第264話 イベント当日
それから、少し日は進み、イベント前日。
その日も、みんなと一緒にCFOで遊び、現実に戻ると、ボクの『New Era』に連絡が来ていた。
何だろうなと思って、メールを開くと、送信者は学園長先生になっていた。
件名には、明日のイベントについて、と書かれていた。
「あ、そう言えば明日はイベントだったっけ」
そうなると、明日明後日はボクが色々とやらないといけないんだよね……。
ボク自身が望んでいないことが原因で、色々と面倒くさいことが起こるんだろうね……? ボクって、呪われたりするの?
いや、実際に呪われてこんな姿になったからあれなんだけどね……。
それはともかくとして、内容確認しないと。
えーっと?
『依桜君へ。明日の最終確認です。イベント自体は、やりやすさも兼ねて、土曜日はお昼の二時からになります。少し前に電話で話した通り、二日間の開催になります。一日目は招待状を入手して、謁見の間へ進んで、クエストを発生させる。それで、二日目はイベントを本格的に始めて、合計二十組がクリア可能。この際、開催時間は夜の九時で、時間加速をかけるので、安心してね。街から魔族の国までは、結構かかります。ちゃんとゲームになるように、ということで、現実よりも少し縮小されて作られているけど、それでも、歩いて二時間はかかると思っていいです。さすがに、かなり前から待機というのも、依桜君とメルちゃん的にもきついと思うので、途中までは、未果ちゃんたちとの同行は大丈夫です。明日、依桜君のストレージの中に、魔族の国に転移できるアイテムを入れておくので、それを使って魔族の国に先回りしてね。一応、こっちでも進んでいる人たちの様子は見ているので、一組目が到着しそうになったら、こっちから連絡するので、よろしく。くれぐれも、誰かに見つかることのないように、お願いします。それでは、明日はよろしくね』
なるほど……。
うーん、やっぱり、プレイヤーにイベントの重要キャラを任せるのって、結構まずいような気がするんだけど……。
でも、一応世界初のフルダイブ型VRゲームだから、そういうのもありと言えばありなんだろうけど……。
まあ、今のところは、このフルダイブ技術を提供する予定はない、とか言っていたし、大丈夫なのかかも。
理由としては、
『悪用しそうな人が出るから』
とかなんとか。
でも、それが理由じゃないような気がしてならない……。
表向きは製薬会社ということになってはいるけど、実際は資金を得るための建前の会社で、本当は、異世界に関する研究をする会社だからなぁ……。
それに、詳しい原理こそ知らないけど、あのゲームには異世界研究のぎじゅつもつかわれているらしいから、他の会社がフルダイブ型VRゲームを作るのならば、まずは異世界の研究をしないといけないんじゃないかな、あれ。
最悪、プログラミングだけ学んでもどうにかできるとは思うけど、NPCの細かな反応に、建物の設計やデザインなど、あれらは異世界をモデルにしているから、結構大変そう。
しかも、テレビゲームなどと違って、内装に肌触り、それから温度なども作らないといけないって考えると、本当に異常な技術力な気がしてきた、学園長先生の会社。
……そう言えば、どうやって五感を感じさせてるんだろう、あれ。
…………まあ、今更だよね、あの人に関する疑問なんて。
並行世界と連絡が取れるようにできる装置も作れるし、異世界転移装置も作れる。それから、観測装置も作っているんだから、技術力は間違いなく、世界一だと思う。その辺りだけは。
本当、悪用するような人じゃなくて良かった気がするよ……。
もし、悪用する人だったら、この世界と異世界がくっつく、みたいな世界になっておかしくない気がするもん。
……いや、なんだろう? なんだか、そんな世界が本当に来そうな気がしてならない……。向こうの世界は、師匠のような人がいるし、こっちの世界には、学園長先生のようなおかしな人もいる。そもそも神様だっているわけだし……まあ、師匠曰く、その世界には必ず担当の神様がいるらしいけど。
でも、うーん、神様かぁ……。
最近、ちょっと引っ掛かるようになってきたんだよね。何だろう?
別に、神様の知り合いはいないし……。
そう言えば、前に師匠が、親友だった神と似ている、とかなんとか言ってたっけ。
普段、ボクは女神なんて言われてはいるけど、これでも人間だし……。
まあ、考えても仕方ないよね!
多分、ボクの思い過ごしだと思うし、そもそも世界がくっつく、なんて絶対ないよね。アニメの見過ぎかも。
「んっ~~~はぁ。さて、ボクもそろそろ寝ないとね」
不思議なこともある世界なんだからね。すべてを気にしていたら、身が持たないよね。
そんなことよりも、今は寝て、明日のイベントに備えないとね。
次の日。
今日は土曜日で、今日と明日はCFO内でイベントがある。
そして、ボクはそれに運営側で参加しないといけないわけで……。
うん、まあ、貴重な体験だと思うようにしないとね。
あの人の無茶振りは今に始まったことじゃないもん。
さあ、今日もログイン。
「あ、来たわね」
「ちと遅かったなー、ユキ、メルちゃん」
「珍しいねぇ、ユキ君とメルちゃんが遅いなんて」
「いや、遅くはないだろう。この場合、俺達が早いだけだと思うが?」
「どうも、ユキちゃん、メルちゃん」
「みんな。それに、ミウさんも」
「こんにちはなのじゃ!」
ボクがログインしてくると、みんなだけでなく、ミウさんもギルドホームにいた。
「あら? ユキ、ミオさんも来るみたいなこと言ってなかったかしら?」
「あー、うん。実はね――」
「師匠、今日はログインするんですよね?」
「ん、ああ、そういや、そんなこと言ってたな……たしか、イベントがあるとか何とか」
「はい」
「んで? イベント内容はなんだ?」
「えっと、お城に行ってクエストを発生させたら、明日魔族の国へ向かう、というものです」
「……城? 城ってあれか? あのクソ野郎の城か?」
「は、はい、そうです」
「……で? そのクソ野郎は、いるのか? いないのか?」
「え、えっと、あの……い、一応あの世界をモデルにしたゲームなので、向こうにいる人はほとんどいます……」
「チッ……。正直、あたしは会いたかねぇ。一応そのクエストってのは、途中参加で行けるんだろう?」
「は、はい。学園長先生が言うにはそうです……。一応、ボクたちのパーティーにも空きはありますし、問題はないです」
「そうか。なら、あたしはあいつに会いたくないんでパスだ」
「わ、わかりました」
「――っていうことがあってね……」
「「「「あー……なるほど」」」」
ボクと師匠のやり取りを話したら、みんな苦い顔をしながら納得していた。
メルとミウさんだけはピンと来ていないのか、ちょっと首をかしげていたけど。
「ねえ、ミウさんってどういう人なの? 一応、LINNで話して、少しはなくよくなったと思うんだけど、よく知らなくて」
「そういや、ミウさんは知らないんだったなぁ」
「だね」
「そうね……一言で言うのなら……理不尽、ですね」
「理不尽?」
「はい。実は、あの人はユキの師匠で、異世界では最強の暗殺者です」
「えええぇぇぇぇぇぇぇっ!? ほ、ほんとに!?」
「そ、そうなんです……」
こくりと頷きながら、ボクは肯定の言葉を言う。
「でも、そんな人が、どうしてこの世界に?」
「んまあ、不慮の事故ってやつかなー」
「事故?」
「うんうん。去年の十一月ごろかな? 突然こっちの世界に来ちゃってねー。以来、ユキ君の家に居候しながら、学園で体育の先生をやってるんだよ」
「世界最強の暗殺者が体育の先生って……すごい学園だね」
苦笑い気味にそう言うミウさん。
うん。ボクもその辺りは、本当にすごいと思います……。
神様さえも殺せるような人が、ごく普通の平和な国の、イベントごとが多いだけどの学園で体育の先生をしてるんだもんね。
師匠を知っている人が聞いたら、卒倒しそうだよ。
「そう言えば、みんなってもしかして、叡董学園に通ってたりするのかな?」
「そうですが……ん? 俺達、学園のことを話したか?」
「あ、ううん。バレンタインにユキちゃんと会った時にね、あそこの学園の制服を着ていたからなんとなく、ね」
軽くウインクをしながら、可愛く言うミウさん。
でも、制服を見ただけで学園の生徒ってわかるなんて。
もしかして、声優業のために、色々と制服を見ていたり、とか?
なんて、ないよね。ないない。
そもそも、あの学園ってそれなりに有名だから、たまたま知ってるだけかも。
「でも、叡董学園か……ふふっ、今度、お邪魔しようかな」
うん? ミウさんが今何かを言っていたような……気のせい、かな?
「そう言えば、今日はイベントだけど、ミウさんはイメージキャラクターのお仕事はいいのかい?」
「うん。私は、こういうイベントにはお仕事で参加しないからね。みんなと一緒に同行させてもらおうかなって思ってるの。いいかな?」
「もちろん。ミウさんも一緒なら、きっと楽しいでしょうし」
「そうだな。一人でも多い方がいいだろう」
「オレは異議なしだぜー」
「当然、わたしも!」
「儂もじゃ!」
「ありがとう、みんな」
ここにいるみんなは、普通にミウさんと仲良くなってるからね。
うんうん。よかったです。
と言っても、ボクたちの中に、仲間外れにしようとする人なんていないわけだけど。
「んで、招待状を持っているのは、ユキだけで、たしか、メルちゃんは照合の効果では入れるんだったよな?」
「うむ!」
「それなら、ユキも称号で入れたりしそうよね」
「ボクの場合は、そもそも称号もアイテムもなくても入れるんだけど」
「あり、そうなの?」
「うん」
だってボク、お城に入る際は、顔パスでいい、ってなぜか言われてるんだもん。
もしも、観測装置がそこも考慮していたのなら、問題なく入れそうなんだよね。
「ユキちゃんすごいんだねぇ」
「ま、まあ、すごいのはボクというより、ボクを鍛えた師匠だと思いますけどね……」
もしも師匠に会えてなかったら、ボクは一体、どれだけの時間を費やしていたかわからないもん。
三年で倒せたのは奇跡、なんて言われてたしね。
それのおかげ……というわけじゃないけど、ボクは基本お城にはいつでも入っていいって言われてた。
「それでも、ユキちゃんがすごいことに変わりはないよ。自分の力でそこまで行ったわけなんだから」
「死に物狂いでしたからね……」
「やっぱり、可愛いだけじゃないんだね、ユキちゃんって」
「ふぇ!? い、いいいい、いきなり可愛いって言わないでくださいよぉっ!」
唐突に褒められるのは慣れないよぉ……。
で、でも、ボクってそこまで可愛くないと思うのに、みんな可愛いって言ってくるんだよね……どうしてなんだろう?
「前言撤回。やっぱり、可愛いだけね、ユキちゃん」
苦笑いでそんなことを言わなくても……。
うぅ、なぜかみんなも、生暖かい目を向けてくるし……なんで、そう思われるんだろう、ボク……。
「まあまあ、そんなことよりも、そろそろイベントのトリガーを引きに行きましょう。と言っても、私たちの場合は、ただ城に行くだけで済むけどね」
「そ、そうだね……早く、行きましょうか……」
ちょっとだけ落ち込みました。
……あれ、そう言えば、お城に向かう道中、なにか重大なものがあったような……なんだったっけ?
……まあ、忘れるくらいだから、そこまで重大じゃないよね、きっと。
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