第408話 森の熊さんとケモロリ
それからしばらくし、休憩時間が終わると、先生による説明となりました。
まあ、内容自体は晶が言っていた予想と同じでした。
臨海学校では、海でのサバイバルをしていたけど、林間学校では山でのサバイバル、となるそうです。
まあ、昼食はそこで獲ってね、という意味。
ただ、さすがに海とは違って、毒のある植物もあるし、きのこに至っては、似たような物もあるしね。例えば、タマゴタケとベニテングダケとかね。
その上、食用のものと似ている上に、触るとかぶれたりするような植物もあったりするみたいです。
だけど、そこは学園長先生。危険な植物については、ある程度除去済みだとか。さすがに全部は無理だったみたいだけど、それでも基本的には問題ないレベルだそう。
まあ、それでも採らないとも限らないので、最後は先生方に確認を取るように、って言われました。
妥当だね。
ちなみに、採取しやすいように、ナイフなども渡されています。
まあ、ボクには必要ないので断ったけどね。
どのみち、創るから。
「さて、今回も案の定サバイバルだったわけだけど……この山、一応猪とか出るのよね?」
「らしいねぇ。基本的には遭遇しても、下手に刺激しないで逃げるようにって言ってたけど、反対に武術系の部活の先生は『挑めッ! それが強さにつながるのだ!』とか言ってたね」
「……それは、自殺しろ、と言っているのと同じな気がするんだが」
「良くも悪くも、変人が多いんだね! 叡董学園って!」
「そうだね……」
生徒も先生も含めて、ね。
どちらにも、変人は多い。と言うより、変人であること、というのがうちの学園の合格基準なんじゃないかな、って思う時があるけどね。
「変人かどうかは置いておくとして、どう動く?」
「そうだな……依桜はどう思う?」
「ボク? うーん、しろうとのひとがへたにやまのなかでバラバラにうごくときけんだから、いくつかのグループにわかれたほうがいいんじゃないかな? そのほうが、おたがいをたすけあえるし」
「一理あるわね。それに、その方が堅実かもね。じゃあ、そうしましょうか。効率を考えると、二人ペアの方がよさそうね。ただそうなると、組み合わせは……まあ、依桜は女委と組ませるべきね」
一瞬悩んだ素振りを見せた後、未果がそう告げて来た。
「およ? どうして?」
「普通に考えてみろ。この中だと、女委が圧倒的に弱い。というか、体力がない。他のメンバーは体力があるが、それでももう一人をカバーしながらの行動は少しキツイ所がある。その反面、依桜は五分の一にまで低下しているとはいえ、それでも異常な体力を誇っている。それなら、女委をカバーしつつ動けるだろう」
女委の疑問に、晶がそう答える。
よく考えてるね。
でも、ボクもその案には賛成かなぁ。
晶の言う通り、この中で一番弱いのは女委だもん。
……一部強かったりするんだけど。
「まあ、あとは男女ペアでいいわね。じゃあ……態徒は私と。晶はエナと組んで?」
「未果ちゃん、その組み合わせはどうして?」
「決まってるでしょ、エナ。そこの馬鹿をエナと組ませたら、何をするかわからないじゃない。なら、私が監督するわ」
「……オレ、マジで信用ねぇー」
「まあ、態徒だしな」
ぽんと態徒の方に手を置いて、まるで憐れむかのような目を向ける晶。
じ、地味に酷い……。
「それじゃ、そろそろ行きましょうか。とりあえず、十二時くらいにここに集合ということでOK?」
「「「「「OK!」」」」」
「では、解散!」
というわけで、三つのペアに分かれて行動開始。
「いやー、最近依桜君と二人きり、ということが少なかったから、ちょっと嬉しいなぁ」
「たしかにそうだね。ここのところ、ししょうやエナちゃんといっしょにいることがおおかったもんね」
「言われてみればそうだねぇ。まあ、エナっちに関しては、わたしが紹介したわけだけども」
「そうだね」
女委があの仕事を紹介してくれたから、エナちゃんが今一緒にいるわけだもんね。
本当、人生何が起こるかわからないよ。
まさか、アイドルと友達になっただけじゃなくて、クラスメートになっちゃうんだもん。本当に、わからない。
「それで、何を採るんだい? 依桜君や」
「うーん……すくなくとも、たんぱくしつはひつようだよね、えいようてきに」
「だね」
「でも、こういったばしょでたんぱくしつをとるとなると、さかなをとるか、いのししをかるかになっちゃうんだよ」
「なるほど~」
「でも、いのししをかるのはちょっときがひけて……」
「うんまあ、可愛いもんね、地味に」
「そうなんだよ。だから、ちょっときがひける。しかも、それがおやだったらさすがに」
「あー、たしかにね~」
なんと言うか、生きるために必要、という状況に陥らない限り、ボクは基本的に殺したくない。
動物、特に猪や熊さんなんかはちょっとね……。
魚は……なぜか平気。
そう言えば、たまに不思議に思うけど、どうして陸上生物のほとんどには殺すことに対して忌避感が出るのに、魚などに対してはそれがないんだろう?
人間って、よくわからない。
「でも、さすがに二日連続で魚って言うのもな~」
「そこなんだよね……。いくらサバイバルといっても、ちょっときついよね、ふつかれんぞくでおなじしゅるいのメインって」
「こう、あえてガッツリと食べたいというか」
「……まあ、そうだね。でも、いのししをねらうにしても、ざいあくかんが……」
「依桜君、逆に考えるんだよ。結局普段食べているお肉って、元は生きていた牛や豚、鶏なんだから。そして、それを余すことなく食べるのが、一番の供養だよ。残すのなんて、一番やっちゃいけないことだからね!」
「めい……」
女委がすごくいいことを言ってる。
たしかに、女委の言う通り。
人……と言うより、ほとんどの生き物は、他の生き物を食べて生きているわけだもんね。弱肉強食。自然界はそうやって成り立っている。
だから、人は他の生き物のお肉を食べる。
……つまり、驕りっていうことだよね。これって。
いや、うん……向こうの世界でもそうしていたし、何とも言えないところ。
それなら、いっそのことある程度吹っ切れてしまったほうがいい、かも。
「……そうだね。じゃあ、こうしよう。かりにかるとしても、かるのはこどもがいないこたいだけ」
「うんうん。それがいいとおもうよー。さすがに、子供から親を奪うのは一番駄目だからねぇ」
「うん」
そういうことになった。
はぁ……でも、ちょっと気が重い。
それからしばらく、二人で山の中を散策。
道中食べられる食材をいくつか見つけ、事前に貸し出されていた籠に入れる。
ちなみに、身長的な問題で背負っているのは女委です。
ごめんね。
「いやぁ、大量だね」
「けっこうこのやまはほうふだからね。でも、あんまりとりすぎちゃだめだよ?」
「わかってるさ。生態系の破壊は、駄目だからね。さすがに、環境破壊は気持ち良いZOY! みたいなことを言う人はクズだからね」
「またふるいネタを……」
「ふふふー、今でもネット上では使われるものだからね! それに、使い勝手がいいので」
「それはどうなんだろう……?」
時折、微妙に危ないセリフを言うんだよね、女委って。
なんと言うか……怒られないか心配。
「そう言えば依桜君。例の熊さんっているのかな?」
「ちょっとまってね。さぐってみる」
軽く『気配感知』を使用して、熊さんの位置を特定。
…………あ、いた。
気配を探ってみたら、割とこの近くにいることが判明。しかも、親子でいるね、これ。
見たところ、体調は良好、元気そう。
「えっと、こっちのほうこうにいるね」
「おー、じゃあ早速会いに行こうよ!」
「うん!」
女委の提案で、スキー教室の時に出会った熊さんに会いに行くべく、ちょっと歩く。
山を進んでいくと、見たことのある景色が出て来て、以前熊さんと出会った洞穴の近くに到着。
そこには、あの時の子熊さんたちが元気に遊んでいた。
親熊さんはいないみたいだけど……。
『きゅぅ? ……きゅぅっ!』
『きゅぅきゅぅっ!』
「わ、気づいた」
遊んでいた子熊さんたちが、ボクたちに気づくと、嬉しそうに声を上げながら駆け寄ってきた。
『『きゅぅっ!』』
「わわっ! あはははは! く、くすぐったいよぉ!」
そして、ボクに飛びついてくるなり、ぺろぺろと顔を舐めてくる。
か、可愛い!
「お、おおー、ケモロリと野生動物の触れあい……と、尊いっ!」
その横では、女委が変なことを言っていたけど。
「それにしても、おおきくなったね」
『きゅぅっ!』
『きゅきゅっ』
「あはは、そっかそっか。それなりにじかんがたってるもんね」
再会できたことが嬉しいのか、二匹の子熊さんはがじゃれついてくる。
「あり? 依桜君、何て言ってるのかわかるの?」
「なんとなくだけどね」
「へぇ~。依桜君、動物とも会話できるんだ」
「どういうわけか、わかるようになってきたんだよ。うーん、このすがたのせいかな?」
「何か関係があるの? それ」
ボクが言ったことに対し、不思議そうな表所でそう尋ねてくる女委。
「うん。えっとね、むこうのせかいには、じゅうじんっていうしゅぞくがいて、そのひとたちはなんというか……どうぶつとかいわができるの」
「それはすごいねぇ。じゃあ、今みたいな姿の時もそれができると?」
「せいかくにいえば、へんかしてから、のほうがただしいかな? いまみたいなすがたになっていこう、つうじょうじでもあるていどわかるようになってるから、ふだんからつかえる、とおもったほうがいいかも?」
「ほほ~、面白いことになってるね~」
本当にね。
ちなみに、獣人と言うけど、正確に言えば亜人種のなかの獣人族、という括りになっています。あくまでも、亜人種の中の一つの種族、と言う感じだね。
もっと細かくすると、色々な種族に分かれていくけど。
あ、エルフなども亜人種に入ります。
他だと……ドワーフとか、ドライアド、人魚とかかな? 他にも色々といるけど、有名どころはこの辺り。
ちなみに、吸血鬼は魔族に含まれます。
この亜人なんだけど、それぞれの種族で特殊能力のような物を持っているらしくて、獣人族の場合は、動物(一部の魔物も該当)と会話ができるのと、自身をその種族の特徴を色濃く発現させる、変身のような能力があります。
ボクの場合、疑似的な獣人化なわけなんだけど、なぜか動物と会話ができる、という能力が若干備わっちゃっているみたいです。
しかも、これが通常時にも適応されているのだから不思議。
本来なら、備わるはずのない能力だと思うんだよね、これ。
だって、この能力は最初から獣人じゃないと獲得しえないものだもん。
一応、人間と獣人が結婚して、その間から生まれた子供にも備わったり、しなかったりするらしいんだけど、少なくとも途中で発現することはないんだとか。
……なんでボク、使えるの?
自分のことなのに、意外と不思議なことが多いよね、ボクって。
…………ボクって、なんなんだろう?
「あり? 依桜君どうしたの? 変な顔して」
「あ、え、えっと、ちょっとかんがえごと」
いけないいけない。こう言うのは、こう言う場所じゃないところで考えよう。
ボクはボク。それ以外でもそれ以下でもないね。
「そっか。……そう言えば、親の熊さんはどこなんだろうね?」
「たぶん、もうすぐもどってくると……って、あ、きたみたいだよ」
そう言うと、ボクの視線の少し先の方から大きな熊さんが何かを咥えて戻って来た。
……あれ、猪?
もしかして、狩りに行ってたのかな?
なんていうことを考えていると、熊さんがボクたちに気づき、子熊さんのように嬉しそうに駆け寄ってきた。
『グォォ!』
子熊さんとは違って、親熊さんは頬ずりをしてきた。
あ、もふもふであったかい……。
「こんにちは。やくそくどおり、あいにきたよ!」
『グォォッ!』
ボクがそう言うと、親熊さんはそれはもう嬉しそうに鳴いた。
そ、そんなに嬉しいのかな?
「あ、そうだ。くまさん。このあたりに、こどものいないやせいのいのししっているかな?」
ここは一つ、この辺りに詳しい熊さんに訊いてみよう。
もしかすると、知ってるかも。
『グォッ。グゥゥ。グォ』
「依桜君、通訳よろ」
「あ、うん。えっと、どうやらいまとってきたいのししがそうみたいだね。それで、それをボクたちにくれるっていってる」
「マジですか。よかったね、依桜君」
「うん。みたところ、そこまでそんしょうもおおきくないから、ばいきんとかのきけんせいもすくなそう。まあ、さいあくはししょうにどうにかしてもらうから」
「だね!」
師匠に頼めば、腐った食べ物ですら食べられるようになるからね。
あれは、本当にずるいと思います。
「でも、いいの? くまさん。これ、こどもたちのなんじゃ……」
『グォッ!』
「あ、そうなんだ。ありがとう、くまさん」
『グォグォ。グォ!』
「依桜君」
「うん。えっと……このまま、せにのせてもとのばしょにつれてってくれるって」
「え、わかるの? わたしたちがどこから来たのか」
「そうみたいだね。たぶん、このいのししをかるかていで、ほかのせいとにであったのかも」
「あ、たしかにあり得るかもね。じゃあ、お願いする?」
「そうだね。こじんてきに、くまさんのせなかにのってみたかったし……」
「金太郎的な?」
「あこがれのようなものがちょっとね。こう、もふもふしてそうだから」
「依桜君の耳と尻尾もすっごいもふもふだよ?」
「……そ、それとこれとはべつだよ」
それに、自分のだとちょっと面白くないもん。
自前と他人とは全然別物です。
「それもそだね! じゃあ、熊さんに乗って一旦戻ろうぜ!」
「うん。そのどうちゅうで、たべられそうなものがあったら、かいしゅうしていこうか」
いい収穫だよ、本当に。
まさか、猪がこんなに簡単に手に入るとは思わなかった。
とりあえず、血抜きとかしないとだね。
「じゃあ、くまさん、おねがいします」
『グォ』
四つん這いになっている熊さんの背に乗って、一言お願いすると、短く鳴いて、歩き始めた。
あ、乗り心地がすごくいい……。
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