バレンタイン特別IFストーリー【ルート:未果】

 バレンタインデーから一週間前の金曜日。


 その日はいつも通りの日。

 いつも通りに朝登校して、いつも通りに授業を受ける。

 平和な日常っていいよね。


 なんでもない、この心地よい雰囲気が穏やかで好き。


「あ、依桜、ちょっと手伝ってもらいたいことがあるのだけど、いいかしら?」

「うん、いいよ」

「ありがと。それじゃあこの資料を運びたいんだけど、大丈夫?」

「うん。力仕事なら任せて」

「ふふっ、ほんと、依桜は頼もしくなったわね」

「まあ、これくらいしか役に立てないからね。それに、未果の頼みなら断らないよ、ボク」


 なんて、本音を言うと、


「そ、そう、あ、ありがとね、依桜」

「うん」


 なぜか、顔を赤くしながらお礼を言われた。


 たまにあるんだけど、どうして顔を赤くするんだろうね、未果って。

 付き合いはかなり長いけど、今でもよくわからない時がある。

 でも、それでも未果との関係は、本当に落ち着くよ。

 なんというか、この空気間でいるのが当たり前、みたいなね。


 うん。一番落ち着くし、一番リラックスできる。



「依桜、この資料、そっちの棚に置いてくれる?」

「うん」


 未果に手渡される資料を指示された棚に入れていく。


 未果が資料を確認して、場所を把握したらボクに手渡して指示、って感じで。

 お互いほとんど話さないけど、なんとなく考えていることがわかるので、意思疎通は問題ないです。


 やっぱり、付き合いが長いからね。


 お互いの考え方は誰よりも理解している。


 ほかのみんなともある程度できるとは思うけど、未果ほど正確じゃないかな。


 これは多分、幼稚園の頃からの付き合いである未果とボクだからこそできることなのかなって。

 この後も、未果と一緒に資料を整理しました。



 五時間はちょっとした事情で自習の時間になった。


 やることは自由で、勉強をしてもいいし、読書も大丈夫だし、誰かと話していても大丈夫。


 なので、ほとんど人は読書をしているから、仲のいい友達と話している人がほとんど。


 ちなみに、これは一年生のすべてのクラスがそうなので、多少うるさくなってしまっても問題はないです。


 まあ、うるさすぎると、下の階の二年生の先輩方に迷惑がかかるから、ちゃんと次長はしてるけどね。


 ボクたちも例外じゃなく、みんなで集まって話す。


「そういや、来週の日曜日はバレンタインで、学園でイベントやるだっけか?」

「そうね。たしか、学園側も生徒たちにチョコレート系のお菓子を学園内の色々なところに置いていて、自由に飲食できるみたいよ」

「その辺り、すごい学園だよな、ここは」

「だねぇ。しかも、その日はほとんどの生徒が休日でも登校してくるから、告白のチャンス! って話だしねー」

「やっぱり、女の子的には一年の内で一番のチャンスなのかな」


 ボクは誰かに対して、恋愛感情を持ったことがないから、よくわからないけど、女の子たちは、きっと本気で準備するんだろうね。


「そりゃそうよ。やっぱり、意中の相手に最もアピールできる日だからね。まあ、女性が男性にチョコをプレゼントするのは、日本だけみたいだけど」

「ああ、海外では、男性が女性にプレゼントするところもあるって聞くな」

「ちょうど、日本とは反対なんだなー」

「まあ、日本に住んでる以上、やっぱり女の子にとって大事な日であることに変わりはないよねぇ。もちろん、男子もね」

「そりゃそうだぜ! やっぱ、誰かからチョコをもらえるってのは、たとえ本命じゃなくて、義理だったとしても、相当嬉しいからなー」


 態徒の言うことは、理解できる。

 ボクも、毎年チョコレートをもらっていたけど、やっぱり嬉しいからね。


 義理とは言っても、みんな手作りだったし、心がこもっていて、ボクはすごく好きだよ。

 自分の作ったものをちゃんと食べてくれてると思うと、やっぱり心があったかくなるから。


「そうだな。……まあ、俺の場合、たまにおかしなチョコをもらったりするが、その人なりの気持ちの表し方だと思ってる。たまに、食べても大丈夫なのかわからないものを渡されたりするが」

「それはそれで心配ね。大丈夫なの?」

「一応な。ただ、捨てることは絶対にしてはいけないことだから、毎年責任を持って食べてるよ」

「漢だな、晶」

「……いや、普通だと思うぞ……中身以外は」


 な、なんて哀愁漂う微笑みなんだろう。

 一体何が入っていたんだろうね……。


 この後も、みんなとバレンタインの話で盛り上がりました。



 六時間目。


 今日の六時間目は体育。

 内容はテニスで、ダブルスをすることになりました。


 ボクのペアは、


「やっぱり、依桜よね」

「うん。よろしくね、未果」


 未果です。


 ボクと未果は、大抵ペアを作る場合、一緒になることが多いです。


 さすがに、男女別になる時は違うけど、男女混合でも問題ない時は、ボクと未果はペアを組みます。

 一番息を合わせやすいからね。


 これは、席替えの時もそうです。

 決め方が自由の時は、いつも未果と隣にします。


 なんというか、それが当たり前と思っているんだよね。

 幼少の頃から一緒にいるからかな?


 そんなわけで、ボクたちはいつも通りに軽く準備運動をしてから、テニスに臨みました。



 いつもなら、ここでいつも通りに授業が何事もなく進んで、楽しく未果と一緒にテニスができたんだろうけど……今日はそうならなかった。


 事の発端は、師匠の何気ない一言。


「イオとミカは、本当に一緒にいるな。あれか? やっぱり、恋人なのか?」


 と。


 前までのボクだったら、


『あはは、違いますよ。ボクと未果は幼馴染ですから』


 って言うんだけど、この日のボクはおかしかったんです。


 なぜか、


「ふぇ!? ち、ちちちちち、違いますよ!? ぼ、ボクと未果がこ、恋人、だなんて……そんな……」


 なぜか慌ててしまった。


 師匠の何気ない一言を聞いた瞬間、ドクンッ、って心臓が跳ねた。


「そうなのか? しかし、お前たちは普段から一緒にいるところを見かけるしな……あたし的には、長年一緒にいる夫婦って風に映るんだが」

「ふ、夫婦!? な、ななななななな何言ってるんですか、師匠! ぼ、ボクと未果は、た、ただの幼馴染、で、え、えと……し、親友なんです!」

「そ、そうですよ、ミオさん」

「変だな……てっきり、お前たちはすでに付き合っていて、行くところまで行ってると思っていたんだが……」

「ふにゃ!?」

「というか、お前たちは普通にキスもしていそうだと思ったんだが……」

「ふにゃにゃ!?」

「み、ミオさん! これ以上は……」

「というか、普通ずっと一緒にいておきながら、親友って……お前、普通そこは親友じゃないと思うぞ?」

「ふにゃにゃにゃ!?」


 し、親友じゃない……?

 え、えっと、で、でも、ボクは未果のことを大切な幼馴染の女の子だと思ってて……す、少なくとも恋人ではなくて……で、でも、大切で……え、えとえとえと……


「い、いい加減にしてください、ミオさん!」


 ここで、未果が顔を赤くしながら、師匠を怒鳴っていた。


「まったく……私と依桜はそんな関係じゃないです! 恋人だなんて……全然釣り合ってませんからね!」


 と、未果がそう言った瞬間、まるで鈍器で殴られたような痛みがボクの心を容赦なく襲った。


 一番仲が良くて、一番意思疎通ができて、一番……大切だと思っていた女の子からの、容赦のないその一言は……なんだか、すごく、辛くて……悲しくなった。


 そ、そうだよ、ね……。

 釣り合ってない、よね……。


「ぼ、ボクなんかじゃ、未果とは釣り合ってない、よね……」


 ぽつりとそう言った瞬間、ボクの目から次々に涙が流れてきた。


「あ、あれ……お、おかしい、な……と、当然、の、こと、なのに……あ、あはは……う、うぅっ……ぐすっ……ご、ごめんなさいっ!」


 ボクはなんだか、ここにいるのが酷く辛くなって、ボクは逃げ出すように、走り出していた。


「あ、い、依桜!」


 後ろから、ボクを呼ぶ声が聞こえてきたけど、きっと幻聴……振り返っちゃダメ。

 ま、前を、見ないと……。



「依桜……」


 依桜が走り去っていった方を見ながら、私は呆然と眺めるだけだった。


 な、なんで、どうして……?

 どうして依桜は、泣いてしまったの……?

 わ、私、何かやってはいけないことをしてしまった、の……?


「……未果」


 何が何やらわからず、私が混乱しているところに、怒ったような表情の晶が私に話しかけてきた。


「あ、晶……」

「未果。さっきのセリフは……ダメだろう」

「せ、セリフ……?」

「さっき、全然釣り合ってない、って言っただろう?」

「え、ええ……で、でもあれは……」

「ああ。間違いなく、未果自身が依桜と釣り合ってない、って言おうとしたんだろう?」

「で、でも、私、ちゃんと、依桜にそう言った、はず……」


 だ、だって、私なんかじゃ依桜とは全然釣り合ってませんからね! って言った、はず……


「いや、その前の部分が言えてなくて、全然釣り合ってない、から言ってたぜ、未果」

「え……」

「未果ちゃん、さすがにあれは……いくらわたしでもちょっと擁護は難しい、かなぁ」

「わ、私、言えてなかった……?」

「「「……」」」


 無言で頷く三人。

 そ、そんな……肝心な部分が抜けて言ってしまったなんて……。


「依桜君の性格から考えると、謙虚で自分に自信がないから、未果ちゃんが『依桜じゃ私とは釣り合わない』って風に捉えちゃったんだろうねぇ」

「そんな……」


 わ、私、そんなつもり、じゃなかったのに……。

 とんでもないことを言ってしまった……。一番依桜と付き合いが長くて、一番大切だと思っていた人に対して、一番言ってはいけないことを……。


「わ、私……ど、どうすれば……」


 わからない……私は一体、どうすればいいの……?


 謝る……?


 ……うん。それが一番よね。

 やっぱり、謝らないと……。


「私、依桜の所へ行かないと……」


 ふらふらとした足取りで、依桜の所へ向かおうとしたところで、


「いや、ダメだ、未果」


 晶が私の行く手を阻んだ。


「な、なんで……? 私は、急いで依桜の所へ行って、謝らないと……」

「今未果が行っても、逆効果にしかならない」

「で、でも、あ、謝らないと……」

「今の依桜が未果に謝られても、自分が泣いて、逃げ出してしまったせいだと、自分を責めることになりかねない。というか、確実にそうなる。そうなれば、それこそ、未果と依桜の関係が完全に崩れてしまう」

「そうだね。依桜君は優しすぎるんだよ。だから、未果ちゃんが謝っても、自分のため。自分を傷つけないためだと解釈しちゃって、距離を置いちゃうに決まってるよ」

「だなー。やっぱ、この件に関しては、オレたちの方で依桜の誤解を解くからよ」

「態徒の言う通りだ。俺たちに任せてくれ」


 いつもなら、態徒の提案だからと軽口を言っていたのだけど、今はそんな雰囲気でもないし、何も言えないほどの正論。


 いや、私がそれを言う資格はないし、意味がない。

 それに、今は私も、それが一番いいと思っている……。


 だから、


「……わかったわ。任せる」


 晶たちの言う通り、三人に任せることにした。


「ああ。誤解は解いておくよ」


 ふっと軽く笑って、晶がそう言ってくれた。


 ……私は、取り返しのつかないことをしてしまった……。



 あの後、ボクは先生に体調が悪いと言って、早退してしまった。


 泣いていたボクを見て、戸隠先生は一瞬驚いた顔をしたけど、何も聞かずに早退することを許可してくれた。


 ボクはお礼を言って、家に帰宅し、何も言わずに部屋に閉じこもった。


 未果にあんなことを言われて、涙が溢れて止まらない。


 自分でもなんでこんなに泣いているのかわからない。


 でも、何かが悲しくて、何かが辛い……。


 なんで、なんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんで……。


 ずっと仲がいいと思っていたのはボクだけで、本当は、ボクとは仲が良くなくて……一方的にボクがそう思っていただけだったってこと……?


 そん、な……。


「うっ、ひっぐ……うぅ……うわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっっ! ああぁ……あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!」


 誰もいない部屋で、ボクはひたすらに泣いた。


 近所迷惑になるとも、下にいる母さんたちに迷惑をかけることなんて頭の中にはなく、ただただひたすら感情のままにボクは泣いた。


 十九歳にもなって、みっともなく。


 まるで、幼い子供のように、ボクはただただ泣いていた。


 泣いても泣いても、涙は途切れることもなく、ボクの目から溢れ続けた。

 拭っても拭っても、すぐに涙が出てきて、一向に前が見えない。

 零しても零しても、次から次へと涙が溢れる。ボクの体にある水分を全て使おうとしているかのように。


 でも、泣いていないと、ボクの心が壊れてしまうような気がして、ボクはひたすらに泣く。

 じゃないと、この辛さに、悲しみに押しつぶされてしまいそうで……。



 それから、声も枯れてきて、ようやく涙も少しずつ止まって来た頃。


『依桜、大丈夫……?』


 母さんの心配そうな声が聞こえてきた。


『ずっと泣いていたみたいだけど、何かあったの?』

「…………」


 ただただ心配してくれている母さんの質問に、ボクは何も答えられなかった……。


『そう……何も言えないのね』


 悲しそうに言う母さん。

 その声を聞くだけで、ボクの胸が痛くなる。


『お母さんは無理でも、晶君たちになら言える?』

「あ、きら……?」

『ええ。依桜が心配になって来てくれたみたいよ。それから、話したいこともあるって』

「み、未果、は……?」

『未果ちゃんは来てないわ』

「そう、なんだ……」


 やっぱり、あの言葉の意味は……。

 ダメ……そう考えただけで、せっかく止まってきた涙が……ま、た……。


「う、くっ……ふえぇ……」

『……仕方ないわね。晶君! 依桜をお願い!』


 ドアの外から、母さんのそんな言葉が聞こえてきたと思うと、階段を急いで駆け上がってくる音が聞こえてきた。


 そして、


「依桜!」


 晶たちがボクの部屋に入って来た。


「あ、きら……たい、と……めい……ぼ、ボク……ボク……!」

「依桜君!」


 また泣き出しそうになった瞬間、女委がボクを優しく抱きしめてきた。


「大丈夫……大丈夫だから。だから、落ち着こう? ね?」

「め、いぃ……」

「辛いよね。だから、もう一度泣いて、少し落ち着いてから、話そ? ね?」

「うっ、ん……ふえぇ……ぐすっ……うえぇぇぇぇぇえぇぇぇぇんっっ!」


 女委に撫でられながら、ボクは再び、ひたすら泣いた。

 ボクが泣き止むまでの間。女委は優しくボクを撫で続けてくれた。

 それだけで、すごく、安らいだ気がした……。



 ようやく、依桜君が泣き止んだ頃、ようやく話し始めた。


「ボク……未果に、嫌われちゃった、のかな……?」

「大丈夫。未果ちゃんは、依桜君を嫌っていることなんて絶対ないから……」

「で、でも……つり、あってな、いって……」


 あー、これやっぱり、依桜君が未果ちゃんに釣り合ってない、って解釈しちゃってるね……。

 案の上でした。

 まずは、ここの誤解を解かないとね。


「え、えっとあれはちょっとしたすれ違いでね……まあ、なんて言うか、あのセリフの前には本当は『私なんかじゃ依桜とは』っていう言葉が入るはずだったみたいでねぇ……。まあ、ついカッとなって抜けちゃったみたいなんだよ」

「……そ、うなの?」

「ああ。これは本当だ。というかだな、普通に考えてもみろ、依桜。嫌いな相手と、小さい頃からずっと一緒にいる、なんてこと、普通はないだろう?」

「あ……」


 晶君の言ったことに、依桜君は何かに気付いたような顔をする。


「それに、嫌いな相手と普段から一緒にいる、なんてこと、普通はないと思うぞ」

「だな。未果はちゃんと言いたいことは言うタイプだぜ? もし、依桜が嫌いなら、面と面向かって嫌いとか言ってるぜ? それによ、嫌いなら一緒にゲームもしないし、旅行もしない。てか、誕生日を祝う、なんてことないと思うぞ、オレ」

「……う、ん」


 畳みかけるかのように態徒君が言うと、依桜君の暗かった表情が少しずつ明るくなっていく。


「まあ、この件に関しては、未果ちゃんもかな~り落ち込んでてねぇ。依桜を傷つけたって、自分を責めてたよ」

「未果、が……?」

「うん。未果ちゃんにとっても、依桜君が大切な幼馴染であることに変わりはないもん。多分、わたしたちの中の誰よりも、依桜君を大切にしてるんじゃないかなぁ」

「ああ。依桜が異世界でしたことに対して、かなり傷ついていることを知って、弱った体に鞭打って走ってきて、抱きしめたのは未果だっただろう?」

「うん……」

「自分の体なんて省みないで依桜の所へ向かうレベルだぞ? そんな未果が、依桜を本気で嫌うと思うか?」

「ううん……未果は、そんなことしない……」


 晶君の問いかけに、依桜君はすぐに否定する。


 未果ちゃんがそんな酷い人間じゃないと言うことを一番知っているのは、依桜君自身。


 さっきは、何かがあって、あんな風に深く考えることなく、マイナスに解釈しちゃっただけだもんね。


「だから、この件は誤解だ。大丈夫か?」

「うん……ボク、未果に酷いことをしちゃった……。目の前から逃げちゃって……ボクを呼んでもいたのに、それを無視して、走っちゃって……ボク、未果を傷つけちゃった……」

「……ほんと、似た者同士だなぁ、依桜と未果はよ」

「だな。俺も、この二人ほどぴったりな組み合わせを見たことがない」

「同感だね」


 依桜君と未果ちゃんは、お互いを大切な存在だと思い、お互いが一番大事だと思っているような節があるからね。


 実際、未果ちゃんが撃たれた時、依桜君は言葉に表せないほどの強い殺気を放っていたからね。いやぁ……あれは、本当に怖かったねぇ……。


「それじゃ、これからどうするか、だが……一応訊くんだが、依桜。なんで泣きながら逃げたんだ?」


 誤解が解けると、晶君が依桜君に逃げ出した理由を尋ねた。


「わ、わからない……」

「わからないって……依桜、何でもいいんだぜ? とりあえず、その時感じたことを言うとかでもよ」

「感じた、こと……」


 依桜君が目を閉じる。

 数瞬の間目を閉じていると、ふと目を開け、こう言いだした。


「な、何と言うか……未果に嫌われると思ったら、辛くて、悲しくなった、かな……」

「「「……ん?」」」


 依桜君の言ったことに、わたしたち三人は、思わず同じ反応をしていた。


 え、今、嫌われると思ったら、辛くて悲しくなった、って言ったよね……?


 い、いやいやいや。まさかまさかまさか?

 い、いやでも、依桜君、最近その片鱗あるしなぁ……。


「依桜君。それはもしかして、胸がきゅっと締め付けられるような痛みがあったり、未果ちゃんの顔を思い浮かべると、なんだかこう……嬉しくなったり、幸せな気持ちになったり、する?」

「う、うん……よくわかったね、女委……」


 その依桜君の反応を見て、わたしたちはそろって思いました。


(((あ、これ親友だからじゃなくて、恋愛感情があるからだ)))


 と。


 つまり、依桜君が今回逃げ出してしまった原因は、好きな女の子に嫌われたと思ってしまったからってことかな?


 お、おー……これは……何と言うか……まあ、あれ、だね。うん。


 多分、今まで恋なんてしたことがなかったから、無自覚、だったんだろうなぁ。依桜君。


 未果ちゃんはすでに自覚があって、依桜君に対して恋愛感情を持ってることに気が付いている。


 ただ、依桜君の場合は圧倒的鈍感。


 キングオブDONKAN。


 だからね。


 じゃあこれ、まずは依桜君が恋を自覚しないとだめだね。

 よし。ここは、女委さんが一肌脱ぎましょう。


「ふふふふふ……依桜君。その気持ちの正体、知りたくないかい?」

「め、女委は知ってるの……?」

「もっちのろんさ! というか、ほとんどの人がすぐに気づくと思うんだけどねぇ」

「そ、そうなの? でも、ボクは全然わからない、けど……」

「まあ依桜君だからね! まあ、とりあえず、話が進まないので、ズバリ言います。依桜君のその気持ちの正体……それはズバリ! 恋! です!」

「……ふぇ!?」


 わたしが依桜君の気持ち正体が、恋だと言った瞬間、一瞬の間の後、顔を真っ赤にしてある意味いつも通りの反応をした。

 さすが依桜君。やっぱりいつも通りよ!


「こ、恋って、あの……さ、魚の?」

「いやそれ鯉。てか、ベッタベタなボケだな!」


 依桜君のボケに、態徒君がまあまあのツッコミを入れる。

 さすが天然。

 無自覚にボケるね。

 まあいいと思います。


「そうじゃなくてね、恋愛の方の恋です。英語で言うと……Love! OK!?」

「お、おーけー……?」

「うむ! 理解したね! それじゃあ、依桜君。ここからは、依桜君が自分でやることを選択します」

「選択……?」

「依桜君にあるのは、未果ちゃんに告白するか、今世紀最大の告白をするかの二択です!」

「あ、あれ? それって、結局一択な気が……」

「ノンノン。二択です! 普通に告白をするか、クッソ恥ずかしい告白をするかの二択です! さあどうする!?」

「こ、告白しかない、の……?」


 自身を微塵も感じない依桜君の消極的なセリフ。


 無自覚美少女はこれだから……。

 やれやれだよねぇ。


「告白しかありません! 依桜君に訊きます! 正直に答えてください!」

「う、うん」

「未果ちゃんが好きですか!?」

「ふぇ!?」

「さあ、どっちなんだい!?」

「え、えとえとえと、あ、あの、その……す、好き、です……」

「それは、どのくらい!? 独占!? 監禁!? 殺したいほど!?」

「さ、さすがにそれは言い過ぎだよぉ! で、でも……ど、独占したいくらい、に、未果が好き、だよ……」


 うおぅ、なんて可愛いんだろうか、この天然系エロ娘。

 さすがだぜぇ……。


「よろしい! ならば、KOKUHAKUDA☆」

「ふにゃ!?」

「ちなみに、依桜君に拒否権などありません。告白するか、告白するかの二択だけですね」

「ひ、酷い……」

「酷いじゃありません! 依桜君。告白して玉砕するのと、しないでずっと引きずるの、どっちが辛いと思いますか?」

「え? え、えっと……ひ、引きずる、方?」

「その通りです! それはなぜか! そうじゃないと、諦めがつかない可能性が高いからです! そうしないと、新しい恋なんてできません! ですが、玉砕したのであれば、すっぱりと諦められ、新しい恋に踏み出すことができると言うわけです! ならば、告白した方がいいでしょう? それに、未果ちゃん相手ならば、フラれることは100%ありません! 依桜君の大勝利です!」


 力説に力説を重ねるわたし。


 なんかもう、テンションが色々ととんでもないことになってるけど、気にしちゃぁダメっす! こう言うのはね、ひたすらにまくしたてるもんですよ!


 ……まあ、理由は別にあるわけだけど。


「さあ、どうしますか!?」

「……わ、わかったよ。ぼ、ボク、未果に告白、する……」

「言ったね? 絶対だよ!」

「う、うん」

「よーし、それじゃあ作戦会議! 空気一号の晶君、空気二号の態徒君! 案を出そうぜ!」

「女委の怒涛の喋りが止まらないと思ったら、トントン拍子に話が進んでいくんだが……」

「あ、ああ……なんかオレ、こんな状況にデジャヴを感じるんだが……」


 なにかぶつぶつ言っている二人をガンガン無視!

 わたしは、ぶっ通しで行くんだぜ!


「ほらほら! 依桜君の豊満なおっぱいの内側に実った、綺麗な初恋を実らせたくはないかい!?」

「言い方悪すぎだろ!?」

「うるせぇ! さっさとやるぞー! はい、じゃあ態徒君! 案をどうぞ!」

「くっ、マジでゴリ押ししてきやがるぜ……! あ、案か……や、やっぱ安直にバレンタイン当日に告白する、とか……?」

「よし採用! 依桜君、バレンタイン当日、未果ちゃんに告白だぁ!」

「ええ!? 作戦会議は!?」


 依桜君が、なにやらさえずっているみたいだけど、もちのろんでガン無視キメる!

 というか、時間ないし!

 わたしもね、色々と限界なんです!


「今ので終了! 当日、依桜君はラブレターを用意! 朝、未果ちゃんよりも早く登校し、そこにぶち込む! 中身は『大切な話があります。午後四時に、四階の空き教室に来てください。あなたの宝物より』だからね!?」

「は、恥ずかしいよ!」

「恥ずかしがってたら、告白なんて夢のまた夢! ちなみに、名前は絶対に書いちゃダメ! OK!?」

「で、でも……」

「OK!?」

「あ、あの――」

「OK!?」

「お、おーけーです……」


 よし、了承は得た!

 あとは、依桜君にラブレター書かせて、当日にチョコレートと一緒に渡すのみ。


「あ、それから、未果ちゃんに渡すバレンタインチョコは――」


 わたしが思いついた未果ちゃんへのバレンタインチョコを言うと……


「そ、そそそそそ、そんなんことをするの!?」

「あったぼうよ! これくらいしないと、恋人になんてなれません! ……まあ、未果ちゃんが断るなんて、京に一つもないわけですが」

「え、えっと、何か言った……?」

「気にしない! さあ終了です! 依桜君、絶対にやるんだよ!」

「え、あ、う、うん……」

「それじゃあ、わたしたちは帰るね! さあ、行くぞ、二人とも! 今日はわたしのお店でご飯食べてって! おごるぜー!」

「め、女委、わかったから! せめて、普通に歩かせてくれ!」

「た、ただ飯は嬉しいが、この状況は恥ずかしすぎるぞ!?」

「うるさい! いいから行くぞー!」

「「うわあああああああああああああ!」」

「き、気を付けてねー……」


 依桜君の見送りの声が聞こえたところで、わたしたちは依桜君の家を後にしました。



「まったく……失恋をごまかすにしたって、もっと方法があるんじゃないのか?」


 わたしのお店にて。

 態徒君がトイレに言った直後に、呆れながらそう言ってきた。


「にゃ、にゃははー。さっすが晶君。空気が読めるし、鋭いねぇ……」

「ま、中学生の時から一緒にいるわけだしな……。少なくとも、中学一年生の時点で、好きだったんだろう? 依桜のこと」

「まあねぇ……。ほら、依桜君みたいな優しくて、かっこいい人、なかなかいないでしょ? だから、まあ……好きになっちゃっててねぇ」


 思えば、出会った頃から少しずつ惹かれてたのかもねぇ。

 依桜君って、すっごく魅力的だから。


「……そうか。別に、泣いてもいいぞ」

「……大丈夫だよ。わたしは、決して人前で泣かない女の子! そして、どうしようもないド変態の腐女子! これくらい、マゾなわたしからすれば、ご褒美みたいなもんです!」

「……ほんと、女委は優しいよ。元々、依桜は未果に譲るつもりだったんじゃないのか?」

「ありゃりゃ、そこまで見抜かれちってたかー。うん、そうだよ。ほら、依桜君と未果ちゃんって、どうやっても入り込めない謎のあれがあるじゃん? 何と言うか、依桜君に一番お似合いなのは、未果ちゃんだと思っててねぇ。というかこれ真理」

「……否定はしないな。あの二人は、ある意味特別な関係のようなものだからな。長年ずっと一緒にいた二人だ。俺たちが入り込む隙なんて、最初から無いな」

「にゃはは……そう、だよねぇ……」


 あー、ダメだなぁ、わたし。

 未練たらたらじゃないか。


 ……まあ、わたしにとっても、初恋の人だったからね。


 仕方ないね。


 ……でも、これが失恋、かぁ。


 この経験はきっと、この先の同人作家として活かせる部分だよね。

 うん……これは、絶対に無駄にしないよ。


 辛いことも糧にして、わたしは作品を作ろう。


 そう、誓った。



 バレンタイン前日。


 あの日、晶からLINNが来て、何とか無事、誤解は解けたみたい。


 私はほっとしたのだけど、なぜか依桜が私を避ける。


 私が話しかけようとしても、脱兎のごとく逃げ出してしまって、一向に話せない。

 お昼の時も、依桜だけが姿をくらましてしまって、会う事ができない。


 ……辛い。辛すぎる……。


 もとはと言えば、私が原因で起こしたことだから、自業自得なんだけど……やっぱり、大切な幼馴染であり、私が恋をしている相手から避けられているとなると、やっぱりつらいし、寂しい……。


 はぁ……あんなことを言わなければ、こんなことにならなかったのに……。


 きっと、明日のバレンタインも、依桜には会えないわよね……。


 だと言うのに、私はチョコを作っていた。


 そこには、晶や態徒たちとは別で、私が本気で作った、ハート形のチョコが置いてある。

 もちろん、文字入り。


 そこには、


『月が綺麗ですね』


 と書いてある。


 有名な夏目漱石の告白よね。


 正確に言えば、夏目漱石が告白した時に使ったんじゃなくて、英語の教師をしている時に、『I Love You』を『あなたが好きです』って訳すのも情緒がないから、『月が綺麗ですね』と訳しなさい、と言った話だけどね。


 これで、もし間違ってたら相当恥ずかしい。


 まあ、結構有名な話だから割と知ってる人は多いと思うけど。


 ……にしても、我ながら未練がましいというかなんというか……ほんと、自分が嫌になる。

 はぁ……でもせめて、依桜にこのチョコは渡したいわね……。



「明日……未果に告白を……」


 バレンタイン前日。

 ボクは自分の勉強机に向かって、手紙を書きながら、そう呟く。


 手紙の内容は……女委が指示した通りの文。


 さ、さすがにすごく恥ずかしいけど……で、でも、これが一番いいって言うから、これで頑張ってみることに。


 明日は早く行かないと……。



 そして迎えた、バレンタイン当日。


 私の足取りは重い。


 なにせ、依桜とはほとんど会えず話せず状態だったから、精神的にダメージが大きくて……。

 結局チョコを持ってきてしまったけど……まあ、無駄になるかもしれないわね……。


 その時は、桜子さんに頼んで、渡してもらいましょ。

 せめて、私の気持ちだけでも伝えたい。



 色々と考えながら歩き、学園に到着。


 いつも通りに昇降口から入り、自分の下駄箱を開けると……


「あら、何かしら、これ……」


 白い手紙が入っていた。


 今時なかなか見ない、ハートのシールで止められた封筒。


 これ、どう見てもあれ、よね?


 ラブレター……。


 い、いやいやいや。まさかね……?


 私、たしかに男子から告白されることはあったわ。でも、同性から告白されるようなことはなかったし……。


 ……でも、現にこうして、あるわけだし……。


 中身は見ないと……。


 なるべく丁寧に封筒を開け、中の手紙を見ると、


『大切なお話があります。午後四時に、四階の空き教室に来てください。あなたの宝物より』


 という、ラブレターなのかどうか怪しいメッセージが書かれていた。


 まあでも、多分ラブレターよね……?

 だって、あなたの宝物って書いてあるし……。


 というか、私の宝物ってどういうこと?

 物は喋らないし、なにも書かないわよね……。


 じゃあこれ、一体誰が……?


 誰かはわからないけど……依桜だったら、嬉しいわね……。


 ……なんてね。さすがに無いわよね。


 あんなことを言った後だもの。きっと嫌われてるわ。

 まあでも、一応約束の時間になったらここに行かないとね。



「おはよう」

「おはよう、未果」


 教室に行くと、晶が先に来ていた。

 まあ、いつも通りの光景ね。

 もう何度も見える光景。


「おーっす」

「おっはー」


 次に、態徒と女委が登校してきた。


 依桜は……来ていない。

 まあ、そうよね……やっぱり、顔を合わせずらいわよね……。


 ふふふ……なんかもう、どうでもよくなって来たかも……。



 それから、依桜がいない状態で、私たちはバレンタインイベントを楽しんだ。


 でも、私の心の中は常に依桜を求めていた。


 いつも一緒にいて、隣に依桜がいるのが当たり前だったのに、あんなことがあってからは、それが当たり前じゃなくなってしまった。


 ミオさんの何でもない一言にむきになってしまったのは、本当にダメだった。

 私は、なんであんなことを言ったのかしら……。


 でも、心にぽっかりと穴が開いたような喪失感が、私の胸中にずっとあった。



 そして、空虚で退屈な時間が過ぎ、約束の時間が迫って来ていた。


 私は、三人に行くところがあると伝え離れた。


 約束の場所は、四階の空き教室。時間は四時。


 ちょうどの時間に私は、教室の中に入った。

 何気なく教室の中に入った私は、教室の中にいた人物を見て、絶句した。


「え、えと、こ、こんにちは、未果」


 そこには、私がずっと求めていた相手……依桜が夕陽に照らされながら、はにかみ顔をしながら、立っていた。


「い、お……?」

「うん。ボクだよ。ご、ごめんね、最近ずっと避けちゃってて……」

「う、ううん、悪いのは私よ……。私があんなことを言ったせいで……本当に、ごめんなさい……私、今後はもう、依桜とは、一緒にいないわ……それだけのことをして、しまったから……」


 つい、そんな言葉が私の口を突いて出ていた、


 だけで、なぜか自然に出てしまった。


 本当は、勢いよく依桜を抱きしめたい。


 でも、それは許されない。


 私は、大切な人である、依桜を傷つけてしまった……だから、そんな資格なんて……。


 そう思っていた時だった。


「未果、ボクね、未果に伝えたいことがあるの……聞いてくれる?」


 そう、依桜がお願いしてきたのだ。


 私に断る気なんてない。

 依桜の願いを私が断るわけがない。


 絶対に……。


 だから、こくりと頷いた。


 それを見た依桜は、胸に手を当てて、深呼吸しだした。


 どうしたのかしら?


 ……やっぱり、私を罵倒するために意識を集中させてるのね。


 でも、覚悟はもうできてるから……。


 きっと大丈夫。大丈夫……。


 そして、依桜がついに目を開け、口を開いた。


「――ボクは、未果が好きです」


 依桜の口から発された言葉は、罵倒でも、侮蔑でも何でもなかった。


 発されたのは……私が好き、というシンプルで、ありふれた告白文句だった。


 私は思わず、口元を手で覆っていた。


「う、嘘……」

「嘘じゃないよ。ボク、未果のあの時の言葉で気付いたの。……本当はボクは、昔から未果が好きで、ずっと恋をしていたんだ、って。……と言っても、気付かせてくれたのは、女委なんだけどね」


 えへへと笑う依桜。


 それを聞いて、私ははっとした。


 女委が依桜を後押ししたんだと。

 私は、女委が依桜に対して恋愛感情を持っていたのは知っていた。


 だから、仮に依桜が女委と付き合うことになっても、私は応援しようと決めていた。

 きっとそうなると思っていた。


 そうなれば、私もこの初恋に踏ん切りがついて、前に進める気がしたから。


 でも、でも……現実は、違っていた。


 依桜は今、私のことが好きって……。


「そ、その、えっと……未果はどう思ってる、かな……?」


 困ったような顔を浮かべている依桜。

 それを見て私は、今までの人生で一番の笑顔を浮かべて、


「私も……依桜のことが好きです。ううん。大好きです。だから……私と、付き合ってください」


 告白した。


 依桜が告白する時、依桜の体は震えていた。

 だから、それを踏みにじってはいけない。


 本音には本音を。


 だから私は、自分の気持ちを素直に、依桜に伝えた。


「ほんとに……?」

「もちろんよ。私もね、ずっと昔から……幼稚園の頃から、ずっと依桜が好きだったわ」

「本当に、ボクでいいの……? もう、普通の人と違っているんだよ……?」

「何言ってるのよ。依桜だからいいんじゃない。むしろ、依桜じゃないと、私嫌よ」

「未果……」


 依桜は次の瞬間、ぽろぽろと涙を流し始めた。

 私はゆっくり依桜に近づいて行き、涙を拭ってあげると、そっと私の唇を依桜の唇に重ねた。


「ん……」


 それは、初めてのキス。

 私も依桜も、お互いファーストキス。

 初めてキスは、甘酸っぱくて、じんわりと幸せなあたたかさが広がっていく。

 その心地よい物を感じながら、永遠ともとれる長く短いキスをした。


「ぷはっ……み、未果……」

「ふふっ、なんだか、照れるわね……こうして、依桜とキスをするって……」

「で、でもキスって……」

「大丈夫よ。私と依桜はお互い女の子。だから、間違っても子供ができることなんてないわよ」


 もっとも、キスで子供はできないけど、ね。

 でも、依桜はこのままでいてもらいたいので、いつか自分で知るまでは、黙っていよう。

 その方が、私的にも面白いしね。


「何はともあれ……これで私と依桜は仲直りして、その……こ、恋人になった、ってことでいい、のよね……?」

「う、うん……え、えへへ……なんだか、未果が言ったみたいに、て、照れるね……」


 あぁ。依桜が可愛い……。

 今までもずーっと可愛いと思っていたけど、恋人になった途端、今まで以上に依桜が可愛くて可愛くて……それでいて、とても愛おしい。


「ねぇ、未果……もっと、キス、してもいい……?」

「もちろん。依桜が望むのなら、何度でも」


 そう言うと、依桜は目を閉じた。

 私も、さっきと同じように、そっと唇を重ね合わせ、優しく甘酸っぱいキスをした。



 後から聞いたのだけど、依桜はこの時、バレンタインのチョコとして、ストロベリーチョコレートのリップを自身の唇に塗っていたとか。だから、甘酸っぱかったみたいです。



 それから、私たちは前以上に一緒にいるようになった。


 気が付けば、お互いの家を交代で泊まりに行ったりしている。


 最初はそうだったのだけど、いつしか二人で同棲するようになっていた


 今日も今日で、


「はい、未果。あ~ん❤」


 こんな風に、依桜にあ~んをしてもらってます。


 依桜ってば、付き合い始めると、デレッデレなのよ?


 マジで可愛すぎて、大声で、この娘私の彼女なんですよ! って叫びたくなる衝動に何度も駆られた。


「未果、これからもずっと一緒に、楽しい日常を送ろうね」

「もちろん。二人なら、どんな時でも楽しいに決まってるわ」


 私たちは、幸せな日常を送っています。


              ―未果ルートEND―

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る