第186話 商品完成

 衣装作りを始めて、数時間が経過。

 気が付けば、時刻は六時半。

 もうそろそろ開店する時間になる。


 途中休憩を挟んだものの、完成した洋服の数は、八着。

 さすがに、ぶっ通しでやって十着も作るのは、ちょっとね……。


 暗殺者として、集中力はかなり大事なものだけど、それとこれとは別物。

 さすがに、集中して警戒し、標的の行動をじっと監視し続けたりするのと、物を作り続けるのとでは、大きな差がある。


 どっちがきついか、と言われれば、ボクの場合は後者だよ。


 だって、一心不乱に全力で作り続けるんだよ? さすがに、ねぇ?


 と、そんなことは置いておいて、ボクの作成した衣服たちはこんな感じ。


【丈夫なシャツ】……ブラウスのようなデザインの、白い服。丈夫な布で作られているため、普通の服よりも破れにくい。VIT+10。レアリティ2


【駆け出しのスカート】……駆け出しの冒険者の少女などが穿くような、赤いミディスカート。AGI+10。レアリティ2


【熟練者のズボン】……熟練の冒険者や騎士団が穿いていることが多いが、あまり見かけないような長ズボン。VIT+15。レアリティ3


【臆病者のコート】……臆病だが、慎重で常にあらゆることを想定しているような人が身に着けているコート。AGI+15。レアリティ3


【一天のワンピース】……かつて、星空を見続けていたとある少女が身に着けていた、天の川を模したデザインのワンピース。AGI+20。レアリティ4


【愛心のシャツ】……慈しみ深いような人が着ていた、カーディガンのような服。HP+20。レアリティ4


【慈天のドレス】……可愛らしく、心優しい少女が身に着けていたとされる薄桃色のドレス。VIT+30。レアリティ5


【響心のシャツ】……身に着けたものの気持ちが伝わりやすくなる……と言われている、黒のYシャツ。VIT+30。レアリティ5


 強いか弱いか、と訊かれれば……正直な話、何とも言えない。

 強いとも言えるし、そこまで強くないとも言えるような、そんな感じの服。

 どういうわけか、女性用の衣服が多いけど……なぜか、男性プレイヤーも着れるという、謎仕様。

 どういう意味なんだろうね。


 ヤオイみたいな人たちが喜びそうな感じに思えるのはボクだけなのだろうか。


 何も考えないで作ったから、って言うのが大きそう。


 多分、男性用の衣服を思い浮かべれば、それに合わせたものができたんじゃないかな?

 うーん、これだと、女性向けのお店みたいになっちゃいそうなんだよね……別に、それが悪いとは言わないけど、できれば半々で売買したいところ。


 この中で、男性向けにできるのは、【熟練者のズボン】、【臆病者のコート】、【響心のシャツ】の四着。


 一応半々だけど、デザインを見ている限りだと、どちらかと言えば女性寄りになっちゃってるんだよね……。


 他の四着に関しては、完全に女性物のデザインになってるから、ちょっと厳しい。

 と言っても、ヨーロッパの方には、スカートが民族衣装で、男性も着る国があるから、一概には言えないけど。

 あとは、女装趣味があるなら、問題はない、かな。


 ……それでも、ほとんど男性プレイヤーの人は買おうとは思わないけど。


 プレゼントのために買う、みたいな人はいるかもしれないから、何とも言えない部分はある。


 もしかすると、恋人同士でプレイしている人がいるかもしれないし、このゲームで出会って、付き合い始めた、なんて人がいるかもしれないしね。


 まあ、始まったばかりのゲームだから、そんなことはないとは思うんだけど。


 でも、初期だったら、そこそこいいステータス補正が付いた気がする。

 最初はこれでも十分なんじゃないかな? ってくらいだけどね。


 強い人ともなると、『弱い』と言われちゃうかもしれない。


 そうなったらちょっと悲しいけど……ゲームって、結局性能が物を言う場面が多いからなぁ。

 外見はそこまでよくないけど、性能がいいから使ってる、みたいな感じに。


 ボクもそう言った考え方はあるかな。だって、見た目とか、四の五の言ってられなかったもん、異世界。


 だって、見た目すごくかっこいい武器が、見た目すごくかっこ悪い武器(剣の柄の部分から、別の剣が生えてる)の方が性能高い、なんてこともあったんだよ?


 敵を倒すにはそれが必要だったから、結局使ったんだけど……やっぱり、かなりシュールな絵だったよ。


 外見にこだわりたい! と言う気持ちはわかるんだけど、結局強くないんじゃなぁ、みたいなね。


 ……まあ、世の中には師匠みたいに、弱い武器でも強者を簡単に倒しちゃうような、化け物じみた人がいるんだけど。


 ボクにはそんなことできません。と言うか、できるわけがないです。

 あの人は、色々と人間の限界と言うものを突破しちゃってますからね。そもそも、人と比べちゃダメです。それこそ、神様と比べないと。


 あ、そうだ、洋服屋さんが本格的に始まるから、ミナさんにも連絡しないと。


『ミナさん、衣服がある程度完成したので、今日売りに出します。と言っても、八着しかないので、すぐに売り切れちゃうかもしれませんが……』


 と、試しに送ってみた。

 フレンドリストのミナさんの名前が点灯していたので、ログインしてるはず。


 そう思っていたら、返信が来た。


『ほんとですか? それじゃあ、友達と行きますね! あ、料理の方も食べに行きます!』


 と言う内容。


 どうやら、料理の方も食べに来てくれるみたい。

 嬉しい。

 フレンドになったばかりとはいえ、こうやっていろんな人と関われるからゲームっていいよね。

 なんて、そんなことを思っていると、


「戻ったぜ、ユキ!」

「たっだいまー!」

「ただいま、ユキ」

「戻ったぞ」


 四人が帰って来た。


「あ、お帰り、みんな! どうだった?」


 帰って来たみんなに、どうだったかを尋ねる。

 少なくとも、数時間いたわけだしね、きっとレベルも上がってるはず。


「おう、問題なく勝てたぜ! やっぱ、レベル上げは偉大だな!」

「偉大はさすがに言いすぎだけど、たしかに大事よね、レベル上げは」

「勝ったんだね。それで、レベルはどうなったの?」

「ああ、何度か周回した甲斐があって、レベルは14になった」

「すごいね! じゃあ、ボクが一番レベルがひくいのかな?」

「そうだね。ついに逆転だよ、ユキ君!」

「あはは。ボクのばあい、みんなのレベルの二分の一がそれに該当するから、何とも言えないけどね」


 レベルを上げれば、二倍のポイントが入るからね。


 だから、みんなのレベルが24になった時が、今のボクに相当する。


 ……うん。やっぱり色々おかしいね、あの称号。


 最強なのはボクじゃなくて、師匠の方なんだけどね……。何をどうしたら、あんなおかしいものが手に入るんだろう?


 やっぱり、AIがそれを作っちゃったのかなぁ。

 割と暴走してそうなんだけど……いつか、制御できなくなって、危害とか加えないよね? 大丈夫だよね?


 そんな心配がボクの中に出てきた。

 ……学園長先生のことだから、何かの副作用で、AIが自我を持つ! みたいなことがあっても不思議じゃないんだもん。


 そもそも、異世界へ行ったり、観測したりする装置を創っちゃってる時点で、本当にやりそう。


 ……できれば、そうならないことを祈るよ。


「でもよー、これでもユキには追いつけねーんだよなー」

「そりゃそうよ。異世界チートに追いつくには、レベルをひたすらに上げないと、追いつけないわ」

「……まあ、AGIに関しては、どうあがいても追いつくことはできないだろけどな」

「ユキ君、今は500超えちゃってるもんね。でも、500ってどれくらい速いんだろう?」

「うーん、たぶん向こうきじゅん、なんじゃないかな?」

「いや、向こう基準って言われてもわからないぞ、ユキ」

「あ、そうだよね。えっと、わかりやすく言えば……ボルトの五倍くらい、かな」

「「「「速っ!?」」」」


 うん、ボクも正直なところ速いと思ってます。


 時速45キロで走れるからね、ボルト。


 そんなボク、その五倍です。向こうの基準で考えるなら、だけど。


 ちなみに、現実のボクの素早さのステータスは、1500くらいなので、さっきのたとえで行くと、15倍ってことになる。


 まあ、本気で走ったら、それ以上なんだけどね、ボクは。

 『身体強化』が強すぎるんだもん、


 今のボクって、何倍であれ使えるんだろう? そう言えば知らない。

 魔王戦で使った時は、8倍とか、それくらいだった気が。

 ……それでも、十分すぎるほど速かったんだろうなぁ。


「ってことはあれか、100になると、全員ボルト並みの速さってことなのか……」

「あ、えと、向こうのきじゅんなら、ってだけで、本当にそうかはわからないからね?」


 さすがに、それが本当のことなのかはわからないので、驚きながら呟いていたレンに釘をさす。


「そうであれ、そうでなかれ、ユキが異常な速さ、ってことだけは確定事項よね」

「むしろ、勝てる奴いるのか?」

「いないだろう。普通にプレイしても、AGIが500を超えることなんて、普通はない」

「むしろ、ユキ君は、最初から速かったもんね。やっぱり、経験が物を言うんだろうね」

「ボクは、のうみつすぎるほどのけいけんと力があったから、おかしなステータスになっちゃったからね……」


 できれば、普通がいいんだけどね……。


 普通じゃないと、すごく目立っちゃうことになるんだもん。

 目立ちたくないのに、余計に目立つようなことをしたくないよ、ボクは。


 ……やっぱり、オート作成にするべき、だったのかなぁ。


 でも、ボクの幸運値がとんでもないステータスを作りそうなんだよね、今思えば。

 あれは、確率が一番低いものを引き当てやすくなるって言うものだったから、どんな恐ろしいステータスが来るかわからなかったからね……。


「お、そろそろ七時になるな。んじゃ、そろそろ準備すっかー」

「そうだな」

「準備と言っても、やるのは本当に接客だけだから、そこまで複雑じゃないけどね」

「でも、その代わりお客さんがいっぱい来そうだけどねー。昨日のあの惨状を見る限りだと」

「……たしかにそうね。あれで、開店二日目と考えると、やっぱり異常よね」


 ……まあ、30万テリルも稼いじゃったしね、昨日の二時間で。

 二日目であれなら、三日目の今日はどうなるかわからないよね……。


 お金が入るのは嬉しいんだよ。その分、みんなにお給料をだせるわけだし。


 別に、ボクはお金が欲しくてやってるわけじゃないからね。


 食べてくれる人の笑顔のためにやってる、そう言っても過言じゃない。

 だから、あんまり、お金儲けしたい! なんて思ってないんだよね……。


 個人的には、それなりの人が入ってくれればいいかな、って感じで。


「今日なんて、もっといっぱい来るかもしれないし、気を引き締めて頑張りましょ」

「「「「おー!」」」」


 そんな感じに、三日目のお店が始まろうとしていた。

 ……こんな感じの状況、つい最近見た気がするなぁ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る