第184話 ゲームでもロリ

 四日目。


 いつも通りに、目が覚めて、いつも通りに起き上がろうとして……


「いたっ!?」


 失敗した。

 起き上がろうとしたら、何かを踏んで、滑って転んでしまった。

 ……このパターン、すっごく見たことがあるというか……。

 正直、体が妙に寒い時点で、大方理解はできてるんだけど……一応、見よう。

 ボクはベッドから降りて、いつもの姿見の場所へ。


「……うん。なれた」


 ボクの姿は、またしても、小学生の姿になっていた。

 ちなみに、耳とか尻尾は生えてません。

 普通の小さな女の子だったことが、せめてもの救いだよ。


「……人って、こんなに突拍子のない状況に陥っても、慣れてたらここまで落ち着くんだね」


 さすがに、姿が変わるのも慣れましたよ。

 だって、ね? 初じゃないんですよ?

 二〇二一年に入ってからは初だけど、この姿になるのは、もう三回目だからね……。

 さすがに三回目ともなれば、誰だって慣れるよ。

 ……まあ、まさか、お正月中になるとは思わなかったけど。


「この姿でゲームをやると、どうなるんだろう……?」


 そう言えば、ボクの持ってる称号に、【変幻自在】って言うのがあったよね……?

 たしか、姿によってステータスに変動がある、みたいな感じの効果だったはず。

 そうなると、この姿に対して、何らかの低下がみられる、かも?


 ……うーん、とりあえず朝ご飯食べてこよう。

 新年始まって間もない頃に、ボクがリビングへ行くとどうなるか。

 答えは、


「いゃったああああああああああああ! ロリ依桜! ロリ依桜よ! 新年早々この姿が見れるなんてぇ……初ロリ! 初ロリね!」


 母さんが全力で抱きしめてきます。


「むぐっ! か、母さん、く、くるしぃよぉ……」

「あら、ごめんなさい。……にしても、本当に素晴らしい娘を持って、お母さん、幸せだわ~」


 なんて、恍惚の表情で母さんがそんなことを言っていた。

 ……それでいつも抱きしめられるボクの身にもなってほしい。

 小さくなっているせいで、抱きしめられた際、抜け出すのがちょっと難しいんだから。


「はぁ、堪能した。……さて、朝ご飯できてるから、食べちゃって。今日もゲームするんでしょ?」

「うん。冬休み中は大体ずっといるかな?」

「普通の親なら止めるんでしょうけど、依桜は人生ナイトメアモードみたいなものだったからね。全力で楽しみなさいよー」

「だいじょうぶだよ、ちゃんと楽しんでるから」


 ちょっと気になることもあったり、舞台が異世界だったりするけど、かなり楽しめてる。


「それならいいわ」


 最近、奇行や奇妙な言動をすることが多くなったけど、なんだかんだで優しい、母さんだった。

 ……普段のあれがなければね……。



 ある程度の家事をこなした後、ボクはゲームにログイン。

 果たして、どんな姿で入るのか……。

 ドキドキした気持ちで目を開けると、


「……あー、うん。小さいね」


 現実と同じ姿になっていた。


 装備自体は、この体に合わせたのか、小さくなっている。

 ボクが小さくなっている姿が、こっちの世界で反映されているのはやっぱり、【変幻自在】のせいなのかな?


 ……もう一度見てみよう。


【変幻自在】……様々な姿に変化をする者に与えられる称号。姿によって、ステータスが変動する。場合によっては下がることも。現実の姿が反映されるようになる


 ……なんか、文章増えてない?

 最後の一文、前に見たときあったっけ?

 ……思いだす限りではなかったはず……。

 もしかしてこれ、その姿になった時だけに現れる文章、とか?

 ……気にしても仕方ないし、とりあえずお店に行こう。



 道中、かなり視線を感じながらも、お店に到着。


 やっぱり、小さい女の子がいると、目立つのかな……。

 どうにかした方がいいんだろうけど、無理だろうし……。


 あ、そう言えばステータスに変動が出る、って書かれてたけど、どういう風に変動が出てるんだろう?


 ちょっと確認。


【ユキ Lv12 HP150/150 MP250/250 

 《職業:暗殺者》

 《STR:100(+75)》《VIT:40(+70)》

 《DEX:130(+30)》《AGI:220(+300)》

 《INT:140》《LUC:200(+100)》

 《装備》【頭:なし】【体:隠者ノ黒コート】【右手:魔殺しノ短剣】【左手:天使ノ短剣】【腕:創造者ノグローブ】【足:隠者ノ黒コート】【靴:悪路ブーツ】【アクセサリー:なし】【アクセサリー:なし】【アクセサリー:なし】

 《称号》【最強の弟子】【神に愛された少女】【純粋無垢なる少女】【変幻自在】【可憐なる天使】

 《スキル》【気配感知Lv10】【気配遮断Lv10】【消音Lv6】【擬態Lv1】【身体強化Lv10】【立体機動Lv10】【瞬刹Lv10】【投擲Lv5】【一撃必殺Lv7】【料理Lv10】【裁縫Lv10】【鑑定(低)Lv2】【無詠唱Lv10】【毒耐性Lv8】【睡眠耐性Lv5】

 《魔法》【風魔法(初級)Lv3】【武器生成(小)LV10】【回復魔法(初級)Lv10】【聖属性魔法(初級)Lv1】【付与魔法Lv2】

 《保有FP:260》《保有SP:2000》】


 ……うん? たしかに、ステータスに変動はあるけど……AGIだけ、なんか上がってない? というか、下がったのって、HP、MP、STR、VITの四つだよね? これ、そこまで変わった? ほとんど変わってない気がするんだけど……。


 いや、それ以前に……なんか、称号増えてない?


 【可憐なる天使】って何?


 そんな称号、昨日までなかったよね? なんで変なものが知らない間に追加されちゃってるの?

 というかこれ、どういう効果?


【可憐なる天使】……天使のごとき愛らしさを持った幼い少女(幼女ともいう)に贈られる称号。戦う相手に対して、【過保護】という状態異常を付与させることがある。お店で物を買うと、おまけがもらえる。少女の時に得られる、限定称号


 ……【過保護】ってなに? それ、状態異常なの?

 名前からして、結構あれな感じだけど……何をどうしたら、こんなおかしな称号が手に入るの?

 でもこれ、限定称号って書いてあるから、この姿の時しか手に入らない、って言うことなのかな?

 だとすれば、一日限定でしか使えない、隠し称号みたいな位置づけなのかも。


「やっほー、ユキ君!」

「来たわよ、ユキ」


 お店の扉が開き、カランカランという音共に、ミサとヤオイの声が聞こえてきた。

 ボクは二階の一室から出ると、二人の所に行く。


「二人とも、こんにちは」

「「……ロリか」」

「どういうこと!?」


 二人が今のボクを見て、同じことを呟いていた。


「いやどういうことも何も……ユキ、また縮んだの?」

「あ、朝おきたら、またこうなってました」

「いやぁ、現実で小さくなると、こっちでも小さくなるんだねぇ……学園長先生、わざわざ作ったのかな?」

「……あの人のことだし、ありえない話じゃないわね」

「……たしかに」


 ヤオイの言う通り、学園長先生のことだから、本当にやりかねない。

 というか、絶対にやると思う。

 ……じゃあ、【変幻自在】とか、【可憐なる天使】とかみたいな称号も、あの人が作った可能性があるよね……だって、明らかに狙ったような効果と、名前だもん。


「それで? その状態で何か不便があるの?」

「いちおう、四こうもくくらいステータスが下がってるけど、AGIはむしろ上がってるよ」

「へぇ、どのくらいなの?」

「えっと、AGIは、このすがただと、550」

「……化け物ね」

「いやぁ、最速だねぇ、この世界だと」

「た、多分レベル上げをして、ボク以上になっている人だっていると思うよ……?」


 たしか、レギオ、って言う人が一番高いって言ってたし、最強とも言われてたもん。

 ボクなんかより、絶対強いと思う。


「そもそも、スタートラインが違うから、差は簡単に埋められると思うけど?」

「異世界で鍛えてた結果の、今のユキ君だもんねー。スタートラインが最初から違うのは、当たり前なんじゃないかな」

「……ボクとしては、もうちょっと後ろの方がよかったんだけど」


 だって、ボク一人だけ、やけにステータスの伸びがいいんだもん。


「それでも、ユキの場合は体の動かし方が、群を抜いているから、多少ステータスに差はあっても、すぐに覆してそうだけどね」

「たしかに。ゲームにおいて、一番大事なのって、なんだかんだでPSだからね。ユキ君の場合、それがダントツだもん」

「ま、まあ、文字通り死線をくぐりぬけてきたからね」


 普通の高校生じゃ、経験しないようなことを、数多く体験してきたからこそ、ボクは無駄に強くなっちゃったからね……。


 正直、ここは否定する気はない。


 否定なんてしたら、ボクの過去と、それに関わって来た人たち全員を否定することになっちゃうからね。


「そりゃそうよね。……それにしても、あの二人遅いわね」

「いやいや、わたしたちがちょっと早すぎるだけだよ、ミサちゃん」

「あ、それもそうね」


 集合時間は、お昼の一時。

 理由は特にないです。お昼も食べた後で、ちょうどいいかな、という理由。

 ちなみに、今の時間は、十二時半です。


「悪い、遅くなった」

「来たぜー」


 と、話をしていたら、ちょうど二人がお店に入って来た。


「って、うお、ユキがまたロリになってる」

「ゲームでも、その姿は反映されるんだな、ユキ」

「あ、あはは……どうやら、そのようで……」


 小さくなったボクを見て、二人がちょっとだけ驚いたような表情をし、晶は大変そうだな、みたいな顔もした。

 本当に、大変だよ。


「それで? 何か変わったこととかはあるのか?」

「えっと、HP、MP、STR、VITが少し低下して、AGIが上がって、【可憐なる天使】なんて名前の称号が付いてるよ」

「……謎だな、ユキ」

「ちなみに、どんな効果よ?」

「う、うーん、それがよくわからなくて……なんでも、たたかう相手にたいして、【過保護】って言うじょうたいいじょうが付与されることがある、って書いてあるんだけど……あと、お店に行くと、おまけがもらえるとか」

「【過保護】って、状態異常なのかしら?」

「ある意味では、状態異常なんじゃないかなー」

「そもそも、効果ってなんだ?」

「やっぱ、攻撃できなくなる! みたいな、あれじゃね?」

「とりあえず、調べてみたら?」

「そ、そうだね。ちょっとまってね」


 【過保護】という部分を、軽く鑑定してみる。


【過保護】……状態異常の一種。主に、幼い少女に対して発動する場合が多い。性別は関係なく、男女問わずこの状態異常になることがある。効果は、過保護を付けられた相手に対し、攻撃した時のダメージが通常時の一割以下になる。同時に、過保護を付けられた相手に倒されると、失う金額が四割から八割になる


 という、【過保護】の効果を言うと、


「「「「「うわぁ……」」」」」


 聴いていたみんなだけでなく、効果を読み上げていたボクも思わず、ドン引きしていた。


「これは、さすがに……」

「効果がえげつねぇな、マジで」

「強すぎないか? この状態異常」

「ある意味、ユキ君って、この姿だと無敵だね」

「……さすがにこれはちょっと……」


 ボクとしても、この称号は、不本意なんてものじゃないよ。


 だって、何もしなくても、向こうに状態異常がかけられるってことだよね? 確立発動だからまだマシだけど……だとしても、それを補って余りあるほどの効果だよね、これ。


 仮にこの状態異常にかかったとして、ボクに倒されれば、八割ものお金を失うことになるんだよね? ひ、酷すぎる……。


「……この状態のユキに勝負を仕掛けちゃダメね」

「金の大半を奪われるからな」

「それに、攻撃力も大幅に減少。勝つことがほぼ不可能だろうな」

「そうだねぇ。攻撃が一割以下ってことは、ほとんどダメージが入らないってことだもんね。下手なボスよりもボスだよね」

「まあ、ユキがラスボスで、ミオさんが裏ボスよね」

「師匠に関しては、ひていできない……」


 師匠、本当に裏ボスみたいな存在なんだもん……。

 ボクがラスボス……というのはちょっと変かもしれないけど。


「姿が変わるって言う点は、ラスボス特有のものじゃね?」

「『私はあと、変身を二回残しています』みたいな感じかなー?」

「フ〇ーザ様みたいね」

「いや、あれより質悪いだろ」


 ボク、宇宙の帝王になったわけじゃないし、なる気もないんだけど……。


「……まあ、ユキだし」

「「「たしかに」」」

「ひ、ひどくない……?」


 なぜか、みんなに賛同されました。

 ボクって、そんなに宇宙の帝王っぽいの……?

 すごく不安になりました。

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