第265話 クエストフラグ

 みんな集まり、イベントクエストを発生させるためにお城へ向かっている道中のこと。


 ボクが出発前に、何か重大なことがあるとか何とかが頭をよぎった際、重大じゃないと、楽観視していたんだけど……その気安い心構えが、今のボクを完膚なきまでに叩きのめしてきました。


 というのも、


「「「「「お、おおぅ……」」」」」

「~~~~っ!」


 王城へ行く道中には、まだ男だった時のボクを象った像が建てられていた。

 その姿は、なぜか鎧を着ていて、ナイフなどの小型武器などではなく、ロングソードを掲げていた。


 そんな姿が、ボクの幼馴染や友達たちに見られているわけで……正直、恥ずかしがらないわけがない。


 現に、今は顔が真っ赤になって、手で顔を覆いながらうずくまってしまっていますよ、ボク。


「ねーさま、これはなんじゃ?」

「…………お、男だった時の、ボク……」

「おぉ~、これが、ねーさまがにーさまだった時なのじゃなぁ。うむ! かっこいいのじゃ!」

「や、やめてぇっ!」

「しっかし、鎧を着たユキが見れるとはなぁ……似合ってると思うぜ?」

「そうね。まあ、女顔だし、ちょっとあれな部分はあるけど」

「でもでも、このキリッとした表情いいねぇ。かっこいいなー」

「ユキちゃんって、本当に勇者だったんだねー」

「やめてぇっ! ボクの恥ずかしい黒歴史を見ないでぇ!」


 そもそも、あんな表情ボクは一度もやってないからぁ!

 なぜか、これを造った人たちが、勝手にあんな表情にしただけだもん!

 ボクじゃないもん!


「そろそろ、やめないと、ユキがなにをするかわからないぞ」

「し、ショウ……」


 神様って、ボクの近くにいたんだね……。

 本当に、ショウはいい人――


「たとえそれが、普段のユキからは想像もできないほど凛々しい表情をしていたとしても、笑っちゃいけないぞ」

「うわぁぁぁぁぁんっ! ショウのバカぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」


 ――味方なんていませんでした。


「うぅっ……みんな、酷いよぉ……」


 数分後。


 そこには、泣き崩れているボクの姿がありました。


 だって、みんなしてボクの黒歴史について言ってくるんだもん……。


 味方だと思ったショウまで、とどめを刺しに来たし……。


 ボク、本当に友達だと思われてるのかなぁ……。


「ごめんって。つい、幼馴染の有名っぷりが嬉しくなっちゃってね。それで、悪乗りを……」

「……ぷいっ」


 未果が謝ってくるも、ボクは意に介さず、そっぽを向く。


「悪かったって。だってよ? この銅像、普通にかっこいいしよー。なんか、褒めたくなるだろ?」

「……つーん」

「ユキ君。本当にごめんね? やっぱり、友達的には、こういうのって嬉しいものなんだよ。だって、自分たちが知らないところで、こんな風に称えられてるわけだし」

「……むぅ」

「ユキちゃん。みんなは褒めてくれてたわけだし、ね? 私だって、男の時のユキちゃんはカッコいいと思うよ? 個人的には、好みだし……」

「……ふんっ」

「機嫌を直してくれ、な?」

「……ショウは絶対ダメ」

「なぜ、俺だけ!?」


 だって、上げて落としてきたんだもん。

 許せません。


 ……うぅ、こんな黒歴史、無くなってしまえばいいのに……。


 あと、あれを見た人たちの記憶、全部全部消えちゃえばいいのに……。


 はぁ……。


「まあ、あれに関しては、ショウがとどめ刺したわよね」

「「「「うんうん」」」」

「いや、こういう役回りは、レンじゃないのか!?」

「ちょっ、それどういう意味だよ!?」


 みんな元気だね……。

 うぅっ、こうなったら……


「……その内、みんなの黒歴史を暴く」

「「「「「――ッ!?」」」」」


 ボクだけがそうなるなんて卑怯だもん。


 それならいっそ、みんなにもボクと同じレベルの黒歴史を暴いて、恥ずかしい情報を白日の下に晒そう。


 うん。そうしよう。


「ねーさま。黒歴史、とはなんじゃ?」

「……その人にとって、誰にも知られたくない思い出のことだよ」

「そうなのじゃな。ということは、ねーさまにとって、あの像は黒歴史、ということなのじゃな?」

「そうだよ。ねえ、メル」

「なんじゃ、ねーさま?」

「メルは……ミサたちの黒歴史、知りたくないかな?」


 にっこり微笑んで、ボクはメルに尋ねた。

 裏で、ミサたちの息をのむ気配を感じたけど、知りません。

 自業自得です。


「うむ、知りたいのじゃ!」

「そっかそっか。それじゃあ、あとでボクの持てるすべての力を使って、暴いてくるね」

「楽しみなのじゃ!」

「ふふっ、楽しみにね」


 がっくりと項垂れたような気配があったけど、反省してください。



 この時、ミサたちは思った。


((((この理不尽さ、ミオさんの影響受けてない?))))


 と。



 とりあえず、みんなの黒歴史を暴くということで、ボクの悲しみは収まり、ボクたちはお城へ向かう。


 すると、お城の前にはすでに、かなりのプレイヤーさんたちが集まっていた。


 第一回目のイベントで10位以内に入った人たちは、招待状を入手出来ている。


 それで、その人がフレンドの人たちとパーティーを組んだり、もしくはギルドを結成したりして、その人たちと行くことは可能になるわけで……。


 このゲームのパーティー制限人数は、八人。


 ちょうど、ボクたちのギルドの人数と同じ。


 だから、もしも最大人数で1位~10位の人たちがイベントに臨むとしたら、合計八十人ほどになるのかな。


 でも、見た感じ、ここにはそこまでの人数はいないね。


 多分、少数精鋭で臨むのか、単純に友達同士でやるのか、という感じになってるのかも。


 順番待ちのように並んでいるので、ボクたちも並んでいる人たちの最後尾に並ぶことにしたんだけど……


『ユキ様のご到着を確認。ユキ様、どうぞお通りください』


 なぜか、システムの音声が発された。


 その内容は、ボクたち……というより、ボクに向けてのメッセージだった。


 ……しかもこの音声、ボクだけじゃなくて、周囲にも聞こえていたところを見ると、個別じゃなくて、オープンだったんだね。


「と、とりあえず、入ろっか……」

『待ち順を飛ばして、入城……?』

『あいつら、誰だ?』

『……ん? いやあれ、女神様じゃね?』

『うわ、マジだ! すっげえ、初めて近くで見た』

『ってか、容姿が整ってるやつばっかだなー。容姿は簡単に作れるとはいえ、マジすげえ』

『一緒のパーティーのあの男二人が羨ましい……』


 周囲からの奇異の視線を受けながら、ボクたちはお城の中へと入っていった。



「まさか、順番を飛ばして入れるとは思わなかったわ」

「あ、あはは……ボクも予想してなかったよ……」

「やっぱり、ユキが運営側で参加できるからか?」

「いやいや、単純にイベントで1位だったから、って可能性もあるぜ?」

「んー、単純にユキ君の偉業が認識されていたから、そのまま通れた、っていうのもあるよー?」

「ユキちゃんすごいねぇ」

「あ、あはははは……」


 ボクの場合、みんなが言った可能性全部があり得そうで怖いです。

 この場合、一番考えられる可能性はショウが言ったものかな。


「お~、ここがねーさまが一年過ごしたという城なのじゃなぁ。人間の城を見たのも始めたじゃが……うむ! 白くて綺麗じゃ!」


 初めて見る人の国のお城を見て、大はしゃぎなメル。


 ボクたちから離れては、ぴょんぴょんと跳ねるように動き回っている。


 うん。和む……。


 しばらく、そんな調子で進んでいると、目の前に大きな扉が見えてきた。


 謁見の間へ入るための扉。


 この先に、王様がいるんだけど……そう言えば、レノとセルジュさんっているのかな?

 一応異世界がモデルなわけだし……。


 その場合の反応がどうなるかはわからないけどね。


『ユキ様ですね? 招待状の提示をお願いします』


 扉の前まで来ると、扉の横に控えていたメイドさんが目の前に立ち、招待状の提示を求めてきた。


「えっと、どうぞ」

『はい、確認しました。同行者、ミサ様、ショウ様、レン様、ヤオイ様、ミウ様、メル様の計六名を確認。ようこそいらっしゃいました。この扉の先で、ディガレフ陛下がお待ちです。どうぞ、お進みください』


 招待状を見せたら、進むよう指示され、ボクたちは中へと入っていった。



「よくぞ参った、強き者たちよ。リーゲル王国国王として、歓迎しよう」


 入って、王様の前まで来ると、突然そう言われた。


 お、おー、王様って、ちゃんとした場面だとこういう風に喋るんだ。


 ボクの知ってる王様って、こう……人に命令するだけ、みたいな人だから、ちょっとびっくリ。


「して、ここまで来た貴殿たちに、依頼をしたい」


 えっと、これって何か返した方がいいのかな?


「な、なんでしょうか?」

「うむ。つい最近、この国では、魔族の国、クナルラルとの交流が始まっておってな、明日、ついにその第一歩となる貿易が始まる。本来であれば、我が国の精鋭たちに護衛を任せるはずだったのだが、突然の魔物襲撃により、人員が減り、護衛が難しくなってしまった」


 なるほど。そう言う感じのシナリオなんだ。

 うーん、こういうのって、AIが創ってるのかな?


「そこで、強き者たちである、貴殿らに、物資を運ぶ者たちの護衛を依頼したい」


 王様がそう言うと同時に、ボクの目の前にスクリーンが出現した。


 その内容は、


《クエスト:クナルラルとの貿易 内容:クナルラルに輸送する物資を積んだ馬車の護衛 成功条件:物資を特定ポイントまで守り通すこと 失敗条件:馬車の破壊 報酬:各自に、三十万テリル・称号【護衛の成功者】の授与 注意:このクエストは、受注したパーティーリーダー以外も個別で発生したことになるので、当日受注者がいなくてもクエスト進行が可能 受注しますか? Yes/No》


 と出てきた。


 かなり細かいことまで書いてあってわかりやすい。


 それに、パーティーメンバーのみんなにも、個別で受注したことになるところを見ると、これでボクがいなくなっても問題がないわけだね。


 一応、みんなの方を見て、視線で確認。


 こくりと頷いたので、ボクはYesの文字をタッチした。


「おお、受けてくれるか! では明日、時間を指定するするので、その際街の正門へ来てくれ」

「わかりました」


 そう言って、クエスト発生は終わりかな、と思って帰ろうとしたら、


「ところで……そなたはもしや……クナルラル女王、ユキ女王陛下ではないか?」


 そう、王様に尋ねられた。

 あ。そう言えば、学園長先生に、一応特殊会話が発生する、って説明されてたっけ。

 すっかり忘れてた。


「は、はい」

「おお、まさか、強き者たちの中に、クナルラルの女王がいるとは! これはこれは、遠いところからわざわざ来ていただき、感謝します」

「い、いえ。それで、えっと、何か御用ですか?」

「いえ、儂が挨拶をしたいと思っただけのこと。お気になさらず。ユキ女王陛下。いや……勇者殿、とお呼びした方がよいか」


 …………あ、うん。そう言う感じなんだね……。


 な、なるほど……一応、向こうでの出来事はこのゲームでも反映されてるんだもんね。だから多分、ボクと王様が知り合い、という部分もある程度反映されてるんじゃないかな、これ。


「や、やめてくださいよぉ。い、一応一般人ですし……」

「フフフ、いやなに。世界を救った勇者殿がいるのだ、こちらとしても、敬意を評したいのだよ、ユキ殿」

「そ、そうですか」


 やっぱりこれ、ボクと知り合い、という部分が反映されてるね。

 別にいいんだけど……。


「しかし、そうか。女王陛下がこちらにいるとなると、少々問題がある……うむ。女王陛下、このアイテムを使用してくだされ」


 そう言って、ボクのストレージに何かが収納された。


【転移の羽:転移先『クナルラル:魔王城』】


 というもの。


 なるほど、クナルラル専用のアイテムって言うわけなんだね。


 あれ、学園長先生、ボクのストレージに入れておくって言ってたけど、こういう風に渡す方向にシフトチェンジしたのかな?


 でも、こっちの方が面白いからいいかもね。


「ありがとうございます」

「うむ。それでは、明日はよろしくお願いします」


 そんなこんなで、イベントクエストの発生は完了しました。


 それにしても、王様の受け答え、かなり自然だったなぁ……まるで、本人みたいだったよ。

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