大晦日特別IFストーリー【ルート:未果】
未果と恋人同士と言う新しい関係になってから早いもので、あれから十ヶ月と少し。
去年のバレンタインは色々とすれ違いもあって、一時未果に酷いことをしちゃったけど、それも今ではいい思い出。
あのすれ違いがあったからこそ、今のボクたちは恋人になれてるわけだもんね。
そう考えると、ボクたちにとっては必要だったことだったんだと思います。
あの日から色々あったけど、今はもうボクたちも二年生で、今日は一年の終わりの大晦日。
みんなで過ごそう、という話があったんだけど、みんなが気を遣ってくれたのか、ボクと未果だけで過ごしてもいい、そう言ってくれました。
ボクと未果は、その気遣いに気恥ずかしさを覚えたけど、せっかくだからということで、厚意に甘えることにしました。
そうと決まると、大晦日はどう過ごそうか、と言う話になった。
去年までは、みんなと一緒に過ごすことが多かったけど、今年からは未果との関係もあって迷う。
家でのんびりするのもいいし、ちょっとしたお出かけをするのもあり。
二人して、うーん、うーん、と電話で唸って唸って、唸り続けた結果……
「いらっしゃい、依桜。上がって上がって」
「うん、お邪魔します」
未果の家で過ごす、ということになりました。
その日、ボクはお昼ご飯を食べてから、未果の家に行くことに。
家に上がるよう促され、ボクは未果の家に。
実際、未果の家に来るのは久しぶりだったりします。
付き合い始めてから行ったんじゃ? と思われるかもしれませんが、なんだかんだで行ってないんです。
小学生の頃は、ボクと未果、晶の三人で遊ぶことが多くて、その拍子に未果の家に行ってたんだけど、中学生になると女委と態徒の二人が増えて、外で遊んだり、比較的家が広いがボクの家で遊ぶことが多かったからね。
そのせいもあって、高校生になって行かなかった、という背景もあります。
……あとは、まあ……。
「お父さん、お母さん、依桜が来たわよー」
家に上がって、まず通されたのがリビング。
少し広めのリビングで、ちょっとだけ暴れても問題ないくらいです。
そのリビングに行くと、未果がおじさんとおばさんを呼んだ。
「お、来たんだね。久しぶりだね、依桜君」
「お久しぶり、依桜君。元気だった?」
「はい。おじさんたちもお元気そうで何よりです」
「ははは! 相変わらず、依桜君は礼儀正しいね」
「そうね。ささ、とりあえず、座って座って。お茶淹れたから」
「ありがとうございます」
立ち話もなんだから、ということで座るように促され、ボクと未果は隣り合って座る。
そのタイミングで、スッとおばさんがお茶を置いてくれる。
「それにしても……本当に久しぶりだね。最後に会ったのは、高校の入学式の時だったかな?」
「んーと……そうですね。その時だと思います」
実は、おじさんとおばさんとは、高校の入学式以来だったりします。
なんだかんだで、会う機会もなかったし、高校一年生の二学期からは、騒動に巻き込まれることが多かったからね。
「ふふ、正直なところ、未果にね『依桜君との仲はどうなの? 進展した?』なんて、よく訊いてたわぁ。それに、依桜君とも会いたかったしね」
「ちょっ、お、お母さん! そういうのは依桜の前で言わないでよっ! 恥ずかしいじゃない!」
うふふ、と笑いながら未果のことを言えば、未果は顔を赤くして叫んだ。
あれだよね。
家族に、恥ずかしいことを本人の前で言われると、こうなるよね。
ボクだって、小さい頃のこととか言われたらこうなる自信あるもん。
「ふふふ。……まあ、そういうこともあって、今日依桜君が来る、って聞いた時はちょっと驚いたわ」
「そうだね。相変わらず、言えないままなのかと思ってたからね。ははは」
「……依桜、私の部屋、行きましょ」
二人の発言に、未果はちょっとだけ怒ったような表情を浮かべて、部屋に行こうと言ってきた。
そんな未果の様子を見たおじさんたちは少し慌てる。
「あぁ、ごめんごめん! かなり久しぶりに依桜君を連れてきたからつい、ね? だから、怒らないで?」
「そうそう。僕たちは、昔から知っている依桜君に会いたかったんだから」
「…………はぁ。わかったわよ。というか、私が依桜を連れて来たくなかったの、二人もあるんだからね? 二人とも、中学生になった頃から依桜との関係をしつこく訊いてくるし」
「親だもの。娘の交友関係……とりわけ、幼馴染の関係性は気になるものよ」
「僕も気になってたねぇ」
などなど、特に悪びれた様子もなく、笑いかけながら話す二人。
なんだろう、ごく普通の家族の団欒にしか見えない。
……ボクがいるの、ちょっとおかしいような?
「それはそれとして、依桜君が女の子になっていたことは驚いたわ。しかも、あまり違和感がなくて、おばさんびっくり」
「あ、あはは……」
おばさんにそう言われて、ボクは苦笑した。
むしろ、久しぶりに会ったのに全然驚かなかった辺り、普通に肝が据わっていると思います。
しかも、昔は家族ぐるみで付き合うことも多かったからなおさらに。
「さて。雑談はこのくらいにして……未果。それで、どうして今日、依桜君を呼んだのかな? 僕たちとしては、久しぶりに依桜君と会えるという事で、それだけでも十分だけど……それが理由じゃないんだろう?」
会話を一度切り、おじさんが少し真面目な顔で今日ボクを呼んだ理由を尋ねてきた。
その問いかけに、ボクと未果は、来た、と少し身構え、おじさんたちが見えていない机の下で、お互いの手を握っていた。
そして、未果が軽く深呼吸をしてから、今日の目的を告げた。
「……今日依桜を呼んだのは、二人に報告があったからよ」
「報告? 何々? 大事なことなの?」
「大事よ」
「ほう、それはどんなことなんだい?」
「…………じ、実は私たち……こ、恋人として、付き合ってるの……!」
「で、です……」
未果が顔を真っ赤にしながら、ボクたちが恋人同士であることを、二人の報告した。
その瞬間、ボクたちは恥ずかしくて俯いたり、目をぎゅっと瞑っていたため、二人がどんな顔をしているのか見えていなかった。
でも、なかなかおじさんたちから反応が返ってこなかったから、ボクと未果は恐る恐る、といった様子で正面を向く。
すると、おじさんたちは、にこにことした顔を浮かべていました。
あ、あれ?
「お、お父さん? お母さん? 聞いてる……?」
未果が二人に尋ねてみても、返事が一切返ってこない。
どうしたんだろう……?
「あ、あのー……」
あまりにも微動だにしないから、心配になってボクが声をかけると、
「「……こ、恋人ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!??」」
突然二人が目を大きく見開いて、素っ頓狂な声を上げた。
それから、混乱する二人をボクと未果でなんとか落ち着かせることに。
今は目の前で震えた手でお茶を飲んでます。
そして、軽く一息ついてから、おばさんが口を開いた。
「……え、二人って、いつから付き合ってるの?」
「今年のバレンタイン」
「十ヶ月以上も前じゃないかっ! なんで言ってくれなかったんだい!?」
「え、いやだって、言ったら二人とも絶対に舞い上がるじゃない。私以上に」
「そんな理由なの!?」
未果が言わなかった理由に、二人よりもボクが驚いて、ツッコミを入れていた。
初耳……。
てっきり、まだ早いから、とか、少し恥ずかしいから、みたいな理由だと思ってたんだけど……。
「当り前じゃない。二人とも、今の今まで『依桜君との関係は進行した?』とか『いつ恋人として紹介できそう?』とか『卒業後間もなくして、孫の顔が見れる?』とか言ってくるのよ? まだ気が早いし、何より……学生的にうざい、と思うわ。間違いなく」
「あ、そ、そう、なんだ……」
……そう言えば、おじさんたちって、妙にボクに対しても未果について聞いてきてたっけ。
あれってもしかしなくても、恋愛的な意味で聞いてきてた、っていうこと、だよね?
……あー、ボクがこの家の子供じゃなかったからそこまで思わないけど、もしも父さんたちが言ってきたらと考えると…………あー、うん。ボクも言うのは嫌かも。
間違いない。
「未果、それは心外よ」
「あら、そうなの?」
「えぇ。舞い上がるんじゃなくて、狂喜乱舞するのよ」
「尚悪いわよっ!」
「いやー、驚いたよ。まさか、今年最後の日に、とんでもない情報を教えられるとは。ただ、そっか……。何はともあれ、よかったね、未果」
「……えぇ、そうね。私的にも、まさか付き合えるとは思わなかったわ」
「そうねえ。幼馴染ポジションって、基本負けヒロインの属性だものね」
「……それがあるから、私も付き合えるとは思わなかったのよ、いやほんとに」
「負けヒロイン……?」
んーと、言葉通りに受け取るなら多分……主人公と付き合えなかったヒロインのこと、かな?
未果、そんなことを思ってたんだ。
「でも、依桜君はいいのかい?」
「? 何がですか?」
「いや、君は以前とは違って男の子の体から女の子になってしまっているから。そのままだと、世間的に白い目で見られる可能性が低くはない。そう思うと、依桜君は大丈夫なのかな、と」
「あ、そう言う意味ですか」
たしかに、普通の人から見れば、ボクたちの関係は気持ち悪い、そう思われるかもしれない。
日本はそう言うのに割と寛容な人が多いような気はするけど、それはあくまでもそう言う事に対して理解がある人であって、そうじゃない人達は眉を顰めると思う。
でも。
「大丈夫ですよ。ボクは元男ですし、それに……好きだから付き合うんです。恥ずかしいことは嫌ですけど、付き合うことは恥ずかしいことじゃありませんからね。周りの目は気にしません」
「依桜……」
「……そうか。それならよかったよ」
ボクの答えを聞いて、未果は熱のこもった視線を向け、おじさんたちは優しい笑みを浮かべた。
「未果は…………大丈夫そうだね」
「お父さん、それどういう意味?」
未果の方を見て、同じことを訊くのかな? と思ったら、苦笑いをしながら大丈夫だと言って、未果が少し拗ねながら問いただした。
「はは、だって君は、依桜君が昔から大好きだったからね。知っているよ? 時折、依桜君の写真を撮って――」
「ちょっ、それは言わないでよ!? というか、何で知ってるの!?」
「あら、それなら私も知ってるわよ? あなた、依桜君の写真を見る度にだらしない顔を――」
「あーあー! 何もない! 何もなーいー! 依桜、何も聞いてないわよね!?」
「え? あ、えと――」
「き・い・て・な・い・わよね!?」
「あ、はい。聞いてないですはい」
「……ならよし。まったくもう、二人とも変なこと言わないでよ」
「未果、君に似たんじゃないかい?」
「……うふふ、気のせいよ、あなた」
未果の強引すぎる押しに、おじさんたちは困ったように笑った。
未果、おばさん似なんだ。
「ともあれ、未果、おめでとう」
「あ……えぇ、ありがとう、お母さん」
「依桜君、これから未果をよろしく頼むよ」
「はい、任せてください」
おじさんのお願いに、ボクは笑顔で応えた。
こういうのって、父親の方が辛そうだよね、子供が女の子だと。
……でも。
「あの、さっきの質問と被るんですけど……今のボクって女の子ですけど、お二人はいいんですか? ボクが未果と付き合うことに対して」
この辺りが気になるのも事実で。
ボクは色々と普通じゃないからともかくとしても、未果の家は本当にごく普通の家。
それを考えるのなら、元男とは言え女の子同士で付き合うのって、あまり良い印象を持たなさそうなんだけど……。
だから、ちょっと心配だったり……。
だけど、その心配はすぐに消えることに。
「ふふ、気にしてないわ」
「そう、なんですか?」
「えぇ。もともと、依桜君の人となりは知っているし、女の子になっちゃったことも、未果から聞いてるからね」
「そうだね。僕も、気にしないさ。依桜君はとてもいい子だ。きっと、未果を幸せにしてくれるに違いない、そう思っていたから。だから、気にしなくていいよ?」
「……そうですか。ありがとうございます」
本当に、いい人だなぁ……。
なんと言うか、未果のお父さんやお母さん、って感じがするよ。
未果だって、ボクが人殺しをしたことを知っても、気にしないで今まで通りに……どころか、それ以上に接してくれたもんね。
「まあ、孫の顔が見られないのは少し残念だが……」
「ふぇ!?」
「お、お父さん!?」
「だって、そうだろう? 依桜君が女の子になってしまったのなら、子供は見られないわけだから」
少し残念そうにしながら、おじさんがそう話す。
た、たしかに……。
ボクが女の子になったら、未果とその……こ、子供は作れない……よね……。
なんだろう、すごく申し訳ないと言うか……。
「そうねぇ。ま、仕方ないわね。未果がそう言う道を選んだのなら、私たちは応援するだけだし。それに、養子を貰う、と言う選択肢もあるもの」
「お母さん。さすがにそれは、複雑な家庭環境になると思うわ」
「そ? お母さんが二人いる家庭が一つや二つあっても、不思議じゃないと思うわ、私」
「いじめの対象になりそうじゃない? それ」
「んー、そうなった場合は……徹底的に相手を潰すように教育すればよろし」
「お母さん怖いわよ!?」
「ふふ、昔はそう言う事があったから」
「え? 昔? ちょっと待って? お母さん、それどういう意味?」
楽しそうに笑うおばさんの発言に、未果はとんでもないことを聞いた、と言わんばかりの表情でおばさんに説明を求めた。
おばさんは、軽く笑んでから、爆弾を放り投げた。
「どういう意味も何も……だって私の両親、二人とも女性だもの」
「「……え!?」」
その爆弾は、あまりにも威力が高すぎて、ボクと未果はそれはもう短い素っ頓狂な声をあげることしかできませんでした。
ちょ、ちょっと待って? なんか今、幼馴染で恋人の人のお母さんから、とんでもないことを言われたような気がする……というか、聞き間違いでなければ、驚かないことがあり得ないくらいのことを言われたよね?
未果も未果で、ポカーンとしてるし……。
「あぁ、そうか。二人は知らなかったね。実は未果のお母さんはね、色々あって両親が女性なんだよ」
「その色々って何!? ねぇ、十七年生きて来て、なんでここにきてお母さんの核爆弾レベルの情報が出てくるの!? おかしくない!?」
「言わない方がいいかなと思って」
「確かにそうかもしれないけど! でもそれ、できれば高校生になったタイミングで教えてほしかったわ!」
そう叫んだ未果は、あぁぁぁぁぁぁ、と呻き声を漏らしながら頭を抱えていた。
……うん、同情するよ。
「まあ、いいじゃない。これなら、前例もあるわけだし、将来養子を貰っても問題ないわね」
「そう言う問題!?」
「そう言う問題よ?」
「……あぁっ、頭が痛い……」
「大丈夫かい? ロキ〇ニンならあるよ?」
「いらないわよっ! ……なんで私、今日は依桜との関係を報告しようと思っただけなのに、お母さんの㊙情報が飛び出すのよ……インパクト、薄れるわよね、これ……」
「あ、あはははは……」
本気で頭が痛そうにする未果に、ボクは乾いた笑いしか出なかった。
というより、これは何も言えないよ……。
「あ、そうだ。最近お母さんたちから、高いお菓子を貰ったの。食べる?」
「今そう言う話じゃないわよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!」
先ほどまでの爆弾発言をなかったかのように、呑気にお菓子を勧めるおばさんに、未果は怒りや悲しみが混じったような声で叫びました。
……うん、酷いね。
それから、軽い事情を聴いて、(無理矢理)納得した未果とボクは、未果の部屋に行くことに。
「わー、今の未果の部屋ってこうなってるんだね。なんだか、新鮮」
未果の部屋は二階にあります。
そんな未果の部屋に案内されて入ると、そこには綺麗に整頓されたシンプルで、ところどころ女の子らしい小物やぬいぐるみなんかが置いてあった。
「ま、最後に来たのは小学生の頃だしね。あれから結構変わったのも当り前よ。でも……ほら、あそことか昔のままよ?」
「あ、ほんとだ~。あのぬいぐるみとか懐かしいね」
未果が指示した場所には、小学生の頃にボクが未果にプレゼントしたぬいぐるみが置いや、小さい頃に未果が貰ったものや、作ったり、買ったりしたものが置いてあった。
それを見たボクは思わず懐かしい気持ちに。
「とっておいたんだね、あれ」
「もちろん。私は基本、思い出の品とか、プレゼントしてもらった物は捨てないのよ。依桜だってそうでしょ?」
「記憶以外で残る、実態がある思い出だからね。捨てたい、なんて思うことはないよ」
「ふふ、そうでしょ? あ、そうだ。アルバムでも見る?」
「あ、いいね。見たい見たい」
近くの棚からアルバムを取り出して、笑いながら提案してきたことに、ボクは二つ返事で賛成した。
「あ、適当にアルバム出すから、折り畳みの机出してくれる?」
「うん、いいよー」
未果のお願いごとに、ボクは素直に聞いて、部屋に置いてあった折り畳みの机を出して広げた。
あ、丁度いいサイズ。
「よい、しょっと……。あ、座布団はそこね」
「うん、ありがとう」
未果に座布団の場所を教えられ、お礼を言って座布団を床に置いて座る。
「じゃあ……幼稚園の頃の写真から見る?」
「そうだね。そこから順番に見たいかも」
「おっけー。じゃあ、これね。……うわぁ、小さいわね、私たち」
「あはは、そうだねぇ」
幼稚園時代のアルバムを開くと、そこには小さいボクと未果の二人がいた。
未果とボクが出会ったのはたしか……。
「入園式の時だっけ? 未果と出会ったのって」
「そのはずよ。たしか、おどおどしてた依桜に私が話しかけたのが始まりね」
「あ、そうそう。おぼろげだけど、憶えてるよ」
たしか、あの時は体調を崩すことが多かったから、あまり外に出られなかったボクにとって、ちょっとした遠出であり、冒険のようなものだったから、怖くて母さんの後ろに隠れながら、おどおどしてた。
それで、その時にボクとは対照的に、落ち着いていて少し活発そうな女の子――未果に出会ったんだっけ。
おどおどしているボクに、未果が、
『どーしたの? こわいの?』
って、話しかけてきたのが始まりです。
「懐かしいね。あの時と言えば、ずっと未果と一緒だったし」
「ふふ、そうね。あの時の依桜は警戒心が強くて、私にべったりだったものね」
「そ、そうだけどぉ……今思い返すと、結構恥ずかしいんだよ……?」
「あはは、いいじゃない、別に。私だって、なんだかんだで、依桜といるのが一番楽しかったからお互い離れなかったし」
「……あ、そう言えば未果って、ボク以外と一緒にいるの、あまり見かけなかった気がする」
かなり古い記憶だから、確実じゃないかもしれないけど、ボクが思い出せる範囲だと、ボク以外にいなかった気がする。
「そうね。あの時の私は、まあ、活発な子だったじゃない?」
「うーんと……そうだね。いつも、元気だった気がする」
「でしょ? だからまあ、一緒に遊ぼう、って誘う子が多かくて、試しに遊んだりしてたんだけど……どうにも、しっくりこなかったのよね。だから、最終的に依桜と一緒にいるのが一番よかった、ってのもあるわ」
「そうだったんだ。……なんだか、嬉しいね。思い出してみれば、その後も、未果ってずっと一緒にいてくれた気がするし」
「……そりゃそうよ。だって私、幼稚園の頃から依桜が好きだったんだもの」
「……そ、そっか……」
こうして、改めてずっと好きだったと言われると、恋人になってからそれなりの時間を過ごした今でも照れちゃうね……。
「あ、この写真、懐かしくない?」
ボクが照れていると、未果が数ページ捲った先にあった一枚の写真を指さす。
そこには、自然豊かな場所で、元気いっぱいな笑顔を浮かべている未果と、そんな未果の手をぎゅっと握って、俯いてるボクが映っていた。
「これって、年長の時の遠足だっけ?」
「そうそう。懐かしいわよね。この時はたしか……あぁ、思い出した。依桜にとって、初めての大きな遠出だったから、怖くて私から離れないために、手を繋いでた時の奴ね」
「み、未果、よく憶えてるね……」
「当然。私は基本、依桜との思い出はほぼほぼ全て憶えてるわ」
「それはそれで怖いような……?」
「怖いなんてことないわ。愛よ、愛」
「そ、そですか」
ま、まあ、愛なら仕方ない、よね?
それほど好きだった、っていうことだし……。
ただ、そう考えると、今まで未果の好意に気付かなかったのが申し訳なく思えてくるね。本当に。
「とりあえず……幼稚園のアルバムはこの辺にして、次、小学生の見ましょ」
「うん。小学生の頃って、どんな感じだったかなぁ」
個人的に、病気で休んでいたことが少し多かったり、未果と晶と一緒にいることが多かった記憶しかない。
他に……何かあったかな?
そういう意味で、ちょっと楽しみ。
「小学校は、これね」
「わー、懐かしい!」
なんだかんだで、一番懐かしく、それでいて記憶があるのって小学校だと思う。
それに、六年間もあるから、記憶の量も他の時に比べても多いしね。
「お、一年生の頃ね。……って、いきなり依桜が泣いてるわ」
「あ、あれ? ほんとだ……これ、なんで泣いてたんだっけ?」
早速一枚目を見てみると、そこには泣いているボクとそれを宥めている未果の姿が写された一枚があった。
周囲の状況を見るに、入学式の日みたいだけど……。
「ん~……あ、思い出した! たしかこれ、依桜が私と同じクラスになれてほっとしてる時ね」
「そうだっけ?」
「えぇ、間違いないわ。たしか、幼稚園を卒園して、小学校に行くってなった時、依桜は小学校は必ず私と同じクラス、って思い込んでたのよ。で、場合によっては違うクラスって言ったら、依桜が泣いちゃってね。それで、クラス分けを見たら、一緒なことを知った依桜が安堵して泣いた、って感じね」
「ほ、本当によく憶えてるね……というか、ボクも思い出したよ……は、恥ずかしぃ……」
そう言えばあったね、そんなこと……なんて思いながら、顔を赤くするボク。
そうそう。
幼稚園の頃は、ずっと未果と一緒にいて、組もずっと同じだったから、ボクと未果は同じクラスになるようになってるんだ、なんて子供ながら思い込んでたんだよね、あの時。
それで、小学校で違う場合がある、って知った時に、大泣きした……と言う話。
……うん。当時のボク、本当に泣き虫というか……未果がいないと、本当にダメだったんだなぁ……。
「その後も、クラス分けの度に、依桜は泣きそうになってたっけね?」
いらずらっぽく笑いながら、未果がボクにからかうように言ってくる。
「も、もぅ! それは四年生の時までで、その後は大丈夫だったから!」
「いや、四年生までそれだった方がむしろあれだと思う」
「うっ……」
冷静な未果の言い返しに、ボクは言葉を詰まらせた。
たしかに、四年生までそれはちょっと……恥ずかしいかもしれないけど……。
「それにしても……最初は二人だったのに、ここに晶が入ってきたものねぇ」
「そうだね。一年生の時だっけ?」
「そうね。先に仲良くなったのは依桜だったわよね?」
「そうそう。ボクが銀髪で、晶が金髪だったから、それでなんとなくシンパシーを感じて仲良くなった感じかな?」
ボクも晶も、お互いに黒髪じゃなかったからよくからかわれたり、奇異な目で見られることも多かったから、それがきっかけで話しかけた、だったかな。
それで、いざ話してみると馬が合って、未果も含めて三人でいるようになって、今に至る、だったはず。
「こうして見ると……あれだね。小学生の時から、ようやくボクは未果以外の人と接するようになったんだね」
「まあ、依桜の場合は境遇が境遇だもの。生まれてすぐ死にかけた後遺症で体調を崩しやすくなって、外に出る機会もなかったわけだし。慣れが必要だっただけよ」
「そうだね。おかげで、今は友達に恵まれた気がするよ」
「つまり……私が今の依桜を作ったのと同義では?」
ボクの恵まれたという発言に、未果は顎に手を当てて考え込んだと思ったら、真顔でそんなことを言ってきた。
う、うーん……。
「え、えーっと……間違いじゃない……かなぁ? たしかに、未果が話しかけてこなかったら、今みたいな楽しい生活になっていないし、異世界から帰ってきても独りのままだったかもしれないし……うん、未果のおかげだね。ありがとう」
にこっと笑いかけながら未果にお礼を言うと、未果は自分の顔を手で覆った。
あ、あれ?
「どうしたの?」
「……い、いえ、ちょっといた冗談のつもりで言ったのに、普通にお礼を言われたから……」
「え、冗談だったの?」
「さすがに、そこまで恩着せがましくはないわよ、私」
「そ、そっか」
まあ、うん。未果がそう言うのなら、そうなんだろうね。
とりあえず、気にしないでおこう。
「……あ、この写真……」
「どうしたの? 何か気になる写真があったの?」
未果がある一枚の写真を見つめだして、気になって未果に尋ねつつ、ボクもその写真を見ると……。
「…………」
ボクはスンッ、とした。
顔が無になった。
「……そう言えば、あったわね、こんなこと」
「…………ソウダネ」
「たしかこれ……あれよね。おばさんが、依桜に女の子の服を着せたっていう……」
「……うん。それで合ってます」
未果が見ていた写真は、ボクが小学五年生の時の写真。
そこには、可愛らしいワンピースを着て、恥ずかしそうにスカートの裾を抑えているボクの姿がありました。
事情は、未果が言ったことが全てを物語っています。
この時は、母さんが暴走して、ボクに女の子の洋服を着せて、学園に行かせたというとんでもないところを撮られたものです。
なんで女の子の洋服を着せたのかは……見たかったから、というものでした。
本当に、母さんはボクをなんだと思ってたんだろうね……。
当時、ボクは死ぬほど恥ずかしかったです。
「……そう言えば、あの時は男の子によく話しかけられたというか……あ、でも、女の子も同じくらい多く話しかけられた気がするんだけど……あれって、何だったんだろう」
ボクが女装した日、顔を赤くさせた男の子やきらきらと目を輝かせた女の子たちが、やたらとボクの所に来た記憶がある。
あれは一体……。
と、ボクが首をかしげながら考えていると、未果が苦い顔をしながら理由を話してくれた。
「……依桜。今だから言うけどね……それ、女装した依桜があまりにも可愛すぎて、男子がドギマギしたのよ。女子は……可愛いから、すごーい! っていう尊敬の気持ちに近かったわね」
「え、そうだったの!? じゃ、じゃあ、プールの時とか、妙に男子に見られてたのって……」
「……それね」
「そ、そうだったんだっ……!」
どうりで見られてたと思ったよ1
あと、やたらと男の子がちょっかいかけてきたり、逆に妙に優しくして来てたのもそれが原因だったんだ……。
「あれよね。依桜は、若い少年の性癖を歪めたわけよね」
「何言ってるの!?」
「だってそうでしょ。あの時、男子間……というか、女子の間でも言われたのよ? 下手な女子よりも、可愛いって。なんだったら、学校で一番可愛いまで言われたわ」
「う、嬉しくない……」
男らしい、とかだったら素直に嬉しかったけど、一番可愛いなんて評価だったら喜べないよ……元男として。
「……ちなみに、私もこの時の依桜はかなり可愛いと思ってたわ。あと、晶もそう思ったみたいね」
「ふ、二人も……知りたくなかったです……」
「でしょうね。だから、私と晶の二人は言わなかったわけだし。……っと、この先は特にない、わね。じゃあ最後。中学生の奴見る?」
「……そうだね。これ以上見たくないかな、小学生のアルバム」
「了解。……これが、中学生のアルバムよ」
小学生のアルバムを端に置いて、今度は中学生の時のアルバムを机の上に広げる。
「さすがに、依桜は泣かなくなったわよね、この時から」
「と、当然だよ。だって、中学生だよ? さすがに、未果と一緒になれないからって泣くことはないよ」
むしろ、中学生でもそこまでなっていたらボク、未果に引かれてたと思うんだけど。
というより、未果だけじゃなくて、他の人からもほぼ確実に引かれてたよね?
「でも……あれね。こうして、中学時代のアルバムを見てると……ちょこちょこ、依桜の女装姿があるわね……」
「言わないでぇ! 気にしてるんだからぁ!」
パラパラと捲っていくと、やたらとボクの女装姿が目に入る。
しかも、ボクにとっては封印したい記憶だし……。
「でも、今の依桜は女の子でしょ? 別に気にしなくてよくない?」
「今は今です! この時のボクは男の子だったんだから!」
「……それもそうね。この時の依桜は、女装を嫌がってたものね」
「……むしろ、好き好んで女装する人は少数派だと思う」
世の中にはそう言う趣味があるのは知ってるけど、その人たちは自分からしているけど、ボクは強制だったからね……。
「……やっぱり、六人でいる時間が、今はしっくりくるわね」
アルバムを見ながらポツリと零す未果。
その顔は、安心したような、そんな優しい顔だった。
「昔は、ボクと未果だけで、そこに晶が入ってきて。中学生になると、態徒と女委が入って……今は、エナちゃんもいるもんね。今のボクたちの日常は、六人、だもんね」
そんな生活を知っているからこそ、こうしてアルバムを見ているとちょっとだけ寂しいと思ってしまう。
それに……。
「依桜にとっては、メルちゃんたちもいないものね」
「……そうだね。やっぱり、みんながいないのは、こうして見ると寂しいね。でも、今はいるもんね」
「えぇ。本当、高校生になってからは、依桜が中心になって、騒がしくなったものよね」
「す、すみません……」
「あ、勘違いしないで。いい意味で言ってるんだから」
「そうなの?」
「当り前よ。退屈な日常よりも、騒がしくも楽しい日常が、私は好きよ。むしろ、学生の間しかできないもの。こんな体験ができるだけで幸運ってものよ」
にっ、と昔みたいな活発な笑顔を浮かべて、そう話す未果。
……うん。
「そうだね。ボクも――」
そう言って立ち上がったボクは、隣にいる未果の後ろに回ると、未果に抱き着いた。
「今のこの関係が、嬉しいな……」
「依桜……ふふ、そうね。私も、依桜とのこの関係は、絶対に切らないわ。むしろ、お墓まで持っていくんだから」
ボクの手を優しく掴んで、未果はいたずらっぽく言った。
「……じゃあ、ボクは送れちゃうかな?」
お墓まで持っていく、と言う言葉に、ボクは寂しい気持ちになって、そんなことを言ってしまった。
「……大丈夫よ、依桜」
だけど、未果は安心させるような声音で、
「依桜が一人にならないように、私だって長生きしてやるんだから。それこそ、ミオさんに頼んでまで」
「で、でも、ボクの寿命は……」
「わかってるわ。一般的な寿命よりも長いことくらい。でも、異世界に行けば、それこそ長生きできる術が他にもあるはずよ。だから、それを見つけるまで。……だから、安心して? 依桜は、絶対に一人にならない」
ボクのことを想っての優しい言葉に、ボクは思わず泣きそうになってしまった。
だけど……。
「うんっ……ずっと、一緒だよ……!」
ボクは、泣かないで未果に最大限の笑顔で、宣言するような言葉を口にした。
それに、未果も笑ってくれた。
……やっぱり、未果はすごいなぁ。
私と依桜とでアルバムをひとしきり見ると、気が付けば夜になり、依桜交えて年越しそばを食べることに。
そばを食べた後はのんびりと私の部屋で過ごして、十一時半頃私と依桜の二人で家を出て、近くの神社へ向かった。
「はーっ……寒いわね」
その道中、あまりにも寒い外の気温に、私は自分の手に息を吐いてこすり合わせた。
気休めにしかならないけど、やらないよりはマシでしかない行為だけどね。
「依桜は寒くないの?」
「ふふふー、これでも異世界で鍛えましたから。これくらいの寒さはへっちゃらです」
自慢気に話す依桜が微笑ましい。
依桜はあまり自分に関することで自慢しないから、こういうのを見ていると成長したのね、なんて思える。
昔は、散々私と晶の後をついてくる娘だったから。
「羨ましいわ、その体が」
「……じゃあ、こうしてあげる」
そう言うと、依桜は私の右手に自分の左手を繋いだ。
「……ふふ、温かいわ」
「それならよかった。……じゃあ、行こ?」
「えぇ」
お互いに笑いあってから、私たちは目的地の神社へと向かった。
新年になるよりも早く神社に到着。
「……相変わらず、ここは人がいないわね」
私たちが目的地とした神社は、人気が全くなく、シンプルで簡素な神社。
「そうだね。でも、すごく落ち着く雰囲気だよね」
「それは同感。私もこの神社は好きよ。それに、人気がない方が、私は嬉しい」
「……ボクもだよ、未果」
この神社は、知る人ぞ知る、みたいな神社。
本当は、今年の初詣でみんなと行った神社もあるけど、私たちが初詣に行くときはこっちを利用していた。
でもそれは、三人の時で、五人になってからは向こうの神社へ行くようになった。
だけど、今日はせっかく二人きりということで、こっちの神社に来た、というわけ。
「……さて。いつまでも見つめあっていても仕方ないわね。もうすぐ、新年になるし」
「うん」
そんな会話を交わしていると、ぴぴっ、ぴぴっ、とスマホのアラームが鳴り、新年を教えてくれた。
「明けましておめでとう、依桜。今年もよろしくね」
「こちらこそ、よろしくね、未果」
私たちはお互いに挨拶をして、お賽銭を入れて、お参りをした。
願い事は――。
神社から戻り、私たちは私の部屋でのんびりすることにした。
「ねぇ、未果はどんなお願いごとをしたの?」
くつろいでいる折、依桜が先ほどのお参りでしたお願いごとについて尋ねてきた。
「……なんだと思う?」
「うーん……今年も平穏でありますように?」
「ぷっ、あははっ! それは依桜でしょ? 私は全然違うわよ」
依桜の願い事を聞いて、思わず吹き出した。
というか、相変わらずそれを願っているのね。
「そ、そっか。じゃあ、なに?」
「そんなの……ん」
「んむっ!? ……ん、ふぁ……ん、ぁ……」
私は自分のお願いごとを言う代わりに、依桜の唇を自分の唇で塞いだ。
つまり、キスをしたのだ。
最初はいきなりで驚いた依桜だったけど、すぐに受け入れてくれた。
「はぁ……どう? わかった?」
それから、十秒ほどの甘いキスをして唇を離し、私は依桜に訊いてみた。
「……えっと、今年一年、幸せでありますように、かな?」
少し考える素振りを見せた後、そう答えた。
「惜しい。正確に言えば……依桜と一緒に楽しい毎日を送って、他のみんなと一緒にもっと騒がしい日常……そんな幸せな日を送れますように、ね」
「惜しい、のかなぁ……?」
「それは言いっこなしよ。……それで、依桜は?」
「ボクは……うん、未果と同じお願いごとだよ。それから……未果が幸せで、ボクも一緒に幸せになれますように、って」
顔を赤くさせながら、依桜はお願いごとを口にした。
……そっか。
「ふふっ、じゃあ叶えないと、ね。絶対に」
「……うん。叶えようね」
お互いに、約束のような言葉を交わした。
そうして、私たちの新年は始まった。
今年もどうか、楽しくも、幸せな日々を送れますように。
そんな願いを、改めて心の中で呟いた。
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