第354話 最終種目2

 一方、最悪のケモロリっ娘が近づいていることなど露ほども知らない草原地帯に拠点を構えるクラス――三年七組は。


『んじゃ、四人一組で出撃だ! この近くの森林に二組、街に三組、残りは草原地帯でゲリラ戦。大丈夫か?』

『『『おー!』』』

『何かあり次第、すぐに連絡を! じゃあ、解散――』


 と、取り仕切っていた男子生徒が、アサルトライフルを持ちながらそう発言した瞬間のことだった。


 ドゴォォォォォォォォォォォォンンンッッッ!


 突如として、外から爆発音が聞こえてきた。


『な、なんだ!?』

『ちょ、ちょっと俺が見て来るぜ!』

『頼んだ!』


 一人が偵察を名乗り出て、拠点から出る。


『こ、これは……ばくはのあ――』


 パリィン!


 アバターのライフが0になった時の音が、外から聞こえた。


『大変だ! 信濃がやられた!』

『なんだと!? 狙撃か!?』


 突然の出来事に、中はパニックになる。


 一体何が起こったのか。


 その原因が、約5キロほど離れた位置に、いた。


 片膝立ちで、眼を鋭く細めながらスナイパーライフルのスコープを覗く、ケモロリっ娘――依桜がいた。


 依桜がしたのは、ロケットランチャーによる爆撃。


 拠点の近くにロケットランチャーを撃ちこみ、誰か出てきたところを、すぐに換装したスナイパーライフルでヘッドショットを決めたのだ。


「パーフェクト」


 一言。


 なんと言うか、若干キャラが変わっているような気がするが、気のせいだろう。


 ともかく、見た目小学一年生ほどのケモロリっ娘がスナイパーライフルの銃口を肩に乗せている姿は、ちょっと微笑ましい姿に見えるのだが、どうにも元の職業柄か、その体から滲み出る暗殺者のオーラがそう感じさせない。


 一流の殺し屋。それがピッタリな印象だ。


 今回の最終種目にて用意されている拠点と言うのは、エリアによって様々。


 街であるのなら、家だったり屋敷だったり。

 草原ならトーチカのような建造物。

 火山は洞窟。

 沼は高床式の家。


 主にそこに合わせたようなものが拠点に設定されていたりする。


 ちなみに、依桜の家や、依桜たちのギルドホームも存在している。


 まあ、どこかの拠点にはなっていないが。


「うーん……さすがにけいかいしちゃってる、よね。それならいっそ、でられないようにしよう」


 スナイパーライフルでヘッドショットを決めたことによって、狙った拠点の中にいる人たちは、狙撃されることを警戒してなかなか出てこない。


 現在イライラしている依桜は、いつも以上に短気になっていたりする。


 そんな依桜が取った行動はと言えば……


「じゃあ……ドーン!」


 ロケランである。


 依桜がRPG7を選んだのは、使い捨てではないからだ。


 装填をスムーズに行えば、1~3秒で発射可能。


 さっき撃った時点で装填していたロケランを、依桜は肩に担いで構えると、可愛らしく言って、弾を発射した。


 狙ったのは、トーチカの入り口付近。


 それは狙った場所に真っ直ぐ飛んでいき、着弾と同時に凄まじい轟音を発生させた。


「おー! おおきいはなびみたい!」


 依桜、ご満悦。


 にこにこ、きゃっきゃと嬉しそうだ。


 幼児退行を若干引き起こしている結果からか、ロケランを撃つことに対して、楽しさを見出してしまっている。


 撃たれた側は、


『『『うわああああああああああああ!?』』』


 とか、


『『『きゃああああああああああああ!?』』』


 といった風に、爆風によって壁に叩きつけられた。


 それによりダメージを受け、入り口付近にいた者たちなんかは大ダメージ。


 すでに、赤くなっている。


 別に、この一発で倒そうとは思っていない。


 依桜はあえて入り口付近を狙った。


 RPG7の爆撃によって、入り口付近には深さ数メートルほどのクレーターができており、ちょっとした落とし穴状態。


 そこに落ちれば、依桜によるスナイパーライフルでの狙撃で即死だ。


 弓の扱いにも長けているため、狙撃もお手の物である。


 しかも、この最終種目のシステムはCFOを流用しているため、当然スキルやらなんやらが使用可能。


 職業が暗殺者である依桜と言えば、好んで使うものに『気配遮断』『気配感知』『消音』などがある。


 これが最悪の組み合わせになっているのだ。


 中でも消音。


 これの効果は、自身と自信が身に付けている装備の音を消す、というもの。


 スナイパーライフルの音がなかったのは、これが原因である。


 まさに、完璧なサイレンサー。悪夢でしかない。


 しかも、依桜が身に付けている装備も、しっかり戦闘用。


 つまり、CFOでの冒険時に着用している、ぶっ壊れ性能を有したあの装備たちだ。


 全体的に黒い色柄の装備品は、意外と目立つものの、《ハイディング》とか、依桜の『気配遮断』とか『消音』によって、そんなのは関係なくなっている。


 さらに『擬態』を使えば完璧。


 過剰火力を有した、最強の暗殺者の完成である。


 爆撃を受けて、慌ててトーチカから出てくる、獲物たち。


 クレーターに落ちるものの、すぐに地上へ出る――ことはできず、代わりに、


「さようなら♪」


 一気に距離を縮めていた依桜が、クレーターの縁に立ち、笑顔で最悪の武器――ミニガンを構えていた。


 そして、そんな一言を告げた後、


 ドゥルルルルルルルルルルルル――ッッ!


 という無数の弾丸が発射される音が鳴り、クレーターから這い出ようとした者たちを死体に変えていった。


『ちょっ!? そんなんあ――』

『無理無理こんなのかて――』

『ぎゃあああああ――!』

『オワタ――』


 と、絶望しながら死んでいった。



『おーっと! 開始早々! 三年七組、全滅です!』


 広大なマップに響き渡る、ミウの声。


 その声を聴いた生徒たちは、そろって頭の上に『!?』を浮かべた。


 まだ最終種目が始まってから数分しか経過していないのにもかかわらず、一つのクラスが全滅。


 ゲームとはいえ、さすがに五分では無理がある、と思ったのだが、これは現実である。


 なぜそうなったのかを瞬時に理解できたのは、未果たちだけである。


「……あー、依桜ね。絶対」

「そうだな。そんな馬鹿げたことができるのは、依桜だけだ」

「まーじかー。今回は敵同士ってことだろ? 勝てる気しないんだが」

「依桜君、バーサークしてるねぇ」


 と、そろって苦笑い。


 さすが幼馴染や長い付き合いの友人たち。依桜をよく理解している。


『ねえ、今のって……』

「依桜よ。あの娘、今回は学園側で参加してるみたいなの」

『え、ってことは、敵?』

「らしいわね。まあ、ちょっと違う、とも言えるみたいだけど」


 と、未果はそれなりにわかっている情報をクラスメートに伝える。


 すると、そんなタイミングを見計らってか、マップ全域にリナの声が響き渡る。


『さて! もうすでに知っている人は知っているかもしれないのでー、情報を伝えまーす! 実はですねー、今回のこの種目には二人の傭兵さんいるのだー! 傭兵さんは、自由気ままに殺戮をしているんだけどー、なんと、条件次第では一時的に雇うことも可能! もちろん、その相手の気分次第なので、交友関係を持っている人たちはとっても有利だよー! 二人ともとても強力な傭兵さんなので、是非是非ー! 味方に付けてみてね!』


 などと言う情報提供がなされた瞬間、生徒たちは沸いた。


 思惑同じで、その傭兵を引き入れることができれば、勝つ可能性が高い! と。


 大多数の者たちはそう考えたのだろうが、一部の冷静な者たちは思う。


 少なくとも、一つのクラスを全滅させたのはその傭兵の二人の内一人なのでは? そう考えた。


 それは正解であり、犯人は依桜である。


 暗殺者としてのスペックを遺憾なく発揮し、殺戮をしている。


 ロケランで爆撃し、偵察に出てきた者たちをスナイパーライフルでヘッドショットを決め、わらわらと拠点から出てきたところを、ミニガンで殲滅。


 こんなところだろう。


 鬼である。


 可愛らしい外見でそんなことを平気でやるのだ。ある意味、怖い。



 さて、そんな依桜だが現在。


「うん、つぎはまちだね!」


 街に来ていた。


 これが普通のCFOの設定であれば、街の建物は破壊不能オブジェクトなので、壊すことはできないのだが、今回に限り、それはなくなっている。


 なので、ロケランで壊したりとか、スナイパーライフルで壁を貫通したりとか、ミニガンでボロボロにしたりなどができる。


「うーんと……まちには、3クラス、かな? ちかくに1クラスあるね! つぶしちゃおう!」


 笑顔でとんでもないことを言っている。


 依桜は例によってスキルを発動している状態。


 近くの拠点へと移動。


「えっと……あ、7わりくらいではらっちゃってるね。でも、こうつごうかも」


 今回の依桜は完全に八つ当たりで参加しているため、どんな手段を使ってでも殺戮をしようとしている。


 次なるターゲットが決まり、拠点へ。


 拠点はちょっと高めの家。


 イメージとしては、四階建てのビルのような物が近いかもしれない。


 屋上と四階、一回に固まっていて、常に警戒している様子。


 もっとも、『気配遮断』と『消音』ですでに依桜が侵入してしまっているが。


 まずは屋上。


「ふふっ、せなかががらあきですよー」

『へ? な、て、てん――!』


 バンッ! という乾いた音が鳴り響き、男子生徒が一人、倒れた。


 依桜は今、屋上に上った直後、『消音』だけを解除し、ハンドガンで額を撃ち抜いた。しかも、ゼロ距離。


『ん? なんのお――』

「おそいですよ」


 バンッ! 今度は自身の姿を悟られることなく、射殺。


 依桜はハンドガンを右手に持ち、ショットガンを取り出すと左手に装備した。


 その状態で、四階へと入り込む。


『――ッ! 大変だ! 一人入って――』


 その言葉が続くことはなく、代わりにドバンッ! という音が鳴り響いた。


『って、天使ちゃんだとぉ!?』

『おい急げ! やべえのが来た!』

『全員でかかれ!』


 と、依桜の存在に気付いた他の者たちが一斉に依桜に発砲する。


 しかし、


『あ、当たらないんだけど!?』

『なんで銃を避けてんの!?』


 依桜に弾丸が当たることはない。


 室内は大体10メートル×10メートルの広めの部屋。


 依桜に向かって囲むようにして各々が撃っているのだが、一向に当たらない。


 それどころか、余裕で回避されている。


 壁を走ったり、壁を蹴って跳躍したり、そのまま天井を蹴って床に着地、からの全店などで回避。


 アクロバティックな動きで回避しつつ、ハンドガンで牽制をする。


『天使ちゃんの動きどうなってんの!?』


 思わずそう叫ぶ一人の男子生徒。

 すると、次の瞬間、


「ふっ――!」

『へ? ぶげらっ!?』


 いつのまにかしなやかな脚が眼前に迫っており、さらにはそのまま蹴り飛ばされた。


『えええ!? そんなんあり!?』


 蹴り飛ばされた男子生徒は拠点内の家具などにぶつかりつつ転がる。

 依桜はその男子生徒に馬乗りになると、ごりっと額にハンドガンの銃口を突き付けた。


「おつかれさまです♪」


 にっこりと大輪の花のような笑顔を浮かべて、引き金を引いた。


 ヘッドショットにより、即死。


 ちなみに、普通ならハンドガンと言えどもヘッドショットで死ぬことはないのだが……これにはもちろん、わけがある。


 原因は依桜が持つ称号『慈愛の暗殺者』によるものだ。


 依桜が行なった攻撃が急所に当たれば必ず二倍になるという、ぶっ飛んだもの。


 やはり、相性最悪である。


 どんな武器でも急所に当てれば一発KOみたいなものだ。


『紙谷がやられた!』

『くっそ! これでもくらえ!』


 仇を取ろうとしたのか、ダダダダダ! と連続した発砲音が鳴り響く。


 使用された武器はサブマシンガン。


 背後からの攻撃。それは当たるかに見えたのだが……


「もっとはやくうってください」


 背面跳びでサブマシンガンを撃った男子生徒の背後に回ると、後頭部にショットガンの銃口を突き付け、そのまま引き金を引いた。


 ……片手で。


 ドパンッ! という音を響かせつつ、男子生徒の頭を吹き飛ばした。


 依桜にダメージなどなく、ケロッとしている。


 しかも、撃った時の反動を利用して、独楽のように回転して、そのまま近くにいた別の男子生徒の顔面にとてつもない威力の回し蹴りをプレゼント。


 さらに追い打ちで、吹っ飛んでいる途中の男子生徒の心臓部にハンドガンで狙撃した。


 もちろん、蹴りも相まって一発KO……もとい、二発KOである。


『か、勝てるわけな――』

「さよならです!」


 そして、次の瞬間には、ミニガンを取り出し、フロアに残っていた生徒たちを笑顔でミンチにした。


 その後は、拠点に残っていた者たちを体術と銃撃を交えた格闘術、ガン=カタのようなことをして殺戮。


 たまに、ター〇ネーターよろしく、片手でショットガンを撃ったりもしていたが、まあ依桜なので、当然と言えよう。


 拠点にいた者たちを全滅させた依桜は、次なる獲物を求めて移動を始める。


 依桜の八つ当たりという名の殺戮はまだまだ始まったばかりだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る