第459話 色々検証

 喧嘩を止めて二人をそれぞれ天界と魔界に送り返した後、ボクたちは昼食を摂ることに。


 色々あってすでに疲れてはいたけど、お昼ご飯を食べたら普通に回復したように思える。なんでも、お昼に出された料理は、ボクたちが疲れていることを見越して作られた者らしく、疲労回復にいい料理を作っているのだとか。


 能力やスキルが存在している上に、不思議なもので溢れている世界なので、そう言った食材があっても別段不思議ではない。


 まあ、みんなは驚いていたけど……。


 ボク自身は、例の三年間で割とお世話になっていたので、そこそこなじみがあったり。


 まあ、色々とあるからね、こっちの世界。


 と、昼食を食べ終えると、


「イオ、あたしらは一度人気のない森に行くぞ」


 そんなことを言ってきた。


「え? ……あ、そういうことですか」


 一瞬どういう意味かと首を傾げると、すぐにその意味に思い至った。


 多分、天使と悪魔の力の検証、とかなんじゃないかな。契約によって、ボクには能力やスキルが増えたみたいだし。


 ボクも、普段はあまりステータスとか見ないから、そう言えば知らない。


 何が追加されてるんだろう?



 というわけで、師匠と二人で森に。


「旅行中に、お前が天使と悪魔と契約することになるとは思わなかったが……まあ、仕方ない。とりあえず、色々検証するとしよう」

「はい」

「とりあえず、新しく増えたものを教えてくれ。一応、あたしが見てもいいんだが、正直めんどくさい」

「そ、そうですか」


 まあ、ボクも自分で確認しないと、とは思っていたから、別にいいけど。


 ともあれ、ステータス確認。


『イオ・オトコメ 女 十九歳

 体力:7850/7850 魔力:11000/11000

 神気:50000/50000

 攻撃力:1012 防御力:644 素早さ:1931

 幸運値:7777

 職業:暗殺者

 能力:『気配遮断』・『気配感知』・『音源感知』・『消音』・『影形法』・『一撃必殺』・『短刀術』・『双剣術』・『投擲』・『立体機動』・『擬態』・『変装』・『壁面走行』・『感情看破』『悪人看破』

 スキル:『瞬刹』・『身体強化』・『料理』・『裁縫』・『柏手』・『鑑定(下)』・『無詠唱』・『猛毒無効』・『精神攻撃無効』・『言語理解』・『変色』・『分身体』・『剛力』・『結界』・『黒靄操術こくあいそうじゅつ』・『光操術こうそうじゅつ』・『悪魔化』・『天使化』・『武器化(悪)』・『武器化(天)』・『物理攻撃耐性』『刺突攻撃耐性』・『魔法攻撃耐性』

 魔法:『風魔法(初級)』・『武器生成魔法(小)』・『回復魔法(上級)』・『聖属性魔法(上級)』・『付与魔法』・『アイテムボックス』・『闇属性魔法(上級)』』


 こうなっていた。


 それで、増えた項目は……


『剛力』『結界』『黒靄操術』『光操術』『感情看破』『悪人看破』『闇属性魔法(上級)』『悪魔化』『天使化』『武器化(悪)』『武器化(天)』『物理攻撃耐性』『刺突攻撃耐性』『魔法攻撃耐性』


 この十四個。


 お、多い!


 しかも、割ととんでもないようなものが混じってるんだけど!?


 え、なにこれ。契約しただけでこれ!?


 しかも、見たこともないものが混じってるし……。


 ……あと、よく見たら変化してるのもあるよね、これ。


 特に、魔法と耐性系。


『毒耐性』は『猛毒無効』に。


『精神攻撃耐性』は『精神攻撃無効』に。


 あと、『風魔法』と『武器生成魔法』以外、全部上級に変化してる……。


 これって、どういうこと?


 それから、ステータスの方にも変化があって、なんか身体能力に関する項目と、体力と魔力に関する項目の間に、『神気』という項目が増えていた。


 多分、師匠に使い方を教えてもらったからなんだろうけど……多いのか少ないのかわからない。


「あー、お前のその困惑したような表情を見ればなんとなくわかったが……とりあえず、増えた物や、変化したものを言え。そこから色々と検証するぞ」

「は、はい」


 師匠に言われ、ボクは新しく増えた物や、変化したものを師匠に話していく。


 最初こそ、いつも通りの表情を浮かべていた師匠だったけど、途中から訝しむような表情に変わった。


「――と、こんな感じです」

「……なるほどな。ほとんどはあたしも普通に知っているものばかりなんだが……いくつか、あたしでも知らん物が混じっているな」

「ど、どれですか?」

「『黒靄操術』『光操術』『武器化(悪)』『武器化(天)』の四つだな」

「師匠も知らないんですね」

「そりゃ、あたしはあいつらと契約したことなんてないからな。知るわけがない。しかし、最初の『黒靄槍術』と『光操術』ってのはなんとなくわかる。一つ目は悪魔が使用していた攻撃方法だろうな」

「たしか、黒い靄を武器に変化させて攻撃してきたあれですよね?」

「ああ。で、『光操術』ってのは、天使が使う攻撃方法だろう。たしかあれは、『黒靄槍術』の天使版と言ったところか。光を武器に変化させて攻撃するものだ」

「なるほど……」


 ということは、ボクが戦った悪魔の人たちみたいに、黒い靄じゃなくて、光を槍とかに変えて攻撃するもの、っていうことだね。


 結構便利かも。


 もしかすると、日常生活にも応用が利くかもしれないね。


「で、問題は最後の二つ。『武器化(悪)』と『武器化(天)』の方だ」

「そう、ですね。これって、字面だけ受け止めたら、セルマさんとフィルメリアさんを武器に変える、ということになりませんか?」

「十中八九、そういう効果だろう。あとは、どういった武器の形状になるか、だが……とりあえず、お前のその二つのスキルを鑑定してもいいか?」

「お願いします」

「即答か。……本当は、他人にステータスとか見せるのはまずいんだが……まあ、お前だからな。よしとする」


 最後ぶつぶつと何か言っていたような気がするけど、まあ、いいよね。


 師匠はボクを見つめだした。


 それが数秒ほど続き、しばらくするとふっと体の力を抜く。


「概ね理解した。そのスキルは、お前がさっき言った効果で間違いない。で、武器に変化させるとき、お前が望んだ形状になるそうだ」

「じゃあ、ボクが弓が欲しいと望めば、弓の形になる、ということですか?」

「その通りだ。で、ここからさらに面白い事なんだが、お前がそのスキルを使用し、どちらかを弓に変えたとしよう。その場合、お前の『黒靄操術』と『光操術』が生きてくる」

「……もしかして、矢を形成して、それを武器で放つ、ということですか?」

「そういうことだ。で、さらに面白いことがある。お前、ファンタジー系のラノベやマンガは読むか?」

「たまにですけど、読みますね」


 個人的に、ライトノベルやマンガは雑食だと思ってます。


 苦手な分野があるとすれば……所謂、鬱展開がある作品とか、バッドエンドな作品とかかな? 明るい作風を好むからね、ボクは。


「それはよかった。この両スキルは、使用者が望んだ武器に変化させる、というものだ。つまり、架空の武器にも変化させることができるかもしれない」

「そ、それってつまり……レールガンとか、レーザービームを放つ銃とか、ビーム〇ーベルのような物もですか?」

「お前の架空武器の知識、ほぼレーザーだな。……いやまあ、間違っちゃいないが。まあ、概ねその解釈で大丈夫だ。まあ、まだ可能性の話だがな。しかし、そうなるとお前の攻撃の手段は幅が広くなるな。少なくとも、今のお前ならば、先代の魔王なんてワンパンKOできそうだ」

「そう、ですか?」

「当たり前だ。身体能力も向上し、さらには神気の使用。もっと言えば、お前は天使にも、悪魔にもなる力を身に付け、その両方を同時顕現させることもできる。単純なステータスのスペックで言えば、攻撃力なんて5000を余裕で超える」

「……なんですか、その化け物」

「お前だな」


 ……そっか。ボク、化け物みたいなステータスになれるんだ……。


 でも、それでも思うことがある。


 ……師匠、それよりも遥かに強い、っていうことだよね?


 だってさっき、3000で二割、とか言ってたもん。ということは師匠、15000くらいってことだよね? 防御力。


 異常だよ、本当。


「まあ、いいじゃないか。とりあえず、『悪魔化』と『天使化』を使ってみるぞ。どういう風になるのか、知っておきたい」

「ですね。じゃあ、えと、まずは悪魔の方から」

「ああ、頼む」

「えっと……『悪魔転身』!」


 発動するための言葉を口に出すと、ボクの体を紫色の光が覆った。


 最初はかなり驚いたけど、すぐにその光は収まる。


 すると、なんだか不思議な感覚がボクの体を駆け巡っていた。


「えっと、師匠、これどうなってますか?」

「ああ、問題なく悪魔になってるな。セルマが言っていた通りの姿だ。ほれ、姿見」


 そう言うと、師匠は何もない空間から姿見を出した。


『アイテムボックス』かな?


 ともあれ、姿見を覗いてみると、


「わ、本当にセルマさんみたいになってる」


 鏡に映った自分を見てちょっと驚いた。


 髪色は、真ん中から下が桃色の変化していて、両耳の上からは黒い角が一本ずつ生えていた。


 そして、瞳の色はいつもの碧眼から紫紺に変化し、背中からは蝙蝠のような翼が生えていた。


 なんかちょっと、不思議な気分。


「で、どうだ? 体の方は」

「そうですね……なんだか、普段よりも力が漲っているような感じがします」

「なるほど。よし、あの木を本気でデコピンしてみろ」

「なんでデコピンなんですか?」

「さすがにグーじゃわかりきってるだろ? なら、デコピンの方がわかりやすい」

「な、なる、ほど?」


 師匠の理論はたまによくわからないけど、師匠がそう言うのだから従っておこう。


 逆らっても、いいことないので……。


 ともあれ、師匠に言われた木の前に立ち、本気でデコピンをしてみたら……


 ドゴォォォォォォォォンッッッ! バキバキバキッ! ドズゥゥゥゥゥンッッ!


「……え、えぇぇぇ?」

「なるほど、これほどか。まさか、デコピン一発で、木をへし折り、そのまま吹っ飛ばしたあげく、飛ばした先の木をほぼ全部薙ぎ倒していくとは。なるほど、これはたしかに、異常だ」

「いやいやいや!? なんで冷静でいられるんですか!?」

「なんでって……お前、あたしだぞ? あたしなんて、手加減した拳圧だけでできるが?」

「……師匠は、そう言う人でしたね」


 それなら、冷静になってもおかしくないよ。


「で、次だ。お前、その羽を使って飛べるか?」

「ちょっとやってみます」


 と言って、ボクは羽を動かそうと意識してみる。


 最初は全く動かなかったけど、徐々に徐々に拙くも動き出した。


 そして、パタパタと動き始め、遂にバサバサと翼を動かすことに成功。


 かなり簡潔に、簡単に言ってるけど、ここまでやるのに二時間くらいかかってます。


 本当に。


 そうして、バサバサと翼を動かしていくと、ふわり、と体が浮きだした。


「わわっ、と。う、浮いた」


 体が浮くと、ふらふらと左右に前後に動いたけど、物の数分で安定し始めた。


「そのまま動けるか?」

「やってみます」


 さっきよりも強く羽を動かし更に飛翔する。


 そうして今度は、体を仰向けのような状態にして、前の向かって飛んでみると、ゆっくりながらも空を飛ぶことができた。


 飛んでる! ボク飛んでる!


「師匠! これすごいです!」


 空中で静止し、師匠に向かって大きな声で告げると、師匠は笑った。


「ああ、いい感じだな。とりあえず、一度こっちに降りて来い!」

「はーい!」


 ボクはゆっくりと下降して、地面に着地。


 飛んだ後だからか、ちょっと不思議な感じがする。例えるなら、船にしばらく乗っていて地面に立っている時のような感じ。


「ふむ。時間はかかったが、普通に飛べるみたいだな。これでお前は、空中での戦闘が可能になったわけだ。まあ、いちいち変身しないといけないみたいだがな」

「でも、空を飛ぶのはすごく気持ちが良かったです!」

「そうか。それはよかったな。……よし、次は天使だ。一旦悪魔の変身を解け」

「はい」


 師匠に言われた通り、変身を解除する。


 すると、いつもの体の感覚に戻り、力が低下したように感じた。


「じゃあ、行きます」

「ああ」

「……『天使変成』!」


 悪魔の時とは違う発動するための言葉を発すると、今度は金色の光がボクを覆った。


 さっきより眩しい!


 あまりの眩しさに目を細めていると、ようやく光が収まった。


「……こいつはまた、とんでもなくお前に似合った姿だな」


 そして、最初に聞こえたのは、師匠の呟きだった。


「ほれ、姿見」


 なんだか微妙に顔が赤い師匠。


 どうしたんだろう?


 ちょっと心配になりつつも、姿見を覗き込む。


「本当に天使みたいになってる……」


 フィルメリアさんが言っていた通り、金髪金眼に変わり、頭の上には天使の輪が浮かんでいた。


 そして、ボクの背中からは純白の羽が生えていて、なんだかとっても綺麗。


「……わー、天使ぃ」

「見惚れてるのか?」

「いえ、見惚れてるというか……なんでしょうね、これ。ボク、とうとう人外になったんですが」

「んなこと言ったら、悪魔に変身してたろ」

「……あ、それもそうですね」


 ついさっきも人外になったばかりでした。


「しかし、翼がでかいな」

「ですね。しかもこれ、もふもふしてるんですよ。あったかいし」

「え、マジ? 触っていい?」

「はい、どうぞ」


 ファサ、と師匠の方に羽を伸ばす。


 師匠は何のためらいもなく、ボクの羽に触れ、さわさわと手を動かした。


「……お、おー、なんだこの肌触りは。つやつやなのに、もふもふだ。しかも……この優しい暖かさ。あたし、これをもふりながら寝たい」

「いや、さすがにボクが疲れます」

「わかってるよ。……しかしこれ、マジで触り心地が良いな。極上のシルクみたいな感じだが……なんだか、独特な感じだ。しかし、気持ちがいい。イオ、これくれ」

「上げませんよ!? というか、取れませんから!」

「はは、冗談だ」

「まったくもう……」


 それにしても、この羽を触られるのって結構気持ちが良かったり。


 イメージとしては、頭を撫でられているような感覚、かな?


 師匠、撫でるのが上手いから普通に嬉しいと感じてしまう。


「さて、そろそろその状態の検証と行くか。と言っても、悪魔の方で大体は把握したから、そこまでやる必要もなさそうだがな。とりあえず、飛んでみろ」

「はい」


 悪魔の方で飛んだので、もう慣れましたとも。


 さっきと同じ要領で翼を動かすと、普通に飛べた。


 飛ぶことに慣れたのか、結構自由に飛び回ることができた。


 なかなか楽しい。


 自由に空を飛ぶのってどういう感覚なんだろう? ってずっと思っていたけど、まさかそれを体験できるようになるとは思わなかった。


 姿は元の姿じゃなくて、悪魔とか天使だけど、それでも飛ぶのは楽しい。


 風が気持ちよくて、下の景色もとっても綺麗。


 正直、これだけでも契約した甲斐があるんじゃないかな? なんて思ってしまう。


 それほど、飛べることが嬉しい。


 ……まあ、元の世界だと『気配遮断』と『消音』を使わないと、色々とアウトだけど。


 でも、元の世界でも飛んでみたいなぁ。


 うん、いつか飛ぼう。


「イオ、降りて来―い」

「あ、はーい!」


 しばらく飛んでいると、師匠に呼び戻されたので、地上に降りる。


「よし、特に問題はないようだな。それじゃ、最後だ。その状態で、『悪魔化』を使え」

「わかりました。例の、複合状態ですね?」

「ああ、その通りだ。じゃ、頼む」

「はい。……『悪魔転身』!」


 さっきと同じ言葉を唱えると、ボクの体に変化が起きた。


 悪魔に変身した時と同じく、体を紫色の光が包んだと思ったら、また姿が変わっていた。


「おー、面白い姿だな。ともかく、ほれ、姿見」

「ありがとうございます。……わー、なんかすごいことになってる……」


 天使の時は、金髪金眼に天使の輪と白い翼だった。


 でも、悪魔にも変身したことで、姿は大きく変化していた。


 まず、翼が純白の翼と黒い翼が生えていた。てっきり、蝙蝠の翼が片方生えるのかと思ったけど、そうじゃなかったみたい。


 そして、髪の毛は真ん中から上が金髪で、その下が桃色。


 天使の輪は健在だけど、なんか角も生えてる。


 右目は金眼で左目は紫紺色となり、オッドアイに。


 あと、すごく力が漲っている感じがある。


 多分だけど、軽く手を振っただけで木とか折れるんじゃないかなぁ、っていうくらいには漲っている感じがします。


「ふむ……相当な力を発しているな。どれ、ちょっと試すか」

「えっと、何を?」


 師匠は無言で、ボクに向けて手の平を向けて来た。


 どういうことだろう?


「試しに、本気でこの手に攻撃してみな」

「ええ!? ち、力の加減とかできませんよ!?」

「そんなものはいい。と言うかあたしは今、本気でと言った。ならば、本気で殴ってこい。それで、どれくらいの強さかがわかる」

「……わ、わかりました。えと、怪我しないでくださいよ……?」

「大丈夫だ。腕が消し飛んでも、再生できるしな」


 ピ〇コロみたい。


「じゃ、じゃあ、行きますよ?」

「ああ、きな」

「すぅー……はぁー……ふっ――!」


 深呼吸をしてから、ボクは地を蹴り師匠に肉薄した。


 距離的には約二十メートル。


 いつもなら、一秒かかるかかからないかくらいだったけど、今回はそうじゃなかった。


 踏み出した瞬間には、すでに師匠が目の前にいた。


 速すぎた。


 どうやら、ボクの素早さはかなり上がっていたらしく、とんでもないことになっていた。


 この速さと今の攻撃力が合わさったボクの拳は、どれくらい強いのかはわからない。


 でも、師匠が大丈夫って言ったんだから大丈夫!


「やぁっ!」


 そんな掛け声と共に、ボクは師匠の手に拳を叩き込んだ。


 その瞬間、


 ドゴオオオォォォォォォォォォンンンッッッ!


 という、まるで爆発したかのような音が鳴り響いた。


 それと同時に、衝突した箇所からものすごい衝撃波が発生し、半径百メートル圏内にある木々が全部吹き飛んだ。


 ……な、何この威力!?


 し、師匠は!? 師匠は大丈夫なの!?


 あまりにも桁違いな威力に、ボクは師匠を心配した。


 いくら師匠が大丈夫と言っても、これはさすがに……!


「ハハハハハハ! いい、いいぞイオ! 素晴らしい一撃だった! なるほどなるほど。まさか、天使と悪魔の力を顕現させた本気の拳が、まさかこれほどの威力とは……。見ろ。あたしの腕が痺れてるし、軽く打撲もしちまった」


 カラカラと笑いながら自分の手を見せて来たんだけど……ボクはそれ以上に驚いたことがある。


 今のとんでもない威力の拳を受けて、ちょっと痺れて軽い打撲をしただけ……? この人、頑丈過ぎない!?


「ふむ、その状態でこれなら、お前が『身体強化』を最大で使用すれば、素のあたしくらいな殺せるな」

「え!?」

「我が弟子ながら、随分と成長したもんだ。ま、一人でそこまで強くなってこそではあるが……まあいいだろう。これなら、仮に邪神と戦っても、お前は一時間なら戦えるだろうな。勝てはしないと思うが」

「し、師匠、ボク、師匠を殺せるんですか?」

「まあな。力だけで言えば、殺せると思うぞ? ま、攻撃が当たれば、という前提だがな」

「……ですよね」


 てっきり、師匠に勝てるのかと思っちゃった。


 でも、そうじゃなかったみたい。


 まあ、師匠に勝てるわけないよね……。


「いやぁ、いいことを知った。飛行手段も手に入れたし、攻撃手段も増えた。これで、さらに不測の事態に備えられるようになったな。喜べ」

「うーん、あまり素直に喜べないような……」

「まあ、いつか必要になる時が来るさ。……さて、なんだかんだで結構時間が経っていたみたいだな。そろそろ戻るか。日も暮れて来た」

「ですね。戻りましょうか」

「んっ~~~! はぁ。なんか、久々にいいパンチもらったから、腹が減ったな。あと、酒飲みたい」

「ジルミスさんに頼んでみます?」

「いいなそれ。いい酒を出してくれそうだ」


 他愛のない話をしながら、ボクたちは魔王城に戻りました。

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