第267話 護衛イベント 上

 軽く散歩した後、ギルドホームに戻ると、みんながログインして来ていた。

 ミウさんもいて、ちゃんと全員揃った様子。


 師匠はやっぱり、飲んだくれてました。まあ、酔っぱらうことがないだけまだマシかな。


 時間は八時半。


 一度、夜ご飯を食べるために一斉にログアウトした後、再びログイン。


 出発地点は正門前。


 クエストフラグを立てた人たちは、そこでクエストが始まるのを待つことになります。


 今回に限り、ボクとメルは二人でパーティーを組み、他のみんなは、ミサをリーダーにしています。


 師匠がリーダーじゃないのは、単純に油断させるため。


 現在の師匠のレベルは3。


 本来なら、レベル8くらいになっていてもおかしくない量のモンスターを倒しているんだけど、師匠が持つ称号のおかげで、レベルが上がりにくくなっています。


 まあ、その代わりに、一度のレベルアップで得られるFP・SPの量が五倍になるから、あまり関係ないような気がするけどね……。


 それに、初期の時点で異常なステータス持ってたし。


 今は辛うじてボクがほとんど勝っているけど、ステータスでは計れない、師匠の素の戦闘能力で負ける気がしてなりません。というか、絶対に勝てないと思います。


 それで、師匠をリーダーにした場合。


 レベル3の人がリーダーだと、ある意味警戒されちゃいそうでね……。


 ボクだって、レベル18の状態で一回目のイベントを優勝しちゃったから、前例があるわけで……。


 それに、パーティーメンバーの方がレベルが高いとなると、一層警戒されそうだからね。


 まあ、あくまでもプレイヤーを狩りに来るような人たちがいれば、の話なわけなので、いなければそれに越したことはないから。


「しっかしまあ、ここから歩いて護衛ねぇ? 昔を思い出すよ」

「ミオさんって、ユキちゃんのお師匠さん、って聞いたんですけど、やっぱり護衛のようなお仕事ってしたことがあったり?」

「ああ、もちろん。どっかの気に食わないクソ野郎の国の奴らだったり、どっかの貴族だったりはしたがな」

「へぇ~、やっぱりすごい人なんですね」

「ははは! まあ、傍から見りゃ、あたしはすごいらしいな。あたしとしては、自分ができることをしているだけなんで、あんまし実感はないがな」


 そうは言うけど、神様を倒せる人が言っても、あまり説得力がないような……。

 師匠、色々とおかしいんだもんなぁ。


「ん、そういや、あたしらに対する視線が多くないか?」

「そう言えばたしかに……」


 師匠が言う通り、なぜかボクたちに対する視線がかなり多かった。


「オレらのパーティー、キレイどころが多いしなー。ユキにミサ、ヤオイ、ミオさん、メルちゃん、ミウさんってな具合に」

「ぼ、ボクはともかく、たしかに、みんな可愛いし綺麗だもんね。見られても不思議じゃないかな」

「「「「「「……もはや病気か」」」」」」


 ……その言葉の真意を訊きたいです、ボク。


「それにしても、イベントだからか、人が多いな」


 気を取り直して、ショウが周囲を見回しながら、そんなことを呟く。


 たしかに、結構な人数がいるね。


 このクエストフラグを立てるために、昨日は多くのプレイヤーの人たちが招待状を手に入れようと必死だったとか。


 なんでも、招待状を手に入れるには、ある特殊なクエストをこなさないといけないらしく、それがかなり大変だったらしいです。


 おつかいクエストだったみたいです。


 えっとたしか……ここの街から、数キロ先にある別の街までとあるアイテムを届けるクエストで、その際、道中に出現する魔族の人たちと遭遇し、倒さずに守ることをすれば、招待状が手に入ったみたいです。


 ただ、魔族の部分に関しては、ノーヒントだったらしくて、最初はかなり苦戦したとか。


 フィールドに出現する魔族って、一応敵MOBっていう設定にはなっているからね。仕方ないんだけど……さすがに、倒す気にはなれないかな。


 もっとも、ボクの場合は、出会ば味方になってくれるんだけどね……称号の効果で。


 ちょっとずるな気がしないでもないけど、向こうの世界じゃボクは魔族の人たちの女王様、って言うことになっているからね。


 と、最初は倒されてばかりの魔族の人たちだったんだけど、ある時とあるプレイヤー……というか、レギオさんが攻略法をすぐに見つけて、情報を提供してから、かなりの人たちが招待状の入手に成功したみたいです。


 一応、クエストフラグを立てるのは、今日の夜八時までだったから、問題はなかったみたいだけどね。


 そのせいもあって、正門前にはかなりの数のプレイヤーたちが集まっていた。


 人数は……正直、数えきれない。


 一応このイベントも、中継されているらしく、参加せずに観戦をする人も多いのだとか。


 今回も時間加速がかかるからね。


 ボクとメルの二人は、学園長先生から連絡を受けてから、向こうに転移することになっています。

 一応、先頭のパーティーが四分の三を超えたあたりで連絡が入るみたい。


 まあ、それくらいが妥当かな?

 一応、こっちも準備があるわけだしね。うん。


 そして、ボクたちは軽く打合せ。


 今回のイベントでは、先ほども言ったように、ボクとメルは二人パーティーなので、みんなの攻撃が普通に当たってしまう。


 すぐに死ぬようなことはないと思うけど、それでも危険なことに変わりはないので、ボクたちはみんなから少しだけ離れて行動することになる。


 と言っても、ボクたちは本格的に参加するわけじゃなくて、途中までプレイヤーの人たちの中に紛れ込んで行動することになるわけだけど。


 だから、護衛をする必要がないわけだね。


 まあ、みんなを陰から支えるって感じになるかな。


 もし、みんなを狙う悪いプレイヤーの人たちがいたら、阻止しないとね。


 一応、【気配遮断】や【消音】などのスキルは使用する。

 さすがに、見られるとあんまりよろしくないし。


 みんなは二十着以内に入ろうと頑張るみたいだけど、師匠がいるし問題はないと思うな。


 だってあの人、守る気満々だったもん。


 ボクの友達だからか、師匠はみんなのことを気にかけている節がある。

 その姿は、なんだか嬉しい。


 そうして、みんなと打合せを終えた頃、ついに九時となり、イベントがスタートしました。



 イベントが始まると、一斉にプレイヤーが動き始めた。


 ボクとメルは予定通り、みんなから少し離れて移動。


 今回のイベントでは、それぞれルートを決めることができて、クナルラルへの行き方は様々。


 ミサたちは今回、普通に草原から行くルートを選択したみたいだね。


 一番堅実な行き方。


 モンスターの出現もそこまで多くはないし、強さもそうでもない。

 ただ、到着するまでに、それなりに時間がかかるくらいかな。


 ほかにも、火山地帯から行くルート、森林から行くルート、あとは登山ルートもある。

 基本は、草原、火山、森林、登山の計四つのルートでクナルラルに向かうことになります。


 この中で、一番速くたどり着くのなら、森林か登山の二つ。


 一番遅いのは、草原。


 火山は、敵はでてこないんだけど、そのかわり地形ダメージを受けてしまうので、あまりおススメできないルート。


 でも、だからこそ人が少なく、プレイヤーを狙った人たちが出にくい道とも言える。


 逆に、一番遭遇しやすそうなのは、他の三つ。


 中でも、森林は多いんじゃないかな。


 遮蔽物や障害物が多いから、隠れやすいし、【暗殺者】を選んだ人たちなんて、絶好の狩場とも言えるしね、あそこ。


 それを見越して、師匠は草原を行こうと言い出してたり。


 ボクとメルは少し離れたところから様子を伺っているけど、みんな順調に進んでいるね。


 道中、モンスターがポップして、攻撃を仕掛けてくるけど、上手く連携して対処してる。

 討ち漏らしたモンスターは、師匠が綺麗に倒している。


 そう言えば、ミウさんってなんの職業を選んだのかなーと思って見てみたら、意外と【弓術士】でした。


 ちょっと意外とも言えるけど、これでかなりバランスが良くなったと思う。


 近接は、ミサ、ショウ、レンの三人で、ヤオイとミウさんの二人が中・遠距離。そして、師匠が遊撃のようなポジション。


 なかなかにバランスがとれていると思う。

 本来なら、ここにボクとメルが加わるわけだね。

 そうなってくると、よほどのことがない限りは、誰も死なないと思うよ。


「ねーさま、みんなうまくやっておるな」

「うん、そうだね。師匠もいることだし、ボクたちが心配しなくてもよさそうだね」

「うむ!」



 それから二時間近く歩くと、ボクのところにメッセージが届いた。


『依桜君、先頭のパーティーが四分の三の地点を超えたので、そろそろ移動をお願い』


 とのこと。

 どうやら、かなりいいペースで進んでいる人たちがいるみたいだね。


「メル、そろそろボクたちはクナルラルに行こう」

「わかったのじゃ!」


 ストレージから【転移の羽】を取り出す。

 使用方法は……あ、普通に『転移』って唱えればいいんだ。

 簡単でいいね。


「メル、ボクの手をしっかり握ってね」

「うむ!」


 ぎゅっとボクの右手を握ってきたのを確認してから、


「転移!」


 そう唱えた。



 ところ変わって、観戦エリア。


 ここでは、イベントに参加せず、街に残った者たちが、観戦をするために用意された特殊なエリアだ。


 一応、各街に一ヵ所だけ設置されており、イベントの間のみ解放される。


 そこでは、大勢の非参加プレイヤーたちが、イベントに参加しているプレイヤーたちを観ていた。


『いやー、イベント始まったなー』

『だな。こうしてみると、マジで参加する奴多いな』

『そりゃそうだろ。何気に報酬いいしな』

『たしか、報酬で得られる称号の効果ってさ、護衛系クエストを有利にするもんらしいぜ?』

『へぇ、どの程度?』

『たしか、守る対象の体力が40%上昇して、そのクエストの間だけ、自身のステータスに+10%の補正が掛るとか』

『地味に強いな』

『だろ?』

『まあ、俺達が参加しても、無理だろうしなー』


 とまあ、こんな感じに、各々仲のいい者や、その場で知り合った者たちと、思い思いに話していた。

 最初はわいわいと話しているが、ふとした疑問がその場にいた者たちを襲う。


『そういや、女神様いなくね?』

『たしかに』

『女神様って一回目のイベントで1位だったから、参加してると思ったんだけどなー』

『だけどよ、女神様のフレンドはパーティー組んで参加してるっぽいぜ?』

『あ、マジだ。でも……ん? なんか、知らない二人がいるな』


 中継映像には、ミサたちのパーティーが映し出されており、それを見たプレイヤーたちは、女神こと、ユキがいないことに疑問を持った。


 同時に、見知らぬプレイヤーがいることに気づく。


『あ、あの黒髪ポニーテールの美女はなんでも、女神様が師匠と呼ぶ人物らしいぜ?』

『てことは、女神様より強いということか……』

『……多分』


 サービス開始から一週間ちょっと経ったあのイベントのおかげで、ユキの強さはほぼすべてのプレイヤーに知れ渡った。


 知らないのは、『New Era』と『CFO』の再販の際に買えた者たちだけである。


 もっとも、その時の映像は、ある場所に行けば見れるので、興味のあるプレイヤーは見に行き、強さを目の当たりにしているわけだが。


『そういや、妹さんがいるんじゃなかったっけ?』

『ああ、なんでも、のじゃろり魔王、とか言われてるらしい』

『なんだ、そのあだ名』

『どうも、魔王のような姿になって、とんでもない威力の魔法を連発してくるらしい』

『……マジ?』

『噂だからほんとかどうかはわからんけどな』

『な、なんだ噂か……』


 ほっと溜息を吐く男性プレイヤー。

 しかし、実際は噂などではなく、ガチで魔王になれるのだが……。

 まあ、それを知る日は、まだまだ先だろう。


『ところで、メッチャ気になるんだけど……あれ、ミウじゃね?』

『やっぱ、お前もそう見える?』

『見えるってか……第一回目のイベントの時、思いっきり司会やってたしさ、姿も同じだぜ? 間違えるのが難しいだろー』

『だ、だよな……じゃあ、なんで、女神様のフレンドたちと楽しそうにイベントに参加してるんだ?』

『そ、そりゃお前……女神様だし、そういう知り合いがいても不思議じゃないぜ?』

『……それもそうだな』


 どこに行っても、女神だから、という理由だけで納得されるユキであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る