第351話 何事もない昼休み
「う、うーん……はれぇ……?」
「ん、起きたか、愛弟子」
「ししょぉ~? おふぁよ~ごじゃいましゅ……」
(可愛いなこん畜生)
目を覚ますと、師匠が目の前にいた。
というより……あれ? なんだか、柔らかくて、いい匂いがするような……って!
「え! な、なんでししょうが!? あと、なんでししょうにひざまくらされてるんですか?」
「いやなに。お前が不意に、眠くなりました、とか言ってたから、あたしがそのまま寝かせたんだよ」
「そ、そですか。そういうことなら、ありがとうございます」
師匠はなんだかんだで、面倒見がいいしね。
大好きな人の一人だもん。お礼はしっかりと。
「……イオ、ドッジボール決勝戦のこと、覚えてるか?」
「ふぇ? いきなりどうしたんですか?」
「いや、ちょっとな。……で、どうだ?」
「あ、はい。えっと、ボールからかるいでんきがながれたり、パンチがとびだしたりはしましたけど、とくになにもなかったですよ?」
「……そうか。ありがとう。……ふむ、問題なし、と」
どうしたんだろう?
師匠だって、見ていたと思うんだけど……うーん?
特に何もない、普通のものだったはず。
……まあ、師匠がたまにおかしなことを言うのはいつものことだし、いいよね。
「……おい、弟子。今、変な事を思わなかったか?」
「え、あ、い、いえ、とくには……」
「……そうか。まあ、気を付けるんだな」
「あ、あはは……」
す、鋭い……。
それにしても……陽が高い。真上って言うわけじゃないけど、ちょっと傾いているように思える。
「ししょう、いまってなんじくらいですか?」
「ん? んー……ああ、もうすぐ十二時になるぞ」
「あ、もうそんなに……じゃあ、そろそろおひるですね。ししょう、きょうはいっしょにたべますか?」
「……そうだな。ちょいと心配事もあるんで、お前たちと一緒に食べるとしよう」
「わかりました! じゃあ、いきましょ!」
「ああ」
師匠とご飯を食べるのは、なんだかんだで嬉しい。
そう言えば、メルたちは友達と食べる! って言ってたっけ。
急にそう言われたけど、まあ、そこはボク。問題なしです。
……ちょっと、ずるしちゃったけど。
でも『アイテムボックス』って本当に便利だよね。
あれを使って、小さめのお弁当箱を作って、そこに今日のお弁当を詰め直してたりします。
さすがに、ある程度残った状態で大きいお弁当箱で食べるのはあれだったので、そっちも小分けにして、別のお弁当箱に入れました。
それにしても、本当に色々とできるようになったなぁ、ボク。
その分、マイナスの出来事によく遭遇するわけだけど……。
今日は、メルたちがいなくて、代わりに父さんと母さん、それから美羽さんたちと、師匠がいる。
なんだか、みんな年上。
いや、まあ、ボク自身も今年で二十歳なんだけど……まあ、うん。大抵の人はそれを知らないしね。書類上では、十六歳だしね。まだ。
そんなわけで、みんなでお昼。
「いやぁ、依桜ちゃんの料理は美味しいですねぇ」
「わっかる~! 私、ついつい上野さんたちに自慢しちゃった!」
「反応は?」
「羨ましそうにしてよー」
「まあ、依桜ちゃんの料理だからね。私も、ゲームの中でしかあまり食べられないし」
「えと、そんなにきにいったのなら、たまにつくってあげますけど……」
「「「「え、ほんと!?」」」」
「は、はい。いちおう、みうさんとはいえがちかいですし、みうさんがもっていけば、みなさんもたべられのかなって」
「て、天使……」
「てんしって……おおげさですよ。ボクは、ただちょっとりょうりができるだけであって、ふつうのひとですから」
((((普通の人は、素人状態で声優なんてできないし、体が縮んだりしないような……))))
あ、あれ? なんでみなさんは、何とも言えない微妙な顔をしてるんだろう……?
ま、まあ、うん。よくあることだし、気にしてもしょうがない、よね?
「あ、ししょう、あじはどうですか?」
「むぐむぐ……うむ。美味い。てか、お前の飯をまずいとか言う奴なんかいたら、手が滑って殺しちまいそうになるな」
「ぜったいやめてくださいよ!?」
「ハハハハ! わかってる。こっちではやらないさ」
「まったくもぅ……しんぞうにわるいですよ」
師匠の冗談は、冗談に聞こえない場合があるから、心臓に悪いんだよね。
でも、ボクの料理ってそんなに美味しいかな?
「それにしても、久々に依桜が運動をしているところを見たが、本当に運動神経がよくなったんだなぁ」
「そうねぇ。お母さんもびっくり。昔は、未果ちゃんとか晶君の後ろを着いて行くタイプだったのにね~」
「ま、まあ、あのときはよわかったからね、からだも」
「ん? なんだ、イオ。お前、体が弱かったのか?」
「はい。なぜかはわからないんですけど、ボクってちいさいころ、すっごくからだがよわかったんですよ」
「へぇ。具体的には?」
「えーっとですね――」
軽く師匠に過去のことを話す。
過去と言っても、母さんに聞いた話とか、ボクがおぼろげに憶えている部分だけだけどね。
ボクが生まれてすぐ、どういうわけかすぐに入院したそう。
理由はよくわからないけど、なんでも原因不明の高熱に、意識不明の状態だったんだとか。
それも、本来であれば赤ちゃんが耐えられるはずのない体温で、たしか……42度を軽く超えていた、っていう話。
必死の治療で、なんとか熱が下がり、ボクは一命を取り留めた、って言うことが生まれてすぐにあった出来事だそう。
それから、無事に成長はしていたんだけど、その時の後遺症なのか体が弱く、すぐに熱を出しちゃったり、軽い病気になっちゃったり、って言うのが目立ったとか。
それも、生まれてすぐにあった、高熱を何度も繰り返したりとか、あとは寝ている時に突然変な数字を言っていた、とか。
ボクの小さい頃は、色々と気苦労が絶えない、って中学生の時に母さんと父さんに言われたのを覚えてる。
何を言っていたのか、って尋ねると、
『199141411914151021211111414。131514419141199。14914147514145141520514141959、131514419141199。7926926914141111121、1959101521149111202141521。269418212191414111141418251521。792692691414111112185141520911118114151015212015、791111152120252121』
よく覚えてたね、と言わざるを得ないほどの、長い数字の羅列。しかも、億千万という数え方をするんじゃなくて、一つ一つの数字を言っていたらしいんだよね……。
そして、それを言い出した次の日くらいから、不意に高熱になったりすることはなくなって、それなりには元気に過ごすようになったって。
それでも、完全に元気になったわけじゃなくて、相変わらず体は弱かったそう。
そんなボクが、それなりに元気になったのは、九月のあの日。
つまり、異世界から帰って来た日。
その日から、ボクはかなり頑丈になった。
「――っていうのが、じっさいのおはなしです」
「数字の羅列、ねぇ?」
師匠はそう呟くと、顎にて手を当てて考えるそぶりを見せる。
「不思議な話だねぇ。依桜ちゃんって、結構不思議だけどぉ、昔からそうだったんだねぇ」
「ま、まあ、ふしぎ、といえば、ふしぎですもんね。ボクも、このすうじのいみはわかりませんし、そもそもボクがいったのか、っていうのはしりませんしね」
寝ている時で、しかも小さい頃だから本当に記憶にない。
あ、そう言えば。
「ししょう、ボクがいまみたいにげんきになったのって、むこうにいってからなんですけど、どうおもいます?」
「なに? それは本当か?」
「はい。なぜかはわからないんですけど、むこうにいったしゅんかんから、からだのちょうしがよくなったんです。たいちょうをくずさなくなったり、ちょっとがんじょうになったりしましたね」
「ほう、なるほどな……」
ボクの話を聞いた途端、またしても考え込む。
「ねぇ、美羽ちゃんやー」
「なんですか? 莉奈さん?」
「さっきから、依桜ちゃんが向こう、って言ってるけど、依桜ちゃんって海外に言ったことがあるの?」
と、莉奈さんがそう言った瞬間、ボクは心の中で、あ、と言った。
そ、そう言えば、この人たちにはボクが不思議体質であるとだけしか言ってなかったっけ……。
あー、うーん……言った方がいいのか、言わない方がいいのか……ちょっと迷う……。
「あり、もしかして、訊いちゃいけないことだったー?」
少し申し訳なさそうに、そう言ってきた。
「い、いえ、きいちゃいけない、というわけじゃないんですけど……なんというか、せつめいしにくいというか、しんじてもらえないかもしれないというか……」
「どういうことなのぉ?」
……美羽さんに、軽く目配せ。
ちょっとだけ笑って、こくりと頷く。
多分、大丈夫、って言ってる、のかな?
「えーっと、じゃあ、ぜったいにたごんむようでおねがいしたいんですけど……まもってくれますか?」
「「「もちろん!」」」
「……わかりました。じゃあ、えっと、てみぢかに」
と、ボクは軽く去年の九月の出来事を話した。
もちろん、この体の理由も。
そして、異世界云々の話を終えると、
「「「おお! すごい!」」」
と、三人が一斉に目を輝かせて、そう言った。
あ、うん。やっぱり、信じてくれるんだね。
なんと言うか、女委と気が合う時点で、こう言ったことにも順応するのは速いんじゃないかなぁ、とか思ってたしね。
まさか、本当にそうだとは思わなかったけど……。
「なるほどー、だから依桜ちゃん、不思議な体質なんだね~」
「はい」
「それじゃあ、魔法とかも使えたりするのかしら?」
「まあ、いちおう……」
「おぉ! 魔法使いかぁ。ちょっとは憧れるよねぇ!」
「わっかるー! 私も、昔は憧れてたなー」
「同意」
なるほど、魔法使いに憧れが……。
まあ、なんとなくわかるような気がします。
ボクだって、小さい頃はそう言うのに憧れてたしね。
「そう言えば、叡子さんから連絡がないんだけど、何か知らないかな、依桜ちゃん?」
「がくえんちょうせんせい、ですか? いえ、とくには……。さっき、さいしゅうしゅもくのけんで、ちょっとおはなししにいっていこうは、なにもしらないですね」
「……寝てるんだろ、どうせ」
「まー、多忙な人らしいからねー」
「うんうん! きっと、最終種目に備えて、軽く仮眠を摂ってるんだよねぇ! きっとぉ!」
「隈も作ってたしね」
なるほど。たしかにそれはあるかも。
あの人って、異世界の研究とか、学園のあれこれとか、ゲームの運営とかもやってるみたいだしね。
多忙でも不思議じゃないよね。
……でも、どうして師匠、学園長先生の名前が出た瞬間、イライラした表情になったんだろう? 何かあったのかな。
……ボクもボクで、微妙にあの人に対して怒っているような気もするけど……まあ、いいよね。うん。いつものことだもん。日頃のストレスか何かで、八つ当たりのようなことになってるだけだよね。
あ、そうだ。
なぜかすごくイライラしてるから、最終種目で八つ当たりでもしようかな。
なんだか、無性に暴れたい気分だから。
うーん、なんでだろ?
でも、なんとなく、この意味を知るのはまずい、ってボクの感が告げている気がするので、何もなかった、そう思うことにしよう。
普段の恨みがたまたまあふれ出てるだけだと思うしね!
最終種目、頑張らないと!
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