第369話 依桜ちゃんたちとレジャープール1
時間が経つのは早いもので、気が付けば土曜日。
今日は約束通り、プールに行く日です。
天気予報の通り、今日は快晴で、六月の頭だというのに、真夏くらいに暑い。
多分、三十度はあるかな?
まあ、ボクからしたら、三十度なんてまだまだ涼しい方なんですけどね……。
向こうなんて、五十度くらいの場所に滞在する、何て言う修行もあったから。
だから、日本の三十度はボクからしたら、二十度くらいのものです。
とはいえ、こうも快晴だと、きっとプールで泳いだら気持ちいいんだろうね。
一応、LINNでの話し合いの結果、美天駅に朝九時半に集合になっているんだけど、ボクが起きたのは、朝の六時。
それなりに早い時間帯。
理由は単純で、お弁当を作っていくためです。
いやまあ、別に向こうで買ってもいいんだけど、こんなに暑くて、尚且つ土曜日という休日である以上、並ぶ時間の方が長くなってしまう可能性があるということを考えた結果、お弁当を持って行くことに。
それに、大人数だったら、まとめて作っちゃった方が安上がりだしね。
なんと言うか、みんなでお出かけする時は、ボクがお弁当を作ってくることが常になっているような……というか、作ることが確実になってるよね?
まあ、料理は好きだから全然いいんだけどね。
みんなは昨日の夜、楽しみにしすぎて眠れない! って言ってはいたけど、意外とあっさり眠った。
まあ、異世界出身と言っても、まだまだ子供だからね。そう長くは起きていられないはず。
それに、楽しみにしていたし、意外と早く起きてきそうだけどね。
「おーっす……」
「あ、師匠、おはようございます。今日は早いですね」
「なんか、早く目が覚めてな……なんだ、迷惑か?」
「いえいえ、ただ早いなと思っただけですよ」
「そうか。……ん、なんかいい匂いがするな。イオ、それは弁当か?」
「そうですよ。今日のお昼です」
「へぇ……甘い卵焼きと唐揚げは入ってるのか?」
「はい。入れてありますよ。師匠、好きですもんね」
「ああ。さすが、愛弟子。あたしの好物をわかっているじゃないか」
「あはは。一年間も一緒に住んでいれば、師匠の好みは把握できますよ。それに、師匠には美味しいものを食べてもらいたいですし」
「お、おう。そうか……。こいつ、ナチュラルに殺し文句を……」
「師匠? 何か言いました?」
「いや、気にするな、こっちの話だ」
「そうですか」
なんだろう? 師匠の顔が赤いような……。風邪……なわけはないよね。師匠だもん。
ウイルスなんかに負ける気がしないし、そもそも、師匠って病気になるの? っていうくらい体が頑丈だもんね。本当に。
まあ、師匠のことだから、心配するだけ無駄だよね。
あ、そうだ。起きて来たのなら……
「イオー、コーヒーもらえるかー」
「できてますよ。はい、どうぞ。アイスのブラックコーヒーです」
「ん、さんきゅ。ほんと、お前は気が利くな」
「起きて来たのなら、多分欲しがるかなって思っただけですよ。慣れです。慣れ」
「そうか」
起きてくれば、師匠がコーヒーを欲しがるのは当たり前だしね。
基本、起きてすぐ飲むのはコーヒーって決まってるもん。
それくらい憶えているのが、弟子というものです。
それから、お弁当作りと並行して、朝食を作り、出来上がったタイミングでメルたちが降りてくる。
もちろん、ある程度予想済みだったので、温かいうちに料理を出せた。
みんなはすごくわくわくした表情を浮かべていたので、今日のお出かけをすごく楽しみにしていたんだろうね。
うんうん。可愛らしくていいね。
朝食をみんなで食べたら、お弁当をクーラーボックス……に見せかけた、師匠お手製の魔道具に入れる。
この魔道具、名前は特に決めてないと言っていたんだけど、その効果はかなり便利な物。
効果としては、『アイテムボックス』に近いけど、あれとは違って時間が止まっているわけじゃない。
でも、似たような効果はあるから、別段困るようなことはないので、気にならない。
さらに、この魔道具の便利なところは、入れたものに合わせて、個別で保存方法が変わるということ。簡単に言えば、温かいものを入れれば、それを保つように温かい状態で保存し、冷たいものを入れれば、冷たい状態を保てるように冷やすと言うもの。
しかも、さっき言ったように個別で保存されるので、温かいものが冷たいものを温めてしまうことはないし、反対に、冷たいものが温かい物を冷ましてしまうということもないのです。
本当に、暗殺者とは思えない便利な物を作るよね、師匠って。
……いっそのこと、それで商売をしても問題ないんじゃないかな、あの人。
ちなみに、使い方としては、入れる際に温かくするか、冷たくするかのどちらかを考えながら入れれば使用できるみたい。
便利すぎるよ。
しかも、そんな便利なものを、師匠は僅か数分で作成していたのだから、本当に笑えない。
規格外すぎるよね、師匠。
まあ、師匠のおかしな部分は今更なので放置しておくとして、準備も終わり、早速出発。
道中、みんなは楽しそうに話していて、周囲の視線を集めていた。
これから遠足です! みたいな感じの雰囲気を出してたし、それにみんな、すごく可愛いからね。視線を集めても仕方ないね。
ただ、おかしな視線を向けている人がいたので、その人にはあとでこっそり、針を刺しておこうかな? なんて思ったけど。
そんなわけで、駅前に到着。
ちょっと早めに来たからか、まだ誰も来ていない。
「それで? 今日はプールに行くと言っていたが、この近くなのか?」
「そうですね。隣町辺りなので、電車で一本で行けます」
「なるほどな。……それだったら、あたしが車を運転していった方が早かったな」
「あ、師匠って持ってるんでしたっけ、免許」
「まあな。一応、マニュアルを取ったぞ。案外あっさり取れてびっくりしているが」
車の免許ってそんなに早く取れたっけ?
うーん、わからない。
そもそもボク、必要ないと思うしね、車。まあ、その内取りたいなぁ、とは思っているけど。
先にバイクかな?
「おはよう、依桜」
「おはよう」
と、ここで未果と晶が到着。
「おはよー、二人とも」
「今日は依桜の方が早かったな。……にしても、大人数だな」
「まあ、メルたちもいるわけだしね。早く行こう、って急かされてね」
「その割には、全然困ったような顔してないわね」
「だって、急かすみんなも可愛いし」
((妹離れ、できるのか……?))
今なんて、みんな楽しそうに話してるしね。
こっちの世界に来てから、みんなが行った場所って、遊園地くらいだからね。多分、楽しみなんだろうね。
他にも色々と行ける場所はあるし、そう言った場所にはいつか連れて行きたいな。
……そう言えば、メルはともかく、ニアたちって孤児院出身のはずだけど、そこに連れて行かないでこっちに来ちゃってるけど……いいのかな? 今更ながらにちょっと心配になって来た。
まあ、大丈夫、ということにしておこうかな。うん。
「ういーっす」
「やっほー」
「態徒、女委、おはよー」
意外とそう時間がかからずに、二人も駅前に到着。
「あら、今日は早いわね、二人とも」
「はっはっは! 何せ、今日はプールだからな! すっげえ楽しみだったんで、早く来たぜ!」
「何せ、美少女たちの水着姿が見れるからね! なら、早く来るのは当たり前というものだぜぇ!」
あ、やっぱりそう言う理由……。
なんと言うか、二人らしい。
「ん、全員揃ったのか?」
「はい。じゃあ、行きましょうか。みんな、行くよ」
「「「「「「はーい(なのじゃ)!」」」」」」
本当、元気いいね。
電車に揺られて、隣町の駅に到着。
電車内は、プールに行こうとしている人がそれなりに見受けられた。
今日はかなり暑いし、土曜日だからね。
駅を出たら、徒歩でプールへ。
一応バスも出ているには出ているんだけど、なんか満員だったしね。
それに、ここからそんなに遠くないし、みんなも歩く気満々だったから。
なので、徒歩です。
道中、みんなで楽しく話しながら歩いていると、目的地が見えて来た。
「「「「「「わぁ~~~!」」」」」」
目的地のプールが見えた瞬間、みんなの目が輝きだした。
すっごくキラキラした目。
まあ、向こうの世界にはこういった娯楽施設はないからね。
かなり新鮮なはず。
「じゃあ、チケットを買ってくるから、ちょっと待っててね」
ボクはそう言うと、チケット販売所に向かっていった。
販売所の前で並んでいると、ふと、やけに人が多いように感じられた。
今日は土曜日で、さらに言えば猛暑と言っても差し支えないほどの気温。
だから、お客さんが多くていても不思議じゃないんだけど……どうにも、男性のお客さんの方が多いような気がする。
なんと言うか、プールに来たのに、別のことが目的で来ているような、そんな感じ。
それを不思議に思いつつも、順番が来たので窓口に。
『こんにちは。何名様でしょうか?』
「えーっと、大人が一枚、高校生が五枚、あと小学生六枚下さい」
『かしこまりました。合計で……二万六千円になります』
あ、意外といい値段。
うん? なんだか、かなり視線を感じるような……あ、もしかして、大人数で来てるから、その枚数に驚いているとか?
まあ、十二人でくればそうなるよね。
そんな大所帯で来る人って、なかなかいない気がするもん。
『はい、二万六千円ちょうどですね。では、こちらチケットになります。それでは、楽しんできてください』
営業スマイルでそう言われながら、ボクはみんなの所へ戻った。
『なあ、今の娘、めっちゃすごくなかった?』
『ああ、すごかった』
『あんな美少女が今日はいるとは……マジでついてるな』
『だな。今日はイベント目的で来たけどよ、あれはいいなぁ……』
みんなの所に戻り、更衣室へ。
今回の男女比、2:10っていう面白いことになっている。
男子が晶と態徒だけだもんね。
こういう状況、マンガとかライトノベルでしか見たことがないよ、ボク。
ある意味、すごい。
でも、こういう時って、男性の方が着替え終わるの早いんだよね。だって、服を脱いで、水着を穿くだけだもん。
あとは、必要に応じて財布とか荷物を持って行くくらい。
本当にそれだけ。
でも、女性はちょっと違う。
まず、上を着けて、さらに下を穿く。
これだけで終える人もいる(師匠みたいな)けど、中にはあらかじめ日焼け止めを塗ったり、髪の毛を纏めたりするため、ちょっと時間がかかる。
仕方ないね。
ボクは……特に問題はないので、水着に着替えて、プール用のパーカーを羽織り、荷物を持って終了。髪については、一応サイドアップでまとめてあります。
「依桜はパーカーを羽織るのね」
「うん。ちょっと恥ずかしいから……」
「まあ、依桜君って恥ずかしがり屋だもんね! それに、水着姿を晒したのって、去年の学園祭だけだもんね、何気に」
「そ、そうだね。あの時は……本当に恥ずかしかったよ……」
今思えば、あんな恥ずかしい恰好で、派手に動き回っていたんだもん……。
うぅ、今思い出すだけでも、顔が熱くなるよぉ……。
「ねーさまねーさま! 早く行くのじゃ!」
「あ、う、うん。そうだね。えっと、準備できた?」
「私はOK」
「わたしもー」
「あたしも問題なし」
「ニアたちは大丈夫?」
「「「「「うん!」」」」」
「よかった。じゃあ、行こっか」
微笑んで言って、ボクたちはプールの方へと向かった。
うん、みんなで遊ぶの、すっごく楽しみ!
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