2-7章 修学旅行【妖魔界】

第504話 修学旅行前日

 学園祭が終わった次の週の月曜日。


 この日は明日から始まる修学旅行の班決めと部屋割りを決めることに。


 ……と、そうは言ったけど、


「えー、これから明日の修学旅行の班と部屋を決めるが……今回も林間・臨海学校の時と同じように、男女、椎崎、腐島、御庭の四人は同じ部屋だ。そして、行動班についても、男女、椎崎、小斯波、腐島、変之、御庭とする」


 問答無用でこうなりました。


「先生。理由はなんとなくわかりますけど……一応訊きます。どうしてですか?」


 先生の強引(?)な発言に、未果が一応理由を尋ねた。


「そりゃお前、男女が修学旅行でも問題を引き寄せるだろうし、それらのフォローをするのは他の面子の役目だろ?」


 ……教師として、それはどうなの?


 前にも思ったけど、先生はボクのことをトラブルメーカーか何かだと思ってるよね?


 あながち間違いと否定できないのがあれだけど。


「で、これについて異議のある奴はいるかー?」

『先生! さすがにそれは、色々とずるい気がします! ってか、小斯波と変之が羨ましいです!』

「なるほど。たしかに、遠藤の発言も一理ある。だがな。お前は男女が引き寄せる非日常的な問題に直面して、フォローができるのか? そして、仮に班に入ったとして、ファンクラブの奴らに消されないとも限らないだろう? どうだ?」

『……俺、まだ自分の命が惜しいっす』

「わかればいい。それじゃ、後の奴らは適当に班をと部屋を決めてくれ。以上だ」


 ボクの扱いって……。



 部屋決めと班決めを終えてからは、これと言って特にやることもなく、修学旅行中の諸注意や軽い説明で終了。


 その日自体もこれと言って問題が起こることはなく、学園祭に関する仕事も西宮君たちがやってくれるとのことでした。


 最初は申し訳ないと思ったんだけど、結局お言葉に甘えることにしました。


 特にやることがなくなったボクたちは、明日からの修学旅行のために、ちょっとした買い物へ行くことに。


「しっかし、オレら何らかの泊まり込み系の行事が入る度に買い物に来てるよな」

「そうだな。正直なところ、俺と態徒はあまり必要ないんだが……」


 買い物の為に、もう定番になっているショッピングモールへ来るなり、態徒と晶が少しだけうんざりしたようにそう零す。


「それは二人の話でしょ? 私たちには必要なのよ、買い物が」

「買い物って言っても、どうせ洋服だろ? 別によくね?」


 未果の発言に対し、態徒がそう返すと、


「「「「よくない!」」」」


 未果、女委、エナちゃん、鈴音ちゃんの四人が少し大きめの声で否定した。


「何もわかってないわね。だから、あんたはモテなかったのよ」

「そうだぜ、態徒君。そもそも、うちの学園の修学旅行が目玉扱いされている理由を知ってるでしょーが」

「そうなの?」


 女委の目玉扱いという部分にエナちゃんが反応し、女委に訊き返していた。


「おうよー。うちの学園の修学旅行ではね、私服参加が許可されているのだ!」

「へぇ~、それはすごいね。でも、どうしてそれが目玉扱いに? むしろ、制服で参加するからこそ、思い出になる気がするんだけど」


 うん、その辺りはボクもそう思う。


 あ、女委が言ってることは本当です。


 叡董学園の修学旅行では、私服参加が認められています。


 それは、自由行動だけに限った話じゃなくて、登校するところから私服でOKということになっています。


 もちろん、私服じゃなくて制服での参加もOK。


 比率的には、私服6制服4と聞いてます。


 意外と制服を着てくる人は多い。


「その辺は多分、鈴音と同じことを想ってるでしょうね」

「み、未果ちゃん……!?」


 ニヤニヤと鈴音ちゃんを見る未果に対し、鈴音ちゃんは顔を真っ赤にしながらあたふたした。


「鈴音と同じって?」

「はぁ。あんたはつくづく女心をわかってないわね」


 ため息交じりに、未果は呆れの言葉を漏らす。


 まあ、うん。


 どうして鈴音ちゃんが慌ててるのかはわかるよ、ボクでも。


「つまりだね、態徒君。この修学旅行において、男子と女子共に服には気合を入れるのさ」

「気合?」

「そうよ。噂では、この修学旅行ではカップルが誕生する確率がとても高いわ」

「ん、そうなのか?」

「そうらしいわ。で、その理由が私服参加OKっていう部分に関わってくるの」

「どんな風にだ?」

「簡単に言えば、普段とは違う姿を見せたい、ってことよ」

「……なるほど。そういうことか」

「なんだ? 晶は理解したのか?」


 晶は理解したようだけど、態徒はまだピンと来てない様子。


 まあ、うん。態徒だもんね、仕方ないよね。態徒だもん。


「ほんっと、あんたは鈍いわー。これじゃあ、鈴音が苦労しそうね」


 やれやれ、と未果が肩を竦める仕草をする。


 鈴音ちゃんを除いた面々も、同じような反応を見せた。


 もちろん、ボクも。


「いい? こと修学旅行っていうのは、ある意味学校生活の中で最も非日常的と言っていいわ。しかも、学園祭とは違って、見知らぬ土地で一緒に旅行よ? もしも気になる相手、もしくは好きな相手がいるようなら、それはもう距離を近づけるチャンス。そんな中で私服参加がOKなら、普段見せられないような姿を見せようと躍起になるものなの」

「……つまり、なんだ。要約すると、私服姿を見せてドキッとさせたい、ってことか?」

「そういうこと。普段奥手で休日に遊びに誘えなかったとしても、こういうのは雰囲気でつい大胆になれるもの。そのチャンスを利用して、気合を入れるってわけよ」

「なるほどなぁ。…………ん?」


 未果の説明で、ようやく態徒が納得。


 けど、すぐに疑問符を浮かべた。


「……鈴音はまあ、オレの彼女だから、でわかるけどよ、他の面々。特に、依桜、未果、女委、御庭の四人は誰かに見せたい相手でもいんのか?」

「「「…………べ、別にっ?」」」


 態徒のある意味鋭い質問に、ボク以外の三人が妙な間を空けて濁すような発言をした。


「依桜は?」

「ボクはまあ、一応美羽さんと二人で回ることになってるし、どうせならいつもとはちょっと違う服がいいかな? って思って。あとは、この時期の服は一応持ってたんだけど、その……きょ、去年のが、着られなくなっちゃって……」

「「「「「あー……成長か……」」」」」

「??」


 去年からボクの事情を知ってる四人と遜色ないレベルで知っているエナちゃんは、ボクの体のある一点を見つつ苦笑いを浮かべ、つい最近再びこのグループに入った鈴音ちゃんはこてんと首を傾げた。


「どうかした、の?」

「あー、そう言えば鈴音ちゃんは知らないよね。去年から依桜君は女の子になったわけです。その際の胸が既にGというかなりのビッグサイズだったわけですよ。しかも、成長中。今年の春にやった身体測定では、もうHに片足突っ込んだレベルのサイズになっててね。で、それからもう約半年経過しているということは……」

「なる、ほど。おっきくなってる、っていうこと、だね」

「そういうこと。だから、依桜君はこんなに複雑な表情をしてるわけです」


 女委の説明で、鈴音ちゃんは納得顔に。


 納得した鈴音ちゃんは、どういうわけかじーっとボクの胸を凝視してきた。


 ……なんだろう、その視線がちょっと怖い。


「え、えっと……鈴音ちゃん?」

「……依桜君、は、なんで、そんなにおっきい、の?」

「な、なんでだろう、ね?」

「……わたし、も、おっきい方がいい、かもだし……」


 鈴音ちゃんは自分の体に視線を落とすと、ぽそりと呟いた。


 あー、なるほど……。


「態徒君、も、おっきい方がいい、よね……?」

「オレ? いや、オレは別に気にしないぜ?」

「ほん、と?」

「おう。たしかに、でかい方が好きだが、それはそれ。鈴音がどんなサイズでもオレは好きになる自信がある」

「態徒君……!」

「「「「「また、二人の世界に……」」」」」


 なんだろうね。


 態徒と鈴音ちゃんが付き合いだしてからと言う物、ちょこちょこ今のようなことが発生するようになった。


 と言っても、先週の木曜日辺りからではあるけど。


 なんと言うか、甘い。


「あー、お二人さん。そろそろ行かないとなんですがそれは」

「っと、すまん。んじゃ、行くか」

「ご、ごめん、ね」

「いいのよ。態徒はともかく、鈴音に関しては念願叶ったわけだし」

「おい」

「だからま、気に入った服があって、それを買ったら、そこの彼氏に荷物持ちをしてもらえばいいわよ」

「え、で、でも、態徒君に悪い、よ」

「いいってことよ。ってか、彼女の荷物持ちとか、彼しからすりゃご褒美みたいなもんだって」

「うわ、あんたMなの?」

「そういう意味じゃねーよ!?」


 いやでも、今の言い方はどちらかと言えばそういう感じだったような……。



 それから場所を移し、ブティックへ。


「あ、これいいわね。しかも動きやすそうだし」

「おー、これはわたし好み! やっぱ、だぼっとした奴がいいよねぇ」

「うちはこういうのかな」

「わたし、は、こういう大人しいの」

「ボクはこっちかな?」


 と、いざ服選びが始まると、ボクを含めた女の子はついつい夢中になってしまった。


 女の子になってからかなり時間が経過してるけど、その間にどんどんこういったお洒落に興味を持つようになった。


 最初は『とりあえずこの体で着られる服ならいい』っていう考えだったけど、今は『どうせならちょっとは好みの服にしたい』という考えに。


 男の時はさほど気にしなかったし、ボク自身、いつも同じような服装だったけど、いざこうして女の子として生活していると、なんだか色んな洋服に興味が沸いてくる。


 ちなみに、未果が手にしたのは、メンズライクシャツジャケット(名前が長い)と、Tシャツ、それからスキニーパンツの三着。


 女委は少し大きめのパーカーと膝丈ほどのフレアスカート。


 エナちゃんはブラウスにジャケット、それからミニスカートの三着。


 鈴音ちゃんはブラウスにカーディガンと、脛の中程まであるスカートの三着。


 こうして見ると、やっぱり個性があるよね。


 未果なんて動きやすい服装で、ちょっとカッコいいし、女委はだぼっとした服装で、自分の好みに正直、エナちゃんも未果とは似た様な感じだけど、どちらかと言えば可愛い寄りの服装。鈴音ちゃんは、大人しめの服が好きなのか、目立たないような服を選んだけど、それでも可愛く見えるから、鈴音ちゃんは何気にすごいと思う。


「依桜は、それ?」

「うん。ちょっといいかなって」

「これまた、随分と似合う衣服を選んだものだねぇ」

「そ、そうかな?」


 言われて、ボクが選んだ服を見てみる。


 ボクが選んだのは、ボアブルゾンにホワイトニット、それからチェック柄のタイトスカートです。


 まあ、何と言いますか、ちょっと可愛いかなー、なんて思って……。


「その服を着るなら、こっちの帽子を合わせるのもいいと思うな、うち」


 そう言って、エナちゃんが近くにあったベレー帽を手渡してきた。


「たしかに似合うわ」

「ゆるふわガール的なビジュアルだねぇ」

「依桜君、可愛い、ね」

「あ、あはは、ありがとう」


 なぜだろう、みんながボクの選んだ服を見て、やけに褒めてくる……。


 そんなに似合う? これ。


「で、依桜はそれにするの?」

「うん。あとは、動きやすい服を買って終わりかな」

「了解。私もあともう二、三セット買って終わりにするわ」

「わたしもー」

「うちはこれだけで大丈夫かな? 最近、お仕事でもらった服もあるしね!」

「わたし、も、大丈夫」

「じゃあ、そろそろ行こっか。二人も待ってるしね」


 何せ……かれこれ、二時間近く経過してたから、ね。



 それから買い物を終えたボクたちは、一度フードコートで休憩して、少し遊んでから解散となった。


 その夜は明日の準備を済ませて、夜ご飯を食べて、お風呂に入って就寝となりました。


 明日からの修学旅行、どんな思い出になるかなぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る