第246話 ロリ依桜は大変

 体が小さくなって、いつも通りとは言い難い日に。


 これが元の世界だったら、ある意味いつも通りの日と言えるんだけど、今日ばかりは今回ばかりは、そうも言えない。


 だって、ここボクが住んでる世界じゃないしね……。


 ここは一応、元の世界ではなく、そこに似た世界だから、結果的にいつも通りとは言えない世界。


 まあ、依桜からしたら、いつも通りの日なんだろうなぁ。


 いつ帰れるのかもわからないし……。


 こっちの学園長先生は、ボクの世界学園長先生よりも酷い気がしたよ、ボク。

 だって、並行世界へ行くための装置が暴走して、並行世界の方から人を呼び寄せちゃう、なんて、おかしなものを作ったせいで、こうしてボクが巻き込まれちゃってるわけだしね……。


 なんかもう、巻き込まれ体質なのは、自分でも認めるほどになって来たよ……。


 異世界転移しかり、モデルしかり、痴漢しかり……他にも、体育祭では変な競技で変なことになるし……なぜか見学会には出させられるし、お悩み相談もやらされる。サンタさんだって押し付けられたし、冬〇ミでは、なぜかメイド服を着させられ、大勢の人に写真を撮られるし……魔族の国の女王になっちゃって。果ては、こっちの学園長先生によって、並行世界に来ちゃうし……。


 すごいよね、これ、一年経ってないんだよ?

 九月~四月までの出来事なんだよ?

 これだけで、壮大な小説が書けちゃうんじゃないかな、これ。


 生々しい話もあると思うけど。


 この巻き込まれ体質は、単純にボクの幸運値が原因なのか、生まれつきの体質なのか……個人的には、前者だと思うけど。


 確率が低ければ低いほど当たりやすくなる、なんて効果を持ったものだからね……。


 だからこそ、こんな普通じゃ遭遇しないようなことに立て続けに遭遇してると考えると、本来ならおかしな確立だと思うよ。


 ボク、いずれ過労死するんじゃないかな、これ。


 そうでなくても、病気になりそうだよ……いや、現に一回風邪引いてるんだけど。

 あの時はあの時で酷かったなぁ……。


 未果と晶に、すっごく恥ずかしい姿を見られちゃったし……。


 うぅ、今思い出しても、恥ずかしいよぉ……。


 はぁ……本当に、新学期開始早々、おかしなことになっちゃってるんだもんなぁ……。


 いつ帰れるかわからないし、そもそも帰れるかどうかすらわからない……。


 みんな、心配してるかなぁ……してるよね、絶対。


 ただでさえ、ボクは変なことに巻き込まれるのに、まさか、こうして別の世界に来てるなんて夢にも思わないよね、みんな……。


 ボクだって、まさか並行世界に来るとは思わなかったしね。


 ……まあ、過去の回想(現実逃避)はやめよう。うん。


 現実を見ないと……。


『桜ちゃん、はいあ~ん!』

「あ、あ~ん……」

『ずる~い! 桜ちゃん、こっちも!』

「は、はい」


 昼休み。


 ボクはクラスメートのみんなにとっかえひっかえに、お菓子を食べさせられていました。

 ちなみに、抱きかかえられてます。


 いや、あの……何でこうなったの?


 ちょっと待って。


 普通に考えて、これはどういう状況なんだっけ?

 お、思いだそうボク。


 えっとたしか……。



『起立、礼。ありがとうございました』


 日直の人の号令で授業が終了。


「桜、昼ごはんにしよう」

「うん」


 学園側(学園長先生)の配慮なのか、ボクと依桜は隣の席。

 四時間目が終わるなり、お昼にしようと、依桜がボクに声をかけてきた。


 お昼は、みんなと一緒に食べる、っていうことは、こっちの世界でもやっぱり共通。

 そこに、こっちのみんなから見た、別のボクを交えてのお昼ご飯になる。


 カバンの中から、お弁当を取り出して、みんなの所へ。


 そして、いつも通りにみんなとお昼ご飯を食べる。


「にしても、向こうの依桜も、小さくなるとはなぁ。まあ、同じ依桜だ、って話だから当然っちゃぁ、当然なのか」

「あ、あはは……。そもそも、へいこうせかいが存在していたことがびっくりだけどね、ボクは」

「どうかんだよ。僕もまさか、性てんかんする前のボクに会うとは思わなかった」


 ボクも同じ気持ちだよ。


 いつも通りに登校したつもりで、学園に行き、教室に入るとみんながボクを見て驚いて、後ろから男だった時のボクがいるんだもん。


 本当に混乱したよ。


 同じ自分がいるって言う状況は。


「桜も、依桜と同じように、色々な姿になるのか?」

「うん。このすがたや、さらに小さくなったすがたに耳としっぽが生えたすがた、それからつうじょう時に耳としっぽが生えたじょうたいと、大人じょうたいがあるよ」

「マジで同じなのな」

「すごいねぇ。できれば、桜ちゃんが帰るまでには、全種類見てみたいなー」

「あ、あはは……あんまりいいものじゃない、と思うよ……?」


 それに、あれって不定期だからね。

 一日ごとに変わる、なんてことは一度もなかったし……そもそも、二日連続で変化する、なんてことはなかったから、多分ないとは思うけど。


「……桜も依桜と同じで、やっぱり謙虚なのね」

「そ、そうかな? 別にふつうだと思うんだけど……ね、依桜?」

「ああ。僕たちは別に、そこまで容姿が整っているとは思えないんだけどな……」


 依桜も同感みたいだね。


「「「「……さすが、同じ人物」」」」


 なんで、みんな呆れたような顔をするんだろう?

 うーん、向こうでもこんな感じだしなぁ……。

 なんでみんな呆れるのか、ボクにはわからない……。


「桜、そっちのせかいでも、今みたいに未果たちにあきれられたりするのか?」

「うん。何でかはわからないんだけど……」

「そうだよなぁ……。僕たち、何かあきれられるようなこと言ったりしているか?」

「してない、と思うんだけど……」


 二人で顔を見合わせて、うんうん唸るボクと依桜。


「「「「手遅れか……」」」」


 その様子を見ていたみんなが、やっぱり呆れた様子を見せた。

 みんなのその様子を見ても、ボクたちは首をかしげるだけだった。



 と、こんな風にみんなと楽しく会話をしながらお昼ご飯食べて、食べ終わった直後にボクが一旦トイレに。


 そして、戻ってくると、


『『『桜ちゃん!』』』

「ふにゃ!?」


 突然、クラスメートの女の子たちに捕まりました。


「な、なななななんですか!?」


 突然抱きかかえられて、何が何やらわからず、混乱するボク。


『気にしないでー。桜ちゃんがちっちゃくなってるから、ついつい抱きしめてみたくて』

「な、なんで!?」

『なんでって……可愛いから?』

「そ、そんなことはないよぉ」

『おー、桜ちゃんも謙虚なのか。まあ、とりあえず……お菓子食べる?』

「おかし?」

『うん。お菓子。はい、あ~ん』

「え、あ、あの……」

『あ~ん』

「……あ、あ~ん」


 なぜか、お菓子を食べさせられる状況になりました。



 うん。たしか、事の始まりはこんな感じ……いや、うん。どういうこと?


 ボクはどうして、女の子たちに抱きかかえられて、こうしてお菓子を食べさせられているんだろう?


 しかも、一人が離すと、次の人がボクを抱きかかえてくるし……。


 ボクって、そんなに抱き心地がいいのかな……?


 あれかな、小さい姿だから、つい抱きしめたくなっちゃう、みたいな感じ、なのかな?

 ボクも、メルをたまに抱きしめたくなる時があるもん……。


 ただ、この状況はよくわからない。


 さっきから、お菓子を差し出されては食べてを繰り返しているだけで。


 そして、気配りなのか、途中に紙パックのジュースも合間に挟んでくれるおかげで、水分が欲しい、って言うことになることが少ない……。


 しかも、そろそろ飲み物が欲しいかな、って思った時に、飲み物を差し出してくるんだよね、女の子たち……。


 これってもしかして、いつ飲み物が欲しくなるのかを把握してたりする……?


 なんとなく、みんなの所にいる依桜の方を見ると……


「……」


 苦笑いを浮かべていた。


 ……どうやら、依桜も小さい時に抱きかかえられて、お菓子を食べさせられる、って言うことをされているみたいだね……。


 この辺りは、ボクの世界にはなかった……あ、いや、普通にあったかも……。


 なぜか、小さくなって学校に行った日は、こうしてやられていた記憶があるような……。


 特に、小さくなった上に、耳と尻尾が生えている状態が多かったはず。


 しかもみんな、耳と尻尾を容赦なく触ってくるから変な気分になるし、声も出るんだよ……耳と尻尾を触られるのは気持ちいいんだけど……。


 できれば、小さくなったりするのは勘弁してほしいけど、もうこれ、体質だからね……。どうにもならない……。


『桜ちゃん、可愛すぎるぅ……』

『ちょうどいいサイズだし、いい匂いするし……しかも、この可愛い姿! あぁ、最高!』

「んみゅっ!」


 ぎゅぅっと抱きしめられて、変な声が出た。


 決して嫌、って言うわけじゃないけど……す、すごく恥ずかしいから、なんだか……ちょっとあれだよね……。


 うぅ、恥ずかしぃ……。


『でも桜ちゃん、本当に、依桜君そっくりだよね』

『やっぱり、一卵性なの?』

「う、うん、いちおう……」


 似てるどころか、まったく同じなんだけどね……。


『やっぱり! でも、本当に桜ちゃん可愛いし……お人形さんみたいだよね』

『わかる! 着せ替えとかしてみたい!』

『この可愛さなら、ゴスロリとかも絶対似合うよね!』

『うんうん! あぁ、どこかにいい洋服とかないかなー』


 なんて、女の子のみんなが、そんなことを話し合う。

 ……なんだろう。なぜか、身の危険を感じるんだけど……。

 ボク、大丈夫かな、これ……。


「あ、あの、そ、そろそろはなしてほしいな……」

『えぇ~、もう少しだけ。もう少しだけ、抱いてもいい?』

「で、でも……」

『お願い! 桜ちゃんすっごく抱き心地がいいんだもん!』


 そ、そんなにボクを抱きしめて楽しいかな……?

 結局、ボクは断り切ることができず、このまま抱きしめられ続けました……。



 そうして、やたらと構われることが続いた学園での一日は終わり、家に帰宅。


 道中、やっぱり小学生が下校しているように思われてたけどね……歩いてたら、なぜか飴をもらったりしたもん。


 色々と仕方のない部分はあるんだけど……やっぱり、ちょっと精神的に来る。


 むぅ、無理だとわかっていても、未練がましくなっちゃうよ……。


 もしも神様が願いを叶えてくれるのなら、元の姿に戻してほしい、って言うかもなぁ……。

 ……でも、女の子の生活も少しは……いいかも、って思いだしてきちゃってるけどね。



 その後、普通にボクたちは夜ご飯を食べて、お風呂に入った。

 その際、なんだかとてつもない睡魔に襲われていたけど……。


 ……どうしよう。すごく嫌な予感しかしない。


 最後にそう思いながら、ボクと依桜の意識がすぐに落ちていった。



 翌朝。


 目が覚めると、すごく窮屈に感じた。


 少しだけ肌寒いけど、昨日のように寒いわけじゃないから、そこまできつくはない。


 でも、このぴっちりとした感じはちょっと気になる……って、うん?


 窮屈……ぴっちり……?


 ……ま、まさか!


「ああああぁぁぁぁぁ……やっぱりぃ……」


 朝起きて、鏡の前に立ったボクの目には、大きく成長したボクの姿が映っていました。

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