第368話 職場体験の希望と水着選び

 それから、未果になぜかお説教(?)をされつつも、昼休みは終わり、授業。


 授業と言っても、五時間目は、来週に行われる職業体験の就業場所を決める時間なんだけどね。


「そんじゃ、お前らの体験先決めるぞ」


 今回は、クラス委員の未果が仕切るのではなく、戸隠先生が仕切ることになっています。

 仕切っているはずなのに、やっぱりやる気がなさそう。


 うーん、いい先生なんだけどなぁ……。


「まあ、とりあえず、お前たちがやる職業の候補を書いていくぞ」


 そう言うと、やる気がなさそうながらも、戸隠先生が黒板に候補を書いていく。


・教師(小学校・もしくは中学校)

・図書館

・飲食店

・ガソリンスタンド

・スーパー(ホームセンターなども含む)

・ゲームセンター

・幼稚園もしくは保育園

・コンビニ店員

・介護施設

・駅

・警察署

・消防署


「ま、こんなところだな。で、お前たちはこの中から好きなものを選んでほしい。一応、職場体験と銘打っているが、実際は短期バイトみたいなもんだ。お前たちは高校生なんで、中学時代に体験した時とは違い、一応バイト代が出るには出る。まあ、職場体験というよりかは、インターンシップに近いかもな」


 なるほど。


 一応、バイト代って出るんだ。その辺りはしっかりしてるね、学園長先生。


「だが、当然金銭が絡んでくるので、しっかり、責任をもって臨めよ。それから、第三希望まで書いてもらう。もちろん、第一希望になるよう、しっかりやるつもりだが、そこから漏れても文句は言うなよ。どのみち、バイト代は全部同じなんだ。稼げる金額は同じだ。だからと言って、手を抜くんじゃないぞ。もし手を抜いたら、相手方の方からこちらに連絡してもらうんでな」


 まあ、仕事をしていないのに、頑張っている人と同じ金額をもらえたら不公平だもんね。

 その辺りは、しっかりしてるみたい。


「んじゃ、適当に話し合ってもいいんで、この時間が終わるまでには全員提出するように。以上だ」


 そう言うと、クラスは少しざわつきだし、友達同士で話し合う人たちが出た。


「で、お前らは何にするんだ?」


 そして、当然のようにみんながボクの所に集まって来た。


「私は……そうね、図書館か、飲食店、あとは幼稚園辺りかしらね」

「俺は、警察署か介護施設、飲食店ってところだな」

「いや、晶が飲食店は普通に意味なくね? お前、バイトしてんじゃん」

「それはそれ、これはこれだ。他の店で体験することで、今のバイト先でも何かに使えるかもしれないだろう?」

「理由がカッコいいねぇ、晶君」

「晶らしいね」


 何事にも真面目に取り組むもんね。


 それに、今のはやっぱり好感が持てるよ。


「それで? 態徒はどうするんだ?」

「あー、そうだなぁ……ゲーセンとか消防署とか、ガソリンスタンドとかか?」

「態徒君らしいねぇ」

「いや、オレらしいってなんだよ。普通じゃね?」


 まあ、普通と言えば、普通、なのかな?

 態徒にしては。


「じゃあ、女委はどうなんだよ?」

「んー、とりあえず、わたしも飲食店とかかなぁ。あとは、図書館とか幼稚園とか?」

「……なぜかはわからないんだが、女委が最後に上げた二つに悪意を感じるのは気のせいか?」


 と、女委の挙げた候補に、晶は苦い顔をしながらそう言った。


 いや、うん……ボクもそれは思うな。


 なぜか。


「にゃははー、気のせいさー。まあ、ともかくあれだよ。わたしはこの三つさ! じゃあ、依桜君はどうなんだい!」

「ボク? うーん……」


 何がいいかなぁ……。


 正直なところ、どこに行ってもあまりいい予感がしないんだけど……。


 でも、選ばないといけないわけだし……。


 ……あ、そう言えば球技大会の時、小倉先生に小学校の先生が向いてる、って言われたっけ。


 それなら、小学校でいいかも。


「えっと、小学校の先生、かな。あとは、幼稚園とか、コンビニとか?」

「「「「似合うな……特に前二つ」」」」

「そ、そうかな?」

「なんと言うか、依桜は子供を相手にするのが上手いもの」

「ああ。それに、普段からメルちゃんたちを相手にしているからな。手慣れている印象がある」

「てか、昔から年下の相手は依桜が一番得意だったしな」

「あと、依桜君って、昔から母性があるからね」

「ちょっと待って!? 今の姿なら、まあ……百歩譲っていいとしても、男の時に母性なんてないよね!?」


 それは絶対おかしい!


 男の時から母性があるってどういうこと!?


「あー……たしかに、依桜って、昔から世話焼きだったものね。しかも、大抵子供には本気で優しいし、しっかり諭すものだから、なおさら」

「あと、包容力があったよね! 依桜君になでなでされたり、軽く抱きしめられると、すぐにみんな大人しくなるもんね!」

「それは! ……たしかに、そうだったかもしれないけど……でも、ボクにそこまでの母性はないからね!」

「「「「それはない」」」」

「なんでみんなして否定なの!?」


 え、ボクってそんなに母性があるの?


 う、嘘だよね?


「まあ、依桜の母性があるないは正直どうでもいいとしてよ。で、やっぱあれか? 最初に挙げた場所が、第一希望なん?」

「私はそうね」

「俺もだな」

「わたしもー」

「ボクも、かな。興味あったし」

「んじゃ、オレたち見事にバラバラなのな、第一希望」

「みたいだな。まあ、いいんじゃないか? こういうのは、仲のいい者同士で行くんじゃなくて、自身が本当に希望しているものに行くのが一番だからな」

「そうだね」


 こういうのは、成り行きでやっちゃダメだもんね。


 やっぱり、自分の意思でしっかり決めないと。


「じゃあ、これで提出するか」


 晶がそう言うと、みんなこくりと頷いた。



 五時間目が終了し、SHRはなしで、そのまま帰宅となった。


 ちなみに、職場体験の行き先については、後日連絡があるそうです。


 授業が終われば、ボクたちはショッピングモールの方へ。


 メルたちは一緒に帰れるとなると、基本的に待っていることが多いので、多分校門にいるはず。


「んーっと……あ、いたいた。みんなー!」


 校門にいる、可愛い可愛い天使のような妹たちを二秒ほどで見つけると、ボクはすぐさま呼ぶ。


 すると、みんな一斉に気づき、ボクに向かって、ててててー! と駆けて来た。


「ねーさま、これからショッピングモールとやらに行くんじゃろ?」

「あれ? まだ言ってないのに、よく知ってるね?」

「ミオお姉さんに聞いたんです!」

「師匠に?」

「遅かったな、イオ」

「あ、師匠。もう来てたんですね?」

「まあな。あたしは、どっちかっていうと、特別教師みたいなもんだしな。基本、職員会議は出ない。というか、でなくても問題ないことになっている。一応、内容を訊くことは可能だからな」


 それはあれかな、『分身体』でも使っているのかな。


 まあ、仮にそれがなかったとしても、師匠ならどこかで聞くことも可能なんだろうけど。


「それじゃ、そろそろ行きましょうか。この辺でずっといるのもあれだし」

「うん、そうだね。じゃあ、出発しようか」


 そう言うと、メルたちは嬉しそうな表情を浮かべた。



 道中、人気のないところで一度メルたちのランドセルを回収。


 ボクの『アイテムボックス』の中にしまい込んだ。


 さすがに、ランドセルを持った状態で行くのはあれだからね。


 というわけで、ショッピングモールにつき、ボクたちは水着が売っているエリアへ。


「お、季節も季節だから、この辺は売っているのが早いねぇ」

「そうね。土曜日に行くプールも、明日からみたいだし、それに合わせてるんでしょ」

「まあ、この辺りだと、一番大きい施設だからね」

「ねーさまねーさま! あれが、水着、とやらか!?」

「うん、そうだよ」

「学校、のみず、ぎとは、違う……」

「あれは指定の水着だからね」


 スクール水着だもん。


 でもあれって、ぴったりしててちょっとあれなんだよね……胸が苦しいし。


「わー! イオねぇ、あれ、なんでもいいの!?」

「もちろん。でも、ちゃんとみんなの体に合ったものを選ぶんだよ? 値段は気にしなくてもいいからね。あ、師匠もですよ」

「ん、何だ買ってくれるのか?」

「はい。こちらから言い出した事ですからね」

「そうかそうか。それは助かる。なにせ――あたしは水着を持っていないからな!」

「あはは、そうだったんで……え?」


 今、サラッととんでもないことを言ったような……?


「んじゃ、あたしは水着を選びに行くかね」


 そう言うと、師匠はちょっと楽しそうに大人向けの水着売り場へ移動していった。


「……ねぇ、依桜。私、今のミオさんの発言に対して……すっごい何とも言えない気分になったんだけど」

「今の発言って言うことはさ、学園の水泳の授業でミオさんが着ていたのって……」

「気のせいだよ!」


 それは多分、きっと、おそらく、十中八九、素の状態で入っていたって言うことじゃないから! 下着って言うわけじゃないから! ホットパンツだったから!



「……クーナおねーちゃん。これ、どう?」

「スイは、こっちのふりふりのものいい気がするのです」

「……なるほど」

「お、こっちはリルに似合いそうじゃのう!」

「そ、う?」

「うむ! ミリアもそう思うじゃろ?」

「うん! リルは大人しいのが似合うね!」

「じゃ、あ、こっち、は、ニアおねえちゃん、が似合い、そう」

「そうですか?」

「う、ん」


 と、子供用水着売り場では、みんながキャッキャと楽しそうに水着を選んでいた。


 その微笑ましい光景に、思わず頬が緩む。


「依桜、だらしない顔してるわよ」

「ふぇ!?」

「うんうん、依桜君、今すっごくにへっとしてるねぇ。いやぁ、誰にでも優しい美少女と言えども、妹たちには弱いんだねぇ」

「そ、そんなことはない……と思う、よ?」

「疑問系じゃない。……ま、依桜にもそう言う部分があるってことね」


 だ、だって、みんなすごく可愛いんだもん……。


 それは仕方ないと思うことだし、そもそも、自然の摂理だもん。


 結論。妹が可愛いのは、物理法則並みに当たり前のことです。


「ねーさま!」

「あ、メル。どうしたの?」

「なかなか決まらなくて、ねーさまに決めてほしいのじゃ!」

「え、ボク? こう言うのは、自分たちが好きなものを選ぶのが一番だけど……」

「みな、ねーさまが選んだものがいいらしいのじゃ! ダメ、かの……?」

「もちろんいいよ」

((即答した))


 妹たちのお願いなら、ボクが却下することはないし、そもそも、お願いをきかないという選択肢はないのです。



 というわけで、みんなの水着を選び終わった後は、ボクたちの方へ。


 と言っても、ボクは結局パレオタイプの水着にしたんだけどね。


 なんだかんだであれが気に入ってます。


 まあ……やっぱり、上はビキニなんですが……。


 前回は、未果たち全員に言われたけど、今回はなぜか師匠だけでなく、メルたちにも言われた。


 なんで?


 それから、未果は黒のタイサイド・ビキニを選び、女委はオフショルタイプのビキニを選んでいました。そして、師匠は意外なことにクロス・ホルター・ビキニを選んでいました。


 てっきり、タンクトップ系とホットパンツ型の物を選ぶのだとばかり思ってただけに、ちょっとびっくり。


 どうせなら、ということで、未果と女委の分の水着もボクが購入。


 二人は遠慮していたけど、ボク的にはお金を使いたいので、押し切りました。


 だって、あんなにあってもね……。


 それに、ついでです。ついで。 一括で買ってしまった方が早いからね。


 水着を買った後は、少しだけ時間が合ったので、ゲームセンターへ。


「ねーさま! あれがかっこいいのじゃ!」

「じゃあ、獲ってくるね!」

「あ! イオお姉ちゃん、あれ欲しいのです!」

「うん、あれね。ちょっと待ってね!」

「イオ、おねえちゃん、わたし、あれが欲しい……!」

「了解だよ!」

「イオねぇ、ぼくあれ!」

「はいはい!」

「イオお姉さま、私、あれが気になっているのです!」

「任せて!」

「……イオおねーちゃん、わたしあれ」

「行ってくるね!」


 と、こんな感じに、ボクはメルたちが欲しがるクレーンゲームの景品を獲っていました。


「……どうしようかしら、依桜のシスコンがどんどん深淵化してるんだけど」

「いやぁ、メルちゃんたちっていう妹ができる前からは考えられない依桜君の一面だねぇ。見てよ。あの顔。妹たちのためなら、能力とかスキルを使うの自重しない! って顔してるよ」

「……あたしの弟子、大丈夫か? あたし、心配になって来たんだが、あいつの将来……」


 あぁ、みんなのために何かをするって、すごくいいね!



 この後、メルたちがとびきりの笑顔でお礼を言ってきて、思わず昇天しそうになりました。

 可愛すぎるよぉ~~……!

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