第353話 最終種目1
それから時間になり、最終種目が始まる五分前となりました。
現在、ボクとアイちゃんがいるのは、広大なマップに位置する師匠の家。
この家は、特定の称号を持っている人と、許可された人しか入ることができない上に、破壊不能の建物らしくて、まさに鉄壁の城とも呼べるような存在です。
とはいえ、ここにいたら開会宣言が見れないので、一度家から出て空を見上げる。
師匠の家は森の中心辺りにあるけど、なぜかここだけ木々に覆われていなくて、空が見れる。
今は開会の宣言を待っているところ……
『はーい! 皆さんこんにちは! CFOのイメージキャラクターをさせてもらっています、ミウミウでーす! どうぞよろしく!』
……あ、本当にそっちだった。
じゃあ、美羽さんがいるっていうことは……
『叡董学園のみんなー! こーんにーちはー! 特別ゲストとして呼ばれた、リナちゃんでーす!』
『こんにちにゃぁ! リナちーと同じく、特別ゲストとして呼ばれた、ネオにゃんだにゃぁ! よろしくにゃん!』
『みなさんこんにちは。リナさんとネオさんの二人と同じく、特別ゲストで呼ばれたナユキです。よろしくお願いします』
『『『うええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?』』』
で、ですよね!
美羽さんがいるんだから、莉奈さんたちだっているよね!
しかも、周囲から驚きの声が聞こえてくる。
まあ……四人とも大人気声優らしいからね。知っている人からしたら、かなりびっくりだよね。特に、アニメ好きの人なんかは。
仮に知らない人でも、美羽さんなら知ってる人が多そう。
だって、ラブコメドラマにメインヒロイン役で出ているんだもん。
でも……そうですかー……よりにもよって、本物の声優を……。
『今回! 私たちは知り合いの様子を見に来るために来ていたんですけど、こちらの学園長さんから、実況などで出てほしいと頼まれたので、了承しました!』
『こんなことができるのなんて、滅多にないからねー! 私たちも、楽しんじゃうぞー!』
『見たところぉ、この場にいるのは高校生さんたちだそうでぇ、みんなの活躍がとっても楽しみだにゃぁ!』
『しかも、強い人たちもいるとのことで、期待で胸が膨らみますね』
などなど、それぞれ個別にキャラクターがあるのか、話し方が普段と違う。
それに、声質の方も変えていて、所謂アニメ声というものになっている。
『さてさて! それでは私たちがルールの説明をしたいと思いまーす! 準備はいいですかー?』
『『『YEAHHHHHHHHHHHHHHHHH!』』』
『元気がいいですね。それでは、ルール説明に入りますよ! まず、今回使用されるフィールドは、半径一五キロメートルの円形のフィールドです! このフィールド内には、様々なエリアが存在し、草原地帯から、火山地帯、他にも山岳、街、砂漠、海洋、森林、遺跡、墓地、地下、沼、などなどが存在しています!』
ぼ、墓地? え、墓地のエリアがあるの……?
……絶対行かないようにしよう。
『それでそれで、みんなは学年ではなく、クラス対抗戦ということになりまーす!』
『リナちー、それみんな知ってるにゃぁ』
『あ、そっかーそっかー! そりゃ知ってるよねー! じゃあじゃあ、拠点がそれぞれランダムで設置されるのは知らないよねー? みんなの拠点はね、AIが自動的に選別してくれるのだー! 運が良ければ、山岳地帯の頂上とか、街の中にある隠れ家的な場所など、いい場所が、えーられーるかもー!』
『でも、運が悪いといや~~~な場所に行っちゃうかもしれないのにゃ! 例えば、海の上だったりぃ、火山の火口付近だったりぃ! 他にも、森林地帯には、こわ~~~い人がいるかもしれないから、気を付けるにゃ!』
森林地帯の怖い人って、もしかしなくてもボクとアイちゃんのこと?
だって、師匠の家って森林地帯に存在してるもん。
『ルール説明はこんなところかな? それじゃあ、そろそろはじめ――』
『ちょっと待ってください』
『ナユキさん? どうかしましたか?』
『どうかしました、じゃなくて、どうやって競うのか、説明してませんよ』
『『『あ、いっけね。てへぺろ☆』』』
拳をこつんと頭に当てて、ぺろっと舌を出して、美羽さんたちが一斉に同じことを言う。
もしかして、打ち合わせしてた?
『まったく……。では、競う内容については、私から説明させてもらいますね。皆さんは、事前にレベリングをしたと思います。その過程で入手したアイテムは使用可能ですが、武器の使用は不可です』
奈雪さんがそう告げると、周囲から不満の声が。
まあ、だよね。
中には、頑張って手に入れた武器とかもあるはずだもん。
『もちろん、何もなしでとは言いません。では、今からとあるメッセージを送ります。そちらを開いてください。……開きましたね? そこに、様々な武器――銃器の写真と名称、説明が書かれていると思います。あなたたちは、二つ、武器が選択できます。そして、使用できる装備も、自身のステータスに依存しているため、ものによっては装備不可のものもあると思います。ですが、結局は本人の使い方次第なので、多少武器の有利不利はあっても、強い人は強いと思いますので、頑張ってください』
うん、奈雪さんの言う通りだよね。
実際、いくら武器が強くても、結局のところ、使い手が強くなければ使いこなせないからね。
だから、最悪の場合は最下級の武器でも問題はなかったり。
技量さえあれば、最下級の武器でも問題なく対処可能だもん。
特に暗殺者にとって、武器のランクとかは大して関係ないしね。結局は自分の技術が一番の武器だから。
『それから、勝敗条件です。平たく言えば、最後の時間まで最も多くプレイヤーが残っていたら勝ちです。それだけです。MVPもあり、そちらはキル数を多い順に並べた時の上位十名が該当しますので、狙ってみてください。というわ――』
『というわけで、今回の最終種目はずばり! サバゲでーす! 自分が選んだ武器で戦場を駆けまわり! 時には撃ち、時には撃たれ! 遠い場所からヘッドショット! 超至近距離からのショットガンぶっぱ! きっと、ワンパンした時は気分爽快! 今までの鬱憤やらなんやらを思う存分、開放しようねー!』
『『『YEAHHHHHHHHHHHHHHHHH!!』』』
『ち・な・み・にぃ! 今回優勝したクラス、ひいてはMVPに輝いた人たちには……なんと! 今日使用した『New Era』が贈呈されちゃうにゃぁ!』
『『『おおおーーーーー!』』』
まさかの賞品に、最終種目に参加している人たちが歓声を上げる。
持っている人は少数だからね、あれ。
発売日よりも製造台数が増えたとはいえ、まだまだ手に入れられていない人の方が大勢だもんね。
しかも、高いもん。
学生にとっては大きなチャンス。
『と、説明が終わりましたので、そろそろ競技に……って、あれ? 奈雪さん、どうしたんですか?』
『……いえ、もしや私は嫌われているのではないかと……』
『『『いえ、大好きですよ❤』』』
『そ、そう……ありがと……』
あ、奈雪さん可愛い……。
普段、クール系な印象を持つ奈雪さんだけど、あんな風に可愛らしい姿も見せたりするんだね。ちょっと新鮮。
『それでは、そろそろ始めます! ちなみに、敵は他クラスの人たちだけじゃない、ということを覚えておいてくださいね! では、叡董学園球技大会最終種目……『世界観にまったく合わない、銃撃戦、略してセマジア』スタートです!』
美羽さんのその宣言により、最終種目の火蓋が切って落とされた。
「んではー、私たちも行きまっしょう!」
「うん。ふたてにわかれる?」
「ですねー。二人で行動してもいいですけど、こういうのはやっぱ、一人で行動してこそですよね!」
「アイちゃん、たのしそうだね」
さっきから、アイちゃんのテンションがかなり高い。
「そりゃあ、普段はスマホの中でしか動けませんからねぇ! こんな風に、現実の方たちところしあ――ゲフンゲフン。さつり――ゲフンゲフン。楽しく遊べるのなんて、滅多になーいですか―らねー!」
「そ、そですか」
……今、殺し合い、とか、殺戮、とか聞こえたけど……うん。聞かなかったことにしましょう。
アイちゃんだって、ストレスが溜まっているのかもしれないもんね。仕方ないよね。
「では、私は山岳地帯にでも向かいましょうかね!」
「じゃあ、ボクは……まちがちかいから、そっちにいくよ」
「了解でっす! 私たちは連絡の取り合いができるので、何かあったら連絡しましょうぜ!」
「うん、きをつけてね、アイちゃん」
「それはイオ様も……って、イオ様には意味ないですね(笑)。では、健闘を祈ります!」
「ありがとう。じゃあ、そっちもけんとうを」
お互い笑いあって、ボクたちは別々に移動を始めた。
声優たちによる説明、開始の宣言が行われた直後、大多数の生徒たちはまずはどう動くかの作戦会議を始めた。
部隊をいくつか作って、攻め込もうと考えるクラス。
二人一組で動くよう指示するクラス。
AGIが高いものを選抜し、斥候隊を編成して情報を得てから動こうと考えるクラス。
逆に、STRなどが高い者たちが持てるロケットランチャーや、ミニガンのような大型武器を使用して、一気に殲滅しようと考えるクラス。
作戦なんて知らん! 好き勝手動くぜ! と、考えなしに自由に行動に出るクラス。
などなど、様々。
もちろん、この最終種目にはCFO経験者も当然いるわけで、そう言った者たちの情報はかなり貴重になる。
なにせ、このマップをある程度知っているからだ。
未果たちもある程度把握しており、頼りにされている。
ちなみに、未果たちの拠点エリアは……森林地帯だ。
つまり、依桜とアイの二人が拠点にしている場所の近く。
運がいいのか、悪いのか、わからないところである。
さて、開始とほぼ同時に動き始めた依桜とアイの両名だが、現在、二名とも素早く移動中だ。
依桜はすでに草原地帯に入っており、いくつかの拠点も知っている。
いつもなら、見なかったことにして、さっさと目的に行くところなのだが……今の依桜はやや虫の居所が悪い。
ミオが記憶を操作したとはいえ、あの事態の感情部分は鮮明に残っていたから。
よって、現在はイライラ中。
今回の最終種目は、自身の八つ当たりがメインである。
報酬自体はもう貰っているので、ある意味どうでもいいとも言える。
そんな、イライラしている依桜が選択した武器はと言えば……これがなかなかに酷い。
まず、ロケットランチャー。しかも、RPG7である。完全に殺意MAX。
次に、スナイパーライフル。しかも、対物ライフルである。やっぱり、殺意が高い。
その次に控えるのは、ミニガンである。こちらも、殺意が高い。というか、高すぎて完全に殺りに来ている。
殺意マシマシのこの三つを除いて、残る二つの武器は比較的可愛いものだろう。
ちなみに、残る二つは、ショットガンとハンドガンである。
まあ、そもそもの話最初の三つだけで殺戮は余裕なので、後半二つは近距離戦になった時用だろう。
これを見れば、依桜がいかにイライラしているかがわかることだろう。
しかも、今回の件だけではなく、過去にあったすべてに対する八つ当たりでもあるため、今回の依桜に容赦の二文字などない。
「ふふ、ふふふ……ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ!」
と、最初の獲物を見つけた依桜(ケモロリっ娘)は、にっこり笑顔で笑いながら、ロケランを担いで歩くのだった。
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