第13話 水着審査の準備

 日曜日。

 今日は、いつものメンバーで必要な物の買い出しに来ていた。


 あれから、学園祭の準備は順調に進んでいる。

 女委は買い出し組のリーダーをしており、コスプレ衣装を注文しに行ったりしていた。

 注文と言っても、オーダーメイド。


 採寸は、幸いなことに学園長が計ったデータがあったので、それを渡すだけでボクは済んだ。

 ……あれ以来、採寸がちょっとトラウマなんだよね。学園長、許すまじ。

 衣装に関しては、できてからのお楽しみだそうで。

 ……女委に任せて大丈夫かな、という一抹の不安はあったものの、友人であることを信用することにした。


「しっかし、このメンツで出かけるとか、久しぶりじゃね?」

「そうね。最後にみんなできたのは……中学の時かしら?」

「だねー」

「まあ、俺もバイトとかあるしな」

「ボクは特にないけど……なんだかんだでPCしている時が増えたしね」


 今言うのは今更、って感じなんだけど、ボクと未果と晶は幼馴染と言う話はしたと思うけど、態徒と女委は中学生の時に知り合ったんだ。

 だから、最初からこの五人と言うわけじゃなかった。

 二人とは、妙に気が合ったから、なんだかんだでよくこの五人でいるわけで。


「で、今日は何を買いに来たんだよ?」


 態徒が今日の目的を聞いてきた。

 どうやら、連絡を見ていなかったみたいだ。


「今日は、買い出しと言っても、依桜と晶の水着を買いに来ただけよ」

「そうなのか? じゃあ、なんでオレと女委、未果がいるんだよ? 別に、晶と依桜だけでいいんじゃね?」


 態徒の言っていることはもっともだよね。

 それに追随するように、女委もうんうんと頷いている。

 たしかに、そう言う意味では、ボクと晶だけで十分だと思う。


「まあ、そうなんだけど……ほら、私って依桜に水着審査があること黙ってたじゃない?」

「あー、はいはい。りょーかい。つまり未果は、依桜に水着をプレゼントってことだな?」

「そういうこと。……はぁ。お小遣いが減るわ」

「自業自得だよ、未果」


 これに関しては、全面的に未果が悪いし。

 だって、普通大事な要素を黙っておく?


「なるほどねー。じゃあつまり、わたしたちは選ぶの手伝ってってことだね! うんうん、役得ってことができるわけだね!」


 あながち間違いじゃないんだけど……女委と態徒の場合、本当に心配なんだよね……。だって、変なの選びそうなんだもん。


「おお、たしかに! 依桜の水着姿か……」

「……態徒、変なことをしたら、即追い出すよ?」

「わ、わかってるって……」

「ほんとかなぁ……」


 いつも通り仲がいいボクたちは、軽口をたたきあいながら、水着売り場に向かった。



「依桜の見た目だと……やっぱり、緑系かしら?」

「いやいや、こっちの赤もいいって!」

「いや、ここはあえて黒と言うのも……」

「依桜は目立たない色が好きだし、水色とかじゃないか?」


 水着売り場にて、ボクはなぜかみんなに水着を選んでもらっていた。

 ボクが頼んだわけじゃないよ? なぜか、そうなってしまっただけで……。


 あと、なぜかみんなビキニタイプを勧めてくるんだけど。

 誰一人として、ワンピースタイプを推さないのはなんでだろう?


「あ、あの……なんで、ビキニタイプなの?」


 一応、聞いてみることにした。

 すると、


「「「「スタイルがいいから」」」」


 みんな同じタイミングでそう言ってきた。

 しかも、唯一の良心だと思っていた晶までもが、その声に混ざっていた。

 仲いいね、君たち……。


「あ、あの、ボク、大勢の人の前に出るのに、ビキニタイプは恥ずかしいんだけど……」

「うーん、でもねぇ……逆に依桜のスタイルに容姿だと、ワンピースタイプはかえって地味だと思うのよ」

「地味でいいんだけど……」


 あまり目立ちたくないもん。


「ダメだよ、依桜君!」

「め、女委?」

「考えても見てよ! 依桜君は、銀髪碧眼でロリ巨乳の超美少女! しかも、ボクっ娘という、珍しいタイプ! そんな二次元を絵に描いたような、絶世の美少女が身に着けている水着がワンピースタイプって、依桜君はよくても、エロスを求めている男たちには足りないんだよっ!」

「今店内だよっ! もうちょっと言葉を選んで! というか、エロスなんて求めなくていいよ!」


 店内で容赦ないいつものテンションでいるせいで、周りのお客さんからの視線がすごい。

 特に、ボクに集まっている気がする。

 女委、いつからこんな変態に……って、元々変態だったっけ……。


「はぁ……結局、こうなるのか」

「晶。晶も、ちょっとノリノリだったよね?」

「……なんのことだ?」


 ジト目を向けると、流し目でボクを見ようとしない。

 ……晶もたまーに変態がうつっている時があるんだよね……。

 このメンツ、基本的に変人しかいない気がしてきた。


「じゃあ、依桜君。とりあえず、水着、着てみよっか!」

「え、あ、お、押さないで……きゃあああ!」



「……なあ、未果」

「何? 態徒」

「最近依桜ってよ……」

「奇遇ね。私も思ったわ」

「「……心まで変わってきてない?」」



「こ、こんな感じなんだけど……ど、どう、かな?」


 女委によって、試着室に押し込まれ、ボクはいくつかの水着を着ていた。

 ……結局、ビキニなんだけど。


 今ボクが着ているのは、未果が渡してきた、緑色のビキニ。

 このタイプは、ホルターネックビキニって言うらしくて、なんでも、制服みたいな印象のあるもの……らしい。

 き、着てみて思ったけど……女の子ってこんなに露出したもので、海とかプールにいたんだね……ものすごく恥ずかしぃ……。


「か、可愛い……」

「ああ、今日、このために生きてきたんだ、オレ……」

「これは、同人誌が捗るよ!」

「まさか、水着を着て恥ずかしがっている姿が、こうも可愛いとはな……」


 うん。態徒は大げさで、女委は何を言っているのかわからない。

 未果と晶はマシ。

 晶はちょっと怪しいかもしれないけど、単純に可愛いと言っているだけだし。


「じゃ、じゃあ、次着るね……」


 ボクは再び試着室のカーテンを閉めて、別のに着替える。

 次は、態徒が渡してきた水着。

 ボクはそれに着替えて、試着室のカーテンを開ける。


「ど、どう、かな?」


 態徒が渡してきたのは、赤を基調としたオフショルタイプのビキニ。

 肩の露出や、上半身などの肌の露出に特化したもの……って、書いてあったっけ。

 あ、うん。態徒らしい、かな?

 でも、たしかに未果に渡されたものよりも露出は多い。

 着方次第で二の腕をカバーできるらしいけど、ボクにはよくわからない。


「なるほど。ところどころフリルもついているから、可愛らしさが上がるわね」

「どうよ、オレの選んだ水着は!」

「う、うん……悪くないよ。でも、ちょっと恥ずかしい、かな……?」


 さっきから、みんなだけじゃなくて、ほかのお客さんの視線も感じるし……。


「ふっふっふー。態徒君も甘いね! 甘ちゃんだよ!」

「な、なんだと!?」


 あれ、なんか寸劇が始まった。


「これじゃあ、会場の男たちを堕とせないよ!」


 堕とさなくてよくない?

 女委は一体、ボクに何をさせようとしているの?

 普通の人は、ミスコンで、男を堕とそう、なんて発想は出ないでしょ。


「な、なんだと!? これでも足りないというのか!?」

「当然! 世の男たちが喜ぶものと言ったら……というわけで、依桜君。わたしが渡したのに着替えてきて!」

「あ、うん」


 なんだろう、嫌な予感がする……。

 それと、未果と晶が妙に恥ずかしそうに顔を赤くしているのも気になるし……女委、一体何を選んだの?

 不安を感じつつも、ボクは女委の水着を手に取った。

 そして、


「……め、女委。これ、着るの?」

「当然!」


 即答だった。

 う、うぅ……これを着るの?

 で、でも、せっかく女委が選んでくれたものだし……ええい、覚悟を決めろ!


「こ、こここ、ここんな感じ……な、なんだけどっ……!」


 上ずった声を出しながら、ボクがカーテンを開けた瞬間、


『ぶはっ!』


 店内が鼻血という名の、鮮血で彩られた。 

 今のは、店内にいた男性客がそろって鼻血を噴いた音。

 その中には態徒のも含まれている。

 あの、こういうお店で血をまき散らしたら服が汚れるよね!?

 って、よく見たら、店員さんも死んでるぅ!?


「あ、あの……」

「……依桜、それは?」

「…………ものすごく、恥ずかしい水着、です……」


 それは、と聞かれても、震えた声でこういうしかないよ……!


「だろうな……正直、女委が選んだのを見て、俺は軽く戦慄したぞ……」

「じゃあ止めてよっ!」


 現在、ボクが着ているのは――黒のマイクロビキニである。

 そう、あの布面積がとても小さいことで有名な水着です。


 案の定と言うか、女委はとんでもないものを持ってきた。

 あまりの恥ずかしさに、色々なところが見えないかとても心配なので、両腕で胸とアソコを隠すようにしている。

 だ、だって、水着が解けそうなんだもん!


「やっぱり、わたしの目に狂いはなかった!」


 何をそんなに満足そうにしてるの!

 本当に友達なんだよね!? そうだよね!?


「大ありよ!」

「おまっ、なんてものを依桜に着せてるんだよ!」

「なんてもの……って、マイクロビキニ? それも、超布面積が小さいやつ」


 それが何か変、とでも言いたげな女委に、未果と晶が顔を真っ赤にして怒っている。


「あれじゃあ、ただの痴女よ!」


 うん。ごもっともで。

 ボクだって、これでコンテストに出場しようものなら、一発退場ものだと思う。


「と、とにかく俺が渡したのに着替えてきてくれ!」

「う、うん!」


 これ以上犠牲者――と言う名の変態――たちを増やしてはいけないと、ボクは晶が選んだ水着に着替えた。


「これは、どう?」


 最後に着たのは、パレオタイプのビキニ。

 巻きつけるスカート、と言う意味らしい。

 そのスカートは長くて、腰に巻くんだって。

 これなら、露出もある程度減らせるし、動きやすい。

 しかも、水色だからそんなに目立たないし、ボク好みかもしれない。


「あら、すごく似合ってるわ」

「たしかに。依桜はどこか、清楚な雰囲気をもってるからな、そっちの方がいいと思ってな」

「そ、そうかな? えへへ……ありがとう」


 最近、褒めらるととても嬉しく感じる。

 前はちょっと嫌だったかもしれないけど、今はそうではなくなった。褒められると、自然と笑顔になる。


「うっわあ……依桜の照れ笑いの破壊力半端ないんすけど……」

「うんうん。顔を赤くしながらだから、ポイント高いよね!」


 いつの間にか、態徒は復活していた。


「態徒、大丈夫なの?」


 かなりの量を噴出していたので、ちょっと心配。


「問題ないぜ。むしろ、あれで死ぬのも悪くないと思ったからな!」

「……ほんと、ぶれないね、態徒」

「そうか? ははは!」


 いや、褒めているわけじゃないんだけど……態徒がいいなら、いっか。


「それで、依桜。あなたは、どれにするの?」

「うん。ボクは、これにしようかな? これが一番可愛いし、好みだし」


 ボクが選んだのは、晶が持ってきたパレオタイプのビキニ。

 個人的には、これが一番しっくりきた、と言うのが一番の感想。


「ちぇー、アレじゃだめかぁ」

「「「当たり前だ(よ)(だよ)!」」」


 女委の発言に、ボクと晶と未果は揃って反応した。

 一体なぜ、あの水着で通ると思ったのか。

 そのあと、水着を購入し、みんなでお昼を食べてから解散した。

 ちなみに、鼻血で彩られたあのお店は、なぜかあの後繁盛したらしい。

 ……なぜに?

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