第355話 最終種目3

 ところ変わって、山岳地帯へと向かったアイはと言えば。


「うえへへへへ、獲物が満載だぜぇ~」


 とか、悪人のようなことを言いながら、スナイパーライフルを構えていた。


 アイの持つ武器は、主にスナイパーライフル一丁、ハンドガンが二丁、あとはサブマシンガンとグレネードランチャーが一丁ずつである。


 前半三つは主に依桜と同じような構成だが、後半二つは依桜は持っていない。


 まあ、依桜の方がある意味凶悪だったりするのだが……。


 依桜と別れた後、アイは山岳地帯に来ていた。


 もちろん、傭兵として戦場を駆けまわり、様々なプレイヤーを銃撃するためだ。


 まずは、スナイパーライフルで狙撃しよう、ということになり、アイは山岳地帯のとある山頂部分から、機会を窺っていた。


 スコープの先に映るのは、一年一組の拠点だ。


 どうやら、山岳地帯を引いた一年生のクラスであり、尚且つ、当たりの場所を取ったようである。


 山岳地帯で最も高い位置に近く、狙撃をするのならちょうどいい場所だ。それに、上にいるということもあって、下から攻めてくれば対処がしやすい。


 おそらく、一番当たりの場所と言えるだろう。


 そんな場所に拠点を構えている一年一組の面々だが、今まさにアイに狙われている。


 ちなみにだが、アイが所持しているスナイパーライフルも……対物ライフルである。


 依桜大好きなスーパーAIは、じっと誰かが出てくるのを待つ。

 まあ、アイにとっては拠点ないのどの位置にいるかがわかるので、待つ必要なかったりする。


 今回のこの件にあたり、アイは裏でレベリングを行っていた。


 その過程でいくつかのスキルや称号を得ていたりする。


 スキルでは『高速演算』や『音響感知』、『熱源感知』、『並列行動』をメインに取得。


 称号は【女神の従者】と【無慈悲な演算者】というよくわからないものを得ている。


 スキルの『音響感知』と『熱源感知』は、読んで字のごとく。『高速演算』は、相手がどの位置に移動するかを瞬時に計算し、どのタイミングで遠距離攻撃をすればいいか、ということを演算するためのスキル。ちなみにこれは、システムの方のアシストで成り立つものである。しかも、アイはどこかの頭のおかしい学園長が核となっている上に、AI化したことで、ものすごく計算能力が向上しているので、正確無比な演算能力を得ている。


 そして、『並列行動』というのは、別々の行動をこなせるようにする、というもの。


 実質的には『高速演算』に近いかもしれないが、あれは頭に働くが、こちらは体に働くスキル。これとこれをやりたい、と思った時に、片方は自身で動き、もう片方をシステムのアシストで行動できるようにするもの。狙撃で例えるのなら、右手のハンドガンは相手の頭部を狙っているのに、一方のハンドガンでは背後にいる物の心臓部を狙う、みたいなことである。


 しかも、『音響感知』と『熱源感知』の二つと合わさることで、正確な狙撃が行えることだろう。


 と、明らかにスキルだけでも異常に強いと思えるのだが、称号も悪質だ。


 まず【女神の従者】からだが、こちらの効果は『特定のプレイヤーとパーティーを組む際に、全ステータス+50%と、特定のプレイヤーの持つスキルや魔法を一部使用可能』というぶっ飛んだもの。


 特定のプレイヤーというのは、もちろん依桜のことだ。


 システム的には、従者と判定されるらしい。


 ちなみに、スキルと魔法が一部使用可能、という部分に関しては、文章そのままの意味だ。


 依桜が持つスキルと魔法が、一部だけ使用できる、というもの。


 ここでいう一部、というのは特定の物を指しているわけではなく、全体の中から一部だけを、というものだ。


 一日に使用できるのは四つまでで、その内のスキルと魔法を、依桜が持つものの中から選択してその日一日使えるようにするというもの。


 明らかに、チートに近い。


 そして、【無慈悲な演算者】という称号についは『所持者のINT+100%。狙撃攻撃の命中補正がかかる。演算系スキルの効果上昇』と言った、ぶっ飛んだもの。


 入手したスキルとの相性は抜群。


 なんと言うか、ずるいような気がするほどに、称号の効果がえげつない。


 しかも、今回は銃撃戦がメイン。


 そうなると、アイはこの種目において圧倒的に有利であり、依桜とはまた違った方面で凶悪な存在になりそうだ。


 ちなみに、スキルはあの四つ以外にも持っている。


「ん~……お、いい感じの獲物はっけーん!」


 と、楽しそうににこにこしながら呟くアイ。


 その先には、今まさに出撃しようとしている一年一組の生徒たちが数人ほど出てきていた。


「では……『高速演算』」


 アイはスキルを早速使用。


 すると、視界にターゲットの影のような物が出現する。


「ほほー、どう動くかをこうやって影のような形で表してるんですねぇ~。これだけでも便利ですが、このスーパーAIである私の演算能力をかけ合わせればまさに百発百中! 早速、狙撃です! ファイア!」


 声高らかに言いながら、引き金を引くと、ドパンッ! という音を鳴らしながら弾が銃口から放たれ、見事に数人の生徒たちの頭を貫通させ、光の結晶に変えた。


「めーいちゅう!」


 一度の狙撃で、約四人ほど消し飛ばしたことに、アイはにっこり。

 反対に、拠点を出た途端にクラスメートが突然やられたことに驚き、慌てて出てくるものが二人ほど。


 もちろん、アイが見逃すはず等なく……


「警戒してね!」


 ドパンッ!


 再び発砲音が鳴り、拠点から出てきた二人を光の結晶に変えた。


 AIにスナイパーライフルを持たせてはいけない。そう思えて来るほどの、無慈悲な射撃能力。


 どのタイミングで、どの角度で撃てばいいのかを把握できているからこそ、このような芸当ができるのである。


 ただ、忘れてはいけないのは、アイはAIだからこそできることのなのだが、依桜はこのようなことを自身の技術だけで実現させてしまっていることだ。


 普段は常に笑顔で、優しく、思いやりのある完璧美少女な依桜が、正確無比な射撃を平然とやってのけていることを考えたら、恐ろしい話である。


「う~むぅ~……スナイパーライフルでの狙撃も楽しいですが、やはりこう……もっと派手に行きたいですよねぇ。やっぱり、グレネードランチャー使いましょうかね?」


 そう考えるものの、届くかどうかが曖昧なので、ちょっと控える。


「んまー、とりあえず、もうちょっと近くに行って、グレネードランチャーで拠点を破壊したら、また狙撃でもしますかねー。近づいてきたら、サブマシンガンで蜂の巣、ということにしましょうか! よーっし! そうと決まれば銃撃銃撃!」


 テンション高く、ノリノリで潰しに行くアイだった。



『みるみるうちに戦死者がでてるにゃぁ! 現在、三年七組と一年一組、それから一年四組が全滅にゃぁ!』


 声優の実況には、外の世界でも意外と大盛り上がり。


 会場にいた所謂アニメオタクたちは、このサプライズじみた状況に熱狂。


『やっべえ! 本物の美羽たんたちが生実況してくれるとか……最高すぎる!』

『あぁ~、音緒ちゃんの甘いボイスは脳が蕩けそうだぁ~』

『いやいや、莉奈ちゃんのはつらつとした声こそ、元気にしてくれるんだよ!』

『何を言う! あのクールな声で、淡々と話す奈雪さんこそ、素晴らしいんだよ!』


 とまあ、こんな感じ。


 さすが人気声優と言ったところで、何やら言い争いなりそうなところもあるが、まあ、放置で大丈夫なのだろう。


 ある意味、オタクにはよくあることである。


 さて、一方で高等部のエリアの一部では、男女ファミリーが一ヵ所に集まって依桜たちの活躍を見ていた。


「おー! ねーさまがすごいのじゃ!」

「イオお姉ちゃんかっこいいです!」

「かっこ、いい……!」

「あの武器なんだろう? カッコいい!」

「さすがイオお姉さまなのです!」

「……やっぱり、イオおねーちゃん強い」


 とまあ、依桜の行動に目をキラキラさせていた。


 自分たちにとって、最も尊敬し、最も好きな姉が、自分たちよりも小さくなっていたとしても強い、という事実に心の底からはしゃいでいるわけだ。


 依桜が見たら、ものすごく喜びそうである。


「あらあら、依桜もすごくなったのねぇ」

「いや母さん、あれをすごいだけで片付けるのはどうなんだい? 俺、自分の息子――もとい娘がショットガンを片手で撃って平然としているとことか、ロケランを楽しそうな表情で撃ってるとことか、ミニガンを至近距離で撃ちまくってるとことか見て、軽く戦慄を禁じ得ないんだが……」

「何を言っているの。依桜よ? 依桜なら、笑顔で銃ぶっぱしても不思議じゃないでしょう?」

「……否定できない。我が娘ながら、まさかこうなるなんてなー……」


 母親の方はちょっとあれだが、父親の方はそこそこまともに考えているようである。


 もっとも、源次が言ったように、こんなことをしても、依桜だから、で片付けられてしまう時点で、依桜がいかに規格外かが再認識できることだろう。


 妹たちは目を輝かせてはしゃぎ、母親は娘が逞しく成長したことに喜び、父親は娘の異常な成長ぶりに遠い目をした。


 意外と、父親はまだマシなのかもしれない。



「あははははは! す~~~っごくたのしぃ!」


 種目が開始となってから、すでに一時間ほどが経過。

 現在の依桜は……ものすごく、楽しそうだった。

 なんだったら、やや恍惚とした表情をしているくらいだ。


『ぎゃあああああ!』

『ショットガン片手で撃つな――』

『いやああああああ! 死ぬ! マジで死んじゃう――!』

『天使ちゃんにロケランなんて持たせるなよ――!?』

『というか、なんでこっちの攻撃が当たらないんだ!?』

『畜生! ミニガンを撃ちながら高速で走るとか、反則過ぎだっての!?』


 と、ショットガンを片手で撃ったり、ロケランを乱射しまくったり、高速で走りながらミニガンを撃ったりと、本当に酷い。


 しかも、その表情がさっきも言ったよう恍惚としているので、尚更である。


「あははははは! ひゃっは――!」

『ちょっ、天使ちゃんからは想像できないような世紀末的声が発されたんだけど!?』

『くそっ、しかも無駄に可愛いだけに質悪ぃ!』

『あんなの天使じゃないやい! 悪魔だろあれぇ!』

『小悪魔なケモロリっ娘……』

『『『いやいいな!』』』

「うるさいですよぉ! おとなしく、ロケットランチャーでやられてくださいっ!」

『『『ぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!』』』


 酷い。


 なんと言うか、地獄絵図である。


 依桜は今、街にいたりする。


 つい数十分ほど前もガン=カタとか、狙撃とかしてとあるクラスの拠点にいた生徒たちを殲滅していたのだが、あの後一度街から出て、砂漠地帯まで行っていたのである。


 で、少し前にこちらに戻ってきて今みたいに殺戮をしていた、というわけだ。


 恍惚とした表情を浮かべ、楽しそうに銃を乱射しまくるケモロリっ娘。


 ……かなり危ない絵面だが、まあ、仕方ないとしか言えまい。


 何せ、依桜は今までのストレスが溜まっていたのだから。


 思い返せば、九月のあの日から、依桜のストレスはただただ溜まる一方だった。


 女になったことで生じた性の違い。


 周囲からの不躾な視線。


 胸を揉まれるなどの好意を受け。


 学園祭ではテロリストを撃退。


 サキュバスの衣装を着させられての接客やらイベント。


 いきなりモデルの仕事もさせられ。


 異世界へ実験のため行き。


 ミオのとんでもないミスで体質が変化し。


 なぜか理不尽な師匠であるミオのこちら世界への進出。


 体育祭ではなんかよくわからない仕掛けに翻弄され。


 冬〇ミではカメコに執拗に狙われ。


 CFOでは変に目立ち。


 突然異世界に飛ばされたと思ったら、魔王の妹ができただけでなく、一国の女王になり。


 別世界の学園長の手によって並行世界に迷い込み。


 メイド喫茶でアルバイトをした時は、強盗を撃退し。


 声優体験では、まさかのメインキャラとして出演することが決まり。


 異世界に旅行へ行けば、悪徳領主を撃退し、人攫いのクソ外道たちを捕まえるのと同時にまた妹が五人でき。


 球技大会ではナース服を着させられ。


 とどめと言わんばかりに、衆目にパンツを晒しただけでなく、あわや裸を見られかけるという事態も発生。


 一年も経過していないのにもかかわらず、ざっと例を挙げただけでこの有様。


 しかも、小さいこともあるのだが、それを挙げていたら切りがない。


 もう一度言おう。このようなことが、一年も経たずに起こっているのだ。こんなもの、ストレスが溜まらない方がおかしいのだ。


 つまり、依桜はおかしい。


 しかし、ストレスを感じていなかったわけではなく、無意識に感じていた。


 事実、体育祭終了後に体調を崩して寝込んでいたが、あれもストレスが原因のような物だ。


 さて、そんな感じで毎日毎日ストレスが溜まっているような依桜だが、さすがにもう我慢の限界だったんだろう。


 ここに来て、ついに依桜のストレスが大爆発。


 その結果、戦闘狂とかサイコパスみたいな感じになってしまった、というわけだ。


 で、今は、


「わーい! ロケットランチャーたのしー! ミニガン、もっとうつー! スナイパーライフルでヘッドショットするのー!」


 新しいおもちゃをもらって無邪気に遊ぶ子供のように、ロケランをぶちかましてははしゃぎ、ミニガンを乱射しまくってははしゃぎ、高速で動きながら逃げ惑う生徒をスナイパーライフルでヘッドショットをしまくってはやっぱりはしゃぐ。


 よほど、ストレスが溜まっていたのだろう。


「ひとがごみのようだー!」


 ドォォォォォォォォン!


 ドゥルルルルルルルルッッ――!


 ドパンッ! ドパンッ!


 というような、凄まじい音を放ちながら、バーサーカーと化したケモロリっ娘は進む。


 もはや、止められるものはいないだろう。

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