第460話 旅行終了

 そんなこんなで五日目も騒動はありつつも何とか無事に終了。


 六日目……となったんだけど、思いの外やることもなく、語ることもなかった。


 本当に、ただただのんびりとみんなで観光しただけだからね。


 その途中で、母さんや父さんへのお土産を買った。


 むしろ、問題続きの五日間が濃すぎたのか、本当に六日目は平穏で、平和でした。


 なんだろう。あまりにも平穏すぎて、ボクは一周回って怖くなった。


 だって、この五日間で問題が起こった事なんてなかったんだよ? 前日も含めたら、かなり色々あったし……。


 前日には、悪魔とショッピングモールで戦った。


 一日目は、ボクが去年にこっちの世界へ訪れた際に欠落していた部分のことを知った上に、ボクが異世界人の子孫であることを、師匠に教えられた。


 二日目は、冒険者ギルドの受付嬢の仕事をして、そこで師匠に一つのスキルを習得させられ、更には初めて天使に会いました。あと、女委が何か企んでた。


 三日目、女委が案の定やらかしてくれていて、ボク、晶、態徒三人が女委の被害に遭い、とんでもないことになった。あと、同人誌という存在が、こっちの世界――というより、リーゲル王国の王都に広まってしまった。何してるんだろう、本当に。


 四日目、まさかのクナルラルでディ〇ニー〇ンドもびっくりな、大規模なパレードが行われ、ボクの羞恥心はマッハだった。割とそこまでというほどの問題はなかったのかも。


 そして、五日目。この日が一番の問題だった。悪魔がこっちの世界で騒動を起こして、みんなにも被害が出そうになったので、ボクが魔界へ出向きセルマさんにお説教。のちに、セルマさんと契約して、意気揚々と元の世界に戻ってきたら、今度は天使のみなさんが出待ちしていて、結果的にフィルメリアさんと契約。悪魔と天使、両種族のトップみたいになってしまった。あと、色々と増えたし、師匠を殺せるほどの力も得てしまった。まあ、当たらなきゃ意味がないんだけどね……。


 とまあ、前日も含めた六日間、それはもう、平穏なんてなかった。強いて言えば、四日目がマシだったけど、それでもなお余りある他の日の騒動。


 ボク、旅行しに来たはずなのに、すごく疲れたんですが。


 六日目も何か起きるのでは!? と、身構えていたんだけど、結局徒労に終わったしね。


 平穏が一番です……。


 そんな六日目も終われば、遂に最終日。


 と言っても、帰るだけなんだけどね。


 お土産も色々買って、観光もした。


 みんな的には、まだいたいらしいけど、さすがに美羽さんとエナちゃんの二人は仕事があるからね。一日オフは取ってあるらしいけど、それでもギリギリに帰るのはよくないもん。


 なので、名残惜しいけど普通に帰還します。


「イオ様に、ティリメル様。それから、ミオ様や御友人の方々。いつでも、お越しください。私たちは大歓迎ですので」

「はい。ありがとうございました、ジルミスさん。また、みんなを連れて遊びに来ますね」

「お待ちしております。それでは」

「はい」


 最後に、ジルミスさんと挨拶を交わして、ボクたちはクナルラルを出た。



 最初は馬車で帰ろうかとも考えていたんだけど、


「馬車はめんどくさい。あたしの転移で王城まで行くぞ」


 師匠のその発言により、転移で王城まで行くことになりました。


 魔王城から法の世界へ転移すればいいんじゃないのか、と未果たちが言ったんだけど、その発言は師匠によって否定された。


『適当な場所で転移した場合、どこに出るかわからん』


 だそう。


 師匠はどうやら、元の場所で転移した方が、あっちに帰った時に問題が起きにくいのではないか、と思ったそう。


 たしかに、師匠の言う通りかも。


 これでもし、魔王城から転移して、海の上とか火山の火口に出ることもあるかもしれないからね。


 そうなったら、色々ととんでもないことになりそうだもん。


 師匠がいるから大丈夫だとは言え、慢心はいけないからね。あと、頼りすぎもダメ。


 不測の事態があるかもしれない。そう言う理由で、王城で転移することになりました。


 そうして、師匠に触れる、もしくは触れているを触れると言う状況で師匠が転移を発動。


 転移は成功し、気が付けばボクが使用していた部屋に到着。


「ほんと、ミオさんってチートだよねぇ」

「というか、これは反則過ぎるだろ」

「ミオさんにできない事ってあるんですか?」

「んー……ない」


 美羽さんの質問に、師匠はそう答えた。


 その答えを聞いたボクたちは、普通に納得。


 ……師匠にできないことがあるのが想像つかないもん。


「あー、クソ野郎たちに挨拶してくか?」

「うーん……四日目に挨拶しましたので、いいかなと。なので、このまま帰りましょう」

「そうか」

「じゃあみんな、ボクに掴まって」


 そう言うと、女性陣はボクに触り、晶と態徒はボクというより、それぞれ未果と女委に触れていた。


 なんで?


「アイちゃん、準備は出来てる?」

〈ふっ、私ですぜ? 余裕に決まってるじゃないっすか! 今日という日が始まってから、いつでも発動できるようにしておきましたぜ、イオ様。あとは、イオ様が起動の文字をタップするだけです〉

「ありがとう。じゃ、みんな出発するよ」

「「「「「「「「「「「「「はーい!」」」」」」」」」」」」」


 うーん、多い!


 しかも、師匠も混ざってるのがなんだか……ちょっと面白かった。


「じゃあ、しゅっぱーつ!」


 ボクは元気にそう言いながら、軌道の文字をタップした。


 その瞬間、端末から光が溢れると、その光はボクたちを包み込み、視界が暗転した。



 目を覚ますとそこは、ボクの家の庭だった。


 どうやら、ちゃんと元の世界に帰って来れたみたい。


 出発した時間は、八月三日の朝九時。


 日の高さを見る限り、どうやら九時みたいだね。


「みんな、着いたよ」

「あっという間だったわね」


 未果の呟きに、みんなが頷く。


 たしかに。異世界転移装置二式による転移は、ほんの数瞬程度。


 もしかすると、もう少し時間がかかっているのかもしれないけど、それでも次に目を開けたら別の場所にいるわけだから、数瞬だよね。


「師匠、日付ってどうなってますか?」

「出発が、八月三日だったな。で、今日は……四日だ。問題ない、一日で帰って来れてるぞ」

「マジで一日しか経ってねぇ」

「どういう仕組みなんだろうねぇ」

「世の中不思議なことがあるということか」


 本当にね。


 でも、本当に不思議だよね。向こうでの一週間がこっちでの一日だなんて。


 その割には、なぜかこっちで経過した時間と同じ速度で向こうも進んでいるみたいだけど……。どういう原理何だろう。


「さて、と。私はそろそろ帰らないと」

「うちも。明日もお仕事だしね!」


 と、職業がある二人は、帰って早々帰宅すると言い出した。


「そうですね。旅行で疲れたと思いますし、二人とも、ゆっくり休んでください」

「うん、ありがとう、依桜ちゃん。あ、近々最終回の収録があるって日野さんが言ってたから、今の内に伝えておくね」

「あ、わかりました。予定を開けておきます」


 声優の方も、もうすぐ終わりみたいだね。


 なんとか、秋に間に合いそうでよかったです。


「あ、依桜ちゃん、ちょっといいかな」

「どうしたの? エナちゃん」

「えっとね、実はうちの所属している事務所に、とあるテレビ番組からオファーが来たの」

「へぇ、そうなんだ。やっぱり、エナちゃんが目当て?」

「半分はそうみたい」

「半分?」


 ……それってもしかして、


「うん。なんでも、『いのりさんも是非一緒に!』って言ってたらしくて」


 やっぱり、そっちですか……。


「いのり? いのりって確か、ちょっと前にエナちゃんとのペアで有名になった、新人アイドルのことかな?」


 不思議そうな表情を浮かべながら、美羽さんが話に入ってくる。


 あ、そう言えば伝えてなかった気が……。


「えと、他言無用でお願いしたいんですけど……その、いのりというアイドルはボクが変装した姿でして……」

「あれって依桜ちゃんだったんだ。なるほど……言われてみれば、たしかに似ていたかも」

「そ、そうですか? 髪型に髪色、瞳の色も変えていたんですけど……」

「ふふっ、それだけじゃ、私の眼は誤魔化せないかな」


 自分の目を指さしながら、いたずらっぽく笑う美羽さん。


 そう言えば、美羽さんって結構鋭かったっけ。


 ボクの擬態も見破ってたし。


「それで、エナちゃん。もしかしてなんだけど……」

「うん、なんか依桜ちゃんに出て欲しいんだって」

「一体どうして……」

「えーっと、ほら、うちって自分で言うのもなんだけど、それなりに売れてるでしょ? そんな中で、うちと依桜ちゃんの二人で出たライブとイベントがインタネット上とかでバズっちゃったらしくて……。あと、結構仲がよさそうな感じで出ていたことも相まって、二人はすごく仲がいいのでは!? みたいな感じに思っちゃったみたいなの。それで、依桜ちゃんにも一緒に出演してほしいらしくて」

「あー……なるほど」


 申し訳なさそうに事情を話すエナちゃん。


 そんなことがあったんだ……。


「依桜も有名になったものね」

「この場合、ボクというより、いのり、っていう別の人物が有名になったと考えるべきだと思うんだけど……」

「でも結局、依桜だろ?」

「……そうだけど」

「しかも、依桜君ってば、いのりちゃんとしてだけでなく、雪白桜、としても有名になりつつあるからね。わたしの同人関係の知り合いでも、結構評判だよ。『最高のロリボイスを持った、期待の新人!』ってな感じに」

「えぇぇぇ……」


 ボク、今後も声優をするつもりはないけど……。


 たしかに楽しいとは思っているけど、さすがに学業もあるわけだし、他にも色々とあるわけで……。


「ともかく、依桜ちゃん、どうかな?」

「テレビ番組?」

「うん」

「テレビ番組かぁ……」


 一応、ボク本人として出るわけじゃなくて、いのりとして出るわけだから、問題が歩かないかと訊かれればない。


 でもボク、別段アイドルというわけじゃないんだよね……あれはもともと、舞台上でエナちゃんを守るためにしていたものであって、アイドルとしてやっていたわけではない。


 ……まあ、後にプールのイベントに出演しちゃってるんだけどね、ボク。


「もちろん、無理強いはしないよ! 依桜ちゃんが嫌がるようなことは、絶対にしないからね!」

「ありがとう、エナちゃん」


 本当に、いい人だよね、エナちゃんって。


 人気が出るのも頷けるよ。


「それで、その番組っていつなの?」

「八月の下旬だよ」

「放送形式は?」

「放送は生放送だね。でも、その内のいくつかのコーナーはあらかじめ収録しておく、みたいな感じ」

「なるほど……」


 生放送なんだ。


 ……あれ、それってもしかして、結構大きな番組だったりしない?


「答えが出なさそうなら、保留でもいいよ!」

「いいの?」

「うん! 八日までに教えてくれればいいから!」

「そっか。じゃあ、ちょっと考えさせてもらうね」

「いいよいいよ! それじゃ、うちは行くね!」

「うん、またね」

「みなさんも、バイバイ!」


 元気いっぱいにそう言うと、エナちゃんは帰って行った。


「それじゃあ、私もかな。それでは」

「気を付けて帰ってくださいね」

「ありがとう、依桜ちゃん」


 そう微笑んでから、美羽さんも家に帰って行った。


 残るのは、付き合いの長いボクたち。


「……それじゃ、私も帰るとするわ。かなり疲れたし」

「なら、俺も帰るとしよう」

「オレもだ。さすがに疲れたぜ」

「わたしも早く家に帰って、記憶を絵に描き起こすとするぜー!」

「うん、またね!」


 そんなこんなで、四人も自分たちの家に向かって帰って行った。


「それじゃあ、ボクたちも家に入りましょうか」

「だな」

「「「「「「はーい(なのじゃ)!」」」」」」


 色々あったけど、異世界旅行はとても楽しかったです。


 ……まあ、ボク自身が色々と抱え込むことになっちゃったし、ボク自身の謎もかなり増えてしまったけど……それはいつか、解明されればいいな。


 結局のところ、ボクっぽい人は誰だったんだろう?


 謎だらけなボク。


 ……ともあれ、明日からは普通の日常に戻りそうだね。


 ゆっくりしよう。

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