第215話 変化再び 中

「あー、男女はなんか色々あって遅れてくるそうだ。なんでも、困ったことになった、そうだ。まあ、病気とか怪我じゃないらしいんで、気にするなよー。以上だ。お前たちも、病気やケガなんかには気を付けろよ。以上だ」


 いつも通りの適当な言い方で進んだHRが終わると、クラス内が騒がしくなる。


「依桜が遅刻とは、珍しいな」

「だれか、依桜から連絡あった?」

「ないな」

「何も連絡がないって言うのも、珍しいよねぇ。前の風邪は例外だけど」


 いつものように登校してこなかった依桜を不思議に思い、私たちは集まって話していた。

 女委の言う通り、依桜が連絡しないのはちょっと珍しい。

 昔は休むことになったり遅刻したりすると、私たちの誰かに連絡を入れていたからだ。


「色々あって遅れる、って理由がなんかあれだよな」

「たしかに。病気でも怪我でもない、って言ってたし」

「まさかとは思うけど、また副作用が出た、とか?」


 なんて、私が言うと、


「ありそう、だな」

「そうだね。依桜君って、不思議な体になってるから、あっても不思議じゃないもんね」

「実際、冬〇ミの時にも新しい形態を発現させてるし」

「形態って……依桜はロボットじゃないぞ?」

「でも、似たような物じゃない。いろんな姿に変化するんだから」

「確かにそうだが……」


 通常時に、ロリ。ケモロリ。ケモっ娘美少女。

 少なくとも、四つも形態があるわ。

 ロボットとはいかなくても、どこかの某海賊マンガにでてくる、トナカイみたいなものでしょ。


「それで? もし、そうだったとして、依桜ってどうなると思うよ?」

「うーん、やっぱり、ロリ化じゃない? 幼稚園児くらいの」

「「「あー、ありそう」」」


 女委の予想に、私たち三人納得してしまった。

 今までの依桜の傾向を考えると、小さくなることの方が多い。

 ケモっ娘美少女は例外としても、そうなる可能性がないわけじゃない。

 というか、大いにあり得る。


「いや、もしかすると、もっと幼いかもしれないぞ? それこそ、二歳児とか」

「依桜の場合、否定しきれないのが何とも言えねぇ」

「そうね。もはや何でもありだものね」

「まあ、まだ姿が変わると決まったわけじゃないけどね!」

「だな。あー、早く来ねぇかなぁ」


 ほんと、依桜はなんで遅刻したのかしらね。

 どうせまた、変なことに巻き込まれてるのだろうけど。



 十時になり、ボクは母さんと一緒に洋服類と下着類を買いに出かけた。


「うぅ、なんか、いつもより視線がすごいような……」

「そうねぇ。普段の依桜は、超が付くほど可愛いけど、今は超が付くほど美人だものねぇ」

「び、美人じゃないと思うけど……」

「ほんっと、謙虚よねぇ。というより、自覚がないのね」

「普通だと思うんだけど……」

「その容姿で普通なんて言ったら、世の中の女の子たちが怒るわよ」

「そ、そこまで……?」

「そこまで」


 ……やっぱり、信じられない。


 ボクなんかよりも、可愛い人とか綺麗な人はいっぱいいるもん。

 師匠とか、未果とか女委、美羽さんとか。

 それに、性格はあれだけど、学園長先生も普通に美人だし……。


 ボクなんて、銀髪碧眼で、胸が少し大きいだけの女の子だよ? 違うところなんて、髪色と瞳の色くらいで……。


「さて、早く買いに行きましょ。学園、遅くなっちゃうわ」

「そ、そうだね」


 会話もそこそこに、ボクたちは、お店に向かった。



「ん~っ……き、きつい……。母さん、これは無理……」


 ランジェリーショップに行き、まずは下着を購入。一番大事。

 そして、最初に母さんが持ってきたブラを着けるんだけど、きつくて着けられない。


「そう……じゃあ、こっちは?」


 次に渡されたのは、さっき着けたものよりも、少し大きいサイズのもの。

 それを受け取り、試しに試着してみる。


「あ、これなら……」


 試着してみたら、サイズはちょうどよく、ぴったりだった。

 窮屈に感じないし、楽。


「依桜―、どうー?」

「うん、大丈夫だよ」

「そう。じゃあ。開けるわねー」

「うん……って、え!? ちょ、待っ――」


 シャーッと音を立てて、試着室のカーテンが開いた。

 そして、下着姿のボクが店内で晒されてしまった。


「か、かかかかかかか母さん! いきなり開けないでよぉ!」


 というか、この状況、前にも見たよ!

 女の子になった日に見たよ!


「あら、スタイルいいわねぇ。普段よりも、大きく成長しているのね、全体的に」

「そう言うのいいから、早く閉めてぇ!」

「別に、店内には、女性しかいないし、いいじゃない」

「よくないよ! 恥ずかしいの!」


 なかなか閉めようとしないので、ボクは大慌てでカーテンを閉めた。


『今の人、すっごい綺麗だったね』

『うん。しかも、胸とかすごかった……』

『なんかこう、お姉様、って呼びたくなるくらい、綺麗だったなぁ』

『わかる』



 あの後、何着か下着を購入した。

 お会計の際、以前と同じ店員の人に、


『綺麗ですね』


 と言われました。

 み、見てたの……?



 下着を購入した後は、洋服。


 洋服は、色々かったけど、ワンピースを着ていくことにしました。楽なので。

 それに、ボク自身は洋服とかに無頓着な方だしね。

 あんまり気にしないので、なんでもいいかな、って感じだけど、できるなら楽な服装がいい、みたいな考え方。


 買ったのは、ワンピースを二着、ブラウス一着、Tシャツ二着、スカート三着(フレア、ミニ、ミディ)、ジーンズ二着です。


 結構買ったね。


 いや、うん。まあ、多くあっても困らないしね。


 一度この姿になったと言うことは、今後もこの姿になる可能性があるだし。


 ……なんか、女の子になってからと言うもの、衣服類が増えたよ。

 特に、異世界にもう一度行ってから。

 副作用の効果が多すぎて、ボク、姿が変わりすぎなんだけど。


 通常時、小学四年生、耳と尻尾が生えた小学一年生、通常時に耳と尻尾が生えた状態に、全体的に成長したボク。


 少なくとも、五種類あるんだけど。


 いつからボクは、こんなにポンポン変身する体質になったんだろうね。別に、魔法少女ってわけじゃないんだけどなぁ……。


 ……いや、あながち魔法少女っていうのも、間違いじゃない、のかな? 魔法、使えるし……。


「さて、買うものはこれで全部、と。それじゃ、帰って荷物を持って、学園に行って来なさい、依桜」

「うん。あれ、母さんは?」

「お母さん、これから少し行くところがあるの。だから、一人で帰ってね」

「わかった。それじゃあ、行って来ます」

「いってらっしゃい」


 そう言って、ボクは母さんと別れた。



 家に帰り、自分の部屋へ。


 部屋に行ったら、買ってきた服を置いて、荷物を持って再び家を出て、学園へと向かう。


 歩いていると、いつもより、15センチくらい視点が高いので、ちょっと違和感。

 まあでも、違和感なんて変身することがあったから、慣れていると言えば慣れてるんだけど。


 それにしても……やっぱり、視線が多いような……。

 ボク、変なところでもある?

 やっぱり、髪と目かな?


 でも、普段ボクと言う存在が歩いているわけだから、慣れてると思うんだけど……。

 それ以外だと、何があるんだろう?


 普通だと思うし……。


『な、なんかあの人、エロくね?』

『ああ……なんか、こう、色気が半端ないっつーか……エロい』

『綺麗な人……あんな人、今までいたっけ……?』

『ううん。いなかったはず。いたのは、女神様くらいだけど……でも、本当に綺麗だね』


 う、うーん、何か言われてるような気がするんだけど……やっぱり、気のせい?

 視線を感じるのはいつものことだから、多少は慣れてるけど、なんか今日はもっと多いような気がするんだよね。


 も、もしかして、値札が付いてる?

 ……うん、ないね。なんとなく値札があったところを触ってみたけど、なかった。


「うーん……まあいいっか。気にするようなことでもないよね」


 その結論に落ち着き、ボクは学園へ向かう足を少し早めた。



 そして、学園に到着。


 今の時間は、大体三時間目の途中くらい。

 この時間なら学園の生徒とばったりでくわすことはないから、ちょっと安心。

 ……まあ、それを言ったら、この後すぐに会うことになるんだけど。


 少し重い気分になりながらも、学園長室へ向かう。



 コンコン、と扉をノック。


『どうぞー』

「失礼します」


 いつも通りのやり取りの後、学園長室の中に入る。


「あら、依桜君、おはよう。……なるほどー、今度はそんな感じか」

「そんな感じです」

「ふーん? ふむふむ。通常時の依桜君が大きく成長した場合こうなる、って感じの姿ね。まあ、それよりも大人びてるけど」

「ほんとですか? ちょっと嬉しいです」

「あら、珍しい。まあ、依桜君は身長が伸びてほしい、ってずっと思ってたみたいだし、大人っぽくなりたい、とも思ってたみたいだし、それもそうね」

「はい。なので、今回のこの変化は内心ちょっと喜んでたり……」

「普段は悪い方にしか行かないものが、たまたまいい方向に転んだ、ってかんじかしらね」

「はい」


 まさか、昨日の夜思ったことが、現実になるとは思わなかったけどね。

 これが物語なら、バッシング間違いなしなくらいの、ご都合展開。

 でも、ご都合展開だから何だって話です。そんなことよりも、身長が高くなったのが嬉しいので全然気になりませんとも。


「それで、その姿になったと言うことは、今後もそうなる可能性があるってことね?」

「そうですね。少なくとも、年末と今日だけで、新しい姿が二つ出てますし」

「年末?」

「あ、そう言えば言ってませんでしたね。えっと実は、去年の年末に、普段の姿に耳と尻尾が生えた状態になるようなりまして……」

「へぇ、つまりケモっ娘美少女になったと言うわけね。じゃあ、それ用の制服もあった方がいいわね。さすがに、通常時の制服に穴をあけるわけにはいかないものね」

「はい。さすがに、ちょっと……」


 直せないことはないけど、毎回直す手間を考えたら、できればしたくない。


「それじゃあ、今のその姿の採寸をしてもいいかしら? その状態の制服も用意しなきゃだし。一応、電話でスリーサイズは聞いたけど、念のためね」

「わかりました。えっと……し、下着姿、でいいですか?」

「大丈夫よ。それじゃあ、脱いで脱いで」


 学園長先生に促されるまま、ボクはワンピースを脱ぎ、下着姿になる。


「あら、本当に大きくなったのね。主に、胸」

「や、やめてくださいよぉ」

「まあまあ。それじゃ、メジャーを回すわよー」

「んっ……」


 やっぱり、胸を測るのは慣れない。

 つい、変な声が出ちゃうんだよね……。なんなんだろう。

 少し変な気分になりつつも、採寸終了。


「うん、電話で聞いていたサイズと変わらない、と。はい、じゃあ、後はこっちで注文はしておくから、依桜君はクラスの方に行ってもいいわよ」

「わかりました。それじゃあ、失礼します」

「頑張ってねー」


 最後に挨拶をしてから、ボクは学園長先生を後にした。

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