第266話 護衛イベント開始前

「それにしても、ユキちゃんが女王様かぁ。なんだかびっくり」

「あ、あれ? 言ってませんでしたっけ?」

「うん。メルちゃんが魔王なのは聞いたけど、ユキちゃんがそこの女王様、っていうのは聞いてなかったから、ちょっとびっくりだったよ」


 苦笑い気味にそう言うミウさん。


 そっか。

 あの時話したのは、メルのことだけだったんだっけ。


 まあ、メルのことについてしか尋ねられなかったから、仕方ないと言えば仕方ないのかな?


「私たちも話には聞いていたけど、ゲームとはいえ、いざ目の前でそれを見せつけられると、普通に驚くわ」

「王様から、女王陛下と呼ばれる、銀髪碧眼美少女……うん、いいね!」


 一体何がいいのかわからない。


「しかし……大丈夫なのか?」

「何がだ?」

「いや、ユキが魔族の国の女王だと知れたら、それこそ大騒ぎになるんじゃないか?」

「あ、たしかに。ユキちゃんって、結構有名人だし、しかも、かなり可愛いから、余計に有名になっちゃうかも」

「う、うーん……たしかに、一プレイヤーが新しく解放された国の女王様をやってたら、結構な騒ぎになるよね……」

「「「「「……」」」」」


 あれ。なんだろう。


 なぜか、メル以外のみんなが、呆れた目を向けてくるんだけど……あと、そのやれやれ、みたいな仕草は何?


「ねーさまは、どうしてねーさま自身が可愛いと思わないのじゃ?」

「だ、だって、そこまで可愛いとは思えないし……」

「むぅ……ねーさまは、自身がないのかの?」

「自身、というより、そこまで可愛いとは思えなくてね……。うーん、髪色と目の色を除けば、普通だと思うんだけどなぁ……」

「「「「「どこが!」」」」」

「ぅひゃぁっ!?」


 みんなに、大声で否定されました……。

 どうして……?


 とりあえず、その日は軽く雑談をしたり、ちょっと狩りに行ったりなどをして時間を潰し、お開きになりました。



 その夜。


「師匠」

「んあ? イオか? 空いてるから、入ってきな」

「はい」


 ボクは師匠の部屋を訪ねていた。

 師匠に入るよう言われ、ボクは中に入る。

 メルは先に寝ている。眠くなっ散っちゃったみたいだからね。寝かせました。


「それで、どうした?」

「あ、いえ。明日のことについて、聞いておこうかなーと」

「明日って言うと……ああ、ゲームのイベントだったか?」

「はい。師匠は、明日ゲームに参加するんですよね?」

「まあな。あたしがガキどもと遊ぶなんて、なかなかないしな。まあ、あれだ。今の内に遊ぶのも悪くない。まあ、仮に帰れたとしても、あたし的にはこっちの世界の生活の方が楽しいんでね。帰るのはまあ……イオや、ミカたちが死んでからだろうな」

「師匠……」


 たまに、師匠は帰りたいのかな、なんて思う時があったけど、どうやらその気持ちは薄いみたい。


 なんだか安心したというか……こっちの生活が楽しいと思ってもらえて、ボクとしてはすごく嬉しい。


 師匠、好きだし……。


「それにまあ、こっちの飯は美味いし、酒もいい。それに、汚れ仕事じゃないことで生計が立てられる。あたしからすれば、想像もできなかった暮らしだぞ、こっちは」

「まあ、師匠は暗殺者ですからね」

「ああ。それに、お前とも一緒に暮らせるんだ。嫌なわけないだろう?」

「よ、よくそんな恥ずかしいことが言えますね……」

「お? なんだ、顔が赤いぞ? 別に、この程度どうってことないと思うんだが……ほんと、お前は初心だよな」


 はははと笑う師匠。


 うぅ、やっぱり師匠はかっこいいけど、なんだか恥ずかしくなるようなセリフを平気で言ってくるんだよね……そこはその……もうちょっと抑えてほしいというか……。


「まあ、それはともかくだ。一応お前も、明日はイベントに参加するんだろう?」

「は、はい。と言っても、ボクとメルは途中から別行動になっちゃいますけど」

「たしか、クナルラルに行くんだったか?」

「そうです。向こうで、女王様役をやらないといけなくて。一応、メルは行かなくてもいいと言えばいいんですけど、メルはボクと一緒に行く、って言ってまして……それで、師匠がみんなを見守っていてほしいなと」

「そうだな。あのゲームにおける最強プレイヤーというのは、たしかお前だったか?」

「最近まで忙しくて、ほとんどできませんでしたから……多分、ボクより強い人がいる、と思います……多分」

「多分てな……まあいい。ともかく、お守は任せな」

「ありがとうございます」


 今回のイベントは、一応フィールドに出て行うイベントなので、道中プレイヤーに襲われないとも限らない。


 あのゲームは一応、PVPも可能。


 サービス開始から少し経った頃に、自身よりも弱いプレイヤー……初心者を標的とした、プレイヤー狩りのような人たちが出始め、一時期問題になったことがあった。


 それに、今回のイベントの報酬は何かと豪華なので、たくさんのプレイヤーたちが、こぞって狙いに来るはず。

 そうなってくると、他のプレイヤーたちを倒して、報酬を得られる順番になる、ということも考えられる。

 一応、みんなもレベルはそれなりに高くはなったけど、それでも第一回のイベントの時の最高レベルくらい。


 さすがに、結構時間が経っているので、もっと高い人はいる。


 たしか、レギオさんは、レベル50後半って聞いた気がする。

 そうだとしたら、みんなが対処をするのは難しいんじゃないかなと。


 ボクやメルがいれば問題なかったのかもしれないけど、今回、ボクはいないわけだしね……。

 だから、ボクがいない間、師匠に守ってもらいたいわけで。


「しっかし、まあ、お前も難儀だなぁ。エイコに手伝いを頼まれるとは」

「あ、あはは……なんと言うか、今更ではありますけど、色々と押し付けてきますからね、あの人」

「ま、それほどお前を信頼して言うことだろう」

「……でも、その理屈で言えば、王様も信頼してるからボクに頼んできた、ということになる気が……」

「いや、あいつは許さん」

「そ、そですか……」


 ……師匠、よっぽど嫌いなんだね、王様のこと。

 それだけ、何かがあった、って言うことなのかな、この場合。

 理由としては、ボクを召喚したから、とか何とか言ってたけど、本当かどうか……。


「さて、明日時間があるとはいえ、夜も遅い。そろそろ寝るとしよう」

「そうですね。それじゃあ師匠、おやすみなさい」

「ああ。おやすみ」


 最後に軽く言葉を交わしてから、ボクは師匠の部屋を出て、就寝となった。



 そして日曜日。


 普段通りに起きて、軽く家事をしてから、お昼頃にログイン。


 夜ご飯は、夜の七時くらいなので、特に問題はなし。


 ちなみに、師匠もボクと同じくらいの時間にログインします。


 そして、三人でログインすると、いつも通りにギルドホームに出現。


 一応これ、設定でどこに出てくるかを設定できるみたいだけど、ボクたちは集まりやすいから、ということで、ギルドホームに設定していたりします。

 お店でもいいんだけどね、ボクの場合は。


 それに、代理所有権をみんなに与えてるから、お店を出現場所に設定していても問題はないんだけどなぁ。


 まあ、ギルドホームの方が、個別部屋もあるし、落ち着ける場所もある。ヤオイには、作業小屋もあるわけだから、色々と過ごしやすい場所だからね、ここ。


「あれ、今日はまだみんな来てないね」


 どうやら、ボクたちが一番乗りだったらしく、今日はまだ誰も来ていないみたいだった。


 夜の九時からということで、ミウさんも参加できるみたいだし、嬉しい限りです。


 ……もっとも、ボクは運営側での参加になるから、途中までしかみんなと一緒に参加できないんだけどね。


 うーん、その辺りはちょっと寂しい、残念かなぁ。


「そんじゃま、あたしはワインセラーにでも行ってるよ」

「あ、わかりました。あまり、飲みすぎないでくださいね?」

「大丈夫だ。この世界では、いくら飲んでも現実のあたしには影響がないからな。美味い酒が無限に飲めるんだ。あたしとしては、嬉しい限りだよ。それじゃあな」


 ひらひらと手を振りながら、師匠は地下へと向かって行った。


 うーん、本当にお酒好きだね、師匠。

 よくあんなに大量に飲めるよ。


 ……ボク自身は、お酒飲んだことないからわからないけど。


「そう言えばメル」

「む、なんじゃ?」

「一応、メルは向こうにボクと一緒に行かなくても大丈夫なんだけど、ボクと一緒でいいの?」


 師匠がいなくなった後、ふと気になったので、ボクはメルにそう尋ねていた。


 一応、メルは0歳児。

 口調や言動が、0歳児のそれではないけど、まだまだ幼い。


 だから、大勢で遊んだりしたいんじゃないかなぁって思う。


 そこから来る疑問だったんだけど、


「うむ! 儂は、ねーさまと一緒が一番いいのじゃ! 妹がねーさまと一緒にいるのは、自然なことじゃろ?」

「そっか」


 どうやら、メル的には、ボクと一緒にいるのが一番いいみたいだね。

 うん、嬉しい。


「それに、夢とはいえ、故郷に帰れるのは嬉しいのじゃ!」

「そうだね。クナルラルは、メルの生まれ故郷だもんね」

「うむ!」


 いくら、0歳児と言っても、メルにとっては、唯一無二の故郷だもんね。


 やっぱり、帰りたいと思う時だってあるよ。


 だからこそ、学園長先生に自由に行き来するための装置を創ってもらってるわけだしね。

 そう言えば、いつごろ完成するのかなぁ、あれ。

 ボクも一応、女王という立場だから、ある程度定期的に行きたいと思ってるし、ちょっと気になる。


 できれば、早めに完成してくれると嬉しいなぁ。


「ねーさまねーさま」

「どうしたの?」

「散歩に行きたいのじゃ」

「突然だね。……でも、みんなもまだ来てないし、いっか。うん。それじゃあ、ちょっと散歩しに行こっか」

「うむ!」


 メルの希望で、ちょっと散歩することになりました。



 散歩と言っても、ボクたちが歩くのは街の中。


 それも、ボクの黒歴史がない場所。


 服装に関しては、いつも通り、戦闘用の装備じゃなくて、お店用の衣装を着ている。

 何かと可愛いから気に入ってたりします。


「~~~♪ ~~♪」

「メル、楽しそうだね」


 ふと、手を繋いでいるメルが鼻歌を歌いながらにこにこ顔をしていた。

 あぁ、やっぱり、メルは癒しだよぉ……。

 普段から、色々と大変なことになるボクの心のオアシスです……。

 今代の魔王が、メルで本当に良かった。


「ねーさまと歩くのは楽しいのじゃ。だから、つい鼻歌が……」

「そっか。うん、楽しんでもらえてるのなら、ボクも嬉しいよ」

「そうなのじゃな! 儂も、嬉しいのじゃ!」


 すると、メルが一層眩しいような笑顔を浮かべながら、ボクの腕にぎゅっと抱き着いてきた。


「もぅ、メルは甘えん坊さんだね」

「ねーさまだから、いいもん! なのじゃ!」


 はぅっ、可愛い!

 やっぱり、メルは世界一可愛いです!

 はぁ~~、こんなに可愛い妹を持てて、ボクはすごく幸せだと思います。

 何が何でも守りたいね、この笑顔は。


『やべえ、めっちゃ尊い、あの光景……』

『うむ。のじゃろりと銀髪碧眼の美少女と一緒に戯れているのは、素晴らしい……』

『スクショして、待ち受けにしよう』


 なんだか、視線を感じたけど、まあ、いつものことだよね、って軽くスルーしました。



 それからしばらく、メルと一緒に散歩していると、こんな会話が聞こえてきた。


『そう言えば、今日のイベントさ、向こうの国の女王って、めっちゃ綺麗な人らしいぜ』

『え、マジ?』

『なんでも、この世界の人間を救った英雄! って話らしい』

『へぇ、そういう設定なんか。勇者で、綺麗で、女王かぁ』

『いやぁ、マジで気になるわぁ~』


 ……すみません。それ、ボクです。


 と、というか、向こうに女王がいるって、告知されちゃってるんだ……。

 サプライズにする、とか言っていたような気がするんだけど……まあ、学園長先生だもんね。

 仕方ないね。

 ……それにしても、学園長先生……いくらなんでも、綺麗は盛りすぎだと思うよ……がっかりされないといいなぁ。


 ……そんな風に、ちょっと、イベントが心配になって来たボクでした。

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