第185話 洋服屋さんの準備

「それで、今日はどうするんだ?」

「あー、そうね……そう言えばユキ、この二人に何をやるか説明したの? お店の方」

「そう言えばしてない……」


 ミサに言われて思いだした。

 昨日、二人に頼む、とは言ったけど、中身の方をミサに伝えていなかったから、知らないんだよね、二人。


「ああ、手伝いを頼みたい、って言われたなぁ。んで? オレとショウはなにをすりゃいいんだ?」

「えっと、ちょっと人が足りなくなっちゃって……。それで、料理屋さんと洋服屋さんの二つをりょうりつさせるのがむずかしくなってきたから、手伝ってほしいの」

「なるほど。つまり、俺たちはユキの店で、接客などをすればいいのか?」

「うん、だいたいそうだよ。とりあえず、レンとヤオイは、洋服屋さんをおねがいしたいな」

「あり? わたしは、ホールの方じゃなくていいの?」

「うん。洋服屋さんは、できあいのいふくを売ったりするんだけど、そっちのはんばいをおねがいしたいの」


 本当は、ショウとレンをそっちに、って思ってたんだけど、男女比がちょうどいいし、それぞれ男女一人ずつの方がいいかなと思ったから。


「なるほどねー。でも、ユキ君。たしか、一階と二階で分かれてる、みたいなこと言ってなかったっけ? そうすると、わたしたちは、どこでやればいいの?」

「えっとね、一かいと二かいに分かれてると言っても、フロアが分かれているだけで、お会計とかは、もんだいないの」

「そうなのね。と言うことはあれかしら? あくまでも、洋服を置いたり、展示したりするのは二階でしかできなくて、普通に販売くらいだったら問題ない、ってこと?」

「そうだよ。それで、だいじょうぶかな……? むりならむりでいいんだけど……」

「全然問題なしだよ! まあ、ユキ君の頼みを断るわけないよ」

「おうとも! 散々ユキには助けられてるからなぁ。頼ってくれてるってのは、普通に嬉しいぜ」

「ありがとう、二人とも……」


 ……まあ、そこまで助けた、って言う自覚がほとんどないんだけど。

 レンの場合は、体育祭の件しか思い出せない。

 ヤオイは、年末のあれだし……。

 ミサは学園祭。ショウは……体育祭で、嫌な服装にしないようにしたり、とか?


 うーん、どれも友達としては普通。


「それで、ユキ、俺とミサは、ホールで接客をすればいいのか?」

「うん。ショウはたしか、ファミリーレストランでアルバイトしてるって言ってたし、ちょうどいいかなーって」

「ああ、問題ない」

「私も、昨日ので大まかな動きは掴んだから、大丈夫よ」

「よかった……それじゃあ、今日もお店やるから、おねがいね。あ、もちろんアルバイト代ははらうから、あんしんしてね」

「ああ、わかった」

「バイト代も出るのか!」

「もちろん。だって、はたらいてくれるわけだしね。当然のたいかだと思うよ」


 むしろ、払わないって、ブラックじゃない?

 働いてくれているのに、金も何も出さないのは、さすがにまずいもん。というか、払わないわけがないしね。


「でも、服はまだないのよね?」

「うん、これから作ろうと思ってて。だから、まずは買い出しにいかにといけないんだよね」


 料理に使う材料自体は、お店を閉めた後に買いに行くから問題はない。

 でも、まだ洋服を作るのに使う布はまだ買ってない。

 今はまだ、一時手前だから、買いそろえて、作れる数は……8~10くらいが限界、かな。服だけだったら。


「なるほどね。そうなると、一時的に別行動になるのかしらね?」

「そうなっちゃうかな。ごめんね、いつも別行動になっちゃって……」

「気にするな。ユキの場合は、あまり自由気ままに過ごすことがなかったからな。こう言う時くらいは、気にせず自由に楽しんでくれ」

「ありがとう、ショウ」

「ほんじゃ、オレたちはもう一度【初級の洞窟】に出も行くか! ユキなしでのリベンジと行こうぜ」

「お、いいねー。行こう行こう!」

「そう言うわけだから、私たちはダンジョンで時間を潰してくるわね」

「うん。頑張ってね」

「それじゃ、行ってくる」


 そう言って、四人は【初級の洞窟】に向かっていった。


「さて、ボクは買い物」


 それを見送ってから、ボクも街に出た。



「えーっと、あ、これください」

『はいよ! お嬢ちゃん可愛いから、五個おまけしといたよ!』

「あ、ありがとうございます」


 必要なものを買うために、ボクは街に出ていた。

 行くのは、【慈愛の布】と【天使の布】を購入した場所。

 これ一つに対し、一般的なレアリティ1~3の物を使用すれば、おそらくレアリティは下がるはず、と踏んで、いくつか購入。


 すると、称号の効果が早速現れたのか、50万テリル分も得をしてしまった。一つ10万なのに、いいの? 経営とか、赤字にならない? 大丈夫?


 これがゲームの世界だからいいけど、現実だったら大赤字間違いなし。

 ……ま、まあ、一応受け取るんだけど。

 実際は断りたいんだけど、ここに来るまでの間で、別のお店に行って、布を買ってたんだけど、


『可愛いから、これをおまけで上げよう』


 って、普通に言われて、ボクは、


「い、いえ、いいですよ。悪いですし……」

『可愛いから、これをおまけであげよう』


 と、『ここは○○の街です』みたいな、RPG定番の人みたいになっていた。


 つまり、受け取らないと、会話を終了できない、というわけです。


 ……まあ、ゲームの中だから、NPCが赤字になる、なんてことはそうそうないと思うけどね……クエスト関連じゃなければ。


 なんてことがありまして、受けとらざるを得ないわけです。

 でも、結局ボクも助かるわけだし、別にいいんだけど。


 ……罪悪感はあるけどね、さすがに。


『な、なんだあの娘、可愛すぎじゃね……?』

『……可愛い』

『いろいろ買ってんなー……金持ちなのかね?』

『買い物をする幼女……いいな』


 うん? なんだか、視線を感じる……?


 通常時もそうなんだけど、どうにも視線を感じる。

 やっぱり、銀髪って言うのが目立つのかな? このゲーム、初期の髪色に銀なんてないみたいだし。


 染めるのも一応考えようかなぁ……この世界だったら、髪を切ってもすぐに戻せるし、髪色も問題ないみたいだし。


 もっとも、髪色に関しては、一度染めたら、銀髪に戻せるかはわからないけど。


 あ、でも、髪を短くしたり、髪型をいじったりはしてみたいかも。

 現実だと、母さんとか未果辺りが、なぜか止めてくるし。


『依桜の髪の毛は綺麗だからダメ!』


 っていう感じに、猛反対してくるんだよね。


 ボクとしても、ちょっとは綺麗、かな? くらいにしか思っていないから、別にいいと思うんだけど……。


 この際だし、ゲームの中だけでも、髪型変えてみようかな?

 ちょっとだけ興味あるし。

 現実できないことをできるのがゲームなわけだからね。


 ……と言っても、ボクの場合、現実でできないこと、というのは髪型を変えたりするくらいなわけだけど。


 実際、ほとんどできるしね、現実で。


 その内、美容院みたいなところがあったら行ってみよう。

 そしたら、うーん……ショートボブとかミディアムくらいにしてみたいかなぁ。


 ショートカットもいいけど、多分、男だった時と同じような髪型になるんじゃないかな? まあ、今の姿の方が、髪の毛がサラサラになっちゃってるけど。


 いつか、髪型を変えよう! とか思いながら、ボクの買い物は進み、無事終了となった。



 そして、お店に戻ってきて、ちょっと考える。


 今の時間は二時。これから作ると考えて、衣服だけなら十着は作れる。だけど、それはぶっ通しで作り続ける、という条件付き。いくらゲームで、スキルによるシステム的サポートがかかるのだとしても、休憩なしにやるのはちょっと辛い。


 それに、アクセサリー系も作った方がいいのか……。

 でも、そうなると、同時に作ることになるしなぁ。


 うーん……あ、そうだ。服とアクセサリーを交互に売ってもいいかも。


 例えば、今日なら衣服系だけで、明日はアクセサリー系。その次が、また衣服系、みたいな感じでやる。


 ……うん。なかなかにいいかも。


 それなら、お楽しみ、みたいな感じに来てくれる人たちもいるかもしれないしね。うん。すごくいい。


 そう言えば、最近【裁縫】について、ちょっとだけ調べました。


 空いた時間に、軽く、【裁縫】を鑑定してみたところ、どうやら一度作ったことがあるものに関しては、レアリティ、効果は違っても、外見は同じにすることができるみたいだった。

 ちなみに、完成品を想像するだけで、システムが自動的に作ってくれる、みたいな感じにもなってます。


 すごく便利。


 世界中にいる、服飾を仕事としている人からしたら、喉から手が出るほど欲しいものなんじゃないだろうか。だって、想像通りの物が完成するわけだし。


 と言っても、完成形を想像しないといけなくて、ふわっとしたものだと作れないみたい。


 例えば、


『もこもこしてる。スカートが長い』


 みたいな感じの想像をしたところで、衣服はできない、と言うことみたい。


 だから、完成形をある程度想像しておくことで、作成ができるようです。


 ほんの少しふわっとしている場合は、システムの方で自動的に代替案のような物を設定して、作ってくれるみたいだけどね。


 とはいえ、想像なんてしなくても、衣服やアクセサリーを作ることはできる。

 お店用の装備と、ミナさん用に作った衣服がいい例。


 つまり、別に想像はしなくても、外見は作ったものの名前や効果に合わせて、自動的に作ってくれるんだと思う。


 ……まあ、これで想像しないとできない、なんてなったら、ボクは服飾の勉強をしないといけなくなってたけどね。


 さすがに、そこまでしてやろうとは思わないから、よかったと思うよ。


 さて、思考を戻して、衣服作成の方へ。


 さっき思ったように、一日ずつ、交互で作っていこうかなと思う。


 正直、そっちの方がいいと思うし。


 衣服はあんまり大量生産できないから、一日にごく数人しか買えないけど、アクセサリーだったら、それなりに量産できる。


 一個作るのにかかるのは10分だからね。


 エプロンのようなタイプのアクセサリーに関しては、30分だけど、もしかすると、レアリティによって変わってくるかもしれないし。


 でも結局、アクセサリーは多少量産ができることがわかってるしね。

 アクセサリーなら、衣服系よりも、多少は手に入る人が多くなる。


 一人一個、という制限を設ければ、一日に十人以上に回すのは簡単なはず。

 ……作るのには、そこそこの集中力がいるけどね。


「さ、早く作らないと、間に合わなくなっちゃう」


 ここで考えるの一旦止め、ボクは衣装づくりに没頭しだした。

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