第248話 やっぱり目立つ

 大きくなったことにより、学園では、やっぱり注目されるようになってしまった。


 まあ、明らかに学生には見えない人が学園内にいるわけだしね……。


 制服については……まあ、着てなかったり……。


 この姿で制服を着ると、なんだか似合わなくて。


 似合わないというより、多分、外見年齢が20代前半くらいに見えるし……どんなに若くても、十九歳。


 だから、まあ……ちょっと似合わないわけで……。


 その考えは、依桜の方も同じらしく、私服を着ている。


 なるべく目立たないような服装。


 この辺りに関しては、ちゃんと学園長先生から許可をもらっているので、問題はないです。


 周囲から反感とか買わないかな……とか、心配にはなったけど、なぜかそんなことはなく、普通に受け入れてくれていた。


 というより、妙に嬉しそうに見えたんだけど……気のせい、かな?


 気のせいだよね。うん。

 顔が赤いのもきっと、風邪を引いてるからだろうし。


 こっちに来てすでに今日で四日目なわけだけど……基本的な日常は、向こうの世界とほとんど変わらない。


 というより、まったく同じと言ってもいい。


 授業は同じペースだし、クラスメートも同じ。さらには、未果たちもみんな同じ性格だから、結果的に、いつもと変わらない日常を送っている。


 違和感があるのは、同じ自分である、依桜がいるくらいで、それ以外は特に問題はなくて、いつものように過ごしているだけでいいというのは、すごく気楽。


 それに、みんな受け入れてくれてるしね。


 ……まあ、それでも帰りたいと思うわけだけど。


 むしろ、帰りたくないと思うわけないもん。


 どんなに目に映るすべてが、ボクのいた世界と同じでも、それはそれ。

 ボクを知っているわけではないので、実質ボクだけが浮いているわけで……。


 ……はぁ。


 学園長先生、いつ装置を完成させてくれるんだろうなぁ……。


「ん、どうした、桜?」

「あ、ごめん、ちょっと考え事をね……」


 そうだった、今はお昼の途中だった。


 今日は天気も良くて、あったかいので、ボクたちは屋上でお昼を食べている。


 中庭にある温室でもよかったんだけど、あそこは年中人が多くてね。


 だから、異世界に関わってくるような会話とか、今回のボクの本当の立場とかを話すには、人気がない屋上の方が最適って言うわけです。


 温室とかがなかったら、屋上の方が人が多くなってたと思うけど。


「やっぱり、帰りたいの?」


 ぼーっと考え事をしてたボクを見て、未果がそう尋ねてくる。


「あ、あはは……こっちのみんなと過ごすのも楽しいと言えば楽しいんだけど……やっぱり、元の世界の方がね」


 これに関しては何度も言ってるし、何度も思っていることだと思うよ。


「まあ、そう思うのが普通だわな。むしろ、順応して、こっちに住みたい! とか言われたら、そっちでびっくりするわ」

「その場合、そっちのわたしたちが可哀そうだよねぇ。依桜ちゃん、知らない間に異世界に行っちゃうわけだしさー」

「「否定できない……」」


 ボクたちだって、好きで行っているわけじゃないけど、ちょっとね……。


「というか、そっちの世界は大丈夫なのか? 依桜がいないことになっているみたいだし……」


 晶がボクに対して、元の世界についてそう尋ねてくる。


「ど、どうなんだろう……? 並行世界ってことだから、こっちと向こうは同じ時間の流れだと思うから……多分、今日を入れて四日は行方不明の状態、かも……」

「それ、まずくないかしら……?」

「四日行方不明は、普通に考えて、大ごとだよな? てか、その行方不明になった奴が依桜ってのも問題だよな?」

「そうだねぇ。わたしたちの中では、依桜ちゃんが行方不明になるのは、まあ……不安に思っても、巻き込まれ体質だから、で納得できるし、異世界の存在も知ってるからいいけど、その他の普通の生徒とか、先生とかからしたら、結構大ごとだよねぇ、特に、学園長とかそうなんじゃないかな?」

「ま、まあ、一人の生徒が行方不明になっちゃったわけだしね……」


 ……ボク的には、学園長先生は、心配したとしても、すぐに見つけ出すための装置とかの制作にとりかかりそう。


 それに、ボクが行っていた異世界の観測装置を創ったりする時点で、今回の並行世界を観測するための装置とか普通に創ってそうだしなぁ……。


 でも、なんだかんだであの人は生徒を大事に思ってるいい人だし……。


 何と言うか、焦りながら装置創ってそう。


「そういや、依桜って昔からモテてなかったか?」

「僕は何度も言ってるように、告白はされたことがないぞ? まあ、テロリストを撃退して以降から、急に告白されるようにはなったが……」

「桜もそんな感じなの?」

「ま、まあ。でも、あんまりモテてる、って感じはなかったよ……? 依桜と同じように、テロリスト騒動の後から、告白されることは増えたけど……で、でも、一時的なものだったよ? ある日を境に、告白されることがほとんどなくなったし……」


 そう言えば、夢で知っている女の子と恋人になって、幸せな日常を送る、なんて風景を見たけど……。


 あれ、誰だったんだろう?


 なんだか、知ってる人……というか、普段から一緒にいる人だったような気がしてならない。


 ……まあ、夢だよね。すごく、リアルな夢だったけど。


「それって……ファンクラブが原因じゃね?」

「まあ、ある日を境に、って言う事なら、間違いなくファンクラブだろうな……」

「裏で、粛清してる、って話だしねぇ。まあ、一番の粛清対象は、なぜか晶君と態徒君見たいだけどね」

「……俺たち、今は依桜とは同性なんだけどな」

「……ホモって思われてんのかね? 体育祭の二人三脚でもそうだったしよ……」


 ……こっちの世界でも、この二人が一番目の敵にされてるんだ。

 今は、同じ男なのに、なんでだろう?


「にしても、大人モードの依桜は……マジでカッコイイよな」

「そうか?」

「ああ。同性の俺たちから見ても、依桜はカッコイイぞ。腹筋とか普通に割れてるしな、その状態」

「まあ、鍛えてるから」

「何と言うか、中性的なイケメンでいいよね! しかも、これで女装しても似合うって言うのがまた何とも……ふへへ」

「……女委、よだれが出てるわよ」

「おっと、こりゃ失敬」


 女委ってバイだけど、やっぱりこっちでもそうなのかな?

 ……まあ、多分そうだよね。

 ボクの世界でもそうって言うことは、こっちでもそうだと思うし。

 ……それによって、ボクが酷い目にあったりすることもあるけど。


「でも、桜ちゃんの方もいいよねぇ。何と言うか、すっごくスタイルいいし、美人だし」

「び、美人って、そんな……」


 いきなり、矛先がボクに向き、女委がボクのことを美人と言ってきた。


「女の子の時の依桜をそのまま成長させると、こんなに色気たっぷりの女性になったと思うと、なんだか惜しい気分になるわ」

「い、色気?」

「だなー。桜は、なんつーか……エロいぜ? クラスの男子連中も、桜の微笑みにやられてたしよ」

「え、エロくないもん! ふ、普通だもん!」

「いや、普通は、そこまで美人にならないし、スタイル抜群にもならないわ」

「ち、違うもん……美人とかじゃないもん……」


 ……ボクよりも綺麗な人は、きっといっぱいいるよ。

 ボクとしては、未果と女委の方が綺麗だし、可愛いと思うよ。


「謙虚って言うのも、考え物よね」

「まあ、こういう絵図を見てると、依桜と同じ存在なんだなと認識できるよ」

「でも、みんなが言うほど、容姿は整ってないよね? 依桜」

「ああ。僕たちは、どんなによくても、普通より少し上程度だと思うんだけどな」

「だよね」

「「「「……筋金入りか」」」」


 やっぱり、みんなは呆れ顔をボクたちに向けてきた。

 そ、そんなにボクたちの価値観って変……?

 ちょっとその辺りを気にするボクでした。



 その後、今日は何やら初等部~高等部までの先生たちが会議をするそう。


 一応、初等部・中等部を管理する人がいるらしくて、一応校長、という立場みたい。

 学園長先生がいるのに、校長先生がいるって……なんか違うような気がするけど……。


 学園長先生が理事長ならわかるんだけど。


 まあ、それはそれとして、その会議があるため、今日は早く終わった。


 今日はタイミングが良く、初等部・中等部の方と下校時間が同じなので、このままボクがメルを迎えに行くことに。


 本当は、依桜も行く予定だったんだけど、ちょっと急用が入っちゃったとかで一旦別行動。すぐに合流する、って言ってたから、校門で待ち合わせすることになってる。


 それにしても……自分がいつも通ってる校舎と違う場所に来ると、ちょっと緊張する。


 さっきから、初等部の子たちがすごく見てるんだよね、ボクのこと……。


『きれー……』

『おっぱいでけー』

『新しい、せんせーかな?』

『誰かのお姉さんとか?』


 うわー、なんかひそひそと話されてるぅ……。


 制服を着てないから、先生とかって思われちゃってるよ……。


 お姉さんとも言われてた気がするし……いやまあ、それはあながち間違いじゃないけど。

 だって、戸籍上、一応メルはボクの妹ってことになってるし……元の世界では。


 ボクはこの世界において、戸籍はない。


 学園長先生が一応、一週間で完成させるとかなんとか言っていたので、とりあえず、今は作らないでいる。


 すぐに帰ることができたら、意味がなくなるからね。


 戸籍一つ作るだけでも、結構面倒、って学園長先生が言ってたから。


 でも、こっちのメルがボクのことをお姉ちゃんのように接しているので、姉のようなものだと思ってるけど。


 メル、嬉しそうだし。


 なんてことを考えながら、四年一組に向かう。


 初等部は、六年生まであるためか、校舎は六階まである。一応、運動が苦手な子たちのために、エレベーターも設置されてます。まあ、ボクは運動が得意だからね。そのまま、階段で四階へ。


 四年一組の教室に到着。

 ガラッと音を立てながら、ドアが横にスライドし、顔を覗かせる。


「えっと……あ、メルー、迎えに来たよー」


 中を見回し、メルがいることを確認すると、声をかける。


「あ、ねーさま!」


 タタタッ! と小走りでメルが駆け寄って来て、そのままぼふっと抱き着いてくる。


「ふみゅ~……ねーさまはふかふかじゃぁ……」

「あ、あはは……こっちのメルも、胸が気に入っちゃってるんだね……」

「うむ。しかも、大人状態のねーさまのおっぱいはもっと好きじゃ!」

「そ、そっか。でも、恥ずかしいから、あんまりそう言うことは言わないでね……?」


 なんか、周りの子たちがすごく見てるから……。

 特に、男の子なんて、ちょっと顔を赤くしてるからね?


「とりあえず、帰ろっか」

「うむ! そういえば、にーさまは?」

「えっと、依桜はちょっと用事があるらしくてね。校門で合流するから、大丈夫だよ」

「そうなのか。なら、よかったのじゃ」


 ちゃんと依桜と合流できると知って、メルはほっとした。

 まあ、本来ならボクじゃなくて、依桜が行くはずだからね。


「それじゃあ、行こ――」

『きゃああああああああああ!』


 ボクが行こうと言おうとした瞬間、教室内から悲鳴が聞こえてきた。

 何事かと思って後ろを見れば、女の子が一人、窓から落っこちそうになっていた。


「――ッ!」


 ボクはそれを視認した瞬間には、すでに体が動いていた。

 文字通り、目にも止まらぬ速さで動き、窓の方へ向かう。


 だけど、


『あ……』


 目の前で女の子が窓から落っこちてしまった。

 ボクも大急ぎで窓から飛び降りる。


『『『えええええええええええ!?』』』


 上から驚きの声が聞こえるけど気にしない!


 ボクは落下だけでは追いつけないと悟り、すぐさま壁を走行することで距離を詰める。


 壁面走行は、師匠に教え込まれた基礎中の基礎。


 これができないと、暗殺者は務まらない! とか言われてました。


 まあこれ、一応スキルとか能力なしでできることみたいだけど。


 って、そんなことを考えている場合じゃない!


 ボクはさらにスピードを上げ、女の子の真横に来ると壁を蹴って女の子を抱きかかえる。

 そのままくるりと回転し、ボクは女の子を抱えて地面に着地した。


 そして、


『能力『壁面走行』を習得しました』


 習得しちゃったみたいです。


 …………え、ええぇ?


 な、なんで今、このタイミングでそんな能力を習得しちゃってるの……?


 こう言う便利そうなのって、ボクが異世界で暮らしていた時に手に入れるべきものだと思うんだけど……。なのになんで、今になって、習得しちゃってるの? ボク。


 ……前にもこんなことがあった気がするよ。

 っと、今愚痴を言うのは後回しにして、女の子の方。


「えっと、大丈夫?」

『は、はい……。あ、あれ……? わ、わたし、窓から落っこちて……あれ? あれ?』

「よかった……」


 女の子は今の状況に混乱しているけど、怪我とかはないみたい。

 これでもし怪我があったら、ちょっと大変なことになってたよ。


『え、えっと、あの……お姉さんは?』

「あ、いきなりごめんね? ボクは男女桜だよ。無事でよかった」

『桜お姉さん?』

「うん。そう呼んでくれて大丈夫だよ」

『あ、わ、私、えと、瑠璃って言います……』

「瑠璃ちゃんだね? 念を押すんだけど、怪我とかはないかな?」

「は、はい。桜お姉さんに助けてもらったので、えと、だ、大丈夫、です」

「そっか。じゃあ、地面に下ろすね」


 そう言って、ボクは瑠璃ちゃんを地面に下ろす。

 と、瑠璃ちゃんを地面に下ろしたところで、


『『『わああああああああああ!』』』


 校舎の方から、かなりの歓声が響いてきた。

 え? と思って、校舎を見れば、初等部の子たちがボクたちを見て窓から身を乗り出して、口々にすごいとか言っていた。


『すっげえ! あのねーちゃん、忍者みたいだった!』

『うんうん! しかも、瑠璃ちゃんを抱っこして、くるくる回転してた!』

『カッコイイ!』


 あ、あー……し、しまったぁ……思わず、目立っちゃった……。


 横を見れば、キラキラとした目でボクを見上げる瑠璃ちゃん。

 校舎を見れば、やっぱりキラキラした目でボクを見てくる初等部の子たち。


 ……それを見て、ボクは苦笑いを浮かべるだけでした。

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