第11話 投票の結果と係決め

「それじゃあ、開票して、数えるわね」


 昼休みを挟んで、五時間目。

 昨日未果が言った通り、出し物の投票が行われた。

 今は未果が票数をカウントしている。

 そのカウントは、一分ほどで終了し、


「うちのクラスの出し物は、喫茶店になりました!」

『おおおおおおおお』


 ボクの望み空しく、喫茶店となってしまった。

 ……ああ、うん。

 なんだろう。最近、貧乏くじばかり引かされている気がするよ。


 呪われてるのかなぁ……って、この体になったのも、呪いが原因だっけ。

 ……泣きたくなってきたよ。


「企画も決まったことだし、細かいことを決めていくわよ。まず、喫茶店と言っても色々なジャンルがあるから、どういう路線で行くか、決めます。誰か、何かいい案ある?」


 決まってしまったものはしかたないし、前向きにいこう。やってみたくないわけじゃなかったし。

 とりあえず、ジャンルか……。

 たしかに、喫茶店と言っても色々なジャンルがあるよね。


 普通の、モダンな雰囲気の喫茶店に、中華喫茶、童話をモデルにした喫茶店に、コスプレ喫茶、あとはメイド喫茶とか。

 結構な種類があるし、今はユニークな喫茶店も多いと聞くし、そういうものをモデルにしてみるのもいいかもね。


「はい!」

「はい、態徒」

「安易に、メイド喫茶とかどうよ」

「んー、まあ、悪くないとは思うけど、そうなると給仕をするのは、女子になりそうね。まあ、候補に入れとくわ」

「っし!」


 意外にも、態徒はメイド喫茶を提案してきた。

 たしかに、高校生がやるとなると、結構需要が高いかもしれないね。

 ほかの男子たちも、ちょっと期待しているみたい。

 だけど、未果の言う通り、メイド喫茶にすると、給仕は女の子ばかりになってしまうから、そっちに負担が行ってしまうかも。


「ほかは……女委」

「んっとねー、コスプレ喫茶とか?」

「コスプレ喫茶……例えば、どんなの?」

「アニメとかもありだし、警察官や巫女さんとか?」

「なるほどね……それだったら、男子にも仕事を回せるわね」

「でしょー?」

「わかった。じゃあ、候補にしとくわ」


 め、珍しい。女委が、BLを絡めてこないなんて……。

 どうやら、ボク以外の人もそう思ったらしく、え? みたいな表情している。

 これは、槍でも降るかもしれない? 仮にそうなっても捌ける自信はあるけど。


「ほかに何かある人は?」

「はい」

「あ、珍しい。晶」

「童話喫茶とかどうだ?」

「童話喫茶か。ちなみに、どんなの?」

「これといったコンセプトはないが、たしか東京には不思議の国のアリスをモチーフにした喫茶店があるのを聞いたことがある。まったく同じにする、と言うわけではないが、童話だったら幅が広いし、色々なことができるんじゃないか?」

「なるほど……いい案かもしれないわね」


 珍しく晶が手を挙げたと思ったら、結構いい案を出してきた。

 童話喫茶か。

 行ったことはないけど、雰囲気とか結構よさそうだったんだよね。


 童話とかって結構好きだし、広く知られているからお客さんも集まりやすいかも。

 それにしても、晶だけ具体的な説明……。

 何らかの外的要因があるような……?


「ほかになければ、この中から選ぶけど……うん。大丈夫そうね」

「どうやって決めるんだ?」

「うーん……私の意見を一回述べていいかしら?」


 未果がそう言うと、みんなどうぞ、と言うかのように頷く。


「じゃあまず。メイド喫茶ね。これ、別に構わないんだけど、給仕が女子だけになるから、基本的に調理が男子に回ると思うの。しかも、このタイプとなると、休憩時間の確保がちょっと難しくなりそうなのよね」

「た、たしかに……」

「次に、コスプレ喫茶。これは、まあ……態徒の案と似たような感じだけど、コスプレと言うところに重点を置いているから、男子も給仕として働けるわね。しかも、予算も申請すればそれなりに貰えるから、実現も不可能じゃないわ」


 なるほど、未果も結構考えてるんだね。

 ちゃんと、仕事がある程度公平に回るように考えてるみたいだし。


「そして、童話喫茶ね。これは、何をモデルにするかによるけど、結構いい案かもしれないわ。まず、童話は大抵、誰もが知っているような話ばかりだから、共感は得やすい。しかも、話によっては登場人物の男女比もちょうどよくなるし、これなら均等になる――」


 と、言ったところで、未果の動きが止まった。

 そして、軽く何かを思案するそぶりを見せた後、


「……って、ちょっと待って? 今よくよく考えてみたら……この三つ。一緒くたにしても問題ない気がしてきたんだけど……」


 と、突然こんなことを言ってきた。

 その発言に対し、みんなが確かにと言った顔をした。

 かく言うボクもそう。

 言われてみれば、この三つって全部コスプレ喫茶みたいなものなんだから、一緒にしても問題ないよね?

 メイドだって、コスプレ喫茶の内に入れられるだろうし、童話喫茶も基本的にコスプレだから、一緒にしても問題ないと思う。


「……これ、混ぜる? 三人はどう思う?」

「オレは、メイドさえ見れれば問題なし!」

「わたしも特には。というか、そっちの方が面白そうだしー」

「俺もだ。結局、楽しめれば問題はないしな」


 三人とも問題なく、混ぜてもいいと言っている。

 しかも、みんな肯定的だ。


「じゃあ、うちはコスプレ喫茶でいいかしら?」

『異議なし!』


 そんなわけで、ボクたちのクラスは、コスプレ喫茶に決まった。



「んー、時間はまだ全然あるわね。今日中に、どういう感じにするか決めたいから、もうちょっと頑張ってね」


 たしかに、こう言うのは早めに決めておいた方が、何かと得するし、未果の言うことはもっともだね。

 こういうのを決めるのに時間をかけてしまうと、準備期間を大幅に削られちゃうし。

 まあ、三週間もあるから、よほどの大掛かりなものじゃない限りは問題ないと思うけどね。


「じゃあ、役割分担だけど……何があるかしら?」

『とりあえず、調理担当はいるよな』

『デザインをする人も必要だね』

『給仕する人も』

『買い出しも必要かな?』

『チラシも作った方がいいんじゃない?』

『材料の運搬も必要じゃね?』


 未果の発言に、みんな各々必要そうな仕事を言っていく。

 それを未果が、一つ一つ黒板に書いていく。


『衣装はどうするんだ?』


 ふと、そんな質問が出てきた。


「あー……態徒たち、何かない?」

「そうだなぁ……作るのは時間がかかるしな……」

「じゃあさ、買うのはどう?」

「コスプレ用の服って売ってるのか?」

「うん、売ってるよー。今の時代、コスプレイヤーさんも多いからね! まあ、中には自作している人もいるけど。でも、適度に楽しみたい、って人は結構買ってたりするよ。それに、わたしそう言うお店にちょっとした伝手があるから、ある程度値切りの融通が利くし、オーダーメイドもできるよー」

「な、なるほど……正直、時間もそんなにあるわけじゃないし、とりあえず衣装は買う方向性でいいわね。そっちは後で、女委に任せるわ」


 未果の進行のおかげで、話がとんとん拍子に進んでいく。

 コスプレするにしても、何着買えばいいかわからないしね、こういう時はあらかじめ決めておけば、必要以上にお金を使わずに済む。

 ……というか、女委ってたまに何者なのか気になるときがあるんだけど……なんで、そっち方面のお店に伝手があるんだろう?


「じゃあ、次は、それぞれの仕事の必要人数ね」


 未果は必要な人数を計算して、黒板に必要人数を書き入れていく。

・調理六人

・給仕十四人

・材料運搬七人

・デザイン及びチラシ製作六人

・買い出し七人


「っと、こんなものね。えーっと、給仕の人は、サイズを計り終えたら基本的に接客を練習する以外やることはないから、買い出しやデザインの方に回ってもらうわね。決め方は、基本的にはそれぞれにリーダーを決めて、あとは適当にクジでいいかしら? あと、内装作りに関しては、基本的に全員参加よ」


 未果がそう言うと、これまた全員問題なし。

 リーダーか。誰になるんだろ?


「さて。まず、調理担当のリーダーね。これはまあ……依桜よね」

「え、ボク?」


 さも当然のようにボクを指名してきた。


「だって、依桜が一番料理上手だし。あと、調理風景はお客さんに見えるようにするから、期待感を高める、って意味でも依桜が適任だしね」


 見えるようにするってことは、ライブクッキングってやつかな?

 たしかに、あれだったら期待感を高められるだろうけど……。

 あと、ボクが一番料理が上手いとは限らない気がするんだけど。


「ボクの調理風景とか、見ていて楽しいかなぁ……?」

「何言ってんだ依桜!」


 ボクがぼやくと、突然態徒が立ち上がった。

 しかも、興奮気味にこんなことを言ってくる。


「美少女の手料理だぞ!? しかも、ボクっ娘で、銀髪碧眼で、その上ロリ巨乳だぞ!?それを喜ばねえ男がいたら、そいつはホモだ!」


 何言ってるんだろう、態徒は。

 ……と言うかボク。こうしてみると、かなり属性豊富だね……なんか、複雑なんだけど。

 あと、ロリ巨乳とか大声で言わないでほしいんだけど……。


「なあ、野郎ども!」

『おうともよ!』

『あの、綺麗な手で触った食材を、その素晴らしいほどに可愛い娘が料理する!』

『それは男にとってのロマンであり、夢なんだよっ!』


 あ、あれ? なんか、ほかの男子たちも熱くなってない?

 もしかして、変態がうつったのかな……?

 ……変態って、もしかしたら病気の一種かもね。


「……はぁ。俺は何で、あの馬鹿と友達なんだろうか……」


 しかも晶がなんか、友達であることを疑問に思い始めてるっ!


「態徒君、わかるよ、その気持ち!」

「ええ!?」


 女委も混ざりだしたんだけど!?

 しかもなんか『同志よ!』みたいな顔を向けてるんだけど?


「美少女に料理を作ってもらえるなんて、そうそうある事じゃないよ!」

「あ、あの、女委さん?」

「こんなシチュエーション、二次元でしかほとんどあり得ない! だからこそ、現実でこんなことがあれば、男たちは、叫び、歓喜し、劣情を抱くんだよっ!」

「何言ってるの!? ねえ、本当に何を言ってるの!?」


 どうしよう、変態が増殖した!

 しかも、未果や晶のツッコミがないと思ったら、なんか諦観した表情になってるんだけど!

 え、収拾がつかなくなってきたんだけどぉ!


「わかってくれるか、同志よ!」

「もちろんだよ!」


 しかも、ガシッと固く握手もしだしてるし!

 あと、その『わかりあえたぜ』みたいな顔は何!?


「というわけで、オレたちは依桜を調理のリーダーに推すぜ!」

「あー、はいはい。あなたたちの言い分は分かったから、とりあえず落ち着きなさい」


 ようやく口を開いてくれたと思ったら、反応が軽かった。

 未果、もっと言ってもいいんだよ?


「まあ、変態たちの言い分は置いておくとして……依桜、受けてくれない?」

「うーん……態徒たちの言い分がちょっと……というか、かなり気持ち悪かったけど……わかった。調理の方は任せて」

「ありがとう! じゃあ、次、給仕ね。給仕は……晶ね」

「俺か?」

「あなたが適任なの」

「いや、何で俺なんだ?」

「だってあなた、ファミレスとかでバイトしてるでしょ?」

「……なんで、そのことを」


 未果が言うと、晶はびっくりしたような表情を浮かべながら、そう言ってきた。

 もしかして、晶バレてないと思ってのかな?


「晶。多分、ほとんどの人がバイトしてるのを知ってると思うよ?」

「え、依桜も知ってたのか?」

「うん。だって、イケメンなウェイターがいる、ってこのあたりのファミレスじゃすごく有名だよ?」

「なんてこった……そうか、噂になってたのか……」


 自身がバイトをしていることが周囲に知られていたのを知り、なんかものすごく落ち込んでいる。

 どこに落ち込む要素があったんだろう?

 ボクの境遇の方が、確実に落ち込むと思うんだけど……。

 別に、バイトしていたの知られたからと言って、うちの学園は禁止どころか社会勉強の一環として推奨するくらいだし。


「それに、晶がメインでやれば集客もできそうじゃない?」

「そうか? 正直、依桜だけでも十分だと思うんだが……」

「いいえ、たしかに依桜は可愛いから、かなりの集客が見込めそうよ。しかも、ちょっと癒し系みたいなところがあるから、男女両方から好かれること間違いなし!」


 そ、そんなみんながいる前でそんなに言わなくても……。


「なら、俺でなくても……」

「依桜はあくまでも、調理担当だからね。作っている風景を見てもらうのは確かだけど、給仕とかをするわけじゃないし。それに、晶がやってくれた方が、女子の集客もアップ! 男性客は依桜が大体引き込んでくれるし、女性客は晶が引き込んでくるれるはず! だから、晶に給仕のリーダーをお願いしたいんだけど……」


 随分熱心に説得するんだなぁ、未果。

 ミスコンとかの話の時もそうだったけど、結構色々とちゃんとした根拠を言ってくるから、ちょっと断りづらかったりするんだよね。

 まあ、実際にお客さんを引き込めるかどうかはさておき。


「わかった。別に構わないよ」

「ありがとう! じゃあ、給仕のリーダーはお願いね」

「ああ」

「じゃあ次――」


 と、ここから先もトントン拍子に話が進み、問題なくリーダー決めが終了。

 本音を言うと、クジで決めるというのは、博打的な要素があって、ちょっと危険なんじゃないかな、と思ったりもしたけど……学園祭だし、そう言った意味の楽しみがあってもいいよね。

 そして、今日のLHRが終わるころには、大方全部が決まっていた。


「うん。とりあえず、これで問題ないわね。何かしら問題が起こったら、早めに私に言ってね。じゃあ、今日はおしまい!」


 というわけで、今日の学校は終了した。

 いい感じに進んでいるし、高校生として、初めての学園祭だ。

 いいものになるといいなぁ。

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