第357話 最終種目5
サイコパス化してしまった依桜だが。
「あはははははははははは! たのしいぃーーーーーー!」
『『『ぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』』』
殺戮を楽しんでいた。
相変わらずロケランで固まって行動していた生徒たちを吹っ飛ばし、少しばらけたところで、ミニガンによる殲滅。そして、さらに細かくなったところをスナイパーライフルでヘッドショット。
銃を撃ち、敵を殺すことに対して楽しさを見出してしまった上に、度重なるストレスでこうなっているので、まあ、仕方ない。
未果たちと会った後、ずっとこの調子である。
依桜とアイが大暴れしていることで、他の生徒たちがなかなかキル数を稼ぐことができていない。
何とか倒そうと自陣から送るものの、近づく前にロケランで吹き飛び、大人数で掛かろうものならミニガンの乱射を受け、離れたところから狙撃しようものなら、弾丸を回避された後、そのままスコープを覗かずにスナイパーライフルで狙撃されて終了。
こんな感じで、一向に倒せる気配がない。
なんだったら、体力なんて一ミリも減っていない。
つまり、ノーダメージである。
アイの方も、例の演算能力のおかげで弾丸を全て回避している。
相手はAIなので、当てるのは難しそうである。
そんなこんなで、各クラスに甚大な被害を出し続けている現状。
このままでキル数なんて稼げることなく、全滅してしまう、と考えた生徒たちは、
『よし、協定を組もう』
他クラスと共闘することを選んだ。
実際、徒党を組まない限り、依桜とアイを倒すのは無理だろう。
片や異常ステータスに異常なまでの身体技術。
片や感情があるスーパーAI。
たった二人で戦況をひっくり返すことができるのだから、本当に洒落にならない。
そんな考えに生き残っている全クラスのリーダーが行きつき、結果的に協定を結ぼうと行動を開始。
割とあっさり協定を結ぶことに成功した。
もともとそう言った機能があったらしく、それを用いて残っている全クラスとの協定を結ぶことに成功し、一度街にある城にて軽く会議をしていた。
ちなみに、未果も一応参加しているにはしている。
というか、協定を結ぶための機能があるということは、学園長はその辺りを見越していたのだろう。
とりあえず、生き残っているクラスは、大体高等部の半数と言ったところだ。
半数はすでにやられている。
運が悪かったということだ。
それにしては、色々と酷いが。
そんなこんなで、生き残っているクラスのリーダーたちによる会議が進み、それにより各クラス拠点に数人ほど残し、それ以外の生徒たちで依桜とアイを迎え撃つということになった。
まあ、大規模な戦闘になるということだ。
場所は、草原エリア。
一応他のエリアも話されたが、ある意味草原エリアが一番いいという判断になった。
他の案として、森林、火山、砂漠、沼、遺跡、墓地と言った、ある意味特殊な場所も出されたのだが、未果によって却下された。
今回会議に参加している面子の中で、依桜をよく知る人物は未果だけだったからである。
そもそも、依桜と未果が幼稚園来の幼馴染であることは高等部の生徒たちには周知の事実であり、知らない方がむしろ珍しいとか言われるほどである。
そのため、依桜と仲がいいと知られている未果からの言葉なら説得力がある、と判断されたのだ。
ちなみに、却下された理由としては、変に遮蔽物が多い場所だと、依桜の独壇場になるから、というもの。
まあ、現実で暗殺者をしていたり、そもそもゲーム内でもステータスやスキルの構成が明らかに隠密系、ひいては暗殺者の職業に特化しまくったものだったり、装備品もそう言った場所に真価を発揮するような物ばかりだったのである。
砂漠は違うと言われたのだが、依桜の所持している靴装備は、いかなる場所でも安定して走れるというものだったり、そもそも依桜は足場の悪い場所でも何の問題もなく走れるという足をしているので、意味がないと説明。
じゃあ、墓地は? となったのだが……まあ、これは未果が全力で却下した。
理由は単純。
依桜がお化けに対して恐怖心を持っているからだ。
割と完璧超人に思える依桜の唯一と言っても過言ではない弱点が、お化けだからだ。
この世界がゲームとはいえ、お化け系の何かが出ないとは限らないのである。
一応、モンスターが出るような設定にはなっていらしいのだが、依桜は雰囲気ですらすぐにダメになってしまう始末。
今回の依桜は相当やばいことになっているとはいえ、お化けに対して恐怖心を持っていないと言えばそうではない。
その弱点を突いて、依桜を倒すことはできるだろう。
しかし、そうではないのだ。
普段の依桜ならば、間違いなく気絶しかねない案件だ。
だが、今回はサイコパスモードになっているため、悲鳴を上げつつミニガン乱射、ロケランで大爆殺しかねないという理由と、これ以上依桜のストレスをため込んだら、ゲーム内で済まない可能性が出てくるため、未果が全力で却下したのだ。
これ以上依桜が壊れようものなら、いよいよ未果たちにも被害が出てしまうので。
それに、可能性としてはかなり低いだろうが、メルたちにも何かが向かないとも限らないから、というのも含まれている。
そこで、遮蔽物もほとんどない草原を選んだ、というわけだ。
まあ、近くには街もあるし、森林もあるので、少々あれなのだが……他よりはマシ、という判断になった。
かくして、作戦は確定したのである。
全員、これから死地にでも向かう、戦争真っただ中の兵士のような顔をしていた。
もはや、優勝どころじゃなくなったことだ。
会議が終わると、城にいたリーダーたちは席を立ちあがり、それぞれのクラスにこのことを伝えるために、解散した。
(……これで、依桜を止められればいいけど……幼馴染としては、ストレスを発散させた方が、いい気がするのよねぇ……。まあ、この作戦で依桜が大量に殺戮するでしょうから、問題なさそうだけど。ただ……何かしら。この、言い表せない寒気と、嫌な予感は)
誰もいなくなった広間で、未果は一人そんな考えをしていた。
そして、頭を振って不安を頭の中から出して、自身の拠点に帰って行った。
そんな、誰もいなくなった広間の天井部。
「……ふふふ」
一人の少女の口もとが、三日月のような弧を描き、笑いを漏らした。
「~~~♪ ~~♪」
草原エリアの中心部。
依桜はにこにこ顔で鼻歌を唄いながら、ハンドガンとくるくると回しながら歩いていた。
他の武装はいつでも取り出せるように、常にストレージをオープン状態にしている。
手を突っ込んで、取り出したいものを考えれば取り出せる仕組みである。
メニューの機能を用いない、手動型である。
依桜の仕事服は、全身黒。
依桜の綺麗な銀髪とはまさに正反対と言えるような色合いだ。
だからこそ、似合っているのだが。
暗殺者の服装が似合う、銀髪碧眼のケモロリっ娘とは一体……。
『3、2、1……Go!』
不意に、草原エリアの近くの森林から、大勢の生徒たちが出現し、銃を撃ちながら、依桜に向かって突っ込んできた。
ダダダダダッッ!
ドパンッ!
パァンッ!
とか、まあ、様々な銃撃が行われているのだから、その分だけ銃撃音が聞こえてくる。
中には、味方同士で銃弾が当たってしまっているのだが、ダメージを受けている様子はない。
これは、同盟をの機能の利点の一つだ。
同盟と言うのだから、つまり味方になるということ。
なので、同盟を結べば、味方になったとシステムが判定し、ダメージを受けなくなるのだ。
フレンドリーファイアがない。
まあ、だからと言って当たった時の衝撃がないわけじゃないが。
と言っても、ここにいる生徒たちの目的は、あくまで依桜を倒すことのみである。
普段は、依桜に対して何か危害を加える、なんてことをするような人は、学園にはまずいないんだが、今回ばかりは話が別である。
さすがに、何もできずに死ぬのはちょっと……みたいな。
あとは、優勝すれば『New Era』が手に入るから、というのもあるだろう。
学生には手を出しにくい値段設定になっているので、手に入れられる機会があれば、何としても手に入れたい、と言った感じである。
まあ、最先端な代物であるということを考えたら、誰でも欲しくなるだろう。
特に、高校生という、まさに青春真っ只中、同時に流行に敏感な時期とも考えたら、余計だ。
まあだからこそ、
『くっ、これもゲームのためっ……! 恨みはないが、倒れてくれ!』
『ゲーム欲しい! ゲーム欲しい1』
『倒すぅ!』
とまあ、こんな感じになるわけで。
四方八方、全方位からの弾丸の雨。
さすがに倒せる……そう思った時だった。
「『生成』――ふっ!」
依桜は『武器生成』の魔法を発動すると、両手に二本のナイフを生成した。
生成した途端に依桜の体がぶれた。
ガガガガガガガガガガガガガガガッッッ――!
と、依桜がいた場所に剣閃の嵐が巻き起こった。
それと同時に、依桜に向かっていたはずの銃弾が次々に切断され、地面に落ちていく。
『『『なァ――ッ!?』』』
まさか過ぎる目の前の現象に、撃ち続けていた生徒たちですら思わず持っていた銃を落としてしまう。
それを見逃す依桜ではなく、
「はぁっ!」
鬼気迫る声を発すると、複数の発砲音がなり、周囲にいた者たちの頭を容赦なく打ち抜き、一瞬で数人が消滅した。
『は、早っ!?』
『今何した!?』
『というか、ナイフ使ってんだけど、反則じゃねえの!?』
と、そんな叫びが発されると、
『いえ! 魔法によって生成された武器なので、問題はありません!』
美羽によって、即座に否定された。
まあ、あくまでもレベリングで手に入れた武器は使えないというだけで、自身の魔法やスキルで生成したものであれば、そこには引っかからない、というわけだ。
とはいえ、魔法で生成した物なので、普通よりも耐久が低いので、大してメリットにはならないのだが、依桜の場合は色々と調整可能になってしまっているので、デメリットがほとんどない。
「あははははは! おそい! おそいですよぉ! ほらほらほらぁ! しんじゃいますよぉ!」
『いぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――!』
『無理無理無理! 死ぬ! マジでし――』
『ちょ、なんでピンポイントでヘッドショットできる――』
言い終わらずに、パリィン、パリィン! と、どんどん連合軍の人たちが消滅していく。
最早阿鼻叫喚の絵図。
黒い暗殺者衣装を着た、天使のような可愛らしさを持った、銀髪碧眼のケモロリっ娘が大勢の人たちを恐怖のどん底に堕としていく。
ハンドガンやショットガンで近くにいた者たちの急所を狙って撃ち殺し、ロケランで大勢をいっぺんに吹っ飛ばし、まばらになったらミニガンで殲滅し、そしてスナイパーライフルでヘッドショット連発。
その結果、連合軍は僅か数分で壊滅。
しかも依桜は、
「にげようなんてぇ、むだむだむだぁ! み~んなしぬんですよぉ!」
とか、
「あたまをパァンッ! てするのたのしいなぁ!」
とか、
「ふふふふふふふふふふふ! はっちのっす♪ はっちのっすぅ♪」
とか、
「じゅーさーつ、ばーくさーつ♪」
とかみたいな、まさにやべーセリフを吐きまくって、殺戮の限りを尽くしていた。
というか、言動がすでにサイコパスである。
なんと言うか、ここまで壊れていたんだなと、そう思えて来る惨状である。
ちなみに、この戦いには、未果たちも参加していたが、綺麗に生き残っていた。
まあ、依桜が有言実行していたからだ。
殺すのは最後、と言っていたので。
「ふんふ~ん♪ ……あ、アイちゃんだ。えーっと?」
不意に、アイから連絡がきた。
そこには、
『いやぁ、さすがイオ様ですねぇ。会議の場に直接潜伏して、情報を抜くなんて。いよっ! 世界最強の暗殺者の弟子! ゲームでもチート! すっごーい!』
とまあ、依桜を褒める言葉だった。
そう、アイが言う通り、あの会議の場に依桜はいた。
まあ、天井にいただけなのだが。
もとより、暗殺者としてスパイのようなこととか、諜報員のこととかに対しては、かなりの適性があった……というか、相当な凄腕の暗殺者だったので、会議に潜り込むぐらいは朝飯前。
なので、あの筒抜けな会議に入るくらいは何の問題もなくできてしまったのだ。
だからこそ、依桜は突然の襲撃に対して問題なく対処できたのである。
ちなみに、アイにも連絡していたので、何気に遠くから狙撃したりしていたのだ。
『んでんで? 残っているクラスはーっと……おほー、残り三クラス。いやぁ、裏で拠点に残っていた人たちを殺戮した甲斐がありましたぜー』
『あ、そんなことしてたんだ? ずるいなぁ。ボク、もっとも~~~っとヤりたかったんだけどなぁ~』
光のない目で、にこにこ顔でそんなメッセージを送る。
なんと言うか、これがイラストだったら、鼻から上には影があることだろう。
『……イオ様。マージで荒れてますねぇ~。いやまあ、情報を知っているから、仕方ないと思ってるんですがね~』
『うふふ~』
『あ、うん。イオ様、いい感じにサイコってますねぇ。まあいいや。イオ様。とりあえず、残りを殺りに行きますか』
『いいね~。いこいこ!』
まるで、スイーツバイキングに行こう! みたいなことを言う女子高生のようなノリである。
そんな感じで、依桜は歩く。
その後、色々と殺戮の限りを尽くし、依桜とアイの傭兵コンビは参加していたクラスをほぼ全滅させた。
そして。
「うふふふ❤」
「「「「あ、あはははははは……マジ、すんませんした……」」」」
あのセリフを有言実行し、未果たちも葬り去った。
『しゅ―――りょー―――! まさかまさかの結末! 傭兵として参加していた、依桜ちゃん&アイちゃんコンビが全クラスを殲滅しました!』
『いやぁ、この結末は予想してなかったなぁ~。依桜ちゃんたち、マジパネェっす』
『うんうん、私もびっくりだったにゃ~』
『というより、私たち実況組が影薄かったですね。実況する間もなく、依桜ちゃんによって全滅させられていましたからね』
『ともかく、優勝は……二年三組ですね! よって、二年三組の皆さんには、後日『New Era』が贈られるそうなので、楽しみにしていてくださいね!』
『んじゃんじゃ、MVPを発表していくねー! えーっと、まずは――』
と、声優たちによる、MVPの発表がなされていく。
そして、二十名分の名前を呼び終えると、
『それでは、これにて叡董学園球技大会最終種目を終わります! 十分後には、閉会式がありますので、生徒の皆さんは高等部のグラウンドに集まってくださいね!』
そんなセリフと共に、最終種目は幕を閉じた。
ちなみに、この件で依桜がサイコパス化したことは、この最終種目の後『血濡れの天使(もしくは女神)事変』と呼ばれるようになり、見ていた者や、体験した者の記憶に深く刻み付けられた。
そして、『白銀の女神は絶対に怒らせちゃいけない』という、共通認識が生まれるのであった。
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