第352話 最終種目の準備

「ふへ、ふへ、ふへへへへへへへ……おらぁ、しんじまっただぁ~……」


 最終種目が始まる三十分前に学園長室に行くと、光の失った目+狂ったような笑みを浮かべながら、そんなことを言っていた。


 え、何があったの、この人……。


 どうして、死んでるの?」


「おらぁ、しんじまっただぁ~……」


 お、同じことしか言わない。


 ……そう言えば、学園長室を出た後、後ろから学園長先生の断末魔が聞こえてきた気がするんだけど……何があったんだろう。


 大丈夫なの、かな? これ。


 一緒に来た、美羽さんたちもすっごく戸惑ってるし……。


「……が、がくえんちょうせんせい?」

「おらぁ……ハッ! こ、ここは……」

「え、えと、がくえんちょうしつ、ですけど……」

「……ああ、なるほど。私は死んでも、学園の長なのね……ふふ、ふふふふふ……マジで、すんませんでした……」


 ……死んでも、ってどういうことなの?


 まさかとは思うんだけど……師匠が何かした、のかな? 学園長先生に。


 でも、一体何をしたんだろう?


 さすがに、殺すような真似はしてないと思うんだけど……。


「あの、がくえんちょうせんせい? ここは、せんせいのおへや、ですよ?」

「え? ……あ! も、戻ってきてる! そ、そっか。私、無事に生還できたのね……さ、さすが、ミオ。まさか、時間差で蘇生するなんて……」


 蘇生? ねえ、今蘇生って言った?


 じゃあなに? 師匠って、本当に学園長先生を殺したの!?


 なんで!?


 一体、師匠に何をしたの? この人……。


「そ、それで、えーっと……ああ、新興宗教の設立に関して、だったかしら?」

「「「「「いや違いますよ!?」」」」」


 学園長先生の口から出た謎の単語に関して、ボクたちは一斉にツッコミを入れた。


 なんで、新興宗教の設立なのか。


 そもそも、その発想は一体どこから来たの? って言うレベルの何かなんだけど。


「……あ、ごめん。あれね。最終種目ね。えーっと、あなたたちのはこの部屋の隣に用意してあるから、そっちから入ってね」


 こくりと頷く。


 なるほど、ボクたちはこっちなんだね。


 でも、美羽さんたちも一緒なんだ。


「アイちゃんは、依桜君の所に接続するコードがあるから、そっちから」

〈ういーっす!〉

「それじゃあ、みなさん向こうの部屋でお願いします」

「「「「「はーい」」」」」



「私、ゲームの世界って初だな~」

「私もぉ」

「私もね。興味深いわ」

「結構楽しいよ」

「ですね。たいへんなこともありますけど……」


 主に、見知らぬ人たちから、ギルドに入りたい! っていう人たちがかなり……。


「へぇ~、二人が言うなら、きっと楽しいんだろうな~」

「そうだねぇ。尚更楽しみぃ!」

「……年甲斐もなくはしゃいじゃいそう」

「楽しもうね!」


 美羽さんたち、本当に仲がいいんだね。

 仕事仲間でもある上に、プライベートでも仲がいいなんて、こういうの、ちょっといいよね。


「それじゃあ、そろそろ行きましょう!」

「「「「はーい!」」」」


 というわけで、ゲームの世界へダイブした。



「おーい、イオ様―。起きてくださーい。おっきてー!」

「う、うーん……」


 目を覚ますと、目の前に見知らぬ可愛らしい人が。


 ……あ、でも、どこかで見たことがあるような姿なんだけど……どこだろう?


「え、えーっと、どちらさま?」

「うっわ、ひっどいですねぇ、ご主人! この、キュートでプリティーな私を忘れるなんてぇ……もう、メッ! だぞ?」


 ちょんと、人差し指でボクの鼻先をつつく。

 ……この話し方に声……まさか!


「あ、アイちゃん?」

「イズザクトリィ! ハロハロ―! どもー、完全無欠、天上天下、唯我独尊、世界最高のスーパーAI! アイちゃんどえす!」

「あー、ハイハイ……アイちゃんですねー」

「なっ、なんですか、その『ええー? お前かよー? なーんだ、知ってがっかりぃ。どうせなら、運命の相手! 的な感じのバインバインの美少女を期待していたのに、クソ雑魚AIとは……拍子抜けだぜ』みたいな反応は!」

「いや、そこまでおもってないけど……というか、ボクってそんなふうにみえるの? アイちゃん」

「いえ全然」

「じゃあなんでいまのたとえ……?」


 アイちゃんは、よくわからない……。


 とりあえず、アイちゃんを改めて見る。


 さらさらの黒髪ショートに、黒い目。中学二年生くらいの大人と子供の中間くらいの可愛らしい顔立ちで、体つきもそれくらい。何と言うか、運動が好き! みたいな印象。


 服装は、黒いタンクトップに、迷彩柄のミニスカートに、黒のグローブ。あと、黒のブーツ。


 なんと言うか、ミリタリー? のような感じ。


 FPS系のゲームにありそうな感じ。


 でも……


「なんで、そのふくそう?」

「あー、はい。とりあえず、向こう行きましょ、向こう」

「? うん、わかったよ」


 とりあえず、アイちゃんのあとをついて行く。



「……こ、これは……」

「これが、最終種目に使われるアイテム……銃です!」

「じゅ、じゅうですか……そうでしたか……」


 アイちゃんの後をついて行き、最初に目に入ってきたのは、色々な種類の銃器でした。


 ハンドガンから、ロケットランチャーまで、色々。


 なんだか、お店にミスマッチだよね、これ……。


 どういうことなんだろう? と思っていると、


『どうも、依桜君聞こえてる?』


 目の前に画面が出現し、学園長先生が映し出された。


「がくえんちょうせんせい? どうしたんですか?」

『今、目の前に大量の銃器があると思います。それは、今回使われる武器です。基本的にその人のステータスに合わせた装備品しか使えないんだけど、依桜君に制限なんてないです。強いし』

「そ、そうなんですか」


 つまり、ステータスによっては使える装備と使えない装備がある、って言うことなんだと思うんだけど……なんで、銃器?


 これ、球技大会に関係あるの?


『ちなみに、依桜君とアイちゃんの二人は傭兵です。適当に戦場を駆けまわって、殺戮してね』

「了解でっす!」

「え、えー……」


 あ、あー……だから、ボクとアイちゃんの二人は、こちら側の参加、って言われたんだ……あと、場合によってはどこかの味方になる、っていうのも、傭兵だからなんだね。


 それに、どうしてアイちゃんがこっちに参加するのか、って言うのも理解。


 考えてみれば、アイちゃんはAIなんだから、こうやってVRの世界では実体化していても不思議じゃないもんね。


 ……まあ、本当にやるとは思わなかったけど。


「でも、どうしてじゅうなんですか? だってこれ、きゅうぎたいかいですよ? ぜんぜんきゅうぎかんけいないとおもうんですけど……」

『え? だって、銃弾って言うでしょ?』

「え?」

『いやだから、弾』

「……え、もしかして……ダジャレ?」

『うん』


 ……あー、うーん、なるほどー……だ、ダジャレ、ですかぁ……。


 そう来ちゃいましたかぁ……。


 玉、とか球、じゃなくて、弾なんだね……。


 なんと言うか、学園長先生の感性は絶対におかしいと思います。


『とりあえず、依桜君たちには先に説明しちゃうわね。まず、二人はさっきも言ったように、この種目での立ち位置は傭兵。好き勝手に暴れて、好き勝手に殺戮をする存在』

「さ、さつりくって……」

『で、今回使われるエリアね。依桜君、依桜君が優勝したイベントのこと覚えてるわよね?』

「はい。えーっと、しんりんエリアとか、かざんエリアとか、まちエリアがあるステージですよね?」

『そうそう。今回もあれを使うわ。もちろん、多少は変更してあるから』

「な、なるほど……」

「んでー? 創造者、私たちはどう言った時に、どこかの味方になるん?」

『あ、それね。お金』

「え、おかね?」

『そ、お金。傭兵って、基本的にお金で動くでしょ? だから、こっちでもお金で、と。ちなみに、拒否ってもいいから』

「いいんですか?」

『そりゃあね。好きでもない相手に雇われるのって、嫌じゃない? 私は嫌ね』

「まあ、わかりますけど……」


 たしかに、好印象を抱いていない人に雇われるって言うのは、あまりいい気分はしないよね。

 いくら人を嫌うことがそうそうないとしても、ボクにだって苦手意識を持つ人くらいいるもん。


 少なくとも、今はいないけど……。


『ちなみに、お金は前段階のレベリングで得た分と、他の人を倒した際のドロップで得られるわ』

「なるほど……でもそれ、ボクたちが倒しちゃったら、ボクたちにおかねがはいるってことですか?」

『んまー、そうね。だって、何も入らずただ働きっていうのも、問題あるし』

「でもボク、すでにほうしゅうはもらってますよね? いえですけど……」

『それはそれ。これはこれ』

「報酬が家って言うのも、面白い話ですよねぇ。さっすが、イオ様だぜぇ。よもや、家をもらうなんて」

「あ、あはは……ボクもびっくりしてるよ……」


 たかだか高校の球技大会、それも学園側として参加しただけで、以前住んでいた家を報酬として贈られるんだもん。びっくりするよ。


「そういえば、みうさんたちは?」

『あっちは、別の仕事』

「そうですか」


 となると、状況から考えて、実況のような役割になるのかな?


 ……もしそうなら、本物の人気声優が、高校の球技大会で実況をしてくれるっていうことだよね? ……う、うわぁ、無駄に豪華……。


 まあ、実際にそうなるのかはわからないけど。


「ところでがくえんちょうせんせい」

『なに?』

「いや、なんというか……ししょうがせんせいにたいしてすっごくおこっていたようなきがするんですけど、なにかしたんですか? あと、ボクじしんもせんせいにイライラしてます」

『いえ、それがなにも心当たりがなくて……。まあ、なぜか臨死体験をしていたんだけど』


 ……あ、本当に殺したんだ。


 それじゃあ、一体何をしたんだろう? 師匠がそこまでするって、よっぽどのことだし……。


『でも、依桜君が私にイライラしてる、かぁ……うーん、私、知らない間に何か怒らせるようなことしたのかしら……』


 記憶にないみたい。


 うーん、でも、なにかがないとイライラする、なんてことは無いはずだし……。


 ……まさかとは思うんだけど、師匠、『記憶操作』とか使った?


 それで、記憶を消した、とか。


 ……でも、ボクにも使ってるんだよね、『記憶操作』。


 そうなると、師匠のことだから、ボクにとってあまりいいものではないから消した、っていうことだよね?


 うーん、一体何をしたんだろう……。


『とりあえず、こんなところね。あ、銃の試し撃ちとかしてもいいから。装備品に関しても、五種類までだったら持っていって大丈夫よ。それじゃ、頑張って』

「はい」

『アイちゃんも、よろしくね』

「ういーっす! おっまかせを!」


 それを聞いた後、学園長先生は軽く笑って、通信を切った。


「ためしうち……」

「イオ様的には、使ってみたいものとかあります?」

「そうだね……むしょうにイライラしてるし、いろいろとつかってみたいかな」

「ほうほう。んならば! これとか、これは?」

「あ、いいね。ちょっとつかってみようかな」


 ボクはアイちゃんに色々な銃器をすすめられ、試し撃ちを行っていった。


 そうして、なんとか五つの武器を選択し、ボクはそれを持って最終種目に臨む。

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