どうなってるの?


「ショウが戦士、っていうのはなんとなく理解できるわ」

「どちらかといえば、騎士、って感じだと思うけどねー」

「あれだな。白い鎧とか装備してそうだよな」

「わかる」


 たしかに、ショウのイメージだと、白馬の騎士、みたいなイメージがある。

 実際、王子様衣装着てたけどね、体育祭で。


「それじゃあ次は……レンでいいわね」

「おうよ! これが、オレのステータスだぜ!」


 意気揚々とステータスを表示させるレン。


【レン Lv1 HP80/80 MP20/20

 《職業:重戦士》

 《STR:50(+1)》《VIT:55(+1)》

 《DEX:20(+1)》《AGI:40(+1)》

 《INT:10》《LUC:10》

 《装備》【頭:なし】【体:ぼろの革鎧】【右手:ぼろの大剣】【左手:ぼろの大剣】【腕:ぼろの手袋】【足:ぼろの長ズボン】【靴:ぼろの靴】【アクセサリー:なし】【アクセサリー:なし】【アクセサリー:なし】

 《称号》【悪意を受け止める者】

 《スキル》【金剛Lv2】【精神統一Lv3】

 《魔法》なし

 《保有FP:0》《保有:SP0】


 あ、なんか二つスキル持ってるし、称号も持ってる。それに、素のステータスなら、今のところ、ミサとショウより高い。

 それに、FPとSPが0っていうことは、ボクと同じく、オート作成にしたみたい。


「ショウは、スキルと称号をもう持ってるのね」

「おうよ! オート作成にしたら、こうなったぜ」

「やっぱり、武術経験が反映されたのかなー?」

「多分そうだな。たしか、本人の経験で作成されるみたいだし。で、これらの意味はなんだ?」

「えーっとだな、【金剛】ってのを使うと、一定時間、VITが10%上がるらしい。で、【精神統一】ってのは、使った後の最初の攻撃で、クリティカルヒットを狙えるらしい」

「へぇ、序盤じゃ、結構いい能力じゃない」

「ちなみに、こっちの称号なんだが……常時、ヘイトを集めやすくなる、らしい」

「つまり、タンクとしての役割ってことだね?」

「みたいだぜ」


 なるほど。それだと、レンはみんなの盾役っていうことになるんだね。


「それじゃあ、次はヤオイね」

「おっけー! これが、わたしのステータスさ!」


 テンション高めに、ヤオイがステータスを表示させる。


【ヤオイ Lv1 HP30/30 MP60/60

 《職業:調合士》

 《STR:20(+1)》《VIT:25(+1)》

 《DEX:50(+1)》《AGI:55(+1)》

 《INT:60》《LUC:40》

 《装備》【頭:なし】【体:ぼろの外套】【右手:ぼろの杖】【左手:なし】【腕:ぼろの手袋】【足:ぼろの長ズボン】【靴:ぼろの靴】【アクセサリー:なし】【アクセサリー:なし】【アクセサリー:なし】

 《称号》【腐りし生者】

 《スキル》【調合Lv1】【割合上昇Lv1】

 《魔法》【火属性魔法(初級)Lv1】

 《保有FP:0》《保有:SP0》】


 あ、ヤオイもオート作成だ。

 STRとVITが低いけど、他が高い……。


「調合士ねぇ?」

「リアルじゃ、同人作家だし、作ることが好きなヤオイらしいな」

「でしょでしょー。まあ、これだとみんなと冒険する、って言うよりも、補助役になりそうだけどねー。だから多分、常に引きこもりっぱなしかも」

「調合士じゃあ、そうなるだろうな。んで? この称号とかはなんだ?」

「ボクも気になる。【腐りし生者】って、何?」


 ゾンビみたいな印象を受けるんだけど。


「えっとね、攻撃すると、10%の確率で、腐食攻撃が入るみたいだね。で、調合するとき、腐った系のアイテムを材料にできるみたいだよ」

「まさに、調合士向けの称号ってわけね」

「それで、スキルの方は?」

「えーっと【調合】は見ての通り、調合をするのに必要なスキル。で、こっちの【割合上昇】って言うのは、自分が作ったアイテムに限り、上昇する割合にプラス補正がかかるみたいだよ。まあ、ランダムみたいだけど」

「それはそれで強いわね。ふーん? レンとヤオイがオート作成で、私とショウがランダム生成、と。……さて、最後にユキね。お願い」


 ついにボクの番となった。

 正直言って、これを見せてもいいのだろうか? と、かなり悩むんだけど……出さないと、みんなに悪いし……し、仕方ない。


「え、えっと、お、驚かないでね……?」

「……今ので、すっごく不安になってきたけど、まあいいわ。お願い」


 こくりとうなずいて、ボクはステータスをみんなに見せた。


【ユキ Lv1 HP200/200 MP300/300 

 《職業:暗殺者》

 《STR:120(+1)》《VIT:80(+1)》

 《DEX:90(+1)》《AGI:150(+126)》

 《INT:100》《LUC:200(+100)》

 《装備》【頭:なし】【体:ぼろの外套】【右手:ぼろのナイフ】【左手:なし】【腕:ぼろの手袋】【足:ぼろの半ズボン】【靴:ぼろの靴】【アクセサリー:なし】【アクセサリー:なし】【アクセサリー:なし】

 《称号》【最強の弟子】【神に愛された少女】【純粋無垢なる少女】【変幻自在】

 《スキル》【気配感知Lv10】【気配遮断Lv10】【消音Lv6】【擬態Lv1】【身体強化Lv10】【立体機動Lv10】【瞬刹Lv10】【投擲Lv5】【一撃必殺Lv7】【料理Lv10】【裁縫Lv10】【鑑定(低)Lv2】【無詠唱Lv10】【毒耐性Lv8】【睡眠耐性Lv5】

 《魔法》【風属性魔法(初級)Lv3】【武器生成(小)LV10】【回復魔法(初級)Lv10】【聖属性魔法(初級)Lv1】【付与魔法Lv2】

 《保有FP:0》《保有SP:0》】


「「「「ブーーーッ!」」」」


 みんなが一斉に吹いた。

 ……その気持ちはわかります。


「けほっ、けほっ! ゆ、ゆゆゆゆゆユキ!? な、なんなのこの異常ステータス!」

「お、おおおお前、いくつスキル持ってんだよ!? てか、称号多っ!?」

「いやいや、それだけじゃなくて、魔法も多いよね!?」

「……あらかじめ、驚くな、と釘を刺してきたから、どんなものが出てくるのかと思えば……ぶっ壊れ性能だな、ユキ」

「あ、あははは……」


 もう、苦笑いしかできません。


「……と、とりあえず、効果を教えてもらえる?」

「う、うん。えっと――」


 少し長いけど、みんなにすべての項目を説明。

 その間、飲み物が尽きたりして、何度か注文した。


「――っていうことです」

「「「「……」」」」


 話し終えると、みんな絶句していた。

 いや、絶句と言うより、何も言えなくなっていた。


「……現実でも規格外だと言うのに、ゲームでも規格外とか……おかしいんじゃないの?」

「……否定できません」

「というかこれ、レベル1なんだろ? 普通に考えてやばいだろ」

「そうだね。現時点で、ユキ君に追いつくのって、不可能だよね、これ」

「いやむしろ、俺たちがいらないんじゃないか、と思えるステータスだぞ?」

「……ごめんね」


 本当にそうだよね……。

 これ、下手をしたら、みんなの楽しみを奪っちゃいそうだよ……。


「謝らないで、ユキ。正直、これは仕方ないわ。オート作成にした結果、こんなとんでもないステータスになるなんて、誰も予想できないもの。それに、もしかすると、ユキのようなステータスを持った人がいるかもしれないわ」

「……だと、いいんだけど」

「もしかするとよ、プロの格闘家がプレイしてて、STRとかユキ以上の者になってるやつとかいそうだろ? だから大丈夫だって!」

「……うん」


 みんな、優しいなぁ……。

 ボク、できるだけ出ずっぱらないようにしよう……。


「……にしても、不思議よね。いくら現実のユキが強いと言っても、変よね。ユキ、原因とかわかる?」


 一瞬悩まし気な表情を見せた後、ボクにそう尋ねてくるミサ。


「えっと、ボクの仮説でしかないんだけど……このゲームの舞台、多分、ボクが行った異世界、だと思う」

「「「「マジ?」」」」

「ま、まだ仮説だよ? でも、この街の道は見たことがあるし、お城だって、ボクが一時期住んでいた場所にそっくり……どころか、瓜二つ。それから、ボクの所持金自体が、向こうの世界と全く同じで、通貨の名前も一緒。だから多分、向こうがモデルになってるんじゃないかなぁって」


 という仮説を話すと、みんなはポカーンとした。


 まあ、うん。そう言う反応になるよね……。

 一応、みんなは異世界の話をしているけど、まさかモデルとして出てくるなんて思わなかったんだもん。


「じゃあ、何か? ユキが持っているステータスは、向こう基準、ってことか?」

「た、多分。でも、現実で持っている能力とスキルがいくつかなくて……。それに、現実のボクのステータスは、もっと異常だよ。四桁行くものもあったし」

「……なんかもう、驚く気にもなれんわ」

「ここまで来ると、ユキ君だから、で済ませられるよね」

「「「たしかに」」」

「……あはは」


 ヤオイが言ったことには、本当に乾いた笑しか出てこないよ……。


「さて、と。話し合いも済んだことだし、早速モンスター討伐をしましょうか」

 やや沈んでいた空気を吹き飛ばすように、ミサがそう提案してきた。

 ミサ、本当に優しいし、空気が読めるね……。惚れちゃいそう。……ほ、惚れないけど。


「おーし、じゃあ行こうぜ!」


 そして、それに便乗するように、元気よくレンが高らかに言った。

 初のモンスター討伐に、ボクたちは向かった。

 で、できるだけ、見守る方向で行こう。うん。

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