第370話 依桜ちゃんたちとレジャープール2

「「「「「「わぁ~~~っ!」」」」」」

「あ、みんな走ると危ないよ!」


 更衣室から出るなり、メルたちがはしゃぎだし、走り出した。


 さすがにこういった場所で走るのは色々と危険なので、ボクはみんなを注意。


 すると、みんなは素直に言うことを訊いてくれて、一旦ボクの所に戻って来たので、その場で軽くしゃがんでみんなの目線に合わせて注意をする。


「いい? ここは、お客さんがたくさんいるんだから、走ると危ないの。そうでなくても、地面が滑りやすくなっているから、転んで怪我をしちゃうかもしれないから、絶対に走っちゃダメだよ?」

「「「「「「はーい(なのじゃ)!」」」」」」

「うん、いい返事だね。でも、万が一、変な人に声を掛けられたり、誘拐されそうになったらすぐに逃げて。そう言う緊急時は走ってもいいから」


 そう言うと、みんなは笑顔でこくりと頷いた。

 よく見れば、なんだかそわそわしている。


「それじゃ、お説教はここまでにして、早速行こっか」

「「「「「「うん!」」」」」」

「それじゃ、みんなも行こ」

「あ、ああ」


 あれ? なんでみんな、生暖かい目を向けてるんだろう?

 うーん?



 というわけで、まずは拠点づくり。

 拠点と言っても、単純にテントを組み立てるだけなんだけどね。


 一応、大人数用のものなので、広めの場所を確保。


 さすがに、十二人もいるからね。


 レジャーシートだけでもいいのかもしれないけど、もし熱中症になったら問題だから、それだけは避けないと。


 ちなみに、どこから出したのか、なぜか師匠がリクライニングチェアを出していました。

 地味に邪魔になる気がしてならないんだけど……。


 ……まあ、なぜかボクたちの周りには人がいないからいいんだけど。


 それから、ボクたちがテントを組み立てている間、メルたちは先にプールで遊ばせています。


 一応、『気配感知』で遂次確認しているので、危険はない。


 万が一があってはいけないから、いつでも対処できるようにしておく。


 多少離れても、気配を追えるからそれなりに問題はないし、悪意を持って近づこうとしている人がいれば、近づく前に察知し、即座に倒すからね。


 守る態勢は万全です。


 あ、そう言えば、クーナとスイは大丈夫かな?


 サキュバスとしての能力を押さえる魔道具を身に付けているけど、あれってネックレス型だからもしかしたら、何かの拍子に取れてしまうかもしれない。


 あ、でも、たしか大丈夫なんだっけ?


 基本的に自分では外れないように魔法が掛ってるとか何とか、ジルミスさんが行っていた気がするし。


 本当、便利だよね、魔法。


「それ、なのじゃ!」

「わわっ、やったなぁ、メルねぇ! やぁ!」

「きゃっ! ミリア、私に当たってるのです!」

「……わたしも、当たった。許すまじ。えい!」

「……あぅ! わ、たし、ミリアじゃ、ないのに……。しかえ、し!」

「リル、私はスイじゃないですよ!」


 はぁ……癒されるぅ~~……。


 近くの子供用のプールで水の掛け合いをして遊ぶメルたち。


 みんな楽しそうに笑顔を浮かべていて、とっても生き生きとしている。


 しかも、みんなの水着姿も可愛いからね!


 一応、ニアとクーナがフリルが付いたビキニ型で、リルとミリア、スイの三人はそれぞれの違いはあれど、タンキニとスカート型の水着。メルはスカート丈が太腿くらいのワンピース型。


 こんな感じになっています。


 みんな似合ってていいね。


 クーナはともかく、ニアがビキニ型の水着を着たことにちょっとびっくり。


「ふぅ……」

「お疲れ、依桜」


 ボクに声を掛けながら、未果が横に腰を下ろした。


「あ、未果。別に、疲れてはいないけどね。テントを組み立てるのなんて簡単だし」

「ま、それもそうね」

「晶たちは?」

「飲み物を買いに行ったわ。あらかじめ買っておくって」

「そっか。やっぱり、気配り上手だよね、晶って」

「ええ。伊達にモテてないわ」

「ふふっ、そうだね」


 なんと言うか、晶らしいよ。


「それにしても、可愛らしいわね、メルちゃんたち」

「そうだね。世界一可愛いと思ってます」

「……同時に、あなたのシスコン度が日に日に増してるわね。妹離れできるの? あなた」

「さ、さすがにそんなに酷くないよ? というか、ボクはシスコンじゃないから!」

「「「「それはない」」」」

「違う――って、え、なんで四人分!?」


 不意に、ボクの発言を否定する声が、四人分聴こえてきて、思わず混乱。

 きょろきょろと周囲を見れば、


「今の依桜は確実にシスコンだぞ?」

「そうだな。少なくとも、過保護すぎる」

「まあ、依桜君だしねぇ~。そうなっても不思議じゃないさ!」

「……いつの間に」


 いつの間にか、三人が戻ってきていた。

 手には飲み物が入った袋を持っていた。


「今さっきだぜ」

「まさか、戻ってきていきなり否定されるとは思わなかったよ……」


 最近、というか、ちょっと前からみんな冷たいような気がします。


「しっかしあれだな。メルちゃんたち、すっげえ注目集めてんな」


 子供プールで遊ぶメルたちを見ながら、態徒がそんなことを言う。


 たしかに、子供プールで遊ぶメルたちにかなりの視線が集まってる。


 特に、周囲で遊んでいる別の子供……特に男の子なんかは、メルたちに見とれているかのように、顔を赤くしている。


「みんな、すごく可愛いからね」

「だねぇ。やっぱり、美幼女たちが水辺でキャッキャと戯れている絵面は、素晴らしいよね! 可愛すぎる!」


 そう言いながら、女委が手元で何かを書いている。

 メモ?


「んじゃまぁ、オレたちも遊ぶか」

「そうね。いつまでもここにいたんじゃ、もったいないし」

「と言っても、お金を払ったのは依桜なんだがな」

「「「ごちです」」」

「あはは。いいよいいよ」


 ボクが好きでしていることだし。


 みんなには、なんだかんだで助けられたりしている場面が多い。その恩返しのような物だからね。


「依桜はどうする? メルちゃんたちの方へ行く? それとも、私たちと遊ぶ?」

「うーん……そうだね。未果たちと遊ぼうかな」

「いいのか?」

「うん。一応、メルたちにはボクの気配を探れる魔道具を渡してあるから、もしボクと遊びたい、ってなったら、それを使ってボクの所に来ると思うしね」

「……何その魔道具。どこで手に入れたのよ」

「事前に創ったの。一応、スマホを持たせてはいるけど、スマホを使うよりも早いからね。タイムラグがない異世界版GPSだと思えばいいかな」

「「「「無駄にハイテクなものを……」」」」


 あれ、みんなが呆れてる……?

 そんなにこれ、変な物かな?


「依桜。あなた、本当にメルちゃんたちには自重しないのね」

「自重? これでもまだ自重している方だけど……」

「「「「……これで、自重?」」」」

「う、うん。だって、ボクが自重しなかったら、護身用魔道具とかを創って渡したり、変態撃退用の道具とかを渡したり、付与魔法を使って常に回復するようにしたりするけど」

「「「「……あ、うん。そっすか」」」」


 だから、まだマシなんだけど、今のボクって。


「さ、そろそろ行こ。人が増えてきちゃうと、遊びにくくなっちゃうからね!」


 ボクが笑いながらそう言うと、何とも言えない顔をしていた未果たちが、なぜか諦めの笑顔を浮かべていた。


 どうしたの?



 というわけで、まずは普通のプールへ。


 海を模したようなデザインの広々とした変哲のないプールで、そこでは家族や友人、恋人同士などで遊ぶ人たちでにぎわっている。


「いやぁ、気持ちいいねぇ。こう暑い日に水にはいるって言うのは!」

「そうだね。温くなってないし、冷たいままでいいよね」


 常に冷たい水を出し続けてるのかな、これ。


「依桜、あなたいつまでパーカーを羽織ってるの?」

「たしかに。やっぱあれか? 日焼けを気にしてるのか?」

「そ、そう言うのじゃないよ。それに、ボク日焼けしないし……」

「依桜、マジなの?」

「マジです」

「……そう言えば、言われてみれば依桜は昔から日焼けをしていなかったな。なぜかはわからないが」


 晶の言う通り、ボクはなぜか、昔から日焼けをしない。

 みんなとプールに行っても、ボクだけ焼けなかったんだよね、肌。


「てか、日焼けしない体質とかってあるのか?」

「んー、ないことはないけど、結構危ないみたいだね、そう言う人って」

「へぇ、そうなの?」

「うん。日焼けってね、簡単に言えばメラニン色素が紫外線から肌を守る働きをした結果でね。まあ、細胞が痛まないようにしてるわけなのさ。で、逆に日焼けしない人っていうのは、メラニン色素が上手く生成されないんだよ。それが原因で、知らない間に紫外線のダメージが肌に蓄積されちゃってるってわけさ。なんで、日焼けしない――しにくい人たちは、しっかりケアをしないと皮膚がんを発症しやすくなったり、肌の老化が早くなっちゃうんだって」

「なるほどな」

「てか、よく知ってるな、女委」

「たまに思うけど、女委って本当に博識よね」

「んまー、ちょっと調べる機会があってね!」


 日焼けについて調べる機会って……一体、どういう状況なんだろう?


 でも、なるほど。そうなんだ。


 じゃあつまり、昔からボクはメラニン色素が生成されにくかった、ってことなんだよね?


 昔なら危なかったのかもしれないけど、今のボクって無駄に頑丈になっちゃったし、太陽がさんさんと降り注ぐ地帯でも修行で過ごしていたから、紫外線が肌にダメージ! っていう状況にならないと思うんだよね、これ。


 ……やっぱり、人外なのかな、ボクって。


「日焼けじゃないとするとよ、なんでパーカーを脱がないんだ?」

「……は、恥ずかしいから」

「……あぁ、言ってたわね、更衣室で」

「うん……」


 正直なところ、こう言った場所で水着姿になるのって、なんだかちょっと恥ずかしい……。


「別に、学園の授業でも水着姿になってるだろ? 何が違うんだ?」

「……態徒、お前はそんなんだから、モテないんだ」

「なにおう!?」

「見ろ、周囲の視線」

「視線? ……あぁ、納得。そして同時に……すまん、依桜」

「……いいんだよ。慣れてるし……」


 そう、視線です。


 現在、ボクにはかなりの視線が来ていました。


 その視線の先はと言えば……


「まあ、依桜君の胸って、すごく大きいもんね」

「あはははは……」


 ボクの胸です。


 特に男の人からの視線がすごい。


 たいていの人はチラ見する程度なんだけど、中にはガン見してくる人もいて……ちょっと気持ち悪い。


 去年の九月からずっとあるような視線だけど、。プールだと一段と酷くなる。


 これ、どうにもできないからすごく困ってるんだよね、ボク……。


「ピュアなのに、その辺りは敏感だしね、依桜は」

「ピュア? ボク、別にピュアじゃないと思うけど……」


 人を殺しているのに、ピュアはさすがに……。


「そう言えば、師匠はどこに行ったんだろう?」

「言われてみれば……見かけてないわね、ミオさん」


 少なくとも、テントを組み立て終えた後には見てない。


 とすると、師匠は一体どこへ……。


「ここだぞ、愛弟子」


 不意に背後から師匠の声が聞こえてきた。

 同時に、周囲のざわついた声も。


 ……一体、背後でなにが起きてるんだろう。


 確認をするべく、後ろを向くと……


「いいな、ここは。軽く修行ができる」


 師匠が立っていた――水面に。


 ……もう一度言います。


 師匠は、水底に足をついて立っているんじゃなくて、水面に足をついて立っていました。


「ん、なんだ、何とも言えない微妙そうな顔をして」

「なんと言うか……ですね。なんで、水面に立っているのかなって……」

「そりゃお前。万が一水難事故に遭った時のために、問題なく水面歩行ができるかどうかを確認していたんだが?」

「いやいやいや! 普通、水面に立つなんてこと、できませんからね!?」

「そうか? 気合でどうにかなると思うんだが、あたし的に」

「それは、師匠の当たり前です! 普通は水面に立つなんてできません!」

「いや、そう言うがよ。お前もできるだろ、水面歩行」

「それは――! ……できますけど……」

((((できるのかよ))))

「と、とにかく! 普通に水に入ってください! 普通に!」

「チッ、仕方ねぇな……ほら、これでいいだろ?」


 ……今、音もなく水底に足をついたんだけど。


 それどころか、水が一切動かなかったんだけど。


 え、待って? なんで? 今、どうやってやったの?


 沼に沈むみたいに、ゆっくり降りて行ったんだけど。


 ……本当に、おかしいよ、この人。


 周囲なんて。


『い、今あの長身美人、水面に立っていなかったか?』

『あ、ああ。俺も見た』

『どうやってんだろう、あれ』

『アクリル板か何かで立ってた、のかな?』

『それにしては、おかしな沈み方してたような……』


 かなりざわざわしているんだけど。


 ……変に注目されました。



「そんじゃま、依桜、遊ぶぞ」

「え、遊ぶ……?」

「ああ。んじゃ、依桜。……水上戦、やるか(にこっ)」

「す、水上戦……?」


 なんだろう? その不穏な単語は。


「あー、周囲にいるガキども。ちっと危ないんで、そうだな……十メートル以上離れてな。怪我するぞ」


 ほんのわずかに威圧を込めた言葉を口にした瞬間に、周囲にいたお客さんたちが蜘蛛の子を散らすように、離れていった。


 ……え、待って。本当に何をしようとしてるの?


「さて、これで問題ないな! よーし、最初は……『水砕』!」


 不敵な笑みを浮かべながら、師匠が聞いたことないスキル名を叫びながら右手の拳を水面に叩きつけた。


 そしてそれは――


「え、ま、まっ――きゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」


 まるで地割れのように水が割れていき、ボクに向かって突っ込んできて、ボクを軽く吹き飛ばした。

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