第505話 京都へ向けて

 そうして、修学旅行当日。


 今日から四日間、叡董学園高等部二年生は京都へ。


 一週間近くもメルたちと離れなければいけないと言う事実にはその……かなり厳しいところはあるけど。


 実際の昨日なんて……大泣きされたから、ね……。


 林間・臨海学校の時と同じくらいの長さなはずなのに、今回はダメだったらしく、昨日の夜は大変だった。


 それほどボクに対して甘えてくれている、と取れるから嬉しいんだけど、やっぱり泣かれると複雑。


 ……正直、これを機に師匠から『転移』のスキルを教えてもらおうかな、って真面目に考え始めました。


 さて、そんなことが前日にありつつも、当日はいつもより早く起床し、家を出発。


 まだ六時だったこともあり、秋と言えどそれなりに冷え込んでいた。


 異世界へ行く前のボクだったら寒いと感じたけど、今のボクにはまったく寒く感じない辺り、環境に対する適応能力が高くなってしまったんだなって。


 少しだけ複雑な気持ちになりつつも、軽い運動がてら、目的地の美天駅まで走る。


 ちなみに、師匠は教師の仕事があるとのことで、先に集合場所に行きました。


 なんだかんだで、教師の仕事を真面目にしてるところを見ると、師匠って根は真面目だと思う。


 理不尽だったり、ものすごくお酒が好きだったりするだけで。


 そんな師匠だけど、今朝家を出る前に、


『……また、厄介な奴が出ないようにしねーとな』


 って真剣顔で呟いていました。


 厄介な奴、というのが一体誰のことを指しているのかはわからないけど、やけに真剣だったのが気になる。


 また、っていうことは以前にも会ったことがあるのか、それとも犯罪者的な意味合いで言ったのか、本当のところはわからないけど、師匠が裏で頑張ってくれている、ということがよく理解できたし、気にしなくてもよさそう。


 師匠、いらぬ心配をかけまいとしてる節があるから。


 でも、もしかすると、学園祭の裏で何かあったのかも。


 考えてみれば師匠、ヤクザの人たちが襲撃してきた時、なぜか現れなかったから。


 一応、倒して回ってたみたいだけど、それでも大きな場面に出てくることはなかったし、解決した後も、どういうわけかボクたちの前に姿を見せなかった。


 一体何してたんだろう?



 師匠のことを考えつつ、集合場所である東京駅へ。


 修学旅行先が京都ということで、さすがに学園集合ではなく東京駅に現地集合ということになっています。


 電車代に関しては、学園側が支給してくれていて、各生徒にパスを配っています。


 あ、パスの方に関しては、来週の月曜日に返却することになってます。


「おはよー」

「おはよう、依桜」

「おはよう」


 東京駅に到着し、集合場所である新幹線の改札付近へ行き、その中にいた未果と晶の所へ。


「女委たちは?」

「女委はエナと来るそうよ。態徒は、例によって春を満喫しながら来るみたい」

「ラブラブだね」

「こっちが砂糖を吐きそうなくらいにな」


 ふっと苦笑いを浮かべながら、晶がそう言う。


 あー、うん。その気持ちはわかる。


 あの二人、ボクたちがいること自体を忘れてるかのように、堂々とイチャイチャするからね。


 それが理由で、態徒が闇討ちされかけてるそうだけど。


「おっはー」

「おはよう!」


 と、ボクの到着からそう時間が経たずに二人が来た。


「おやおや、態徒君と鈴音ちゃんはまだのようだね。ということは、今頃人目も憚らずイチャコラしながら来てるのかね?」

「十中八九そうでしょ。あの二人、絶対付き合いだしたらお互いべったりになる感じだし」

「そうかな? うちから見ると、鈴音ちゃんがべったりして、態徒君が意外と宥めてそうに見えるよ?」

「私的にはいつでもどこでもイチャコラしてるイメージだけど」


 エナちゃんの考えに、未果は自分の考えを口にした。


 ボクはどちらかと言えば、エナちゃんの考えに近いかも。


 態徒っておバカな所や変態なところはあるけど、恋人ができると案外しっかりするタイプに見えるし。


「おっと、噂をすればなんとやら、お二人さんが来たぜー」


 女委がそう言いながら、一点を見てニマニマとした表情を浮かべた。


 その視線の先には、当事者の二人が仲睦まじい様子を見せながら、こっちへ向かってくるところだった。


 よく見れば、鈴音ちゃんは恥ずかしがりつつも、態徒の腕に抱き着いてた。


 わ、鈴音ちゃんって結構大胆。


「おは、よう」

「おっす。お前ら早いなー」


 二人はボクたちの所へ来ると、挨拶をしてきた。


 そんな二人を見ながら、ボクたちは、


「「「「「お熱いですねー」」」」」


 と、ニヤニヤとしながらからかい交じりの言葉を発した。


「あっ、こ、これは、えと……その……」

「いいよいいよ、鈴音ちゃん。慌てなくとも、意中の相手と合法的にイチャイチャできるぜ! ってことで、そんな風に来たんでしょ?」

「め、女委ちゃん~……」


 女委のからかうような言葉に、鈴音ちゃんは顔を真っ赤にしてあわあわした。


 なんと言うか、鈴音ちゃんってボクたちのグループではある意味新鮮な性格な気がします。


 だって、大体はこんな風に恥ずかしがることないんだもん、みんな。


「それにしても、お前も春を満喫しているな、態徒」

「ははは、いやー、マジで最高だぜ、今はよ! なんてったって、念願の彼女がいるんだからな!」


 晶の言葉に対し、態徒は後頭部を掻きながら幸せの絶頂期と言わんばかりに、嬉しそうに話した。


 まあ、態徒は昔から『彼女が欲しい!』って言ってたもんね。


 ボクたちのグループでは、唯一だったかな。


 ボクはそこまで興味はなかったし、未果も晶もそう。女委は、色々と特殊だけど、それでもものすごく欲しい、というわけではなかったしね。


「でも態徒、あんまりそうやって人目も憚らずイチャイチャしてると、闇討ちされるわよ?」


 態徒が嬉しそうに話していると、未果がそう声をかけた。


「その辺は抜かりなしだ。ってか、オレだって年中イチャイチャするわけじゃねーしな! やっぱ、適度にイチャイチャするからこそ、長続きすると思ってるんでね。……ってか、鈴音がすっげぇオレに依存してくるってーか……うん。まあ、なんだ。可愛いんだが、ちとまずい場面になった時もあるしよ」


 なんて言う態徒の顔は、どこか疲れていた。


 一体何があったんだろう?


「……態徒、お前まさかこの土日で……」

「……はは、察してくれ」

「「「「あぁ……うん。理解」」」」


 未果、晶、女委、エナちゃんの四人は、態徒の謎の遠い目ををした表情を見て、何かを納得しような感じだった。


「えっと、どういうこと?」


 なんだかボクだけ理解していないのが気になったので、未果たちに尋ねてみたら、


「「「「「「依桜(君)(ちゃん)はしらなくて大丈夫」」」」」」


 声を揃えてそう言われた。


 どういう意味……?



 しばらくみんなで話している間に、集合時間に。


 鈴音ちゃんは名残惜しそうにしつつも、自分のクラスへ戻って行った。


 来年は、鈴音ちゃんも一緒のクラスがいいかな。


 大体は態徒が守るとはいえ、態徒だけじゃどうにもならない事態に陥るかもしれないし、一緒のクラスだったら色々とできそうだしね。


 来年のことはともかく、集合時間になった後は、軽く学園長先生や学年主任の先生の話を聞いて、その後は新幹線へ。


 座席割りとしては、三席並んでいる列の方になり、


 未果 晶

 ボク 女委

 エナちゃん 態徒


 という状態に。


 今回はバスの座席を決める時みたいに、一人だけ仲間外れになる、ということはなかったので素直に嬉しいです。


 ちなみに、ボクたちは前の方でボクの列の一つ前に、師匠がいたりします。


 問題が起きた時、師匠と行動しやすくなるのはありがたいです。


 そして、出発の時刻となり、新幹線が京都へ向かって動き出すと、車内は一気に賑やかに。


 新幹線や飛行機って、普段乗ることが滅多にないから、なんだかテンションが上がるよね。


 かく言うボクも、現実的な高速で動く乗り物に久しぶりに乗るため、内心かなりテンションが上がってます。


 ……まあ、新幹線以上のスピードで走れるんだけど、ね。


「いやー、今回はオレも一緒の席でよかったぜ。前回は楽しくなかったわけじゃねーけど、それでも疎外感があったからなー」

「態徒のくじ運はあんまりよくないからな。……とはいえ、俺も俺で針の筵だったが」

「あはは。あの時は、晶君胃を痛くしてたもんね。席が席だったから、仕方ないよ!」


 そう言えば、晶はあの時、かなりの胃痛があったみたいだったしね。


 男は晶だけで、他は女の子という状況は、やっぱり男子にとってかなり羨ましいことみたいだし、仕方ないと言えば仕方ないのかも。


 晶って、本当に苦労性だと思う。


「……まあ、今回も今回で、俺たちは針の筵だがな」

「いやいや、晶以上にオレは突き刺さるような視線をもらってるぜ? これはあれだな、幸せ税って奴だな!」

「そうね。態徒に関しては、最近かなり可愛い彼女をゲットしてるものね。それに嫉妬してる人がかなりいるんでしょ。私も、もし男で、その立場だったら少なからず嫉妬するでしょうし。……とは言っても、私たちにはかなり抜けてる美少女がいるわけだけど、ね」


 未果が片目を閉じながらボクに視線を向けると、他のみんなも一斉にこっちを見て来た。


 しかも、


「「「「あー……」」」」


 という、どこか呆れに近い感情が混ざった声もセットで。


 一体どんな意味が込められてるのか気になるところではあるけど、スルーしよう。


 多分、いつものパターンだと思うので。


「それにしても、修学旅行かー。いやー、学園物の定番なネタだけどさ、やっぱり現実でもわくわくするよねぇ。わたし、京都に無事に着いたら、思う存分ネタを仕入れるんだ!」

「なんで死亡フラグっぽい言い回しなのよ」

「にゃはは! 何せ、ここには稀代の事件製造機の依桜君がいるからねぇ。もしかすると、今乗ってる新幹線だって、ジャック犯とか出るかもしれないじゃん? だからつい言っちゃうわけでね」

「否定できないのが辛い……」


 女委のいう通り、ボクが異世界から帰ってきて以降、こういった大きなイベントごとの時は何も起きなかった、なんてことがなかったような気がする。


 だから、女委の言うことを否定できないわけだけど……だとしても、事件製造機は何気に酷いと思うんですが。


「でも実際のところ、新幹線をジャックするのはなかなかに難しいんじゃない?」

「なんでだ?」

「考えてもみなさいよ。そんな危険な思想を持った人がいたら、ミオさんが気付くじゃない。それに、依桜だって気付くと思うし」

「あ、たしかに。ミオさんの守備範囲すごいもんね! それに、依桜ちゃんもいるんだから、そういう悪い人たちは出ないのかも!」

「そうだな。というより、何か起こる前に行動をしていそうだしな」


 未果や晶の言う通り、師匠がいる以上、そうそう問題は起きこらないと思う。


「まあ、安心しな。今も何か問題が起きないか、しっかり確認してるんでな」


 と、ボクたちの会話を聞いてたのか、目の前に座る師匠がこっちを向くことなく、そう声をかけてきた。


「とはいえ、あたしとしても不測の事態が発生すれば、多少は守るのが遅れそうではあるが……そんなこと、そうそうないだろうな。イオがいなければ、だが」

「師匠、その言い方は酷くないですか?」

「お前はいつも事件を引き起こすんだ。当然の評価だ」


 師匠って、本当に容赦ないよね……。


「もし言われたくないんだったら、その体質をどうにかしろ。ま、今更感が半端ないし、なにより無理があるが……っと、ん? なんだこの反応……」


 師匠が話している途中、不意に何か気になる反応でもあったのか、師匠の声が途切れる。


 その直後、


 ドンッ!


 と、いきなり車体が大きく揺れた。


『な、何!?』

『ちょっ、今すげえ揺れたぞ!?』

『つか、まだ揺れてね!?』


 いきなり揺れたことで、車内は騒ぎになる。


 周囲の人の言う通り、謎の衝撃の後、車体は大きく揺れていた。


「い、一体何!?」


 突然の事態に、未果が声を上げる。


 他のみんなも、警戒したような表情を浮かべていた。


「師匠!」

「まずいなこれは……」


 師匠に声をかけると、師匠は舌打ちしそうな勢いで、そう言葉を漏らす。


 え、まずいの!?


「師匠、どうかしたんですか!?」

「いや、まさかの不測の事態だ」

「不測の事態って……」

「いいか、今は時間がないんで、細かい説明は後だ。まず、軽く状況の説明をする。イオはその後、あたしを手伝え。いいな」


 ボクの呟きに対し、師匠はややほんの僅かに焦りの色を見せつつ、ボクに命令をしてきた。


「は、はい」

「よし。……簡潔に行くぞ。今、この新幹線は原因不明の存在に襲われている」

「え!?」

「そいつがこの新幹線に干渉しているみたいでな。今からこれをどうにかするんで、手伝え」

「わ、わかりました! それで、何をすれば……?」


 人的被害であるなら、師匠が少しでも焦ることなんてないと思うし、本当に原因がわかっていないみたい。


 となると、ボクたちの知らない超常的な存在が何かしてきてる、のかな?


「お前には、結界を張ってもらう。できれば、新幹線全体を包み込み、それでいて傾いたりすることがないよう、なるべく間隔を狭めろ。擦るかもしれんが、どのみちあたしが治すし、怪我人もどうにかする。なんで、お前はそれをしろ」

「りょ、了解です! 師匠は何を?」

「そりゃ、元凶を探って対処する。それだけだ」


 簡潔に、且つさも当然だと言わんばかりの返答をする師匠は……うん、本当にかっこいいと思います。


「よし、結界を張れ」

「は、はい!」


 ボクは、師匠が言った通りの結界を張る。


 ただ、結構な大きさな上に、それなりの頑丈さが必要だったので、六割も魔力を使うことに。


 でも、この程度で安全を得られるのなら、安いものです。


『お……? なんか、揺れが収まってね?』

『ほんとだ。まだちょっとだけ揺れてるけど、さっきよりかは全然まし』

『どうなってるの……?』


 ほっ……なんとか、問題なくらいの状態にできたみたい。


 ……そういえばボクたち、平気で結界とか言っちゃってるけど、これ絶対周りに聞こえてるよね……?


「……ん、見つけた」


 と、ボクの心配をよそに、師匠は原因を探ってたみたいで、ぽつりと呟いた。


 どうやら、原因を見つけたみたい。


「んー……なんだ? こいつは……」


 こいつ?


 こいつってことは、生き物、なのかな?


「…………綻びがある、な。なら、これを戻して広げれば……」


 ぶつぶつと師匠が何かを呟きながら、手元に魔方陣を出して、それを操作していた。


 一応、向こうの世界にも魔方陣はあるけど、その使用用途のほとんどが、精密的な操作を必要とする魔法や、特殊な魔法に使われてます。


 あくまでも補助的な要素なんだけど、それを使うっていうことは……師匠でもまだ完璧には扱えてない魔法、なのかな?


「……よし。これでOKだな。……おい弟子」

「あ、は、はい!」

「お前確か、最近は神気を使う練習をしてたよな」

「はい、してますけど……」


 異世界から帰ってきて以降、ボクは暇を見つけては神気の使い方を学んでいました。


 学んでいた、とは言っても師匠は、


『以前教えた基礎くらいしか教えられん』


 と言われてしまい、結果としてボク一人でやる羽目に。


 なのでほとんど手探り状態。


 ただ、いくつかヒントをもらったり、神気でできることを教えてもらったりして、自分なりに色々とやっています。


「お前、それでどこまでできる? できることなら、再生くらいできるとありがたいが」

「再生、ですか? 人体は無理でも、無機物とかだったら可能ですけど……」

「それで十分だ。お前、今からこの列車全体にそれ使え。そうだな……五分前くらいでいい。あとの固定は、あたしがやる」

「ご、五分……」

「なんだ、きついのか?」

「きついというか……ボク、まだ四分が限界で……」

「何? ……なら、今ここでその限界の壁を壊せ」

「えぇ!? そ、それは無茶ですよ!」

「知らん。早くしろ。正直、急がないとまずいんでな。このままじゃ、壊れるぞ、この列車」

「そうなんですか!?」

「あぁ。だから早くしろ」

「わ、わかりました……。必ず成功させるつもりでいますけど、失敗したらフォローしてくださいね……?」

「任せろ」


 うわぁ、何この安心感……。


 じゃ、じゃあやってみよう。


 目を閉じて、ボクは集中した。


 体の内側にある、魔力や天力とは違うもっと大きくて、静謐な力を感じ取り、ボクはそれを少しずつ体外へと放出。


 体から放出された神気を操り、走行中の新幹線全体に纏わせる。


 そして、それらの時間を逆行させるイメージで力を行使すると、上手く作用したという手ごたえが得られた。


 その直後、


「やればできるじゃねーか。これができれば、あとは簡単だ。……【定着】【固定】」


 師匠が最後に何かを呟くと、何かが変わった感じがした。


 どうやら、師匠が何かをしてくれたみたい。


 ちなみに、再生、というのは神気の中でも割と基本的な力のことで、簡単に言えば、あらゆる物体の時間を巻き戻す力、だとか。


 ただし、無機物はともかく、有機物に関してはかなり難易度が高く、中でも生物が一番難しい。


 この力は、神様が最初に覚える力だそうで、神気の初級の力だそうです。


 これができないと、力の行使ができないので、なんとか頑張って覚えてます。


 とは言っても、あと一歩のところまで来てるので、もうすぐできそうではあるけど……。


「これで、大丈夫だな。……あとは、【接続】【改変】【固定】」


 そう師匠が呟いた次の瞬間には、いきなり車内が静かになった。


 周囲を見回してみると、ボクたち以外の人たちが気絶してるような……。


「え、師匠、何したんですか?」

「簡単だ。この新幹線に乗ってる奴ら全員の記憶を改竄した。運転手に関しては、まあ……問題ない。すぐに起きるようにしたしな。とはいえ、事故らないようにあたしが新幹線を軽く捜査してるんで大丈夫だ」

「うっわー、今の一瞬でそんなことするとは……さっすがミオさんだぜ!」

「いつでもどこでも記憶が改竄できるというのは、恐怖するべきなのだろうか……」

「それは言わないお約束ってものよ。ミオさんの異常な能力は知ってるでしょ」

「ミオさんミオさん。どうして削除じゃなくて改竄なの?」

「簡単だ。記憶の削除ってのは、言っちまえば記憶に空白を作っちまうんだよ。いくら何でも、こうも大勢に記憶をなくした、なんて事態になれば厄介なことになる。それに、修学旅行が中止になるか、延期になれば、ガキどもが可哀そうだ。あたしは、そうならないように、記憶を自然な形で改竄したんだよ」

「へぇ~、マジでミオさんはすげぇなぁ……」


 本当にね。


 なんだかんだで、生徒のことを考えてくれてる辺り、師匠もなんだか変わった気がします。


 修業時代とか、なんというか……限定的だったしね。


 教師という仕事は、結果として師匠の精神をいい方向にしたのかも。


「さて、あとはそのうち目覚めるだろうし、あたしは寝る。イオ、着いた後、少し話すことがあるんで、覚えとけよ。んじゃ、お休み」


 師匠は言うだけ言って、すぐに寝息を立て始めた。


 ……師匠らしいです。


 この後、師匠の言う通り、ほどなくして全員目覚め、問題なく京都へとたどり着くことができた。

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