第247話 連続変化
朝起きたら、ボクの体が大きくなってました。
この姿になったのは、魔王城で演説した時くらいかな……。
はぁ……まあ、別にこの姿は身長が伸びるからまだマシなんだけど、何気にきついんだよね……。
主に胸が。
うー、これは、今日はかなり肩がこることを覚悟しておいた方がいいね……。
「ん……ん? って、うわっ! か、体が大きくなってる!」
そんな声が、ボクの背後から聞こえてきた。
後ろを振り返れば、そこには大きく成長した、依桜の姿が。
中世的な顔立ちはほとんど変わらないけど、なんだか大人びている。体はかなりしっかりしていて、細すぎず太過ぎないちょうどいい筋肉のバランス。
でも、腹筋は綺麗に割れてる。
ちょっと……かっこいいと思ってしまった。自分に。
わ、わー、ボクって、男のままで成長していたら、あんな風になったんだ……。
「って、桜、何だよな……?」
「う、うん。そっちこそ、依桜、何だよね……?」
お互いの成長した姿を見て、固まる。
「むにゃ……んむぅ……? んぉ!? に、にーさまとねーさまが大きくなってるのじゃ!」
お互い見つめ合う形で固まっていると、メルが目を覚まし、ボクたちの姿を見てびっくりしていた。
いや、まあ、びっくりするよね。
朝起きたら、いきなり大きくなってるわけだし……。
「し、しかも、ねーさまのおっぱいとお尻が大きくなっておる!」
「こ、こっちのメルもそこをチョイスするんだね……」
やっぱり、小さい子供ってその辺りに目が行くのかな……?
まあ、この胸は目立つもんね……。
視線をよく感じるから、わかるよ。
……最近、胸を小さく見せるブラジャーがあるって聞いたっけ。
……探してみようかな。少しは、小さく見せることができるはず。
「だ、だって、ねーさまのおっぱいとお尻、すごいから……」
「あ、あはは……褒められて、嬉しいような、嬉しくないような……」
この悩み、異世界でもあったなぁ……。
あの時も、同じようなシチュエーションだったはず。
朝起きたら大きくなってて、メルがそれを見て目を輝かせてたはず。
「……まあ、とりあえず、着替えて準備をしよう。学園に遅刻したら、色々とまずいからな」
「そ、そうだね……」
「うむ!」
話したり考えたりするのは後回しにし、ボクたちは学園へ行く準備を始めた。
母さんの用意した朝食を食べて、学園へ向かう。
道中、ボクたちはお互いに思ったことを話し合う。
ちなみに、メルは道中で巴ちゃんと会い、そのまま一緒に登校していったので、ボクと依桜の二人きり。
「それにしても……僕が女の時に成長していたら、桜みたいになっていたのか」
「どうなんだろう? ボクも、依桜の姿を見ていたら、男だったらこんな風に成長していたんだろうな、って思うよ」
しかも、身長が高くなってるし……。
見れば、依桜の身長は、170を少し超えたくらいに見える。
今まで、身長が低くて少し気分的に落ち込むことがあったけど、順調にいけば、こんな風になれたのかな。
羨ましい……。
「それで、やっぱり、重いのか?」
「うん……かなり重いよ……」
少し苦い顔をしながら、尋ねてくる依桜に、ボクはさらに苦い顔でそう返す。
もちろん、胸の話です。
なんだかんだで、この辺りも話題の共有ができるので、ちょっと嬉しかったり……。
「サイズは?」
「……I」
「え、ほんとに?」
「ほんとなんだよ……」
「そ、そうか……Iか……。そのアルファベットを聞いただけで、重そうだと言うことが伝わるよ」
「あ、あはは……おかげで、胸がつっかえたり、ぶつかっちゃったりして、大変でね……まあ、この辺りは元の姿でも同じなんだけど……」
大きいことで生じる弊害を言う。
「あー、わかるぞ。あれだろう? 電車に乗ってて、満員になった際、ドアに押し付けられて胸が潰れたりとか」
そしたら、普通にボクが経験したことを言ってきて、ボクも思わず共感。
「そうそう。あれ、すっごく苦しくて……それに、この胸だと、うつ伏せに寝れなくてね……」
「あとは、仰向けに寝ると、重力で引っ張られて痛くなったり、とか?」
「そうそう! やっぱり、わかる……?」
「……まあ、元々女だったし、桜よりも長いからな……」
ふっと遠い目をしながら微笑む依桜。
……色々、あったんだね、依桜は。
「その点、この体はいい……。胸は重くないし、体格的にも女の時よりもリーチがある。それに、あの日がないからな……」
「……ボクも、女の子になってから、男の体がいかに良かったかがよくわかるよ……」
女の子の体って、ほとんどマイナスなことしかない気がしてならない……。
肩はこる。運動すると胸が痛い。生理は辛い。
これだけでも、大変……。
それに、
「あとは、変な人になぜか声をかけられたりとかね……」
いわゆる、ナンパ、って言うことをされたりもするし……。
「例えば……『なあ、俺たちと一緒にいいことしようぜ?』って、あれ?」
「うん、それ。そこまで可愛くないとは思うのに、なぜか見ず知らずの男の人たちが声をかけてきて……。それに、いいこと、って言われても何をするのかさっぱり」
「そうだよなぁ……。僕も、そのいいこと、って言うのが、一体何を指すのかさっぱりで、軽く無視してたよ」
「でも、女の子だったんだから、大変じゃなかった?」
依桜は元々女の子だった。
しかも、その時は異世界に行く前だったから、非力な女の子だったわけで……。そうなると、そう言う人たちに絡まれた際、どうやって乗り切ってたんだろう?
「まあ、大変だったけど……男なら、急所を狙えば一発だったよ」
「きゅ、急所……?」
「ああ。昔、股間を蹴られて痛がっていた態徒を見て、『そんなに痛いのか?』なんて思ったことがあったんだけど……それを見て、実践したらすぐだった」
う、うわぁ……。
よりにもよって、男の人に一番やっちゃいけない攻撃方法を……。
今はもう、その……な、ないから、そう言うのはないけど……あれって、本当に痛いからね……。
しかも、立てなくなるくらいの時もあるし……。
「……そして、男の体になって、その痛みがよくわかったよ」
「……え、経験、したの?」
「……ああ。師匠のせいでな……。あの人、容赦なく攻撃してきてさ……正直、三途の川が見えた」
「……それは、何と言うか……ど、どんまい、です」
「はは……今思い出しただけでも、なんか、寒気がするよ……」
「そ、そっか……気を付けてね……」
お互いに、どちらの性別の欠点を知っている身としては、本当に……嫌なことがわかります。
朝から微妙な気分になりつつも、ボクたちは学園へ向かった。
「おはよー」
「おはよう」
『『『!?』』』
ボクたちが挨拶をしながら教室に入ると、みんなが驚いたような……というか、実際に驚いた表情をしながら、ボクたちを見てきた。
ま、まあ、うん。
考えてみれば、昨日は小さい姿で、今日は大人の姿だもんね……そういう反応になるよね。
……って、よくよく考えたら、二日連続で姿が変わるって……初じゃないかな?
今までは、一度変わったらしばらく変わらなかったり、スパンが短くても、一週間とかだし……もしかして、並行世界にいたりするのが原因の一つだったり……? でも、そうだったら依桜も姿が同じように変わるって言うのは変だし……。
うーん……わからない。
「あ、あー、依桜はわかるんだけどよ……そっちは、桜、でいいのか?」
様々な視線を浴びながらも、ボクたちはみんなのところへ。
すると、ボクたちを見るなり、態徒がそう尋ねてくる。
「う、うん。桜だよ。まあ、えっと、朝起きたらこうなってて……」
「……その辺りも、やっぱり依桜と同じ、ってわけね……」
「いやぁ、これはもしかすると、桜ちゃんの変身形態を全種類見れるかもなぁ」
「そう訊くと、宇宙の帝王みたいだな、二人は」
「……別に、戦闘力は53万もないけど」
「いや、意外とあるかもしれないわよ? 何せ、師匠があの人だし……」
「「……」」
そう言われると、たしかに反論できない……。
その人って、実質神様みたいな存在だかし、それに、かなり強いし……。
一応地球割りとかもできると思うしなぁ……。
……師匠の方が、よっぽど帝王っぽいような……。
「それにしても……あれだな。桜の姿は、依桜が男にならず、そのまま成長したらこうなる、みたいな感じなんだな」
「そこは、僕も思ってる。どうやら、桜の方もそうらしいが」
「へぇ~。っていうことは、依桜ちゃんの今の姿が、桜ちゃんが普通に生活していたらそうなったであろう、成長なんだねぇ」
「うん。多分だけど」
少なくとも、こうなる可能性がありますよ、みたいな感じだとは思うけどね。
それを言ったら、普段の姿が、いずれ今の姿になる、なんて保証もないけど……。
……というより、今後ずっとこの体質と付き合っていくことになるのなら、この姿に成長したら、何も変わらないような……。
その辺りって、どうなんだろう……?
『桜ちゃんも、不思議体質なのは昨日のでわかってたけど、今の大人モードもすごいねぇ』
「そ、そう、かな?」
『うんうん。だって、立派すぎるもん、その胸』
『くぅ! 羨ましい! 羨ましいよ、桜ちゃん!』
『ほんとほんと。元々大きいけど、さらに大きくなるなんて……ずるいなぁ』
「そ、そうは言っても、これ、すっごく大変なんだよ……? 重くて、肩はこるよ? それに、ぶつかる体積も増えてるから、避けるのが難しくなるし……」
『桜ちゃん、それは贅沢な悩みだよ!』
ボクが、デメリットの部分を言ったら、女の子の一人がビシッと指をさしながら、そう言ってきた。
「ぜ、贅沢?」
『贅沢も贅沢! 大きい人はみんな大変、とか言うけど、ぺったんこに比べたら、全然いいじゃん!』
『うんうん。胸が小さい人が一度でいいから言ってみたい一言……『大きいと肩がこる』』
「で、でも、本当に大変だよ……? 視線とかも来るんだよ……?」
正直、視線は酷い時は酷いし……。
なんだか、ちょっと気持ち悪いというか……ねばっこい視線も来るから、結構精神的に嫌のところもあるし……。
『くそぅ! 嫌味かコンチクショ―!』
「え、べ、別に、嫌味ってわけじゃぁ……」
『えぇい、者ども、やってしまいなさい!』
『『了解!』』
「え、あ、あ、なに……って、な、なんでそんなににじり寄ってくるの……? あ、あと、その手の動きは何……?」
不敵な笑みを浮かべた女の子たちが、指をわきわきさせながら、ボクににじり寄ってくる。
依桜に助けを呼ぼうとした瞬間、
『隙ありだよ!』
「ぁんっ!」
いきなり、胸を鷲掴みにされた……。
お、思わず変な声が……。
まずいと思って、逃げようとするけど、
『逃がさぬぅ!』
「んぁっ! な、なに、を……ひゃぅ! ちょ、や、やめっ……!」
女の子たちに体の至る所を触られて、またもや変な声が……。
な、何かこの展開、スキー教室でもあった気がするんだけど!
「んぅっ、ふぅっ、んっ……! や、やめ、てぇっ……!」
『……俺、今日死ぬかもしれん』
『……俺もだ』
『……だが、あの桃源郷を見れただけで、満足だぜ……』
『ふっ……てか、まともに立てねぇ……』
なんだか、女の子たちの隙間から見える男子のみんなが変なことを呟いている気がするっ……! あと、なぜか前かがみになってるのも気になる……。
『な、なんて柔らかくて張りがあって、モチモチしてて、さらにふわふわしてるおっぱい……』
『くぅ、羨ましい! うらやまけしからん桜ちゃんにはこうだ!』
「ゃんっ! だ、ダメっ、だって、ばぁっ……ぁんっ」
あ、だ、だめぇ……あ、頭の中が……。
このままだと、何かとんでもないことになるとわかりつつも、どうしようもない状況に、ボクは諦めかけていたら……
「いい加減にしろ!」
そんな怒鳴り声が聞こえてきた。
それで色々とまずいことになりかけてたボクの頭がクリアになっていき、怒鳴り声を発した人を見る。
依桜でした。
「まったく……。いくらなんでも、やりすぎだぞ。いいか、いくら羨ましいからと言っても、ずっと弄るのはダメ。少なくとも、桜はこっちに来たばかりなんだ。なおさらだ」
『『『うっ……』』』
「それに、胸を揉まれる側は、結構まずいことになるんだからさ……同性だからと言って、むやみやたらにやらないように。わかったか?」
『『『はい……』』』
こうして、なんだか色々とまずいことになりかけた教室内は、依桜のお説教によって正常になりました。
……こっちのボク、すごいなぁ……。
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