1-2章 波乱な(?)学園祭
第10話 女子力装備、依桜ちゃん
「それでは、うちのクラスの学園祭の出し物を決めたいと思います」
今日はLHRがあった。
うちの学園は、学園行事に対して、かなり積極的なため、本番の三週間前から、五、六時間目は全部準備に充てられ、本番の一週間前からは本格的な準備になって、授業の一切が無くなる。
今日は、その第一回目。
現在は、クラス委員をやっている未果が進行をしている。
「えー、出し物自体を決めるのは、今週までですが、とりあえず、なにかやりたいものがあれば、挙手をお願いします」
『はい!』
みんな一斉に挙手をした。
ボクは特にやりたいこともなかったので、特に手を挙げる必要はなし。
「じゃあ……佐藤君」
『お化け屋敷!』
「お化け屋敷……と。それじゃあ、次……佐々木さん」
『喫茶店!』
「喫茶店ね。次は……遠藤君」
『演劇、とか?』
「なるほど、演劇ね。次、山田さん」
『スタンプラリー!』
「スタンプラリー……っと。ほかは……態徒」
「ゲーム大会!」
態徒にしては、普通のものだった。
おかしいな。態徒なら、変なことを言いそうなものだけど……。
「ゲーム大会ね。次は……女委」
「即売会!」
あ、うん。こっちが外れだったかぁ……。
「……一応聞いておくけど、それは何?」
「ナニって、未果ちゃんも大胆だねー! えっと、売るのはほかでもない、BL――」
「却下!」
「そ、そんな!」
取り付く島もない未果の発言に、女委が力なく机に突っ伏した。
うん。当然の結果だと思う。
というか、よく通ると思ったね。
普通、学園祭とかでBLの本を売ったりする? 全国探せば、きっとなくはないんだろうけど……普通は、許容されないでしょ。
「とりあえず、こんなところね。ほかに何かある?」
と、未果が聞いてみるものの、誰も手を挙げない。
どうやら、手を挙げていた人の大半は、出されたアイデアと被っていたみたいだ。
「うーん、まあ、初めての学園祭だし、こんなものよね。とりあえず、これらを候補にしておくけど……その前に、確認。態徒。このゲーム大会は、なにをするの?」
やっぱり、そっちに矛先向くよね。
正直、ボクもただゲーム大会をするだけとは思えない。
必ず、態徒には何かあるはず……。
「え? そんなもん、決まってるだろ? オレ、一度やってみたかったんだよ……野球拳とか脱衣麻雀とか!」
デスヨネー。
「却下!」
「なんだと!? 未果、貴様! 男のロマンを踏みにじるというのか!」
「あのねえ、学園祭でそんな不純な物、できるわけないでしょ!? というか、仮に通ったとしても、女委のような人以外、女子は来ないわよ!」
「なんっ……だとっ……!」
あー、うん。やっぱり、いつもの態徒だったね。
当然、ゲーム大会だけで終わるはずもなかったか。
あと、なんでさっきまで自信たっぷりだったんだろう? 野球拳とか脱衣麻雀って……高校生がやるような内容じゃないでしょ。いや、大学生でもやらないと思うけどさ。
というか、さりげなく女委は行くのが未果の中では確定なんだね……。
「変態はさておき。今日はこれのほかに、色々と決めないといけないことがあるから、明日までに、どれがいいか、各自決めておいて。明日投票するから。細かいことは、とりあえずその時にします」
未果って、こういう風にまとめるの上手いと思うんだよ。
意外と、会社とかでもうまくできそうな気がする。
それにしても、決めるものってなんだろう?
「じゃあ、次ね。次は、ミス・ミスターコンテストに出る人を決めます。こっちは、まあ……すぐに決まると思うけど、一応聞きます。推薦、立候補ありなので、推したい人、出たい人がいれば、手を挙げて下さい」
あー、うん。……それかぁ。
そういえば、喫茶店で未果と話しているときに、出ることになるかもしれない、って言われてたっけ……。
うちのミス・ミスターコンテストはちょっと変わってるというか、ボクも初めてなんだけど、基本的に全クラス強制らしく、一クラス男女一人ずつ選出しなくちゃいけないらしい。
これ、人によってはただの黒歴史になると思うんだけど。
あと、そのクラスに美形の人がいない、なんてことがあったら、本当に地獄だと思う。
『はい!』
「はい、御崎さん」
『依桜ちゃんと、小斯波君がいいと思います!』
『俺もだ!』
『私もそれがいいと思う!』
「あー、はいはい。まあ、でしょうね。とりあえず、本人に聞いてみないといけないんだけど……晶、依桜。どう?」
「まあ、俺は構わないが……」
ちらっと晶が視線を向けてくる。
うーん、ミス・ミスターコンテストかぁ……。
正直なところ、出たいと言えば、嘘になる。
それに、ボクなんかが出ても、優勝できるかわからないし……。
「ボク、自信ないんだけど……」
「何言ってるの。そもそも、依桜が男子だった時、女装して出たとしても多分優勝できたと思うのよ」
「いや、それルール違反じゃない?」
「……突っ込むところ、違くね?」
普通、男子が女子の部門に出るなんて、しないと思うんだけど。
というか、思いつかないと思う。
それ以前に、女装した男子が優勝なんてしようものなら、暴動が起きると思うんだ。確実に、ボクが襲われる未来しか見えない。
「細かいことはいいのよ。それに、今は女の子でしょ? 周りの評価や噂を聞いていれば、結構いい線行くと思うんだけど」
「う、うーん……そう言われても……」
評価とか噂とか言われても、ボクそう言うのに疎いし、よくわからないんだよなぁ……。
何言われてるんだろう、ボク。
「それに、優勝すればいくつか賞品もあるのよ?」
「賞品?」
「ええ。たしか、一つは一ヵ月間、学食のメニューが食べ放題になるパスが貰えるわ」
「ボク、基本的にお弁当なんだけど……」
「……ほかには、図書カード二万円分とか」
「図書カードかぁ……悪くないけど……」
たかだか、学園祭、それも学内限定のコンテストでお金をもらうって言うのは……うん、気が引ける。
いやまあ、実はその学園祭でもらえちゃったりする事例があるんだけど……。あれには、ちゃんと条件があるし。それ言ったら、コンテストも条件付きだけど。
「ほ、ほかにも、片づけが免除になるわよ!?」
「ボク、そう言うのを含めて楽しみたいんだけど……」
「くっ……」
なんだか、未果がものすごく必死なんだけど。
賞品で釣ろうと考えているのかもしれないけど、ボクって、物欲があまりないからなぁ。
それこそ、欲しいものなんて――
「あとは……最新型のPCしか……」
「出るよ!」
「え、いいの!?」
「うん!」
さ、最新型のPC……それは欲しいかも……。
今使っているやつも、決して悪くはないけど、やっぱりスペックがね……。
最近、処理とかも遅くなってきたし、ゲームをやるにしてもかくつき始めてきたから。
「……それにしても、どうしてそんなに出てほしいの?」
そもそも、こういう催しって、基本的に出たがらないはずだけど、どうしてみんな出させたがるのか気になったので、未果に質問した。
「えっと、ここの学園祭はごく一部のタイプの出し物を除いて、基本的に有料でしょ?」
「うん、そうだね。それがどうかしたの?」
そのあたり、本格的な祭りっぽくて好きだったり。
学園祭で有料なんて、と思う人もいると思うけど、この学園の学園祭は全部クオリティが高いのだ。
飲食店一つ取ったって、普通にお店が開けるくらいに美味しかったりするし、お化け屋敷だって、本格的だったりするし、演劇もプロ顔負けでかなりレベルが高いのだ。
それというのも、学園が結構な予算を与えているから。
だから、この学園の学園祭では基本的に有料なのだ。
ちなみに、さっき言った一部と言うのは、休憩スペースみたいなもの。
と言っても、休憩スペースをやるクラスは、過去に一クラスしかなかったとか。
あと、売り上げの七割は学園側に還元されるけど、残った三割はクラスに行く。
ただ、これには条件があって、与えられた予算以上の売り上げを出さなきゃいけない。
というのが、この学園の学園祭の概要なんだけど……。
「実はね、このコンテストで優勝した人を出したクラスは、それぞれのクラスの売り上げの一割を自分のクラスの売り上げにプラスできるのよ。しかも、男女両方で優勝すれば、さらにもう一割プラス!」
「そんな仕組みがあったんだ……」
なるほど。だから、みんなは出てほしいって思っているのか。
たしかに、自分にお小遣いが入るのなら、本気でやるもんね。
しかも、男女両方で優勝すれば、それぞれのクラスから二割ずつももらえるわけで。
この学園のクラス数は、一学年七クラスまでだから……大体二十クラス分ももらえることになるのかな?
そうなると、結構な額が手に入るっていうことになるよね。
「で、どう? 本当に出てくれる?」
「……まあ、さっき出るって言っちゃったし……うん、わかった。晶と一緒に出場するよ」
これも、クラスの為、かな。
それに、自分の言ったことには責任を持たないとね。
そう思っての一言だったんだけど……。
『よっしゃああああああああああああ!』
なぜか、急に男子たちが叫びだした。
何事!?
「え、えっと……晶?」
一体何が起こっているのかわからなくて、晶に説明を求めたけど、
「あー、何と言うか……すまん」
なぜか謝られた。
表情も、ものすごく申し訳なさそうだ。
なんていうか、『すまない。俺には止められそうにない』みたいというか。
「え、なんで謝るの?」
「まあ、その……未果に聞いてくれ」
何だろう、すごく嫌な予感がする……。
ボクは恐る恐る、未果に問うと、
「……未果?」
「ごめん。このことは、提出した後に言うから!」
「あ、ちょっと、未果!? ……行っちゃった」
一体どうしたというんだろう?
未果は、逃げるようにして、エントリーシートを持って行ってしまった。
男子たちの喜びようはすごく気になるし、晶がとても申し訳なさそうな顔をしているし……。
態徒に至っては、
『おい、変態。お前、当日どうする?』
「当然、貯めておいた貯金を新しいカメラにつぎ込む!」
『さっすがだぜ!』
『上手く撮れたら、俺たちにも見せてくれよな!』
「もちろんだぜ! ま、金はとるが……」
『それぐらい、大したことねえぜ! ああ、学園祭が楽しみだぜ……!』
なんて、おかしな会話を晶以外の男子全員で話してるし……。
というか、カメラ?
なんで、ミス・ミスターコンテストでカメラ?
うーん、あれかな。いつもみたいに、可愛い女の子を撮るためなのかな?
「依桜君。当日、楽しみにしてるね!」
「え、あ、うん。ありがとう……」
なんで、女委もこんなに嬉しそうなんだろう?
そんなに、楽しみなことでもあるのかな?
「う~ん……」
周りの反応が気になりはしたけど、きっと大事には至らないだろうと、軽い気持ちで考えたのがいけなかった。
まさか、あんなことになろうとは、この時のボクは思いもしなかった……。
翌日
『それでは各自、調理を始めてください』
今日の三時間目と四時間目は調理実習だ。
家庭科の先生の合図で、それぞれの班が一斉に作り始める。
今日の課題は、ハンバーグとシーザーサラダとコンソメスープの三品。
ちなみに、班員は、ボク・未果・晶・態徒・女委の五人だ。
こういうのは自由班で、基本的に誰とでも組んでいいことになっている。
その際、必ず三人以上、五人以内にしなきゃいけないけど、それはそれ。
ボクたちはいつもの五人で組むことにした。
ボクと晶は、それぞれ男子と女子に誘われていたけど、断った。
あと、どうでもいい情報だけど、性転換に伴って伸びた髪の毛は、ポニーテールにしてまとめています。
髪の毛が入ったら問題だからね。
……長いのも考え物だなぁ。
「えっと、この中で料理したことある人は……?」
「私は、それなりに」
「俺もだ」
「オレはまったくないな」
「わたしもー」
「じゃあ、ボクと晶と未果がある程度経験してて、態徒と女委はないと」
意外と綺麗に分かれた。
あれだね、まとも? 組の未果と晶はそれなりにやってて、異常組の態徒と女委はないと。
「あ、それなりにとは言ったけど、簡単な物しか作れないわよ?」
「右に同じく」
「そっか」
この二人は、軽いものしかできないそうだ。
軽いものということで、一応聞いてみたところ、カレーや目玉焼きなどの、確かに簡単に作れる類の料理だ。
「依桜はどうなの?」
「ボク? ボクはよく料理はするよ? たまに父さんと母さんが遅いときに代わりに作ったり、一人の時に色々と作ってみたり」
と言うと、四人が絶句したようにこっちを見ていた。
「どうしたの?」
「い、いえ……なんか、負けた気がして……」
「依桜は、モテそうだな……」
「まさか、全男子の理想を絵に描いたようなやつが、現実にいるとは……」
「依桜君、やっぱりすごいねー」
「よくわからないけど……とにかく作っちゃお? 料理手順は頭に入ってるから、教えながらやるね♪」
「「「「お願いします」」」」
あれ、なんで急にお願いされたんだろう?
うーん、まいっか!
料理楽しいし、細かいことはなしだよね!
「あ、態徒と女委、その切り方だと危険だよ? えっと、食材を切るときは、ちゃんと手を丸めて、猫の手にしてね?」
「お、おう」
「わかったよー」
「晶、スープの野菜はあまり小さくしすぎないでね? 旨みを出したいのなら、それでもいいけど、それなりに時間がかかるから、細切りにしてね?」
「あ、ああ、わかった」
「未果、ハンバーグに使う玉ねぎはきちんと細かくみじん切りにして、あめ色になるまでしっかり炒めてね」
「う、うん」
「えっと、あとは……」
サラダは大体すぐに作り終えてるし、スープも見た感じもうすぐ出来そう。
ハンバーグは、ソース用の赤ワインが欲しいなぁ。
「先生、赤ワインって、ありますか?」
『はい、ありますよ。もしかして、ソース作りですか?』
「そうです」
『でしたら構いませんよ。間違っても、飲まないでくださいね?』
「あはは、そんなことしませんよ」
よかった、赤ワインがあって。
これでソースが作れるね。なくても作れなくはないけど、あったほうがもっとおいしくできるし、本当にありがたい。
うん? なんか、視線を感じるけど……なんでだろう?
「未果、できた?」
「う、うん。これでどう?」
「うん。大丈夫。じゃあ、これをひき肉と、卵、小麦粉と牛乳、塩コショウをまぜて……」
材料をボウルの中で粘り気が出るまでこね続け、
「うん。できた。あとは、空気抜きと……」
「ねえ、依桜。空気抜きってどうやるの?」
「えっとね、大体手のひらサイズで肉ダネを小判のような形に整えて、これを両手でキャッチボールするの」
「こ、こう?」
「そうそう」
拙いながらも、みんなが空気抜きをして行く。
いつもは一人でやるから、ちょっと時間がかかるけど、今回は調理実習だし、みんながいるから、ペースも早いね。
「よし、じゃあ、あとは焼くだけだね」
できた数は、十個ほど。
と言うのも、この学園の調理実習では、なぜか少し多めに作るからである。
えっと、ほかの人のを食べてみたくて、参考にしたい、と言う人の為らしい。
そんなわけで、コンロを二つ使って、肉ダネを焼いて行く。
片面ずつ焼いて、両面に焼き目が付いたら、蓋をする。
「なあ、依桜。なんで、焼けてんのに、蓋をするんだ?」
「焼けているのは外側だけ。内側はまだ焼けてないんだよ。だから、蓋をして蒸すの」
ちなみに、ファミレス、特にハンバーグなどを売りにしているところなどは、一分ずつ両面を焼いてから、四分~五分ほどオーブンで焼くことをしているよ。まあ、場所によるとは思うけど。
「ほへー、依桜君やっぱり、料理をやっているだけあるねー」
「そうね。ほかの班は、班によって、結構困っているところもあるみたいだしね」
「そう考えると、俺たちはアタリ、ってことになるのか?」
「だな!」
「あ、あはは……ボクはただ作り方を知っているだけで、ハンバーグなんて結構な人が作れると思うんだけど……」
第一、このハンバーグの作り方自体、基本的なレシピだしね。
それなりに家事をしたり、料理をしたりする人だったら大抵の人は知っているであろうレシピだし。
「っと、話している間に、焼けたみたいだね。じゃあこれをお皿に盛っていくから、盛り付けの方お願いね」
「はいはーい」
「依桜は何するの?」
「デミグラスソースを作るんだけど」
「え、あれって作れるの?」
「うん。といっても、本格的な物じゃないけど……」
そう言って、ボクはフライパンに残った肉汁を一つのフライパンに一緒にして、そこに赤ワインを投入。
ある程度煮立って、アルコールを飛ばしたら、ケチャップとソースを入れて混ぜる。
すると、
「あ、いい匂い」
「……やべ、めっちゃ腹減ってきた……」
「ああ、このインパクトはすごいな……」
「依桜君、いろんなことできるんだねぇ」
「これをかければ……はい、完成!」
我ながらいい出来だと思う。
デミグラスソースに関しては、たしかケチャップとソースの対比があったりするけど、大体適当にやっても大して問題はない。
美味しければあまり気にしないからね。
そうして、ほかの班も作り終え、食事と相成った。
「う、うめえ!」
「ほんとだ、すごい美味しい……!」
「たしかに。これ、店に出しても問題と思うんだが……」
「依桜君、いいお嫁さんになるね~」
「ぼ、ボクなんて普通だよ。あと、お嫁さんはやめて……」
結婚とかは全く考えてないからね。
性別が変わったせいで、ちょっとややこしいことになってるし。
「しっかし、ここまで依桜が料理できたとは……救急セット持ってるわ、料理も出来て、誰にでも優しい上に、しかも美少女。依桜みたいなのを、お嫁さんにしたい女子、って言うんだろうな」
「あー、なるほど。たしかに納得だわ」
「依桜みたいな人は、なかなかいないからな」
「一家に一台、依桜君! みたいな感じかなぁ?」
「や、やめてよ、恥ずかしいよ……」
人前で褒められるというのは、あまり慣れないなぁ。
あと、一家に一台って、思いっきりもの扱いされてるんだけど。ボク、電化製品じゃないよ。
「こっちの五個のハンバーグはどうするの?」
「あー、うん。ボクたち以外の班で食べたい人がいるか聞いてみようかな?」
「そうだねー。わたしたちは、もう食べたし」
「オレ的には、もう一個食べたいところだが……幸せのお裾分けでもしとくか!」
「俺も、それで構わないよ」
「私もオッケーよ。第一、食べすぎたら太りそうだもの」
やっぱり、女の子って体重気にするのかな?
ボクは……そういえば、昔から太りにくかったっけ。
脂肪があまりつかなかったなぁ……もしかして、女の子になって、胸が大きくなったのって、その栄養分とかが全部こっちにいったからなのかな?
……なんてね。さすがにそれはないよね。
………………ない、よね?
「じゃあ、聞いてみるね。えっと、ボクたちの班のハンバーグ、食べたい人いるー?」
と、何気なく聞いてみると、
『お、俺食べる!』
『おい、抜け駆けかよ!?』
『私も食べたい!』
『あたしも!』
と、みんな挙手してきた。
しかも、今にも争いを始めそうな状態なんだけど……。
「え、えっと……とりあえず、小さく分けるから、欲しい人は並んでね」
と言うと、一瞬でボクの前に列ができた。
は、早い……そんなにいいものかな、これ。
色々と不思議に思いつつも、ハンバーグを小さく切り分けていく。
切り分けたハンバーグを一人ずつ配っていき、なんとかぴったりに配れた。
『う、うめえ……』
『ああ、美少女が作ってくれたっていう状況も相まってな……』
『俺、生きててよかったっ……!』
『うっわ、ホントに美味しい……』
『依桜ちゃん、女子力高くない……?』
『ね。女子力でも装備してるのかな?』
『これ、学園祭の出し物で出せるんじゃない?』
『ああ、確かに!』
『この美味しさだったら、きっと人はいるって!』
『しかも、男女がめっちゃ可愛いしな!』
『私、喫茶店に投票しよっと!』
『俺も俺も!』
「……なんか、大変なことになっちゃった?」
好評なのはいいんだけど……これはもしかして、やっちゃったかな……?
ものすごく盛り上がってるし、無理とは言いだしにくいし……。
あ、でも、もしかしたら別のものになるかもしれないしよね。
「依桜も大変ね」
「ま、オレ的には大歓迎だぜ! 美少女の料理風景なんて、そうそう拝めたもんじゃないしな!」
「俺も、もし喫茶店になるなら、応援するよ」
「なら、わたしもー。依桜君の手料理、食べたいしー」
……別のものに、なる……よね?
そんな一抹の不安を覚えた調理実習だった。
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