第14話 学園祭準備

 時間は進み、学園祭四日前となった。

 学園祭四日前ということもあり、ただでさえ慌ただしかった準備が、さらに慌ただしくなった。

 色々なところに目を向けると、中庭では、生徒会の人たちが特設ステージを作っていた。

 正確に言えば、業者の人を呼び指示を出しながら作っている、と言う感じ。


 それ以外にも、部活で何かしらの模擬店なんかをやる人たちは、外で屋台制作に取り掛かっている。

 屋台制作は、部活動じゃなくても、単なる友人グループや個人だけでの出店も可能。

 その場合、申請をださなきゃいけないんだけど、この学園は基本的に生徒の自主性を重んじているから、よほど変な物じゃない限り、基本的に通る仕組み。


 慌ただしいというのは、当然ボクたちのクラスも例外ではない。

 調理と買い出し以外のみんなは、内装や外装を作っている。

 買い出しの人たちは、衣装が完成したとの連絡を受けて、衣装を取りに行っている最中。

 なので、女委を筆頭に、買い出しの人たちは今はいない。


 調理のボクたちは、調理室で練習中。

 練習と言っても、大層なことはせず、揚げる、焼くの二つの工程の時間を正確にしたり、味付けなど。

 基本的には、ボクが教えている。


 と言っても、みんな呑み込みが早いので、案外スムーズに進んでいる。

 そのおかげで、三日ほどで完璧になった。

 うちの学園では、土日も使って準備していいとのことなので、かなりありがたい。


 四日前から泊まり込みもOKということで、準備が間に合わない人は、大体泊まり込みで作業を進めている。

 うちのクラスは喫茶店なので、そこまで作りこむ必要はないはずなんだけど、デザインをした人が相当頑張ったみたいで、かなりしっかりとした完成形のイメージ図や設計図をちゃんと作ってきて、それで指示を出している。

 今もその指示が飛び交っていると思う。


 現在の時刻は夕方の六時。

 泊まり込みOKの日は今日から。

 大多数の人が軽食を持ってきているそうだけど、それでだと栄養が偏る。

 ということで、


「ボクたちで、夕食を作らないかな?」


 栄養バランスの心配をしたボクは、夕食の提案をしていた。


「それはいい案ね。あのデザインだし、みんなお腹もすくわよね」

『それに、結構力作業って聞くしー』

『私たちが作って持って行ったら、きっと作業効率があがるよね!』

『絶対そう! 特に、変態とかは馬車馬の如く働くんじゃね?』

『いいねいいね! じゃあ、何か作ろ!』


 意外とみんな乗り気だった。

 あと、たしかに女の子の手料理を態徒に渡したら、十中八九歓喜し、馬車馬の如く働くと思う。

 そう言う光景が目に浮かぶ。


「とりあえず……おにぎりと、味噌汁でいいかな? さすがに、今からじゃ手の込んだ物は作れないし……」

「うん、それでいいんじゃない? おにぎりの中に色々と入れれば、味は変えられるだろうし」

『じゃあ、何作る?』

『海老があるし、エビマヨとか?』

『あと、ツナと鮭もあるよ』

『塩昆布と、梅もある』

「そうだね。ネギとかキノコ類もあるし……そっちは味噌汁に。油揚げと豆腐もあるから、これも入れちゃおう」

「それじゃ、早速作り始めましょうか」

『おー!』


 ボクたちはクラスのみんなの為に、夕食を作り始めた。



 大体、一時間ほどで夕食が完成。

 さすがに、ご飯を炊いたり、四十人分の量を作らなきゃいけなかったから、結構大変だった。

 炊き立てのご飯はやっぱり熱いからね、握るのがちょっと辛かった。

 向こうじゃ、耐性系の能力やスキルと言ったら、毒耐性と精神系に関する耐制だけしか手に入らなかったから、ちょっと辛い。


 味噌汁に関しては、ただ量を作るだけで済んだので、こっちはまだ楽だった。

 おにぎりは、普通の塩むすびと、エビマヨとツナマヨ、あとは梅干しに塩昆布、焼き鮭と、六種類用意した。

 一応、ひき肉を使った、そぼろおにぎりも作れたんだけど、時間短縮。それはまた別の機会にとなった。


 で、今は料理を運んでいる途中。

 幸いなことに、一年生のフロアは四階。調理室も四階にあるの、そんなに遠くない。

 ただ、あるのは一組の方なので、ちょっとだけ歩く。


 その途中で、同じ学年の人にかなり見られたけど、そんなに多くは作っていないので、分けることはできなかった。

 しょうがないね。さすがに、全クラス分を作るのは無理があるもの。

 自分のクラスだけで手一杯だよ。

 少し歩いて、ボクたちのクラスに到着。


「みんなー、夕食だよー」


 ボクがそう言いながら入ると、みんなきょとんとした顔をした。

 あ、あれ? 何かおかしかったかな……?


「これ、私たちからの差し入れよ。食べたくない人は食べなくていいわ」


 と、未果が言うとみんな一斉にこっちに集まりだした。

 みんな我先にと、詰め寄るものだから、今にも喧嘩が始まりそうだ。

 これじゃまずい。


「みんな落ち着いて! ちゃんとみんなに行き渡る量を作ってあるから、喧嘩しないで! 喧嘩する人は抜きにしちゃうよっ!」


 と、ボクが脅すようにしたら、みんな整列した。

 一旦、机の上に置いて、みんなに配り始める。


「えーっと、おにぎりは塩と鮭、塩昆布に梅干し、あとエビマヨとツナマヨがあるから、好きなのを選んでね! あと、味噌汁もあるから、遠慮しないでたくさん食べて!」


 そんなわけで、調理班による配給が始まりました。

 とりあえず、一人一つずつ渡して、もっと食べたい人は取りに来るようにしてもらった。

 そうすれば、喧嘩もする心配もないし、自己管理もしてもらえるから、こっちも楽。


『うめえ!』

『くぅぅ! やっぱ、美少女が作った飯ってだけで、さいっこうだよな!』

『しかもこれ、男女たちがあの手で直接握ったやつだろ? それだけでも最高じゃん!』

「うっ……生きててよがっだ……!」

「態徒、泣くほどか……?」

「まあまあ、晶君、世の変態たちはね、あの綺麗な手でシてもらいたいんだよ」

「ちょっと待って、女委。今、サラッと下ネタを挟まなかった?」

「んー? 気のせいだよー」


 ……いや、絶対気のせいじゃない気がする。

 だって、手の動きが何と言うか……ダメなやつなんだもん。

 でも、変態には何を言っても無駄って言うのは、よくわかってるし……。


「依桜、おかわりくれ!」

「あ、俺にも頼む」

『じゃあ俺も!』

『俺ももらうぜ!』

「わたしにもー」

『うーん、これ以上食べると、太りそう……だけど、私ももらう!』

『どうせ、かなり動くし、大丈夫! あたしも!』

「あわわ! みんな、順番だよ!」


 そんなこんなでみんなでの食事が終わった。

 ボクたちが作った夕食は、みんなに好評で、残さず全部食べてくれた。

 うん、こういうのってやっぱり、嬉しいよね。

 未果たちも嬉しそうだし。


 みんなの笑顔を見ていると、作った甲斐があったって思えるね。

 夕食後、少し休憩を挟んで、作業を再開。

 ボクたちも、今日はほとんどやることがないので、こっちの手伝いを。


『悪い、だれかカッター持ってねえか』


 内装の骨組み作りを行っている、一人の男子がそう言ったので、


「『生成』……はい、どうぞ」

『お、サンキュー、男女』


 魔法で創って渡した。

 当然、バレない程度に。

 なので、ボクがカッターを持っていることを不審に思わない。きっと、たまたま持っていたと思っただけだと思う。


『そういえば、依桜ちゃん。あの包丁ってもらってもよかったの? 違いは判らないけど、結構いいやつなんじゃないの?』

「あ、いいよいいよ。包丁だったら、どうにでもなるから。それに、あれ全部タダで手に入ったものだから問題ないよ」


 ボクは、武器作成で、全員分の包丁を創ってプレゼントした。

 当然、切れ味は抜群。抜かりなしである。

 だって、お肉を切るとき、筋があると硬くて切りにくいからね。


 切れ味のいい包丁があると、結構スムーズに切ることができるって言う理由で、調理のみんなに渡したのだ。

 それがどうも、高いものだと思ったみたい。

 まあ、少なくとも、今日本で売っている一番高い包丁よりも、切れ味いいし。

 んーと、多分ダイヤモンド以上の硬さで、切れ味は日本刀以上かな。言わないけど。

 ……かなり魔力消費したけどね。


「……ま、概ね依桜の言う通りでしょうね。……どうせ、魔法で創ったんでしょ?」


 最後だけは、ボクにだけ聞こえるように言ってきた。

 その言葉に小さく頷く。

 ボクが異世界に行っていたことを知っているのは、このクラスだと未果だけだからね。


 いつかは、ほかの三人にも言うつもりではいるけど。

 ……もしかしたら、軽蔑されるかもしれないね。

 未果にも、あのことは言ってないし……。


『そっか。じゃあ、ありがたく』


 未果の言葉で納得してくれたらしく、ありがたくもらうとのこと。

 創ったこっちとしても、そのほうが嬉しい。

 あと、実は武器生成には抜け道があって、フライパンなどの調理器具が作れたりする。


 理由は至って簡単。その道具を、武器として認識しながら創ればいいだけ。

 そうすると、フライパンや鍋などが創れたり。

 そう認識するきっかけを作ったのは、紛れもなく師匠なんだけど。


 師匠曰く『その場にある物は全部武器! いついかなる時も、冷静に周囲を観察し、空間を把握、暗殺に使えそうなものは、すべて武器と思いなさい!』なんだって。

 う、うーん、だからってまな板が武器になるって言うのは……あれって、武器って言うより盾な気がするんだけど……。


 あれかな。武器生成の魔法って、盾を創ることも含まれているのかな?

 だったら、納得いくんだけど……。

 この魔法は、どういうわけか使える人が少なくて、ボクにはとてつもない才能がある! とか、師匠が言ってたんだけど、本当かどうかはわからない。

 だって、もう師匠には会えないし。向こうに行くことができないからね。


『おーい、誰か鋸使ってねーか?』

「悪い。今こっちで使ってるんだ」


 どうやら、鋸を使いたくても、晶が使っているから作業が止まっているみたい。

 うん、ここは。


「『生成』。はい、どうぞ」

『お、悪いな、男女……って、この鋸どうしたんだ? たしか、二本しかなかったよな……? しかも、どこからともなく出したように見えたんだが……』

「ふぇ!? あ、え、えと、あの、その……あ、あれだよ! て、手品!」

『へえ、男女って手品ができたのか……すげえな。鋸、サンキュな』


 ほ……。何とか誤魔化せたみたい。

 つい、向こうでの癖で、創っちゃうんだよね。

 魔力も師匠のおかげで、かなり持ってるしね。


 ……まあ、ボクは身体強化、ちょっとした風属性の魔法と、武器生成あとは回復魔法しかつかえないから、宝の持ち腐れなんだけどね。

 身体強化は、まあ、なにかとんでもないこと――例えば、テロリストが侵入してきた、とかだったら使えそうだけど。

 必要はないかもしれないけどね。

 師匠のスパルタ特訓の中に、雷を動体視力だけで視認して、反射神経だけで回避しろ、なんてことやらされたし……あれは、死ぬかと思ったよ。


「さて、ボクたちも仕事をしよっか」


 トラウマが蘇って来たので、ボクはそれを振り払うように言った。



 次の日。

 今日も今日とて準備。

 学園祭まで、残り三日となった。


 今日も学園では、忙しなく人が動いている。

 ボクたち、調理班はほとんど完璧なので、これといってやることが無かったり。

 基本的な下準備自体は、前日に行うことにしているので、問題なし。


 前日までの間は、空いた時間に復習ということにしておいて、ボクたちも準備の方を手伝う。

 女委も、昨日に引き続き、衣装を取りに行っている。

 なんでも昨日は、『まだ、半分しか完成してなかったらからね!』なんだとか。


 それで今日は、その残ったもう半分を取りに行っている。

 ボクたちの衣装も、今日完成するとのこと。

 どんな衣装になるのか楽しみな反面、注文したのが女委だからなーと、不安もある。


 ……水着の時みたいに、変なものを持ってこなければいいんだけど……。

 でも、たしか衣装を着るのは、給仕と調理の二十人だけだよね? なのに、なんで紙袋が四十もあるんだろう? 予備かな?

 と、考えている時、


「たっだいまー! 衣装取って来たよー!」


 女委たちが帰ってきた。

 買い出しのみんなは、両手に沢山の紙袋を持っている。

 女委は僕たちを見るなり、こっちに近寄ってくる。


 なんだか、いやらしい笑顔を浮かべている気が……。

 あれ、なんだろう、いやな予感がするなぁ。


「さあ依桜君! お着替えの時間だよ!」

「え?」

「さあさあ、こっちに来た! あ、あと晶君と未果ちゃんもね!」

「め、女委、どこに連れていく気なの!?」

「どこって……女子更衣室?」

「め、女委!? ちょ、ちょっと待って! 自分で歩け――って、どこ触ってるの!? ひゃん!? だ、ダメっ、だってば! あっ、まっ……いやぁぁぁぁぁ!」


 ボクの必死の抵抗空しく、あえなく連行された。



 ボクたちは、女委に渡された衣装に着替えた。

 未果が渡されたのは巫女服。ものすごく似合っていた。だって未果って、大和撫子って感じがするしね。

 晶は、シンプルに執事のような服装。燕尾服ってやつだね。しかも、モノクルまでつけてるという徹底ぶり。晶はカッコいいので、なんでもそつなく着こなすイメージがあったけど、燕尾服はかなり似合っていた。

 で、ボクはというと……


「こ、これ、変じゃない……?」


 ミニスカメイド服。しかも、猫耳・猫尻尾付き。

 あと、リボン付きの白いニーハイソックスも履いている。

 ……ボクだけ、やたら属性過多な気がするんですが。


「……」

「……」


 誰も、何も言わなかった。


「あ、あの……」

「……依桜がメイド服着て、しかも猫耳尻尾があると、その……」

「……ああ。破壊力半端ないな」

「でしょ? しかも、ミニスカートと言ったら、ニーハイだよね! あの、スカートとニーハイの間の真っ白い太ももが眩しいよね! やっぱ、依桜君みたいな美少女だったら、定番の猫耳ミニスカメイドだよね!」

「あの、女委? 変態じみた発言はやめてほしいんだけど……あと、これ似合ってる? ボク、ちょっと心配なんだけど……」


 それに、この衣装って定番なの?

 定番なら、普通のメイド服でいいと思うんだよ、ボク。


「大丈夫よ、依桜。ものすごく可愛いわ」

「そうだな。ものすごく可愛いぞ」

「そ、そう? でも、これ……なんで、胸元が大きく開いてるの?」


 ミニスカートだから、ちょっとすーすーするし、胸元が開いているから、ちょっと恥ずかしいし……。


「え? だって依桜君胸大きいでしょ?」

「でも、女委の方が大きいと思うけど……」

「それはいいの。ま、Gと言っていた時点で、わたしより大きいと思うけどねん。まあ、正直な話、サキュバス服にしようか迷ったけど、さすがに狙いすぎかなと。そんで、とりあえず・・・・・妥協して、胸元を大きく開けたミニスカメイドにしようかと」


 ボク、サキュバスの衣装着せられそうになってたの?

 よ、よかった……メイド服で。

 恥ずかしいことに変わりはないけど……。


「でも、胸元開ける意味ってある?」

「そうだねぇ……クラスに戻ればわかるよ」

「う、うん」


 というわけで、着替えた状態でクラスに戻る。


「お、依桜はメイド服か! しかも、ミニスカートに猫耳尻尾付き! 未果も、巫女服がメッチャ似合ってるぜ! 女委、良いセンスだ!」

「むっふっふー! 私に抜かりはない!」

『最高だぜ、腐島!』

『まさか、美少女たちのメイド服姿と巫女服姿が見れるなんて……感激だ!』

『ああ、あんな美少女にお世話してもらいてー……』

『俺は、美少女の巫女さんにお祓いとかしてもらいたいわ……』

『男子たちほどじゃないけど、たしかに依桜ちゃん似合ってるよね』

『うん、お世話してもらいたいって言うのも、ちょっと納得できるわ』

『それに、未果ちゃんもすっごい可愛いし……大和撫子って、未果ちゃんみたいな人を言うんだろうね』

『それにしても、晶君は執事服が妙に似合ってて、ドストライクなんですけど!』

『あたし的には、依桜ちゃんと晶君の両方にお世話してもらいたいわー』


 と、ボクたち三人はかなり注目を浴びていた。


「それじゃあ、それなりに注目を浴びていることで、ここはひとつ。依桜君。太腿に両手を置いて、ちょっとかがんでみて?」

「え、えと、こ、こう、かな……?」


 言われた通りに前かがみになると、


『うっ!』


 なぜか、男子たちが前かがみになった。

 これは、どういうこと?


「あー……女委。お前、これを狙ったのか?」


 目の前の光景を見て、晶が呆れたように額に手をやる。


「そういうこと! だって、谷間が見えると、よくない? しかも、依桜君みたいな清楚系のタイプの女の子がやると、ギャップが相まって、かなりエロく見えるんだよ!」

「はぁ……女委、やっぱりそう言うことを考えていたのね?」

「当然!」


 どうやら女委の狙いは、ボクをエロく見せる事だった。


「そ、そう言うことをやらせないでよ、女委!」


 さすがに、黙っていられるほど、ボクは聖人君子ではない。


「今の事をやらせる以前に、依桜君、ミス・ミスターコンテストで水着着るじゃん? そのデモンストレーションだと思えばいいよ!」

「そ、そうだけど……これじゃあ、みんなのやる気を阻害しちゃうよ」

「そうかなぁ? じゃあ、依桜君――」


 と、ボクに耳打ちをしてきた。


「――それを言えばいいの? 変な意味じゃないよね?」

「うんうん。あと、とびっきりの笑顔をしながらだと、なおいいよ!」

「う、うん。やってみるね」


 軽く深呼吸して、心を落ち着ける。

 落ち着いたところで、ボクは笑顔を浮かべながら、


「が、頑張って下さいね、ご主人様♪」

「っしゃああああ、やるぞお前らぁぁぁぁぁぁぁ!」

『『『Yearrrrrrrrrrrrrrr!』』』


 ボクがさっきのセリフを言った瞬間、男子たち全員、ものすごい速度で作業を始めた。

 しかも、態徒が一番すごい。

 なんか、残像が見えるんだけど。


「はっはっは! 美少女による、ご主人様呼びは、男たちに火をつけたみたいだね!」

「え、えと、女委? これはなにが起こってるの……?」


 あまりにも突飛な状況に、思わず言わせてきた女委に説明を求めた。


「そうだねぇ。世の男たちは、可愛いメイドさんに『ご主人様♪』って呼ばれたいんだよ。だから、それを逆手にとって、依桜君にさっきのを言わせてみたんだー。そしたら、効果覿面! 依桜君の思うがままに動いてくれるよ! やったね! 魔性の女だよ!」

「魔性の女じゃないよ!」


 いつからボクはそんな人になったの?

 え、ボク、そう言うのじゃないよね……?

 そう思いながら、未果と晶に視線を向けると、スーッと視線を逸らされた。

 ……ちょっと不安になったきた。


「ところで、女委。一つ気になることがあるんだけど、いいかしら?」

「なんだい?」

「衣装は、一人一着だと思ってんだけど……なんで紙袋がその倍の数あるのかしら?」

「あ、それボクも気になってたんだけど」

「俺もだ。実際、そんなに必要ないだろ? 予備か?」


 どうやら、ボクだけじゃなくて、未果と晶も気になっていた様子。

 だって、半分しか取りに行っていないというのに、すでに紙袋は全員部あったんだもん。

 なのに、今日もう半分取りに行ってくるといったから、かなり疑問だった。


「あー、あれ? んーん? 予備じゃないよ?」

「じゃあ、間違えたのか?」

「それも違うよー。あれ、二日目の衣装。依桜君たちが着ているのは、一日目の衣装」

「え、そうなの?」


 まさかの回答にボクたちは目を丸くした。


「もっちろん! だって、二日もあるのに、同じ服って言うのも衛生的に悪いじゃん? それに、同じ服と言うのも、お客さんも飽きちゃうだろうしー」

「あら、珍しく女委がまともなこと言ってるわ」

「確かにそうだが……何かよからぬことを考えていないよな?」

「んー、それは見てのお楽しみ! 当日のお楽しみ! ってね! むふふ」


 その屈託のない笑顔とセリフを聞いて、ボクたち三人は思った。


(((あ、これ絶対ダメなやつだ)))


 と。


 まず、女委が最後までまともでいるはずがない。

 だって、元々サキュバス服を着せようとしてたんだよ?

 そんなことを考える女委が、まともなわけがない、というボクたちの考え。

 それに、明らかに最後の笑い方はちょっと、気味が悪かった。


「いやぁ、楽しみだなぁ」


 ちょっと浮かれた表情をしている女委を見て、ボクたち三人は、すごく嫌な予感がしていた。

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