第12話 方針と審査内容
時間は進んで、一週間後。
今日も今日とて、学校である。
先週、全部のクラスの出し物が決まったことで、全部のクラスが準備をし始めた。
ボクも調理担当のリーダーとして、メニュー決めに勤しんでいた。
それ以外のことでも、まあ、色々とあったけど……それはまた別のお話かな。
「えっと、コスプレ喫茶ということなんだけど、基本的にはすぐに出せるものと、少し調理する物とで、バランスを取りたいんだ」
調理のみんなは、一ヵ所に集まって、今はボクの言葉に耳を傾けている。
ちなみに、調理担当のメンバーは、ボク・佐々木さん・未果・玉井さん・伊藤さん・神山さんの六人。
ものの見事に、全員女子と言う結果になった。
……まあ、ボク自身を女子とカウントするのは、ちょっとあれだけど。
ただみんな、普通に可愛い人だったりするので、多分ビジュアル面は心配いらないと思う。
未果もいるしね。
未果は調理担当だけど、一応クラス委員なのでちょくちょくほかのところにも行っていたりする。
その分、『個人でやっとくわ』と言っていたので、問題ないと思う。
「というと?」
「うん。結局、コスプレ喫茶と言う決まり方をしただけであって、洋食か和食か、みたいなのは決まってなかったでしょ?」
「そうね」
『たしかに……』
「だからいっそ、いろんな料理をどこかから一種類ずつ持ってくる、っていうのはどうかなって。例えば、和食からだと天ぷらとかね」
「なるほど。つまり、洋食から、というより、○○料理から一品、って感じかしら?」
「そう、そんな感じ」
未果には伝わったらしく、未果の確認のセリフで他のみんなも理解した表情になった。
こういう時、未果の存在は非常にありがたいと思う。
「依桜。とりあえず、この中で一番料理を作ってそうだから、何かしら挙げてくれる?」
「うん、いいよ。えっと、和食だと……ボクは天ぷらをよく作ったかな? 洋食だと、ハンバーグとか。インドだとカレーだね。まあ、本格的なのじゃないけど。イタリアでパスタとか。あーでも、フランス料理は作ったことないなぁ。簡単なものとはいえ、とりあえずだとこんな感じだけど」
ボクが挙げた料理に、みんなが感心したような表情をしだした。
感心するようなことある? 家庭料理ばっかりだよ? 普通だと思うんだけど……。
『へー、やっぱり依桜ちゃんって家庭的なんだね』
『うんうん。普通、天ぷらとか作ろうと思わないって』
『結構レパートリーの幅広いんだね』
『これなら、いろんなの作れるかな?』
「そうね……とりあえず、カレーはあってもいいかもしれないわね。天ぷらも、学園祭でやるには面白そうだし、いいかも。あとは、ハンバーグかしらね」
うん、反応を見る限り、結構好感触みたいだね。
よかったぁ、ほっとしたよ。
「うん。今挙げたのは、基本的にあらかじめ作っておいて、あとは焼いたり揚げたりするだけですぐに出せるものばかりだから、あまり料理をしていないみんなでも問題なく作れるよ。あと、時間の短縮にもなるし」
いちいち最初から作っていたら、確実に間に合わない。
ならいっそ、ファミレスみたいな形式にしてしまおう、ということ。
「たしかにそうね。それだったら、良いかもしれないわ。となると……あとは、サイドメニューとか欲しいわね。メインは、とりあえずカレーとハンバーグ、天ぷらの三つは決まりってことにしておきましょう。サイドは……」
「サラダとか、ポテト、ソテー系とか?」
「そうね。それだけでもいいかもしれない。ポテトは必要ね、あった方がいいもの」
大まかなメニューが決まってきて、ボクはまた一つ提案を。
「デザートもあった方がいいかな?」
デザートである。
食事だけと言うのもお昼時にしかお客さんは入らないと思う。
だからこそ、おやつ時であったり、休憩として気軽に入れるものがあった方がいい。
という説明をみんなにしたところ、概ね好意的だった。
「そうね。食事だけだと、依桜の言う通り、お昼時しか入らないわ」
『デザートがあれば、女性客の人も入りやすいと思うし』
『なにより、甘いものが嫌いな女の子ってなかなかいないよね!』
『うんうん! 依桜ちゃんと未果ちゃんがいれば、安心だね!』
「あはは……。とりあえず、ボクが作れるとしたら、アイスとケーキ、クッキーにパイ、あとはグミとかになっちゃうかな?」
なんて、何の気なしに呟いたら、みんながびっくりした顔をしていた。
「……依桜って、本当に家庭的ね」
呆れたような感心したような、なんだか器用な表情を作りながら未果がそう言ってきた。
「え? そうかな? 作れると言っても、そんなにいいものじゃないと思うよ?」
『……まさか、うちのクラスに隠れた実力者がいたとはね……』
『うん。ちょっと前までは男の子だったのに、いざ女の子になったら、まさかこんなに女子力が高いなんて……』
『うん、敗北感がすごいよね……』
『でも、これなら、学園祭もいけそうだし、問題ないよね!』
『『『たしかに』』』
あ、あれ? なんか妙に団結してる……?
しかも、敗北感が、とか言っていたけど……ボク、元々こんな感じだったんだけど。
何か敗北する要素でもあったのだろうか?
「依桜が作れるものの中で使えそうなのは、クッキーとケーキかしらね? あとは、アイス。この三つね」
「うん。それで問題ないよ。ケーキとかアイス、クッキーなんかは調理室で作って、それを出せばいいだろうしね」
『え、でも調理室って使えるん?』
「申請を出せば問題ないわ。調理室自体、三ヵ所もあるし、その内の一つを使うくらいわけないわ。それと、ケーキは数量限定にした方がいいかもね……さすがに、この人数で大量生産はきついし、なるべく前日に作りたいもの。学園祭は二日間行われるから……そうね、とりあえず一日、百食くらいかしら?」
「うーん、そうだね。デザートと言っても、クッキーとアイスだけでも十分通用すると思うし、いいと思うよ」
さすがに、学園祭でそこまでメニューを増やしても、大変になるだけだろうし、なにより下準備にも時間がかかる。
それぞれの分野で、3~4種類ずつくらいが妥当だろう。
「じゃあ、メニューは、メインがカレー・ハンバーグ・天ぷらで、サイドメニューはサラダ・ポテト・ソテー系、デザートが数量限定で、ケーキ・アイス・クッキー。うん。作業量はちょっと多いかもしれないけど……大丈夫かしら、みんな?」
「ボクは大丈夫だよ」
『うん、私も』
『当日は、ある程度作ってあるんでしょ?』
「うん、そのつもり」
『じゃあ問題なーし』
『うちも』
『あたしも大丈夫』
「うん。じゃあ、決まり! 練習に関しては、一週間前からね。その間の調理室の使用許可はとっておくわ。それじゃ、来週までやることもないので、各自ほかの手伝いね」
『はーい』
「それじゃ、ボクも……」
「あ、依桜は待って」
ある程度の方針が決まり、みんなが各々ほかの係のところに手伝いへ動いた。
ボクもほかのところの手伝いに行こうとしたところで、未果に呼び止められた。
「えっと、なに?」
「依桜はこれから、晶と一緒に事前の打ち合わせよ」
「打ち合わせ?」
一体何のだろう?
打合せするようなものってあったっけ?
「そ。ミス・ミスターコンテストのよ。大会議室でやるらしいから、晶と今すぐ向かって」
「あ、うん。わかった」
「晶―!」
「ん、もう行くのか?」
「そ。じゃあ、二人とも行ってらっしゃーい」
未果に送り出されて、ボクと晶は大会議室に向かった。
う~ん、未果を含めたクラスメートのみんながなにやら送り出すにしては妙な表情をしていた気がする。
男子は、にやにやと、よからぬことを考えていそうな表情。
女子は、憐れむような……まるで、『ああ、地獄を見に行くんだな』みたいな、生温かい表情をしていた。
……何があるの?
「うーん、ミス・ミスターコンテストってなにやるのかなぁ」
大会議室に向かってる途中で、ボクと晶はミス・ミスターコンテストについて話していた。
「晶は知ってる?」
どういうわけか、ボクには一切情報が入っていない。みんなに聞こうと思って、尋ねてみても、みんな露骨に視線を逸らすし、話題転換を図ってくる。
なので、ボクと一緒に出場する、晶に知っているかどうか確認してみた。
「あー、まあ……うん」
なんだか歯切れが悪かった。
「そうなんだー。じゃあ、どうやって競うのかも知ってたり?」
「……そうだな」
……なんで晶は、ボクと目を合わせないんだろう?
なにか隠し事でもしてるのかな?
あと、ちょっと……というか、かなり気まずそう。
「晶、どうかしたの?」
「いや、依桜が可愛いなと」
「ふぇ……! きゅ、急に変なこと言わないでよぉ!」
突然可愛いと言われて、顔が熱くなってしまった。
うぅ……やっぱり、精神もちょっとずつ変わっているような気がする……。
「ま、まあ、実際可愛いんだしな……っと、着いたぞ」
そうこうしているうちに、ボクたちは大会議室に着いた。
「……ちょっと釈然としないけど……とりあえず中に入ろっか」
「ああ」
ちょっとだけ納得いかなかったけど、今は説明会だね。
ドアを開けて、ボクたちは中に入った。
ボクたちが大会議室に入った瞬間、ざわついていたのが急に静かになった。
ほかの参加者の人たちは、みんないるみたいだ。
ミス・ミスターコンテストに出るだけあって、みんな美形だ。
だけど、なんだか、すごく視線を感じる……気のせい、かな?
「依桜、とりあえず座るぞ。俺達が最後みたいだし」
「あ、うん」
晶に言われて、ボクたちは空いている席に着いた。
するとやっぱり、視線を感じる。
どうやら、気のせいではないみたい。
異世界で三年間、暗殺者として過ごしていたのと、女の子になったことが相まって、視線に敏感になったのかもしれない。
性別が変わってから最初の登校の時も、視線がすごかったし……。
『なあ、やっぱりあの娘可愛いよなぁ……』
『ああ、銀髪碧眼って、リアルにいるんだな……』
『しかも、肌きれーで、まつ毛長いし、おまけに髪もさらっさらだし……』
『羨ましい』
『……なんだろう、始まる前から負けている気がするんだが』
『大丈夫だ。俺達はまだいいが、女子なんて、あの娘と比べもんになんねーだろ……』
『……聞こえてるよ』
『ひぃっ! す、すんません!』
色々と何か聞こえてくるけど……よく聞こえないなぁ。
ボク、何かおかしなところでもあるのかな……?
「おや、もうそろってるみたいだねぇ。感心だよ」
と、どこかで聞いた……というか、ボク的にはあまり会いたくない人の声が……と、確認の為、声をがした方を見ると、案の定、学園長先生が入ってきた。
「さて、これから説明会を始めるよ。今から、資料を配るから、よく目を通しておくように」
学園長先生が何かの紙を配り始める。
学園長先生自ら説明と言うのは、ある意味すごいことなんじゃないだろうか?
そんな事を思っていると、ボクたちのところにも紙が回ってきた。
「さて、今回は説明と言うより、確認に近い。今日説明するのは主に、開始日と開始時間の二つだ。このミス・ミスターコンテストは、基本的に参加者は全員参加。場所は中庭で行われる。当然、全員参加と言ったのだから、観客兼審査員は学園祭参加者全員」
え、そうなの!?
こう言うのって、興味のある人とかだけが審査員とかするんじゃあ……?
じ、辞退したい……。最新式のPCとかこの際どうでもいいから、ものすごく辞退したい。
「あと、エントリーシートが提出された以上、辞退は不可能だからね」
が、退路は断たれた。
ボクの心を見透かしてるんじゃないだろうか、学園長先生。
現に、こっちをみて『逃がさん』みたいな圧のある視線を向けてきているし。
「審査方法は、至ってシンプル。まずは、自己紹介などの質問コーナーと自己アピール。次に、自分の特技を披露。そして最後に……水着審査だ」
……………………はい?
水着……審査?
ボクは恐る恐る、晶の顔を見た。
「……」
晶はボクの視線に気づくと、申し訳なさそうに顔を伏せた。
……晶が謝っていたのは、これのことだったんだ。
なるほど、だから態徒たちが盛り上がっていたんだね……。
ああ、うん。腑に落ちたよ。
「自分の特技に関しては、事前に必要な物がある様なら、こっちに言うように。水着審査以外の服装は、自身のクラスの模擬店で使われている服にすること」
あ、そこは普通……なのかな? いやでも、おかしなコスプレさえしなければ問題ないよね……?
あと、特技の方もちゃんと考えておかないと。
「開始日は、学園祭一日目の二時からだ。出場者の諸君は、開始十五分前に中庭の特設ステージに来ること。遅刻は厳禁。どうしてもやむを得ない事情がある者は、私か、本部に連絡するように。あとの細かい時程や説明は、先ほど配った紙を見るように。以上で、説明会を終わりにする。さ、自分のクラスの準備に戻ってね」
学園長先生がそう締め括ると、出場者の人みんなが大会議室を出ていった。
ボクたちもほかの人と一緒に晶と教室に戻った。
……学園長先生って、真面目な時は結構真面目な口調なのに、どうして素はあんなに軽いんだろう?
「……で、これはどういうことなの?」
「あ、あははー……い、依桜、顔が怖いわよ……?」
「……なんで、水着審査があることを言ってくれなかったの!」
教室に戻るなり、ボクは未果に詰め寄っていた。
もちろん、水着審査の件を黙っていたことに対する説教が目的。
「だ、だって……言ったら絶対、依桜出てくれないと思ったし……?」
「あのね、そう言うことを言っているんじゃなくて、あらかじめ言ってほしかったの! ボクだって、言ってくれればこんなに怒ってないよ!」
「す、すみません……」
「……まったくもう。ボク、水着持ってないんだよ? なのに、それを黙ってるなんて……」
「あ、えーっと……」
「ま、まあまあ、依桜も落ち着けって。未果だって悪気があったわけじゃ――」
「態徒は黙ってて」
「……すんません」
ボクを止めようと割って入ってきた態徒を適当にあしらう。
それに、態徒だってほとんど加担していたようなものだし。
「とりあえず、今回は許します。次からは、こういうことはなしでお願いね?」
「は、はぃ……」
未果はちゃんと反省したらしく、少しだけ落ち込んでいるみたいだ。
「はぁ……次から気を付けてくれればいいから、ね?」
「わかった……」
『す、すげえ、あれが飴と鞭ってやつか……』
『なんだろう、百合が見えるような気がする……』
『や、やべえ、俺、怒ってる男女に興奮しちまった……』
『お前、変態かよ……。だが、男女って怒るとちょっと怖いな……』
『うん……依桜ちゃん、普段から温厚で優しいから、怒ると余計だよね……』
『私、怒らせないようにしよーっと……』
ボクが未果を怒っているとき、クラスメートたちは、こぞってこう思ったらしい。
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