大晦日特別IFストーリー【ルート:女委】
ボクと女委が付き合いだしたバレンタインの日から早いもので、大晦日。
一年生から二年生に進級したボクたちは、恋人と同士として平穏な日常を送りつつも、他のみんなたちと一緒に、騒がしい日常を送っていました。
平行世界に行ったりとか、球技大会とか、林間・臨海学校とか、あとは異世界に旅行に行ったり、二度目の学園祭をしたりなどなど、あの日から大きな出来事がそれなりにありました。
修学旅行は、何事もなく終わって、ただただ楽しいごく普通な学園生活の一つとして参加できたのは、本当に嬉しかったなぁ。
……と、そんなことがありつつも、一年の終わり、大晦日。
ボクと女委は、最初はみんなで一緒に過ごそうか、と言う話をしていたんだけど、恋人同士で楽しみなさい、という未果の一声もあって、みんなの厚意に甘えることに。
メルたちも、年末年始はおばあちゃんとおじいちゃんの家に行っていて今は家にいません。
そして大晦日の朝、ボクと女委はボクの家でゆったりとした時間を過ごしていました。
「いや~、今年も色々あったねぇ」
「ふふ、そうだね。……はい、お茶」
「さんくす~。ずず……はぁ。いやー、依桜君ってば、さりげなーくお茶を出してくれるよねぇ。しかも、欲しいと思ったタイミングにくれるし」
「彼女ですから」
にこっと、少し自慢気にしながら、ボクは女委に言って、女委が座っているソファーに腰掛ける。
女委はほんのりと頬を赤く染めながら笑みをこぼす。
「にゃはは~、そう言われると、そうだねぇ、としか言えないねぇ。依桜君は、ミオさんを除けば、世界最強に近い暗殺者さんだしねー。わたし的には『わたしの彼女、すごいんですよー!』って、自慢して回りたいくらいだぜー」
「それはやめてね!?」
にこにこと笑いながら、とんでもないことを言い出して、ボクは思わずツッコミを入れていた。
さすがに自慢されるのは恥ずかしいので……。
……ま、まあ、それ以上に恥ずかしいことを二人でしちゃってるから、なんとも言えないような気もするんだけど……。
「もち、わかってるさ。……でも、わたしは幸せ者だねぇ」
「急にどうしたの?」
突然、しみじみと自分が幸せだと呟く女委に、ボクは小首をかしげながら尋ねる。
それに女委は、はにかみながら話す。
「いやさ、わたしってば、ほら。依桜君には結構迷惑をかけちゃってるでしょ?」
「あー、うーん……それは……まあ……」
女委の言葉に、ボクは苦笑いを浮かべながら、控え気味に肯定した。
実際、迷惑をかけられたことはあったしね……。
「にゃはは、依桜君でも迷惑をかけられてない、って否定できないほどじゃん? だから、まあ、なんて言うのかなぁ……まさか、依桜君に好きだって告白されるなんて思ってなかったんだよねぇ」
「そうなの?」
「うん。そーなんでーす。ほら、わたしって結構変わってるでしょ? 性格とか、性癖とか」
「せ、性癖……は、ともかく、性格は……たしかに変わってるね」
女委と言えば、何でもできるようなイメージがありつつも、それを変な方面にばかり才能を使うイメージ。
他にもBLものが好きだし、かと思えば百合物も好きで、そ、その……え、えっちな本……も書いてるし……なんだったら、ボクの写真がプリントされた抱き枕カバーなんかも持ってる(自作)し……割と奇行が目立つような部分があることは否めない。
「それにわたしって、バイでしょ? だからまぁ……一生恋人なんてできないのかもなぁ、とか思ってたわけですよ」
「そうかな? 女委だったら、普通にできそうではあったけど……」
「にゃはは、そいつは嬉しいねぇ。……でも、そうじゃないんだなー。依桜君……というか、未果ちゃんたちにもかな。わたし、小学生の頃の話って、全然してないでしょ?」
「うーんと……あ、言われてみればたしかに」
思い返してみても、女委の小学生時代とか、聞いたことがない。
あっても、サークル側として、コ〇ケに参加してる、っていうことくらいで、それ以外は何も聞いたことがない。
ボクたち的には、今の女委が面白いし楽しいから、特に気にしたことがなかった。
……そう言えば、一度だけ小学校の話になったことがあったけど、あの時の女委って話そうとしてなかったっけ。
「……もしかして、嫌なことでもあったの?」
「ん~、まあ、今は別に問題ないんだけどね。わたしを理解してくれてるみんながいるから」
嬉しそうにそう言いながら笑いかける女委。
だけど、今の言い方だと……
「前は問題だったの?」
今は、って言っていた以上、昔は問題があったのかも。
そう思って、ボクは女委に直接訊くことにした。
……恋人として、少しは知りたい、そう思ったから。
そんなボクの言葉に、女委はにゃはは、といつもの笑いを出しつつも、どこか困ったような笑みを浮かべていた。
「えっと、言いにくいなら言わなくていいよ……? 女委にだって、言いたくないことの一つや二つ、あると思うし」
いくら恋人とはいえ、踏み込まれたくないこともあるはず。
ボクはそう思い、女委に無理しなくてもいいと言ったんだけど、女委は大丈夫と言ってから、話しだす。
「……こう言うと自慢にしか聞こえないかもしれないけど、わたしってね、昔は神童、なんて言われてた時期があったんだー」
「そうなの?」
「うん、そうなの」
いきなり驚いた。
女委が昔、神童と言われていたことに。
神童と言えば、特定の分野において、驚異的な才能を発揮する人、もしくは、並外れて優秀な子供、そんな人たちを指す言葉、だよね?
じゃあ、女委って昔からすごかったっていう事、だよね。
「なんと言うか、勉強とかすぐに理解できてね。算数や数学で言うと、教えてもらわなくても、自力でなんとなくできちゃう、そんな感じでさ、あと記憶力もよかったんだよ、わたし」
「うん」
「だから、学校のテストじゃいつも100点だったし、先生からの信頼も厚かったしで、傍から見ると順調な生活、そう見えてたの」
「……うん」
ここまで聞いて、ボクはなんとなく思った。
こういう語りだしだと、この先は基本的に、よくないことが起こったんだろうな、って。
それ以前に、女委は問題があったかのような口ぶりだったから、なんとなくボクはこの先の話に対して身構えていた。
「……でもさ、やっぱり、子供って善悪の区別があまりついてないから、残酷でねぇ。というか、わたし的には世界で最も残酷なのは、凶暴な肉食獣でも、理不尽な自然界でも、ましてや凶悪テロリストでもなく、子供だと思うんだ」
少し遠い目をしながら、女委が自分の考えを口にした。
そう言われて、ボクは少し考えてから、たしかにそうかもと思った。
……実際、ボクが異世界で勇者をしている時とか、大人……というより、一定の年齢を超えている人たちからの罵詈雑言よりも、子供からの非難が一番きつかったから。
「当時はさ、わたしが色々と出来過ぎたばかりに、何人かの子供から反感を買ってねぇ。おかげで、ちょこちょこいじめにあったりしたわけよ」
と、なぜかいつもの軽い口調でなかなかにヘビーなことを言ってきた。
「え、待って? あの、それって結構重い話だよね? 今のセリフの前まで、ちょっと神妙な感じだったよね?」
「にゃはは! いやほら、わたしってば、おっも~い話は嫌いだからね! だったら、少しでも軽くしようかなと。せっかくの大晦日に、重い話は読み手に思い感情を乗せるだけだからね!」
「なんのことを言っているかはわからないけど、それはたしかに。……ボクも、重い話は苦手だもん」
読み手、と言う部分が一体何のことを言っているのかはわからないけどね!
「でしょでしょ? だから、この調子で行こうかなと。……んじゃあ、続きね。で、えーっと……あ、あれか、いじめられてたー、ってところね。……で、まあ、わたしは何でもできるような、そんなタイプだったから、気に食わないと思った女子にいじめられてねぇ。しかもそれが、ある種のボス女子みたいな娘だったんだよー」
「な、なるほど……」
「その上厄介なのが、その娘の両親がね、なかなか大きい会社の社長で、クラスにはそこの子会社とか工場で働いている親を持った子が多かったのさ。わたしは全然違ったけどね」
「そ、それで……?」
「うん、それで……見事にテンプレ的ないじめをくらったよ。教科書を隠されたり、机に落書きされたり、まあそんな感じでね。おかげで大変だったよ、わたしの小学校時代」
「……」
う、ううぅん……。
これ、なんて返せばいいんだろう。
予想以上に重かったというか、酷かったというか……。
……ただ、どうして恋人ができないと思うようになったんだろう?
「あ、依桜君今、恋人ができないと思ったきっかけって何? って考えたね?」
「う、うん。ちょっとだけ、気になる、かなぁ……」
「だよねぇ。まあ、話すけどねん。……ん~、そうだねぇ……手っ取り早い話、わたしの初恋がね、最悪な形で終わったんだよ。……あー、いや。あれを初恋とカウントはしたくないかな。今は依桜君が初恋! だからねん」
「そ、そっか。ちょっと、照れるね……」
「んふふ、依桜君は最高だからね! ……で、話を戻して。んー、それがさ、わたしが……そうだね、大体小学五年生くらいの頃かね? もう既に同人作家として活動し始めてたわたしは、当然のように恋愛対象が歪んでてね。男の子も好きだし、女の子も好き、そんな感じ。……それである日、わたしがいじめられているのを知って、助けてくれた女の子がいたんだ」
「じゃあ、女委にも味方してくれる人がいたってこと?」
「うん。……最初はね」
そう言う女委の顔は、苦い笑みでいっぱいだった。
本当に、嫌だった、んだよね……?
何があったんだろう……。
「その助けてくれた女の子にわたしは……多分、吊り橋効果的な物で好きになっちゃってさ。思い切って告白したことがあったんだ。……で、まあ、気持ち悪がられてねぇ。次の日から、その子もいじめる側になったわけよ」
「………………あ、あの、女委? 重くない……?」
「ん? 重いねぇ。でもまあ、仕方ないさ。これがわたしの過去だもの」
どうしてこう……こんなに、あっけらかんと話せるんだろう。
女委のメンタル、強くない?
「……とまあ、そんなことがあって、わたしは恋人なんてできないんだろうなー、って思ってさ。だからこうして、まさか依桜君と付き合うことができるようになるなんて、夢にも思わなかったんだよ。だから、今が幸せだなーって」
にっ、と何度も見惚れているボクですら、一瞬で心を全て奪われそうなくらいに、魅力的な笑顔でボクに笑いかける女委。
あぁ、もう……。
「女委、大変だったんだね……」
ボクはその笑顔を見て、思わず、ぎゅっ……とソファに座る女委を優しく、それでいて強く抱きしめた。
「あ、あの~、依桜さんや? これはどういう状況で……?」
「……女委が、過去にそんなに辛いことがあったんだって知って、しかも、女委がそれを乗り越えてボクと恋人になって、それで、幸せって言ってくれて……えと、自分でも何を言いたいのかわからないけど、その……ありがとう、って、頑張ったね、って思って……」
「…………にゃ、にゃはは。まさか、こう来るとは…………ありがとう、依桜君。本当に嬉しい」
ぼふっ、とボクの胸に顔をうずめる女委は、感謝の言葉をボクに言ってきた。
女委の温もりが心に沁みる……。
「……ぬふふ。チャンスっ!」
「ふぇ? ……ひゃぅんっ!?」
むにゅっ! と、いきなり女委に胸を揉まれて、変な声が出てしまった。
ボクは慌てて、女委を離し、少し距離を取って体をかき抱いた。
「むふふふ~……相変わらず、たわわに実ったおっぱいですな! もう、最高っす!」
「め、女委のえっちっ! そ、それを言うなら、女委だっておっきいよ!」
「にゃははー。わたしはほら、依桜君よりちっちゃいし? それに、彼氏だからね。彼氏の特権です!」
むんっ、と胸を張っておかしなことを言う女委。
ちなみに、女委は自分は彼氏だと言い張っています。
どちらかと言えばボクなのでは? と言ったことがあるんだけど、
『いや、性格的に依桜君は彼女です』
って言われて、仕方なく受け入れることになった。
……まあ、今のボクは女の子なので、いいと言えばいいんですけどね……。
「まったくもぅ……」
とはいえ、さすがにいきなり胸を揉まれるのは……ちょ、ちょっとだけ嬉しいけど、恥ずかしいので、できればその……そ、そういうことをする時だけにしてほしいなぁ……。
「あ、ところで依桜君。さっきの話のいじめっ子たちの後日談があるんだけど、聞きたい?」
「そんなのあるの?」
「うむ! 力を持ったわたしが、何も仕返しをしないとでも思ったかい?」
仕返し、と訊いた瞬間、ボクは苦い顔をした。
……だって、女委の仕返しって洒落にならないんだもん……。
「思わない、かなぁ………」
「でしょでしょ? で、どうする? 聞く?」
「……一応」
どういったことをしたのかは気になるし……一応聞いてみよう。
もう過去のことだし、何より恋人である女委のことだもん。
できれば、全部聞きたい。
「よしよし。じゃあ、話すね。まず最初に……そうだね。わたしをいじめてたボス女子。彼女って実は、エナっちを貶めようとしてたクソ女なんだよ」
「え、そうなの!?」
いきなりの情報に、ボクは驚愕の声を上げた。
エナちゃんを陥れるようとした人って確か、合成写真をネットに公開した人だったよね?
えぇ……そんなこと、あるの?
「うん。いやー、あの時は驚いたよねぇ。おかげで、エナっちを助ける熱も入ったってもんです。しかもさ、母親の方がなかなかのクズでね。浮気三昧だったんだよ」
「えぇ……」
「で、それが父親にバレたってわけ。しかも、そのクソ女、浮気相手との子供だったみたいで、父親は親権を手放して、金持ちルートから、借金まみれの貧乏ルートに転落したみたいなんだよねぇ」
「そ、それはなんというか……色々と壮絶だね……」
「……ま、いい薬なんじゃないのかな? あの子、基本的に傍若無人に振舞ってた上に、わがまま三昧だったし。これも社会勉強ってことで、頑張って這いあがってほしいねぇ」
清々した、そんな気持ちが表情と声音に表れていて、女委はその時に解消できたんだって思えた。
「……あ、それじゃあ、その人に賛同してた人たちは?」
「ん? あぁ、それね。母親の浮気がバレて、会社の信用が落ちて業績悪化。それに伴って、工場がいくつか潰れることになってね。それが、わたしの地元だった場所にある工場だったんだよ」
「そ、そうなんだ……」
「しかも、その時のことやクソ女のことは全国ニュースにもなったものだから、わたしの呪い、もしくは復讐なのでは!? って言う感じで、大慌て。一時、謝罪の電話やら、手紙に、直接出向いての謝罪、なんてこともあったねぇ」
「大事だね!?」
「うん、大事だった。でもまあ、決して許せるわけじゃないけど、親のことを考えたら仕方ないよね、って思えてたし、謝罪は、受け入れたよ。……まあ、親が全く関係ないのにいじめていた人は許さなかったけどねん」
にゃはは! と笑う女委だけど……なんとなく、そこには触れちゃいけない気がしたので、触れないことにした。
女委のことだから多分……とんでもないことをしたんだろうなぁ、って思ったので。
……それにしても、なんで『謝罪は』って言う部分を強調したんだろうなぁ。
「そ、そっか……。……って、あれ? ねえ女委」
「なんだい?」
「えっと、今さっき、地元だった場所、って言ってたけど……女委って美天市生まれじゃないの?」
「うん、そだよ? わたし、小学校卒業と同時に、この街に引っ越してきたんだー。いやー、この街は面白いから当日はわくわくしっぱなしだったよー。おかげで、みんなに会えたからねん」
「そうだったんだ。なんかちょっと意外かも」
「そかな? むしろ、わたしのようなやべー人って、噂になってそうだけど?」
「……あ、たしかに」
その辺りは女委の言う通りかも。
女委と言えば、その強すぎる個性で、小学校間で噂になってそう。
中学生の頃、なんで女委の噂がなかったんだろう? って疑問に思ったことがあったけど、そもそもこの街で生まれたわけじゃなかったんだと今知って、なんだか納得した。
「でしょー? まあ、そういうわけでね。わたしはいじめられて、今があるわけですね! いやー、自分でも強いなーとは思うぜ!」
「そ、そうだね……」
「あ、そだ。ねね、依桜君」
「なに?」
「年越しそばってさ、どの程度の手作り?」
「と、突然だね」
まさか、さっきまでの話とは一転して、何でもない大晦日のことを訊かれるとは思わなかった。
「んふふ、やっぱり大晦日ですから!」
「……んーと、手打ちだよ?」
「マジで!?」
「うん、マジです」
「……ちなみに、なんで?」
「えへへ、女委に美味しい年越しそばを食べてもらいたいなーって思ったからだよ。彼女として、やっぱり喜んでもらいたいから」
「おぅふっ!」
ボクがはにかみながら理由を話すと、女委は口と胸を手で押さえて横を向いた。
あれれ?
「どうしたの?」
「……い、いや、依桜君があまりにも可愛すぎて……」
「ふぇ!? あ、え、えと……あ、ありがとう……」
やっぱり、いつ可愛いって言われても慣れない……。
可愛いと言われる度に、変な声が出ちゃう。
「……しっかし、そっかー。彼女の手作りそばかぁ……」
「嫌、だった……?」
「いやいや、そんなこたぁないさ! むしろ最高だぜ! あ、天麩羅は……」
「あるよー。エビの天麩羅と、しその天麩羅」
「やったぜ! 依桜君マジ愛してる!」
「ふふっ、ボクも大好きだよー」
お互い頬を染めながら、好きだと伝える。
なんだろう、この瞬間が一番幸せな気がするよ……。
そんなこんなで、わたしの重めな過去を依桜君に聞かせた後、特にすることがなくの~んびりとした時間を過ごして、夜になった。
依桜君お手製の手打ちそばで作った年越しそばという、今までの人生で最高過ぎる年越しそばを食べて、テレビで大晦日の特番を見て、少しの時間だけでCFOをプレイして、気が付けば今年も残り僅かに。
「おや、あと一分ちょいで今年も終わりだねぇ」
「みたいだね。…………ね、ねぇ、女委」
わたしが時計を見て、そろそろ今年が終わるねぇと呟くと、依桜君が相槌を打ち、何やらもじもじしながらわたしに話しかけてきた。
むむ?
どうしたんだろう?
「なんだい、依桜君」
「あ、あの、ね、えと……き、キス、したいなぁ……って、思って……」
わたしがどうしたのかと依桜君に尋ねると、依桜君は恥ずかしそうに、それでいて上目遣い気味に期待しながら、わたしにキスをしたい、そうお願いしてきた。
……やっべ!
付き合ってから十ヶ月以上経ってるけど、それでも依桜君のこの上目遣い+もじもじとしたお願い事の仕草は破壊力が半端じゃないぜ!
わたしのハートに依桜君の可愛さナイフがぐっさぐっさとこれでもかとぶっ刺してきて、萌え死にしそう。
「おうともさ! 今年最後のキスしようぜぃ!」
「――! うんっ!」
おっほぉ!
わたしが了承した瞬間の依桜君の眩しすぎる笑顔、ごちそうさまです!
可愛すぎだよねぇ、ほんとに!
「じゃあ、依桜君、おいでおいでー」
「……うん」
わたしが手招きしながら依桜君を呼ぶと、依桜君は嬉しそうに、それでいてちょっとばかり恥ずかしそうに近づいてくる。
そして、お互いの顔の距離が三十センチもないくらいに近づいたところで、わたしは依桜君の両頬に両手を添えた。
そうすると、依桜君は目を閉じ、キス待ちの顔をする。
この顔が可愛すぎるからこそ、わたしは少し離れたところからキスをするまであったり。
だって依桜君のキス待ち顔、破壊力凄いし。
上向いて、顔が赤いのがねぇ。
……おっし、いっちょキスするかー!
「じゃあ、依桜君……するよ?」
「……ぅん、来て……」
いじらしい反応に、わたしはゆっくりと依桜君の顔に自分の顔を近づけ……そして、柔らかな依桜君の唇にわたしの唇を重ねた。
「ん、ちゅ……」
「……んふぁ……んん……」
さすがに、エロキスをするというのはシチュエーション的に合わないので、わたし甘くて幸せな気持ちになる、そんな優しいキスをした。
そんな状態を続けていると、
ボーン…………ボーン………という、0時、つまり新年を知らせる時計の音が静かな部屋に鳴り響いた。
特に合わせたわけでもなく、わたしたちはそれを合図としてそっと唇を離して、お互い見つめあった。
「……ふふ、新年、だね」
「……うん、そだねぇ」
「今年も、よろしくね……? 女委」
「うん、こちらこそ。今年も、依桜君を全力で愛するよ、わたしは」
そう言いながら優しく笑えば、依桜君もそれ以上の優し気な笑みで、
「――うん、ボクも女委をその愛を受け入れるね」
嬉しいことを言ってくれた。
たまらなくなったわたしは、再び依桜君の唇を奪う。
「ん……」
「……んぁ……んん……」
「ん……はぁ……おやおや、依桜君、顔がとろーんてしてるよ?」
顔を離すと、依桜君の顔はどこかとろんとしていた。
ぼーっとしたような顔で、わたしを見つめていた。
「……め、女委が悪いんだよ……? その……が、我慢、できなくなっちゃって……だ、だから、責任、とってね……?」
な、なんてエッチな言い方っ……!
バレンタインの日、わたしが依桜君を襲ってからというもの、今までエッチなことを知らなかった依桜君は、恥ずかしそうにしつつも、かなり積極的になりました。
なんと言うか……性欲が、ね。強いんです、この娘。
多分、今まで知らなかったのと、女の子になった、という部分による反動だろうけど……まあ、それがギャップがあって素晴らしいんですがねぇ!
よーし。
「じゃあ、姫初めと行こうか! 依桜君の部屋に行こうぜ!」
「……ぅん」
依桜君の手を取って、わたしたちは依桜君の部屋に行きました。
新年始まって早々、わたしはものすっごい幸せなスタートを切れるようです。
尚、エッチな依桜君は、凄まじく……可愛かったです。
わたしが死ぬんじゃね? と思うくらいにね!
今年も、いい一年になるといいなぁ。
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